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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
王都の騒乱 編
44/90

44 王都観光

 王都の中心、貴族の邸宅、別邸の集まるのその一角のとある屋敷に集まる一団。


 装飾過多とも言える服で脂ぎった巨体を包んだ初老の男性。

 糊の利いた軍服に筋骨隆々とした体を押し込めた壮年の男性。

 金糸をあしらったローブ姿の痩身の老人。

 その他にも数名の姿が在る。


「準備の程は?」

 一団のリーダーなのか、弛みきった巨体を揺らし初老の男が話を始める。


「既に王都に駐留している軍の大半がこちらに付いています。騎士団の内部にもそれなりの数の内通者が潜入しています」

「城の警備担当部署も既にこちらの手の内だ」

  ・

  ・

  ・


 次々と報告される内容に満足そうに頷くと

「良し。では決行は予定通りで良いですかな?」


「はい」

「問題無いでしょう」


満場一致の賛成に参加者達の笑みがこぼれる。


「しかし、このタイミングで軍事演習が行われるとは」

「おかげでエリン将軍の第二軍が参加出来なくなりましたからな」

「だが、騎士団が王都から離れてくれるのは助かる。差し引きで言えばありがたい話だろう」

「ですな。戦力が僅かに減る代わりに、邪魔者が大幅にいなくなる訳ですから」


 参集者達の談笑を聞きながらリーダー格の男が絞めの声をかける。

「天が我等に事を成せと言っているのだろう。皆、最後の準備手抜かりなさるなよ」

 

各々が頷き、席を立つと部屋を後にしていく。



「さて、皆様お帰りになられたかな?」

 部屋に残っていた、リーダー格の男が使用人らしき人物に声をかける。


「はい、皆様お帰りになられました」


「ご苦労。お前も下がれ」


 静かに一礼し下がる使用人を見ながら

「最終確認といこうか」

 残っていた軍服の男とローブ姿の老人に声をかける。


「実行部隊はロッシュ卿やルドルフ卿達、若手将校が指揮します」

 軍服の男が告げる。


「若い情熱というのは、時に暴走しがちだから困るのぅ」

 ローブ姿の老人が暗く嗤う。


「レブラント卿、卿が関わっているのを知っているのは?」


「ロッシュ卿とルドルフ卿です。彼等には『次代を担う若者が主導したとした方が良い』と言ってあります」

 軍服の男、レブラントが自分は表立っては動かないと告げる。


「では卿には、予定通り反逆者の捕縛に全力を尽くしてもらおう。但し、治安維持は卿の管轄外であろうから、越権行為とならぬように手続きは正式にな」


「はい、情報収集に重点を置き、議会の承認の元で動きます」

 レブラントが当然のように頷く。


「オブラル師、貴方の魔法士隊も反逆者の鎮圧、捕縛の協力をお願いします」


「勿論、但しアカデミーでの研究会の最中かもしれん。協力は惜しまんが手遅れ(・・・)になるやもしれん。困ったものじゃのぅ、ベルナール候」

 ローブ姿の老人、オブラルは残念そうに嘆いてみせる。


「それは仕方がないでしょうな。神ならざる人の身なれば、最善を尽くしても最良の結果が得られるとは限りませんから」

 リーダー格の男、ベルナール侯爵も大仰に肩を竦めてみせる。


「陛下は聡明な方だ。しかし、近年は向かれている方向が間違っておられる。平民に優秀な者がおらぬとは言わないが、その者達を管理し使うのは我等貴族の仕事。国の大事を平民に任せるようでは・・・」

 ベルナールが嘆かわしいと呟く。


「物事は正しい姿にしなければならない」

 ベルナールの言葉に2人も頷く。


 ベルナールが置かれていた杯を掲げる。

「王国に栄光を」


 2人も杯を掲げ続く。

「「栄光を」」



 ロギナス王国の王都に激震が走るのは数日後の事だった。



 △ △ △ △ △ △ △ △


「ここが王都、花の都ロギナルク!」

 辺りをキョロキョロと見回すメリオラ。


 花の都なんて呼ばれた事無いだろうけどな。


「挙動不審だと田舎者だとばれるぞ?」

 早めに釘を刺しておかないと、どこに行くか分からない。


「田舎者じゃない!」

 フェルディールは別に田舎ではないが都会という程でもない。



 祖父に連れられやって来た王都。

 祖父は「謁見の申請をしてくる」と城に向かった「今日は観光でもして来い」と送り出された。


「で?どこに行きたい?」

 観光に興味の有る連中じゃないだろけど、一応聞いてみる。


「私は特に無い。闘技場が開いているのなら見に行きたいが」

 やっぱりアリシアは観光には興味が無いようだった。


「闘技場は普段は騎士団や軍が訓練場として使ってるから入れないだろうな」


「ボクはギルドに行ってみたい」

 お前も観光する気は無いんだな。


「ギルドに行ってどうするんだよ?依頼受けてる暇は無いぞ」


「王都のギルドがどんなの物なのか見てみたいんだよ」

 ガッカリするだけだと思うけどな。


「じゃあ、ギルドに行ったらその後は神殿にでも行ってみるか?」

 七神教会の神殿が王都には在る。


「戦神グラムも祭られているのか?」


「ああ、王都の神殿は七太神が全て祭られてるよ」


 戦場いくさばで加護を与え、勝利に導いてくれるというので、騎士や冒険者の多くは戦いを司ると言われている戦神グラムの信奉者だ。


 ちなみに俺は神の存在を否定する気は無いが、頼りにしようとも思っていない。

 だって女神アレだぜ?頼りにならないだろ。



 今更観光する気も無い姉と、興味が無いので剣でも振っていると言うヴァルヘイムを置いて出発した。


 まずはメリオラの希望通りに王都のギルド支部にやって来た。


「え?ここなの?ホントに?」

 メリオラが「信じられない」と目をパチクリさせている。


「そうだよ。ここが冒険者ギルドのロギナルク支部だよ」


「えー?だって、ショボくない?」

 俺も最初はそう思ったよ。


「ショボいとか言うな」

 職員が居るんだぞ。


「だって、王都だよ?王都の支部だよ?フェルディール支部の方が全然大きいよ」


「だからだよ。ここが王都だからこの規模なんだよ」


「「ん?」」

 アリシアとメリオラが「何言ってるか分かる?」と視線を交わし2人して首を傾げる。


「王都だから冒険者への依頼が少ないんだよ。治安維持は軍が行うし、危険な魔物が出れば騎士団が出動するし、住民の雑用も専門の業者がイロイロ居る、市場や露店街に行けば大方の物は手に入る。わざわざ冒険者に依頼を出す必要が殆ど無いんだよ、王都では」


「「あー、なるほど!」」

 

「王都での依頼は殆ど行商や商隊の護衛で、稀に市場に出回らない珍しい物の探索・収集が出る程度だよ」


「それで、しょぼ、じゃなくて、こじんまりしてるんだ」


 ショボい言うな。



 ギルドを出た俺達は神殿に向かった。


 神殿へと続く道には、多くの観光客や参拝者で賑わっていた。


 途中アリシアが武器屋を見つけ剣に魅入っていたり。

 メリオラがいつの間にか両手に串焼きを抱えてかぶり付いていたり。

 興味無さげだったのに、しっかりと王都の観光を楽しんでいる。


「おまっ!なんだよその串焼きの山は?」

「ふぉれ?あふぉふぉのやはいれ」

「口の中の物を飲み込んでから喋れ」

「私はアレを飲んでみたいぞ」

 もう既に唯の観光客だった。




 そんな観光客に溶け込む彼等を物陰から見詰める者達がいる。


「あれか?」

「はい、間違い無いと思われます」

「ああ確かに、俺はこのまま見張る。お前は屋敷へ報告に走れ」

「了解しました!」


 走り去る部下を振り返りもせず呟く。

「デートの最中かな?悪いな、こちらも仕事でね」


 視線を手に持った紙に落とす。

 それは『最優先捕縛対象者』の文字と似顔絵のみの手配書。


「とりあえずは、監視だ。勝手に手を出すなよ」

「「「了解しました」」」


 神殿へと向かう3人を見失わない距離を保ちながら監視する。


 自分達を見張る者がいる事に3人はまだ気付いていない。




 神殿の見学を終えた3人が広場へと出てくる。


「思ってたよりつまらなかったね」

 メリオラが退屈だった伸びをしながらぼやく。


「お前は何でそういう事を言う!」

 周りは、ほとんどが信者や神官しか居ない場所なのに。

 神殿関係者に聞かれていたら大目玉だ。



「止まれ!!」

 ほらな、どうすんだよ。


 振り返ると、槍を持った衛兵らしき一団が居た。


 衛兵達は素早く俺達を取り囲むと槍を構えて威嚇してきた。


「いや、今のは…」

「黙れ!両手を挙げろ、抵抗は無駄だ!」


 指揮官らしき男はこちらの言い分を聞く気すらない様だ。


 2人に目で「抵抗するな」と伝える。

 抵抗しても事が更に大きくなるだけだ。


 両手を挙げた俺達に衛兵達は距離を詰める。

 アリシアとメリオラが衛兵によって引き離される。


「なっ!?」

 衛兵の槍が俺に突きつけられる。


「ちょっ、話を聞けよ」

「黙れ、貴様と話す事など無い」


 指揮官風の男が一枚の紙を取り出す。


「手配書?俺が!?」

 それは俺の似顔絵の付いた手配書だった。


「罪状は?何の嫌疑がかかってるんだよ?」

 王都で衛兵に捕まるような事をした覚えはあんまり無いぞ?


 詳しい内容が殆ど書かれていない手配書を食い入る様に読む。

「なっ!?まさか、そんな!!」

 手配書の隅に書かれた発行者の署名に絶句する。


「罪状が知りたい?」

 衛兵で出来た人垣の向こうから、女性のものと思われる声が響く。


「ちょっと、邪魔よ、退きなさい!」

 人垣が割れ、1人の女性が進み出てくる。


「前に出られては危険です」

 指揮官風の男が俺から庇うように間に割って入る。


「何が危ないというの?私に危害を加えると?彼が?有り得ないわ」

 彼女は「良いから退きなさい」と強引に前へ進み出る。


「……」

「……」


 俺を見るその目には怒りの炎が揺らめいていた。


「御自分の罪が理解出来て?」

 静かに、しかしハッキリと感情を込めて言葉を紡ぐ。


「いや、皆目見当も付かないが」

 

「そう。では教えて差し上げなければいけませんね」

 怒りの炎が二割増しになった。


「会いに来なかった事よ」


「はぁ?何だって?」

 何言ってんだ?


「王都に来て、まず最初に私に会いに来なかった事。これが罪状よ」


「……」

 ホントにお前は何を言ってるんだ?


「未来の妻に会いに行く事より優先される事って何!?」


 呆然とした衛兵の手から落ちた手配書、そこに記された署名は

 『フローレンス・E・ロギナス』

 皇太子殿下の長女にして王位継承権第5位のロギナス王国第一王女のものだ。

舞台は王都に移りました


ついに堂々と『妻』を自称する人物登場です

新キャラ続々参加予定です



感想、ご指摘等ありましたら

宜しくお願いします

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