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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
学院 編
39/90

39 学院祭 閉幕

 「両者構えて」


 舞台中央にて向かい合う2人が互いに武器を構える。


 「始め!」


 審判の合図に両者が弾かれたように前に出る。


 フェルディール武芸大会の決勝戦が始まった。



 「なぁ?俺の扱い酷くないか?明らかに手抜きだろ?」

 

 ヴァルヘイムと姉の準決勝の第2試合は約2秒で終わった。

 開始直後の姉の飛ぶ斬撃『飛閃』で模擬剣を斬り落とされて戦闘続行不能と判断された。


 どうやら第1試合の勝者が気になったので、サッサと決勝に進みたかったようだ。


 そして、その決勝の相手は学外予選から勝ち上がってきた。

 レティシア・ルイーズ。

 槍の使い手で、Aランクの冒険者だ。


 20歳以下という年齢制限のあるこの大会でAランクの冒険者が出場したのは片手で数えられる程しかないらしい。


 それほどの抜き出た実力者に姉も興味が出たらしい。



 殆ど何の予備動作も感じられない、まさしく閃光の様な突きがレティシアによって繰り出される。

 その全てをユリアーナが弾き、逸らし、避ける。


 ユリアーナが槍を剣で押さえたまま肉薄を試みる。

 レティシアが槍を回転させ柄を打ち下ろす。

 それをユリアーナが半身をずらし避ける。

 

 基本はレティシアが先手を取り、ユリアーナが返しを狙う。

 そんな目の逸らせない闘いが続く。


 変化が出たのはユリアーナだった。

 祖父から教わった『槍は引き戻す際に踏む込む』その教えを忠実に守っていたが、それでは捕らえきれないと感じたのか、槍の突き出しに合わせて踏み込むようになった。

 一歩間違えれば穂先に向かって踏み込むことになりかねない。

 ただの直感なのか、はたまた既に読み切ったのか、槍はことごとく外れる。


 レティシアもそれまでの渾身の一突きから、虚実を交えた連続突きに切り替えていく。

 しかし、無数にある虚実の連続突きの内から1つを的確に捉えカウンターを取られる。


 覚悟を決めたレティシアの構えが変わる。

 「殺してしまったら御免なさい」


 殺す気で放つという、本気の突きにユリアーナの顔に笑みが浮かぶ。

 「面白いじゃない」


 僅かな静寂の後、2人が同時に動く。

 レティシアの槍がユリアーナの左肩を掠め。

 ユリアーナの剣がレティシアの首に添えられている。


 「フー、参りました。私の負けです」

 静かに槍を降ろしレティシアが告げる。

 「まさか、負けるとは思っていませんでした」


 「世界は広い。私も知ったわ」

 

 握手を交わし、互いの健闘を称え合う。


 武芸大会は姉の優勝で幕を閉じた。


 のだったら良かったのに。


 「さあ、降りてらっしゃいヒロ!最後の相手は貴方よ」

 余計な事を姉が口走った。


 会場中の目が俺に向く。

 (止めろ運営!「時間が無いので」とかで)


 思いが通じたのか

 『申し訳ありません、ユリアーナ選手。閉会式の時間も有りますので』

 実況がやんわりと止めろと告げる。


 なのに


 「見たくはないか?『剣皇』の血を継ぐ者同士の戦いを!」

 姉は観客を煽る。


 再度熱狂し始めた観客に押し切られ、運営が許可を出す。


 エキジビションマッチという名の公開処刑が始まった。

 

 「い~や~だ~」


 △ △ △ △ △ △ △ △ 


 「じゃあ、そこの喫茶店で良いですか?」

 学院内の模擬店を見ながら、軽く何か食べれる店を探していた。


 「ダメね。店員のスカートが短すぎる。目の毒よ」

 商業科の学生がカワイイ制服が気に食わないらしい。

 

 別に良いじゃないか。むしろ望むところだよ。



 席に着き皆が思い思いの注文をした後、姉が切り出した。

 「さて、じゃあ、まずは反省会ね」

 今回のメインテーマがそれらしい。


 「まず、ヒロ。目に頼り過ぎ、あれじゃあ予備動作の無い相手、例えばレティシア・ルイーズ、彼女ぐらいになると対処できないわ。もっと相手の意を気配や空気で感じないとね」 


 「はい、それは実感しました」

 姉の攻撃が読めず、後手後手に回り、最後まで劣勢が覆せなかった。


 「アリシアさん。貴女は身体強化に頼り過ぎ、どんなに力や速さが有っても体幹や斬線に乱れが有ったら本当に硬いものは斬れないわ。基礎よ基礎。これを極めるのが最短の道ね」


 「はい、勉強になりました」

 どうやら迷宮で色々と教わったらしく『師匠』と呼び出しかねない勢いだった。


 「メリオラさん。貴女は全てが雑」


 「グフ」

 あ、バッサリやられた。


 「子供の英雄ごっこがパワーアップしただけ、歩法も体捌きもデタラメ、だから意表がつける? 今まではそのレベルしか相手にしていなかっただけ、上を目指すなら今のままじゃダメよ。

  貴女もアリシアさんも、素材は一級、才能は十分。でも現時点では欠点だらけよ。これまで無事にやってこれたのは運が良かったからと思いなさい」


 バッサリやられて2人は俯いてしまう。


 「ちょと、言いすぎです。まだ2人とも前途ある若者ですよ」

 見かねたリューネが抗議の声をあげる。


 「ん? なんで? 今ので落ち込む所なんか無いでしょ、むしろ喜び所満載じゃない?」


 「どこに? ボロカスだぞ、俺でも落ち込むぞ?」

 ヴァルヘイムも擁護の声をあげる。


 「何を言ってるの?」

 姉が「分からない」といった顔で俺に説明を求めてくる。

 

 「俺や姉様はそう教わってきたんだよ。『未熟』は『伸びしろ』、『欠点』は『強化しどころ』、『弱い』は『もっと強くなれる』そう思って精進しろって」


 「そうそう、悪いところを指摘されたら、そこを直せば強くなれるんだから喜ぶ所でしょ?」

 

 俺と姉が幼少より叩き込まれた『グリフ家の家訓』を教えると、俯いていた2人も顔を上げ目を輝かせる。


 「15才の頃の私と比べたら、それほど劣って無いわよ。むしろ基本がなって無い分伸びしろは大きいわよ」


 遥かな高みに見えた場所に数年後には辿り着けるかもしれない。

 そんな思いが2人の胸を熱くさせる。


 「なぁ、俺は?」

 そんな空気を知ってか知らずかヴァルヘイムが尋ねる。


 「誰だっけ?」

 姉が疑問符を浮かべて聞き返す。


 「ヴァルヘイム。ヴァルヘイム・グランディオ。今日の準決勝で戦ったろ?」

 ん? 戦って無いだろ、飛閃の一振りで終わったから覚えて無いぞきっと。


 「ふむ、弱かったとしか覚えて無いわね」

 姉の回答に石と化したヴァルヘイム。

 ご愁傷様です。


 

 泣きながら走り去るヴァルヘイムに

 「フフフ、あれはあれで野性のまま成長するのが良いんじゃない?

  我流が芯まで浸透してるみたいだし」

 

 本当はしっかり覚えていた様だ。



 △ △ △ △ △ △ △ △ 


 翌朝、姉はロギナスへと帰っていった。



 別れの抱擁を交わすと

 「休暇には帰ってくるんでしょ? あの娘達に抜かれないように、目一杯鍛え直してあげるわ」


 帰るの止めようかな。


 姉はアリシア達に何か声を掛けると馬車に乗り込んだ。


 馬車の出発間際、窓を開けた姉が皆と別れの挨拶を交わす。


 「ヴァルヘイム、約束は守るわ。辿り着けたと思ったら、ロギナス王国のグリフ侯爵領ベイグラートまで来なさい。その思い上がりを叩き潰してあげるから」

 ニッコリと笑って告げている。


 約束? 何のことだ? ヴァルヘイムを見ると、両目を見開いた彼は

 「オウ、すぐに辿り着いてやるからな」

 なにやら気合十分だった。 


 「ヒロ、体に気をつけてね。ベイグラートで待ってるからね」

 手を振りながら走り去る馬車が見えなくなるまで見送った。



 「さて、じゃあ稽古に入るか」

 ほう、偉いなヴァルヘイム。


 ちょっと待て、何で俺の襟首を掴む?

 「さぁ行くぞ」じゃない。何で俺が付き合うんだ?


 「あっ、ズルイよ、ヴァル!ボクの修行を見てもらう予定なのに」

 

 「そんな予定は入っていない!」

 初耳だし、そんな気も無い。


 「仕方が無い、私は午後からで良いぞ」


 「良くない!どうしたんだお前等?」


 「どうしたもこうしたも、この学院でグリフ流を教わるなら、お前しか居ないだろ?」


 「なっ!?」


 「ユリアーナさんが、『基礎ならヒロに教われ』て『教えるのも良い経験になる』からヒロの為にも良いて言ってたんだ」


 何て爆弾を残していきやがった。


 ズルズルとヴァルヘイムに引きずられながら練武場に俺達は向かった。


 この後暫くして『グリフ流武芸教室』なる物が学院のどこかで開かれているとう噂が囁かれた。


 もちろん唯の噂だが、入門希望者がワラワラやって来たのは事実だ。



 △ △ △ △ △ △ △ △ 


 「また、寂しくなりますね」


 「そうね、連れ帰ろうかとも思ってたんだけど、あの子が楽しそうだから良いわ」

 

 「彼女達に何か声を掛けていらっしゃいましたが、何と?」


 「ん? ああ、『私より弱い相手にヒロはあげないわ』て言っただけよ」


 「そ、それはまた、随分と高い壁ですね」


 「それにね、堤防は脆い部分から決壊するの、箱は弱い部分に穴が開くの。

  強い箇所じゃなくて、弱い箇所が問題なのよ」


 「えーと?」


 「あの子達が今のままパーティを組み続けるなら、ヒロがその弱い部分をカバーし続けるのよ。

  そしていつか万が一が起きたとき、それはヒロ以外の子に起きるでしょうね。

  その時きっとあの子は自分を責めるでしょ? そんな思いをして欲しくないのよ」


 「なるほど」


 「せめて同等、そう言えるところまで成長して欲しいわよね」


 窓の外を眺めながらそう静かに呟いた。

学院祭終了です


やる気満々で伏線を張ったのに

まったく出番の無いヴァルヘイムでした


いつかきっと彼も活躍する日が来ます

(今のところ予定はありませんが)


感想、ご指摘等ありましたら

宜しくお願いします


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