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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
学院 編
38/90

38 学院祭 武芸大会

 「ま、まいった」


 喉元に突きつけられた模擬剣に、自分の敗北を宣言する。


 「勝負あり。勝者ヴァルヘイム・グランディオ!」


 審判の宣言に観客が歓声を上げる。


 『決まりました!3回戦第3試合の勝者は学院生ヴァルヘイム・グランディオ

  2年連続でのベスト4進出となりました。念願の決勝進出はなるのでしょうか?

  次の準決勝での相手を決める3回戦第4試合はこの2人です』


 実況の案内に舞台へと向かう2人に

 

 「じゃあ、先に行って待ってるぜ?」

 ヴァルヘイムは声をかける。


 「それは、ボクに言ってるんだよね?」


 「あら?だとしたら残酷ね」


 すでに両者の間には火花が散っている。


 火種を放り込んだヴァルヘイムは「おっかねー」と肩をすくめて逃げ出した。


 『さぁ、登場したのは学院生「特攻爆薬」メリオラ

  今試合も爆発するのか、はたまた自爆で終わるか』


 『爆弾』じゃなく『爆薬』なのがミソだな。

 暴発の確率が半端ないからな。


 『対するはロギナス王国からの招待選手『剣姫』ユリアーナ。

  あの『剣皇』が「自分より優れた剣才」と推薦した女傑です。

  今度はどんな戦いを見せてくれるのか?というか『戦う姿』を見せてくれるのか?』 

 どうやら2回戦までは一瞬で終わらせてきたらしい。

 おかげで優勝候補の筆頭になっている。


 向かい合った2人は試合開始の時を待つ。


 「ヒロのお姉さんだからって、手加減しないからね!」

 

 「あら?ヒロの知り合いなの?じゃあ、私は手加減してあげるわ」


 「クッ、馬鹿にして!」


 切羽詰った感じのメリオラと余裕綽々のユリアーナ。

 試合開始前から格の違いが見て取れる。


 「まぁ、メリオラには悪いが、姉様の勝ちは揺るがないな」

 「だな、実力差は明白だ。応援はするが、勝ち目があるとは思えん」

 俺とアリシアの意見は一致している。


 ちなみにこの試合のオッズは25対1で、ほぼ賭けとして成立していない。


 「そんなに凄いのあの人?メオも結構凄いと思うんだけど?」

 武芸の心得が無いナタリアが疑問を口にする。


 「分かり易いイメージとしては『マシウスとヴァルヘイムの殴り合い』かな?」


 「そんなの無理じゃん」


 「だろ?」


 力量の差がなんとなく分かったのか

 「メオ怪我しないかな?」

 応援から心配に変わったようだ。


 「それは大丈夫だ、怪我しないように手加減する余裕すらあるだろう」

 アリシアの指摘の通り、軽くあしらえるだけの実力差がある。


 問題はメリオラが素直に負けを認められるかだ。


 審判が進み出る。

 「両者準備は良いか?

  では、始め!」


 審判の合図にまず動いたのはメリオラだ。


 炎を纏い突進する。

 間合いの直前で宙を舞い、背後に着地する。

 振り向く相手に合わせて更に背後に回る。


 相手の周りをグルリと1周回る。

 メリオラを追いかけるように炎が吹き上がる。


 炎の壁に囲まれ視界を奪われた対戦相手に渾身の一撃を見舞うべく、爆炎を推進力に変える。

 「メテオドライバー」

 魔獣戦でも見せた必殺の跳び蹴りだ。


 目の前の炎の壁から突然、あの速度で来られたら、姉といえども避け切れないだろう。

 あれを喰らえば、流石に無事ではすまないだろう。


 だが、失敗に終わるだろう事は、傍から見ていた俺達にはよく分かっていた。


 炎の壁を突き破ったメリオラは


 そのまま素通り(・・・)していった。


 「あれ?」


 炎の壁を2枚突き破ったメリオラは、そこで待ち構えていた姉のフルスイングで叩き落された。


 何とか手甲で受けた様だが、石の舞台に叩きつけられ悶絶している。


 「良い案だったとは思うけど、相手から自分が見えないって事は、自分も相手を見失ってるって事だからね?」


 そう、姉は炎の壁に囲まれて直ぐにメリオラの思惑に気付き逆方向に脱出した。

 その場でメリオラが来るのを待ち構えていたのだ。


 したり顔で炎を上げるメリオラと、炎の壁をはさんでノリノリで模擬剣を構える姉。

 傍からは結果が見えていただけに、なかなかシュールな絵だった。


 「クッソー!いけると思ったのに」

 何とか回復したのか、立ち上がると悔しそうに顔をしかめている。


 「ふふ、面白い子ね。次は何を見せてくれるのかしら?」

 未だに姉の余裕の表情は消えない。


 メリオラは剣の間合いの内側での近接戦闘に望みを賭ける。


 「それしかないだろうな」

 普段アリシアとの模擬戦でも結局はどちらの有利な間合いで戦えるかが勝敗を分ける。


 最近は炎術の腕も上がり、生半可に中距離でも戦えるようになったが、やはりメリオラの真骨頂は近接格闘戦だ。

 

 そもそも、頭を使うと碌なことは無い。


 弾ける炎を利用した方向転換や急制動に急加速。

 はっきり言えばメリオラの動きは読みきれない。

 紙一重で避けても爆発の衝撃が襲ってくる。


 最初こそ面食らった感の有った姉だが、慣れてきたのか余裕を持って対処されるようになった。


 「時間の問題だな」

 アリシアが、ここまでだと呟いた。


 「というより、終わらせようと思ったとこで終わりだろな」

 遊んでいるというよりは、滅多に居ない特殊な相手を堪能している感じだ。


 「しかし、本当にとんでもない子ね」

 

 後方から突然掛けられた声に驚くと、そこにはアーシェスが居た。


 「そうだな。メリオラが完全に遊ばれている」

 アリシアがしきりに感心している。

 確かに、同じ女性で同じ剣士。姉は手本するには最適だろう。


 しかし、アーシェスは首を振る。

 「違うわ。私が言ってるのはメリオラちゃんの方よ」


 「「はぁ?」」

 何言ってんだこのエルフさんは?


 「よく見てみなさい。彼女は炎術魔法を戦闘スタイルに取り入れてるわよね?

  出来る?あれだけギリギリで戦いながら無詠唱でバカバカ魔法を使うなんて」


 確かに、炎を纏ってるだけじゃない。時に爆発させ、時に壁を作り、時には推進力に使う。

 大半が初級・中級レベルでも格闘戦の最中にここまで魔法を扱えるのは凄いことだ。


 「このまま体術・炎術共に腕前を上げれば、いずれは歴史に名を刻むかもね」


 歴史の生き証人たるハイエルフのお墨付きだ。


 「ナタリア、今の話はメリオラに言うなよ」


 「ん?なんで?」


 「調子に乗るからだ」

 アイツが調子に乗ると碌な事が無い。


 


 試合は結局、姉がメリオラの猛攻を防ぎきり、力尽きたメリオラが負けを認めた。


 「くそー、もうちょっとはどうにかなると思ったのになー」

 舞台に大の字になったメリオラが叫んでいた。


 姉はメリオラに歩み寄ると

 「貴女、なかなか面白かったわよ。

  アドバイスするなら、もう少し体術をしっかり学びなさい。

  そしたら炎術ももっと効果的になるわ」


 そう言い、メリオラと握手をして引き起こす。


 二人並んで会場中の歓声と拍手を受けながら舞台を降りていく。 


 その中には決戦に臨むヴァルヘイムの熱い視線も有った。

 「さて、明日は俺の番だな」


次で学院祭終了予定です


感想、ご指摘等ありましたら

宜しくお願いします

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