35 学院祭 開幕
フェルディール学院の学院祭
魔法科や錬金科の学生にとっては自分の研究の成果を発表する機会の一つだ。
ここで注目を浴びれば、卒業後の進路に良い影響が出る。
「是非その研究をウチで続けて欲しい」そうスカウトされる事も珍しくない。
商業科の学生にとっては期間中に町を訪れる数万人の客はいいテストケースになっている。
学院敷地内に留まらず町中に、もはや模擬店とは呼べないクオリティーの店が数多く出店される。
この日の為にオリジナル商品を開発したり、遠隔地から商品を仕入れたりと大忙しだ。
武芸科の学生にとっては学院祭の『フェルディール武芸大会』は1年を通して最大の見せ場だ。
大した特典は無いが、数万人の注目の中で、優勝者として名前を残す事は十分に名誉なことだ。
学院としては非公認(黙認)ではあるが試合結果を予想する賭け事も学院祭の目玉となっている。
大陸でも最大級の学院の学院祭は、フェルディールの町を挙げての一大イベントとして行われ、近隣諸国は勿論、片道半月の旅をして訪れる者もいる。
そんな学院祭の準備に追われるフェルディールの町に、ヒロの姉ユリアーナがやって来たのは、学院祭開催の3日前だった。
「突然どうしたのですか?学院祭の見学ですか?」
何の連絡もなく現れた姉に、ヒロは困惑しながら訊ねた。
「まさか、迷惑だった?」
目を潤ませ、怯えた子供の様に上目使いの姉に
「まさか、そんな筈無いじゃないですか。姉様が迷惑なんて」
「怖くて言えません」そんな本音は口には出せない。
「そう、良かった♪
ああ、それと学院祭は見学じゃなくて参加よ。『武芸大会』にね」
「武芸大会に参加?
ああ、そういう事ですか。招待選手ですね?」
元々武芸大会は、単なる学内トーナメントだったが「どうせなら学院外からも参加してもらおう」と誰かが発案し、その結果、今では毎年500人を超える参加希望者が学院外からやって来る。
事前に行われている、学内予選を勝ち抜いた16人と学外予選を勝ち抜いた12人、そこに4人の招待選手を加えた計32人よるトーナメントが学院祭期間中に行われている。
「ええ、その招待選手ってやつなのよ。お祖父ちゃんに一筆書いて貰ったらアッサリと通ったみたい」
どっちの『お祖父ちゃん』だ?父方(剣皇)か、それとも母方(国王)か?
どちらにしろ、学院祭に紹介状を出させる相手じゃないよな。
「ふふ、楽しみにしてるわよ?まさか怠けて鈍って無いでしょうね?
出来れば決勝で当たるのがベストなんだけど」
そう言うと、本当に楽しみで仕方が無いといった笑みを浮かべている。
だが、残念な事に
「俺は武芸大会出ませんよ?」
「え?なんで?
まさか、予選で敗退したの!?」
信じられない、と声を荒げ、襟首を掴み締め上げる。
「学内予選には定員数が決まっていて、3年生150人、2年生80人、1年生36人の256人から16人を選んでるんだよ」
締め上げられ、話せそうに無いヒロに代わりヴァルヘイムが説明してくれた。
「基本的には抽選だから倍率の高い1年生は参加できないことが多いな」
数百人の内36人という狭き門に涙を呑む者は多い。
(まぁ、参加希望を出してないんで、当たる筈が無いんだけどな)
皆には抽選で外れたという事にしてある。
ちなみに、メリオラは見事当選し、アリシアは落選した。
「ハアー、楽しみにしてたのになぁ」
ガックリと項垂れたと思いきや
「そうだ!誰か一人招待選手を再起不能にしたら、そこに捻じ込めるんじゃない?」
その目を輝かせ物騒なことを思いつく。
「止めて下さい。本当に止めて下さい」
冗談に聞こえないのが恐ろしい。むしろ本気だったのではないだろうか?
「フー、まあ、抽選じゃあしょうがないかー
あーあ、やる気無くなっちゃたなー」
本当にやる気を失ったらしく、だらりとテーブル突っ伏している。
「まぁ、姉様なら優勝も難しくないでしょうが、頑張って下さい」
一応応援の声を掛ける。
「おい、おい、そんなに簡単に優勝できると思ってんのかよ?」
ヴァルヘイムが「舐めんなよ」と口を挟む。
「「え?」」
心底意外そうな姉弟に
「なに驚いてんだよ?
いいか?去年の優勝者が誰だか知ってるか?」
「いや、知らないけど」
そもそも、武芸大会自体にあまり興味が無かった。
「知っとけよ!『閃槍のシャラザード』だよ」
「誰それ?聞いた事有るような」
知ってる?っと首を傾げてくる姉。
当然の様に俺は知らない。
「ロギナス王国の期待の若手騎士だろ!お前等の故郷だろロギナスは?」
「いや、そんなこと言われてもな」
知らない物は知らない。
「そう言えば、ヴァルは去年も参加したんだっけ?どうだったんだ?」
以前に「接近戦なら学院最強」とか言ってなかったか?
「グッ、負けたんだよ。準決勝で、シャラザードに!」
「思い出した!」
何かを考え込んでいた姉が突然に声を上げた。
「どっかで聞いた事ある気がしてたんだけど、チャラ男だ」
シャラ男?いや、チャラ男か?
「知り合いですか?」
「騎士学校の1学年上に居たのよ。チャラチャラしたのが。何度か声を掛けられたけど、その度にボコボコにしてやったわ」
やっぱりチャラいのか。
思い出せてスッキリしたのか「懐かしいわねー」と上機嫌だ。
「シャラザードをボコボコ?俺は今でも勝てるって断言できないぞ」
信じられない面持ちのヴァルヘイムがボソっと呟いた。
「ええ、貴方は弱いから無理でしょうね」
ズバッ!
何かがバッサリ切られた音がした。
隣でヴァルヘイムのHPがレッドゾーンになっていた。
「まあ、武芸大会は適当に優勝するにして、ちゃんと学院祭案内してよね?」
適当で優勝できるのか?いや出来るんだろうな。
魔法無しなら当代随一と呼んで差し障り無いだろうし。
だからこそ危ないんだ。
「姉様、案内して差し上げたいのですが、初日は仕事が有りまして」
機嫌を損ねたら身の危険どころの騒ぎじゃない。
「学院の地下迷宮体験イベントの案内役に選ばれてるんです」
「地下迷宮体験?」
「ええ、体験っと言っても、2~3階層なんで大した事無いですけどね」
「へー、じゃあ2日目以降に案内してね?」
「してね」とお願いの形式だが、実際は「しろ」なのは明白だった。
「なら俺が案内しよ「結構よ」う・・・」
ユリアーナはヴァルヘイムのデートのお誘いを喰い気味に断ると、ヒロと軽く抱擁を交わし「楽しみにしてるわ」と言い残し去って行った。
残されたのは、嵐の予感に溜息をつくヒロと、HP残量0に追い込まれたヴァルヘイムの生きた屍だった。
学院祭初日、暑いまでの晴天に恵まれたフェルディールの町。
その晴天の空を見上げ、己の不幸を嘆く人物がいた。
「何故だ、神よ。俺がいったい何をした?」
『地下迷宮体験ツアー』
案内役として腕の確かな学院生3人に一般人5人の8人組で地下3階までの冒険だ。
アリシア、マシウス、ヒロの3人の前に並んでいるのは。
今日を楽しみにしていただろう、目を輝かせた2人の少年と。
当代随一の女性騎士『剣姫』ユリアーナ。
海千山千のギルド職員『看板娘』リューネ。
大陸最高峰の魔法士『ハイエルフ』アルシェイラス。
という5人の一般人(?)だった。
「なに?迷宮走破でもする気?」
(神様いったい何の罰ですかこれは?)
心中で神への苦情を告げていると
どこかで
『ハッハハ、これは面白くなってきたんだよ♪』
と誰かが笑っている気がした。
学院祭開幕です
ドタバタしてオロオロするだけです(誰が?)
感想・御指摘等ありましたら
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