28 INエルフの集落
拝啓、皆様。
「何故人生はこうも、ままならないのか」を考えていた、ヒロです。
只今、エルフの集落の地下牢に放り込まれています。
流石エルフの集落というべきか、抗魔法処理の精度が尋常ではありません。
魔力そのものを封じるものらしく、体外に放出すると霧散させられてしまいます。
吸魔石という魔力を吸い取る石の付いた手枷をはめられ、体内に魔力を循環させる事も出来ません。
魔法対策は完璧といったところでしょうか。
その上、武器、装備品の一切を取り上げられて完全にお手上げ状態です。
とりあえずは、第一級戦犯を牢内裁判で締め上げるところです。
今のところ、極刑以外の選択肢が思いつきませんが、諦めずに法廷闘争してもらいましょう。
「お前、馬鹿なのか?」
ヴァルさんよ、そんな事みんな知ってるよ。
「っぐ。だって」
「そもそも、何で果実を食べに行った?」
アリシアさんの目がいつもより鋭い。(当社比150%)
「だって、見た事ない果実だったから」
だから?それで?
「初めて見たから口にするって、幼児ですか?」
止めてやれマシウス、幼児に失礼だ。乳児のレベルだろ。
「ほ、ほらみんな、メオもさ、悪気が有った訳じゃないし」
甘やかすなナタリア。メリオラの為にならん。
「ナタリー」
ウルウルしながらナタリアに近づこうとした。
ベチャ!
「アグッ!」
足枷に足を取られ転ぶ。
「もー、クソー、外せー」
ジタバタ暴れると、ヘッドスプリングで跳ね起き。
両足でピョンピョン跳ねながら鉄格子を掴み力の限り揺すると。
「出せー、これを外せー、メシを持って来ーい」
見張りのエルフに叫ぶ。
呆れ顔の見張りが入り口付近で何かを操作すると。
「ギャン!」
メリオラが仰向けに倒れ痙攣している。
鉄格子に電流を流されたらしい。
「くそー、まだ頭がガンガンする」
自業自得だ。まったく。
「それで、今後はどうする?」
アリシアが今後の事を切り出した。
「そもそも、なんで素直に捕まった?」
ヴァルヘイムが不満を口にする。
「封印の祠の件もあるし、敵対するわけにはいかないでしょ」
カトライアが冷静に状況を分析してみせる。
「まず、この後は裁判になるでしょうね」
マリアベルが今後の予想を述べる。
「裁判?」
「エルフは揉め事を議会による裁判で片付けますから」
「どういう判決になると思います?」
「たぶん、数年の強制労働でしょう」
「数年?ただ小枝1つを折って、果実をかじっただけだよ?」
そんな馬鹿なっとメリオラが目を剥く。
「貴方の価値観と、エルフの価値観は違いますからね」
そりゃそうだな。
「基本的に強制労働でしょう。死刑や罰金刑はまず出ませんし、余所者は追放できませんから」
数百年生きるエルフには強制労働数年は軽いのかもな
「メリオラの刑罰は置いておいても、祠の話は何とかしないといけないからな」
「置いとかないで、大事だから、ボクの刑罰も何とかして!」
うるさいやつだ。
「これより、『同胞の木』を傷つけた人間の裁判を始める」
地下牢で一晩を明かし、翌日の昼前に裁判は開かれた。
議場中央の一段高い席に座る長老衆と思われるエルフ達がいる。
中央のエルフが開廷を告げる。
「まずは罪状認否」
・
・
・
・
「それでは判決を述べる」
こいつは軍法会議と同じだな、最初から判決が決まっているんだ。
ちゃんと裁判は開きましたよって形にしただけだ。
「判決、10年の強制労働」
「ちょっ、10年って」
「黙れ、発言は許可していない」
そいつは困る。馬鹿だ、問題児だと言ってもメリオラは大事な仲間だ。
10年どころか半年の強制労働だって困る。
それにこんなやり方を許すわけにはいかない。
「異義がある!」
突然の異議申し立てに議場内のエルフの目が俺を向く。
「発言の許可はしていない」
被告人側の意見はすべて封殺するつもりのようだな。
だが、黙ってやるつもりは無い。
「これが誇り高きエルフのやり方か?」
俺の物言いに議場が騒然となる。
「黙れ、我等を馬鹿にする気か?」
青スジを浮かべた長老が怒鳴る。
「ああ、そうだ。俺はエルフは公平で平等な誇り高き種族だと聞いていた。
違っていたようだな?」
「ふざけるな、我等エルフは傲慢な人間とは違う」
「ならこの裁判はなんだ?
最初から判決が決まっている。これは公平か?
相手の意見は一切聞かない。これが平等か?
相手の意見を封殺して、結論ありきの裁判を行うこれが誇り高きエルフか?
失望させるな『賢き森の民』」
俺の罵倒とも言える発言に長老衆の老人達が怒りに震える。
「黙れ人間!言わせておけば図に乗りおって
それ程に強制労働が嫌なら、極刑にしてくれるわ」
長老の発言に俺の左右から殺気が溢れ出す。
ヴァルヘイムの目が「暴れても良い?」と言っている。
アリシアの目が「もう良いだろ?」と訴えかける。
俺も暴れるかなっと決意しかけた時
「ずいぶんと乱暴な話だな?」
女性のエルフが一人議場に入ってきた。
「ッ!?」
そのエルフを見た長老達が平伏していく。
そして議場内のエルフが次々と平伏していく。
やがて議場内は俺達と入場してきたエルフ以外の全てが平伏していた。
(マリアベルも平伏していた)
「???」
何が起こっているのか分からずに周囲を見渡す。
「ハイエルフ様です」
マリアベルが俺たちに聞こえるギリギリの声量で教えてくれた。
『ハイエルフ』始まりのエルフとされる、エルフの上位種。
神々の末裔とも称され、老いる事のない体と無尽蔵の魔力を持つエルフの希少種にして王族だ。
エルフの間で1000年に1人程度が先祖返りによって生まれるらしく、エルフにとってハイエルフは神にも等しく、決して逆らえない存在だ。
その姿を見ただけで平伏してしまう程の様だ。
長い金髪、神々しいまでに整った顔立ち、抜群のプロポーション。
遠目から見ても絶世の美女である事が分かる。
美男美女揃いのエルフの中でも別格と言える。
(あれは、もしかして?)
そのハイエルフは俺たちを一瞥すると長老衆の元へ歩み寄る。
長老衆は席を立つと脇へと降りていく、ハイエルフは長老衆の席に着座すると「楽にしろ」と手を振る。
「で?これは何の騒ぎだ?」
一連の流れを長老が説明する。
「ふむ、人間よ。我等の偉大な祖先の魂の宿る木を傷つけたのだ、強制労働は妥当だと思うが?」
ハイエルフが俺に尋ねる。
「俺が不当だと言っているのは、裁判のやり方だ。こちらの意見を聞かず一方的に進める事に対してだ」
「なるほど、一理ある。申し開きがあるなら聞こう」
「彼女が『同胞の木』の枝を折った事は事実だ。だが彼女は『同胞の木』のことを知らなかった」
「それが情状酌量に当たるとは思わん。無知である事はそれだけで罪の様なものだ」
「彼女が知らないであろう事は分かっていた。前もって言い含めておくべきだった。俺の失敗だ」
「で?だからどうした?何が言いたい?」
「罰するのは俺にしてくれ」
「ちょっ、何で?ダメだよヒロ・・・」
メリオラの台詞を手で制する。
「・・・ふむ、殊勝だな。良かろう、誰が罰を受けようが大差ない。それが良いのなら望み通りにしてやろう」
「ただ、1点だけ頼みがある」
「聞くだけ聞こうう」
「俺たちは今、重要な案件を追っている、この集落に来たのもその為だ。
その案件に決着が付くまでは刑の執行を待って欲しい」
「フッ。話にならん。何かと思えば時間稼ぎか」
「代償は払う」
「代償?」
俺は枷から手を抜くと、傍の衛兵の腰から剣を抜く。
「なっ!」
「貴様!」
騒然とする議場内。
衛兵達が慌しく俺を取り囲む。
そんな中に
「騒がしい!狼狽えるな。持ち場に戻れ」
ハイエルフの声で衛兵は元の配置に戻っていく。
「それでその剣で何をする?」
(一か八かだな)
「エルフにとって『同胞の木』は第二の体、その枝を折るのは、指の骨を折られるのと同じ事だ」
ザシュッ
「これに免じてしばらく待ってもらいたい」
自ら切り落とした左腕を掲げて見せる。
次話に続きます
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