25 宴のち二日酔い
「うー、頭が痛いよー」
朝からうめいてテーブルに突っ伏す少女がいた。
いや、突っ伏した少女達がいた。
「酒臭いですね」
「それを言ってやるなマシウス君。
今、自分達の愚かさを噛み締めているところだ」
「大体、お酒が主食のドワーフと酒盛りなんて、馬鹿ですか?
彼等と僕等じゃ体の作りが違うんですよ?勝負にもなりませんよ」
いや、勝負になってたし、勝ったぞ若干1名は。
だが良い機会だ、キッチリ釘をさしておこう。
「まず、アリシア」
「あぅ、何だ?」
「お前は酒に弱い。飲むなとは言わん。ガバガバ飲むな」
「馬鹿な事を言うな、私は嗜む程度にしか飲んでない」
「お前の嗜み方はドワーフの嗜み方だ。
人としての嗜み方は、せいぜい日に酒瓶1本だ」
「そ、そうなのか?」
ショックを受けたのか、二日酔いが辛いのか分からんが、とりあえず言う事は言った。
「次に、メリオラ。お前だ」
「たまには良いじゃないか。ハメを外す事も必要だよ?」
「否定はしない。が、昨晩いくら使ったか分かってるか?」
「ん?さあ?金貨1枚ぐらい?」
「金貨2枚と銀貨55枚だ」
「え?なんで?」
「しかも酒代だけで、だ。食い物代と壊した酒場の修理代を入れたらもっとだな」
銀貨50枚の酒樽が3つと銀貨5枚の酒瓶が21本で銀貨255枚だ。
総額にしたら金貨3枚を軽く超えるだろうな。
「…嘘でしょ?」
「残念ながら。あれだけ飲み尽くしたらそんなもんだろ」
「誰よそんなに飲んだの?支部長でしょ。あのヒゲオヤジめ~」
(いや、俺とナタリアで半分かな)
「稼ぐ度にあれじゃあ、いくら稼いでも足りないぞ。
羽目を外すなとは言わんが、羽目の外し方ってもんを覚えろ」
「うー。お金がーお金がー」
頭を抱えて呻くメリオラ。
「あの連中も全額お前に払えとは言わないだろうさ。俺も金貨1枚ぐらい出してやるから」
涙を流しながら、俺の手を握り締めてくるメリオラ。
その感謝の心を忘れるなよ。
「最後にナタリア」
「ゴメンナサーイ。飲みすぎには気を付けまーす」
「ホントだぞ。酒で体を壊す奴多いんだからな?」
「なんかナタリーだけ優しくない?」
「まったくだ、私達のように辛辣な言葉を投げかけないのか?」
「本人が反省してるのに傷口を抉ってどうすんだよ?」
お前等俺をなんだと思ってる?
「それに、今は頭が、ガンガンいってるだろうから何を言っても記憶に残らないだろうしな」
人間の許容量を遥かに上回る酒量を飲みきったので、もしかしたら普通にケロッと起き上がるのではないかと心配(?)したが、普通に二日酔いにはなるようだ。
「話を聞く限り、最後まで付き合ったようですが、何でアナタは平気なんですか?」
「常識的な飲み方で付き合ったんだよ」
(チートな能力で乗り切ったんだよ)
「じゃあ、俺はギルドのほうに顔を出すから、お前等大人しく部屋で寝てろよ」
ギルドは昨日の今日でも営業しないわけにはいかないだろう。
顔を出して、今後(主に金銭)の話をしておかないとな。
いつもの道をいつもの様に歩きギルドの前まで着く。
ガラン!
ギルドの中に入るとそこは
「うわ~。みんな死んでるな~」
死んだ魚の目をした冒険者がゴロゴロしていた。
いつもは笑顔で迎えてくれるリューネも虚空の一点を見つめ微動だにしない。
(あれもしかして寝てる?)
「リューネさん?」
声を掛けると、ハッとして俺を見て頭痛か顔をしかめる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ええ、大丈夫です。ちょっと二日酔いみたいですけど」
「まぁ、あれだけ飲んだらしょうがないですけどね」
なんとなく気まずい雰囲気になる。
「あ、あの。あー、いや、その。あのですね」
「ん?なんですか?」
「お恥ずかしい話なんですけど、昨日の事がよく思い出せなくて、朝起きたら、その、服を着ていなかったので、何かご存じないかな? と」
(酔って脱いで踊ってた事か)
「え~と、いや、よく分かりませんけど」
アレを男の口から伝えるのは流石にっな、どう言ったものかと思っていると
「酔い潰れたので、奥に連れて行ったら「暑い」とか言って脱いで寝たんですよ。覚えていませんか?」
助け舟を出したのは副支部長だった。
その目が言っている「話を合わせろ」っと。
「あ~、そう言えば、副支部長に連れられて奥に行きましたね」
「そうだったんですか!?ご迷惑を掛けて申し訳ありません」
そう謝りながらも、その顔はどこか安心したように見えた。
「羽目を外すのも結構ですが、節度は守るようにお願いしますね」
「「すいません」」
何故か俺まで頭を下げてしまった。
その後は、起き上がれない支部長にお小言を言うマリアベルに付き合い。
昨夜の代金の話を付け。(俺達の支払いは金貨2枚で済んだ)
めぼしい依頼がないか確認し。(特に良い物は無かった)
ギルド内の妙な噂を聞き流し。(支部長が飲み負けた等)
今日は帰ることにした。
「ちょっと良いか?」
ギルドを出て、学院の門に着いた頃。
ようやく声を掛けられた。
「やっと?今日もこのまま様子見なのかと思ってたよ」
誰かがウロチョロしていると思ってたけど、仕掛けてこないんでほっといたんだが。
「あー、やっぱ気づいてたか?」
「ちょっと前から付けられてるのは知ってたよ」
「ギルドを出たところからか?」
「いや、朝学院を出た頃からかな」
ピュウー♪
「そいつは、凄げーな」
口笛を吹きながら賞賛の声を口にする。
「それで用件は何ですかね?先輩」
「何で俺が先輩だと?」
「同学年で、そこまでの腕のある生徒は知らないので」
「学院生じゃないって可能性は?」
「学内で俺を見張ってたのが別人なら、有り得るでしょうね」
「見張られてたのも分かってるんだな」
「そろそろ用件を聞いても?」
「ああ、俺と戦かってみない?」
「…理由は?」
「俺が強くて、お前が強そうだからかな」
「そういう面倒くさいのは、嫌なんだけど」
「そう言うなよ、今日が絶好の機会なんだからさ
このままだと、迷宮内で、パーティごと襲っちまいそうだ」
こいつはやばい手合いだ。
アリシアのような強くなる為に強い相手と戦いたいって訳じゃない。
戦いを楽しむ為に強い相手と戦いたいってタイプだろう。
今はまだ、周りに迷惑がかからないように自重しているが、いつかは押さえが効かなくなる。
そしたら周りの状況などお構い無しだろう。
「条件がある。死ぬのも殺すのも御免だ。木剣で良いか?」
「ハハ、良いぜ。でも俺もお前も木剣でも殺せるだろ?」
「それでも事故で死ぬ確立は下がるさ」
「ふーん、別に良いけどさ
そう言えばさ、昨晩ギルドで盛大な宴会があったらしいんだけど?なんか知ってっか?」
そう言うと、並んだまま世間話をしながら錬武場を目指し歩きだした。
その姿は周囲からはただの友人のように見えていた。




