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望むはただ平穏なる日々  作者: 素人Lv1
学院 編
24/90

24 酒盛り

 俺たちは3人組を追わなかった。


 それが依頼に含まれていないから、という事よりもあの3人組の目的、実力、危険度がまるで分からなかったからだ。


 いまいちスッキリしない。

 だが、まずは依頼の遂行が優先だろう。

 この集落の情報を集めまとめる。


 やはりというべきか、オークキングがいた。

 集落に倒れているオークの数は24体ここに来るまでに6体倒している。計30体。

 他にも集落の外に出ているオークがいるだろう。

 40体を超える集落かもしれなかった。


 証拠となるものを集め終えると、ギルドへの帰路に着く。

 途中で更に6体のオークに遭遇し殲滅した。


 この依頼を受けるに際してギルドから『収納袋』を借りてきた。

 空間魔法を駆使して作られた、この袋は物の大きさ、重さを無視して収納できる。

 オークなら100体はしまえるこの袋を借りるのは、なかなか難しいのだが、リューネさんがイロイロ手を回してくれたらしい。頼りになる人だ。

 


 ギルドに辿り着くと、リューネさんが笑顔で出迎えてくれた。

 「お帰りなさい。ご無事で何よりです」

 「ただいま。えーとまず報告です」

 「あー、集落見つかりませんでしたか?

  気を落とさないで下さい。他の冒険者の方もまだ見つけてませんから」

 沈んだ俺達の声に、失敗したのだっと思ったらしく、リューネさんは慰めの声を掛けてくれた。


 「いえ、集落は見つけました。でも、既に壊滅してました」


 「は?え?どういう事ですか?」


 「え~と、出来れば支部長か副支部長とも話しをしたいんですけど」


 俺達の雰囲気に何か感じたのか、リューネさんは「ちょっと待ってて下さい」と奥に行き、しばらくすると「こちらへ」っと案内してくれた。


 『支部長室』そう書かれた部屋に案内されると、そこには副支部長が居た。

 「すいません、今支部長は役に立たない(・・・・・・)ので私が代わりにお話を聞きますが、よろしいですか?」

 まったく困った支部長のんだくれだ。


 「はい、まず今日受けた依頼なんですけど」

 

 「オークの集落の調査ですね?平原の西に在る森の」


 「はい。結論から言えば集落はありました。オークキングによる40体前後の集落だと思います」

 

 「おお、素晴らしいですね。こんなに早く発見し、その規模まで。それで、今その集落は?」


 「既に壊滅しています。集落の外に出ていたオークがまだ何体かいるかもしれませんが」


 「壊滅?貴方達が?」


 「いいや、ボク等が着いた時には、もう壊滅してたよ」


 「既に?どういうことですか?」


 「俺達にも分かりません。ただ、そこから立ち去ろうとする3人組を見ました」


 「3人組。どんな人ですか?」


 「詳しくは分かりません。遠かったですし、森に消える直前でしたので」

 

 「そうですか・・・

  要約すると、オークキングによる40体前後の集落を何者かが壊滅させた。っと言う事ですね?

  ふむ、しばらく待ってそういう報告が他の冒険者から上がってこないか見てみましょう」


 「はい、それとオークの集落をちゃんと解体しておかないと別のモンスターが住み着くかもしれません」


 「残党狩りを含めて手配しておきましょう。他には?」

 周りを見回し、特に発言が無い事を確認する。


 「ご報告ありがとうございます。

  リューネ、依頼達成の処理をお願いします。最高評価で良いでしょう。

  別の冒険者から集落壊滅の報告が無いようなら追加の報酬も彼らに」


 指示を出すと退室を促す。


 他の3人が部屋を出て、最後に残った俺が部屋を出る直前、副支部長に声を掛ける。


 「変に不安を煽りたくないので、ここだけの話ですが」

 

 「ん?なんですか?」


 「肌の色が褐色だったように見えました」


 「ッ!?」

 予想外の一言だったのだろう、その目は驚きに見開かれていた。


 「そんなはずはありません。あの森の奥はエルフの領域です」

 

 「だからこそ、かも知れませんよ?情報収集はしておくべきだと思います」


 「分かりました。配慮に感謝します」



 バタン!


 扉が閉められ、一人残ったマリアベルの口から旧友へ向けた独り言が漏れた。


 「優秀過ぎませんか?貴方の弟子は。流石ですね、バートン」





 「それじゃあ、チャッチャッと処理しちゃいましょう」

 沈んだ雰囲気を振り払うように、明るい声を出すリューネさん。


 「まずは、依頼達成報酬の銀貨75枚に最高評価による増加分2割で銀貨90枚」

 おお、銀貨90枚。俺一人の取り分としても銀貨30枚。

 この世界での平均的な月収が、銀貨100枚前後らしいから、その3分の1に近いな。


 「それと、このまま集落を壊滅させたって報告が来なければ追加報酬分も皆さんにお渡しします。たぶん10日後には渡せると思います」

 その上、金貨1枚増えるとは嬉しいもんだ。


 「あと、オークの買い取りも有りますから」

 そう討伐してきたモンスターは買い取ってもらえるんだ。

 ゴブリンやコボルトなんかはともかく、オークは食用肉にも転用されるので、お徳用討伐対象だ。


 ギルドの裏庭で買い取り鑑定人立会いでオークの品定めをする。

 「あー、こりゃダメだな。メリオラだろこれ」


 丸焦げのオークに苦笑いの買取人。

 やっぱりここでもそうなんだな、あの問題児は。

 いつものことだっと言わんばかりの顔の買取人に、こちらも苦笑いのリューネさん。

 当の本人は「依頼票確認してくるよ」と逃げ出していた。

 

 結局買い取ってくれたのは32体だった。

 オーク1体;銀貨25枚。

 オークキング1体:銀貨40枚。

 の計、銀貨730枚だ。(損傷によって減額された)


 依頼の報酬よりこっちの方が儲かってるんですけど。

 しかも20体以上は例の3人組が倒したものですし。


 あの鑑定人、収納袋から次々出てくるオークにちょっと引き気味だったな。

 文字通り山のように積まれたオーク。

 「凄いですね、この『収納袋』って」


 リューネさんに収納袋を返しながら、流石に呆れる。


 「そうですね、この袋1枚でなんと金貨50枚はしますからね」


 驚きの値段だった平均家庭の給料3年分のアイテムって。


 「そん高価なもの簡単に貸しちゃって良かったんですか?」


 「良くは無いですよ。普通はそれなりの保証金を出してもらうとか、それ相応の信頼関係が無いと貸し出せませんよ」


 「俺、保証金払ってませんよ?」


 「言ったじゃないですか。それ相応の信頼関係が有ればって。信じてますよ」

 俺の目を見てニッコリと笑う。


 (はい、反則です。この人反則です。こんな笑顔でこんな風に言われたら)

 見つめ合う視線に熱がこもる。


 「今日は呑むぞー」

 「「「おおー!!」」」


 せっかく良い雰囲気になっていたのに、野太い声が全てをブチ壊す。


 「メリオラの嬢ちゃんが、デッカク稼いだんで奢ってくれるってよ」

 「「「ゴチになりまーす」」」


 音頭をとるのは、ご存知、酔いどれ支部長のエルドラ。

 「ハッハッハ、苦しゅうない、苦しゅうないぞー」っと笑うメリオラの前に跪く冒険者達。

 ギルド内に併設された酒場の隅では、ナタリアに冒険者達が次々とお酌をし貢物スイーツを捧げられていた。


 「イロイロとブチ壊しだな」

 「まったくです。せっかく良い所だったのに」

 プリプリッと怒ったリューネが「支部長!貴方はまだ仕事中です」っとエルドラを奥に引きずって行った。

 「まだ、1杯しか呑んでねぇのにー」「うるさい黙れ」奥からエルドラの悲鳴とリューネの雄叫びが聞こえた。


 俺は帰るか。

 そう思い、出口に向かうと、そこには

 「お、やはりここに居たか。

  ん?他の2人はどうした?」

 アリシアさんがいた。


 酒場で酒盛り中の2人を目ざとく見つけたアリシアは、無表情のまま喜色満面という理論上は不可能な表情で

 「しょうがないな、あのままにしては帰れん。付き合ってやるか。行くぞ」


 俺の襟首を掴んで酒盛りに突撃して行った。


 



 「アリー、メオ飲んれますか?」

 既に酔いつぶれ寝ている二人に不満顔のナタリアは

 「2人とも寝ちゃいまひた。ヒロ君が付き合ってくらはい」

 酒樽を持って俺に近づいてくる。


 どう見てもその酒樽お前より大きいんだけど?


 「あっ?エルドラさん、減っれないりゃないれすか。

  『全部呑むのが礼儀』りゃないんれすか?

  まだ、お酒ちょっと残ってるんれすから、ちゃんと全部飲んでくらはい」

 

 流石に呂律の回ってないな。

 

 「あー、もう、無理だぁ、流石にもう呑め、ウップ」

 限界を超えたエルドラも流しでリバースしていた。

 


 「いや、全部飲むって言ったって、店ごとってのは聞いたこと無いな」

 

 他人事のように呟いた俺にロックオンしたナタリアが酒樽片手に

 「さぁー、これで邪魔者はいなくなりました。とことん飲みましょう」

 俺の膝の上に座った。


 「重っ、酒樽が重い、酒樽が、床に置け床に」


 

 俺のスキルに【状態異常耐性】と【身体壮健】という物が有る。

 【状態異常耐性】は毒や麻痺などに対する耐性を上げる物だ。

 たぶん飲酒による酩酊状態も状態異常なのだろう。

 【身体壮健】はケガをし難い、病気になり難いといったものだ。

 たぶん体の免疫能力等が高いのだろう。アルコールの分解機能もだ。


 つまり俺は酒にむちゃくちゃ強い。むしろ酔うという機能が無いのでは?っと言う程だ。

 結論から言って、俺にとってお酒は風味付きの水みたいなもんだ。


 「俺が最強だー」と言ってナタリアに潰されたエルドラ。

 「酒は嗜む程度が良い」と言ってガバガバ飲んでアッサリ潰れたアリシア。

 「良いですか、そもそも貴方は・・・」壁に向かって説教をし始めたマリアベル。

 「武芸王にボクはなる!」と元日本人疑惑を再燃させるメリオラ。

 「1番、リューネ脱ぎまーす」と喝采を浴びたリューネ。

 「2番、アイン脱ぎまーす」とブーイングを浴びた、誰だっけ?

 「あれ?もう無くなっちゃいまひた。終了れーす」と使命を終え眠りに就いたナタリア。


 馬鹿ばっかりだな。この町は。

 最後に残った杯の中身を飲み干した。





 さて。どうすんだ、これ?


 地獄絵図か?と言うほどの混沌としたギルド内。

 明日も営業すんだよな?


 見事に全員が潰れた酒場で、後片付けを俺がするハメになった。


 

 

 その後フェルディールの町に

 『町一番の大酒豪を潰した少女がいる』

 と言う噂が風のように流れた。

 その噂を聞く度に「ありゃーバケモンだ」と呟くドワーフがいたらしい。


 そして「その少女すら潰して、その後酒場を片付けて帰った奴がいるらしい」

 と言う噂は、流石に誰も信じなかった。

 


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