23 オークの集落
「向こうに複数の反応が有るな」
「それがオークの集落?」
「どうかな?ただ15体以上の反応が有るよ」
「分かってるメオ?森の中だからね。所構わず炎術使っちゃダメだからね?」
「大丈夫だって、森林火災になっちゃうもんね。任せてOK、OK」
ホントかよ?お前の大丈夫程怪しいものは無いんだよ。
俺がそれまで実力を隠していた理由を聞いてきたメリオラは
「何か理由があるんだよね?力になるよ?」
と目をキラキラさせながらにじり寄ってきた。
きっと脳内で、仲間の悩みを解決する、頼りになる自分を想像してるんだな。
下手な言い訳は、やたらと勘の良いこのボクっ娘には通用しない。
そこで俺は
「実は俺、古の英雄の生まれ変わりなんだ。俺が力を使うと、それに反応して魔王が目覚めてしまうんだよ」
適当な話で「そんな馬鹿なー」的に誤魔化す事にした。
しかし
「そっか。それは危険な状況だね」
なんでか信じられてしまった。
「馬鹿か?」「アナタ頭大丈夫ですか?」「え?今の冗談だよね?」
そんな目で見てくる他の仲間達とは裏腹に、メリオラは
「やっぱり闇の魔王の復活のときは近いんだね。ウン、分かるよ。大丈夫、ボクに任せて!」
ちょっと待て。
何が分かったんだ?
何が大丈夫なんだ?
何をする気だ?
「ボクがキミを守ってあげるから」
頼んでね~よ。
「いや、冗談だからな?ホントにただの冗談だぞ」
「良いんだ。ボクを危険な目に遭わせたくないんだろ?
大丈夫だよ。どの道ボクは魔王とは戦わなくちゃいけないんだから」
いや、確かに危険な目に遭わせたくないけど、誰より俺自身が遭いたくないんだよ。
なんだよ、「魔王と戦わなくちゃいけない」て。
どこに行きたいんだよお前は?
「メリオラ、よく聴け。冗談だ、冗談なんだよ」
「うんうん、分かってるよ。大丈夫、大丈夫」
絶対分かってないよなお前?
ちょっ、アリシアさん「あーお前もソッチ側なんだな」って目で見ない。
マシウス君、君もゴミを見るような目で見ない。
ナタリアさん、「あ、私も桃のシャーベットが良いなー」じゃない話に参加しろ。
「よしよし、キミが力を使わなくても良い様にボクがキミを守ってあげよう。
あ、今日は疲れてるから明日からで良い?」
誰でもいいから、コイツを止めろ。
もしくは数十秒でいいから時間を巻き戻してくれ。
そんな訳で、今日もメリオラは付いて来た。
「今日はギルドで依頼を受けなきゃいけないから」
何とか追い払おうとするが
「じゃあ、ボクも行くよ。どうせ今日はギルドに顔を出すつもりだったし」
なんとコイツもギルドに登録済みらしい。
「なら、私も一緒に行ってみたいなー。ギルドには登録しておきたいと思ってたし」
ナタリアも付いて来るらしい。
俺のギルドランクはDに上がっていた。
メリオラのランクはCなのだそうだ。
「なに?C?Cだと?馬鹿なメリオラのくせに俺より上だと?」
「ホントにキミとは1回キッチリ話を付けなきゃいけないね」
メリオラは学院入学の2年前から登録しているらしい。
ギルド内にも知り合いが多く、何組かの冒険者達と挨拶を交わしている。
その中にはギルドの支部長もいた。
まだ昼前だというのに何本もの酒瓶を足元に転がし
「おう、メリオラじゃねぇか。久しぶりに顔出したじぇねぇか」
「そんなこと無いよ。5日前にも来たよ。飲んでたから覚えてないんでしょ?」
「あ?そんな事ぁ無ぇぞ。俺は毎日呑んでるぞ」
まったく噛み合わない返答をし、ガハハハっと笑うその後ろに、無表情に有罪判決を告げるときを待つ副支部長がいる事は、飲んだくれのドワーフ以外の皆が分かっていたが、誰も教えなかった。
ナタリアのギルド登録が終わると、俺、メリオラ、ナタリアの3人のパーティ登録をする。
パーティランクはC。パーティランクはメンバーの平均ランクの1つ上になるらしい。
依頼の受諾処理も行ってもらう。相手はいつものリューネさんだ。
パーティメンバーを確認したリューネさんの目に妖しい光が灯る。
「今日はアリシアさんは行かないんですか?」
「ああ、なんか用事が有るらしいんで」
「そうですか(あのオンナはいないのね。でも・・・・)」
何かをブツブツ呟いているが、きっとこのメンバーで大丈夫か考えてくれてるんだろう。
「はい、受諾処理しました。気を付けて下さいね」
受諾済みの判の押された依頼票を返される。
何かを考えていたのか、俺をジーっと見ていたリューネさんがチョイチョイと手招きをする。
「ん?」
「たぶんですけど、この依頼が成功したら、昇格試験依頼が出せれると思いますので頑張って下さい」
おお~。俺もついにCランクに昇格か?
そんなことを思っていると、リューネさんの顔が近づいてくる。
「Cランクに昇格したら、お祝いをしましょう。どこかに食事にでも行きませんか?奢っちゃいますよ♪」
そんな耳打ちをするとニッコリと笑いかけてくれた。
(惚れてまうやろ~!そんな笑顔で、そんな事言われたら、惚れてまうやろ~~!!)
何とか平静を保つために、心の中で叫ぶ。
こぼれそうになる笑みを何とか噛み殺し、カウンターを後にする。
そんな俺を出迎えたのは
「早く、早く行こうよ」っとはしゃぐメリオラと、少しむくれたナタリアだった
「何?」
「別に」
俺の質問に、不機嫌そうに答えプイっと顔をそむけ、以後黙り込んでしまった。
あれ?エ○カ様?
俺達の受けた依頼は
『オークの集落の調査 推奨 Cランク
平原西の森に出来たと思われるオークの集落の調査
最近平原西部にてオークの目撃情報が急増している
西部の森の中にオークの集落が作られた可能性がある
その集落の規模等の調査をお願いしたい
報酬: 銀貨75枚(調査の度合いにより増減)
追加報酬 金貨1枚:集落の壊滅(規模により増減)』
というものだ。
森に着くと、早速オークの1団を発見した。3体だ、まだこちらには気付いていない様だ。
このまま後を付けて集落まで案内させよう、と考えていたところ。
「喰らえ、正義の爆炎」
馬鹿がやらかした。
「お前、もうホントいい加減にしろよ。何しに来たか分かってる?」
「分かってるよ。オーク共を焼き払いに来たんでしょ?」
「違う!オークの集落の調査。ちょ・う・さ。分かるか?殲滅は状況を見て」
「えー。最初から殲滅のつもりでいたほうが楽じゃない?」
「あのなぁ、俺達の手に負えない規模だったら?上位種でもいたら?」
「オークキングぐらいボク等の敵じゃないさ」
「手下を捨て駒に逃げて、また新しい集落を作るぞ。
今度はそこで人里に被害が出るかもしれない。その責任まで負えるか?
集落を作るようなモンスターは後々の為に完全に潰さないとダメだ。
下手に騒いで、逃がしちゃいけないんだ」
「ゴメン。気を付けるよ」
コイツは馬鹿で問題児だが、ちゃんと話を聞き自分を省みる事ができる。
ただ
「オーク発見!とつげ、ギュア」
突撃しようとしたところを、俺に服をひぱられ妙な声をあげ、引っくり返る。
メリオラの反省は長続きしない。
「お前には学習能力ってもんが無いのか?」
「ゲホ、ゲホ、ゴメン忘れてた。なんかこう、燃え盛る正義の火が」
「ナタリア、こいつの正義の火を消してやってくれ」
「フフ、もう2人とも馬鹿やってると見つかっちゃうよ?」
ちょっ、俺をコイツと一緒にすんな。
その後そのオークの一団の後を付け集落が有ると思われる場所に向かう。
「ん?おかしい。向こうに有った反応が減ってる?」
俺の【サーチ】で先程まで感じていた15以上の反応が今は9しかない。
いや、更に減って8だ。
「嫌な感じだ。急ごう。場所は分かってる」
隠密行動でオークの後を付けて来たが、場所が分かった以上もう案内は必要ない
オークに駆け寄り瞬時に切り捨てる。
周囲への警戒のため【サーチ】を起動しながら、今も反応の減っていく場所に向かう。
俺達がその場所を視認出来る位置まで来たときには、反応は3になっていた。
転がるオークの死体。
その場から立ち去る3つの人影。
「オークじゃない」
立ち去る人影のシルエットはオークのものでは無かった。
人に近いスラリとした体型、長い髪、褐色の肌。
「ダークエルフ?」




