12 それは春の風物詩
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ドアを開けたら、そこには着替え中の女性がいた。
そして飛んできた枕にダウンを奪われた。
「な、ななな、何ですか? 変態ですか? 変態サンですね?」
「勝手に決め「こっち見ないで!」るな・・・」
上体を起こした俺の目に写るのは、服をかき寄せしゃがみ込む女性の姿。
そして、俺目掛けて飛んでくる分厚い本。
「やめっ、危ね」
「出てって下さい」
服で前を隠す彼女の右手には「それ投げれるの?」というサイズのチェスト。
危険な凶器に
「落ち着け、出て行くから。なっ。落ち着け、早まるな」
座ったまま廊下まで後退るった俺は、ドアを足で閉めると、大きく溜息をついた。
何なんだ、いったい?
部屋番号は?『307』
鍵の番号は?『307』
間違っていないよな。
「ふ~。よし」
大丈夫だ。俺はクールだ。怒ってなどいない。間違いは誰にでもある。誤りを広い心で許せる紳士だ。
コンコン。
「すいません。ちょっと良いですか?」
シーン。
返事が無い、シカトされたようだ。
いいだろう。そっちがその気なら、俺もその気だ。
「お話があります。開けますよ。良いですね?」
ノックはした。声もかけた。念押しもした。
これでまだ、下着姿なら露出狂だろう。
変態はどっちだ。
ドアを開けると、既に服を着終わった女性が、杖を構えていた。
「ッチ。ちょっといいか?」
別に残念がってなんかいないんだからね。
「イヤです。出て行ってください」
「話ぐらい聞けよ」
「変態サンと話すことなんて有りません」
「いや、変態じゃないから」
「ウソです。女の人の着替えを覗く人は変態です」
「事故だろ。それに一瞬の事でほとんど見てないよ」
そう、一瞬だった。覚えているのは精々が
『スラリと伸びた白い足』『キュッとくびれた腰』『青い下着に隠された神秘の双丘』
アレ?意外と覚えてるな?
「やっぱり変態サンです」
「わざとじゃないって。っというか、そんな話じゃなくて、ここ307だよね?」
「そうですよ。307です。私の部屋です」
「いや、ちょっと待てって。だって」
俺は、自分の名前と部屋番号の書かれた許可証を出す。
『ヒロ・ラウンド・グリフ 殿
貴殿の入学に際し
第4寮棟 307号室
の使用を認めます
フェルディール学院長 エバン・ルドアス』
「ほら。ここは俺の部屋だよ」
「ちょっと待って下さい。私も有ります」
机の上に置いてあった封筒から一枚の紙がを取り出し、掲げてくる。
『ナタリア・ラスベル 殿
貴殿の入学に際し
第4寮棟 307号室
の使用(以下略) 』
「「え?」」
目前に突き付けた紙をお互いに見比べた結果。
「「同じ?」」
同じ結論を得た。
え~と。どういうことだ?
名前意外同じ内容、むしろ、名前だけ変えた同じ許可証を机に並べ、二人でクエッションマークを浮かべ、お前分かるか?と互いを見合う。
「どういうことですかね?これ?」
「もしかして。相部屋って事か?」
それは無いだろう。軍隊じゃないんだ。学院で『男女同室』ってことは無いだろう。
そう、冗談のつもりだったんだ。
「え?そ、そんな、いきなり言われても、心の準備が・・・」
本気か?顔を赤らめモジモジし始めたぞ。
もう少しからかってみるか?
「そうだよな。ベットも一つしかないしな」
「困ります。私ベットでなければ寝られません。床で寝てもらって良いですか?」
もう、同室自体はOKみたいだ。
「じゃあ、シャワーの優先権は俺だな」
「むぅ、しょうがないです。あ、でも着替えるときは外に出ててもらいたいです」
「着替えの度に?それは面倒だよ」
「じゃあ、後ろを向いていて欲しいです。さすがに恥ずかしいです」
「まぁ、その位なら良いけど」
「ハイ、絶対守って下さいよ?」
もうこのまま相部屋生活に入っちまうか?
しばらくして、相部屋のルールが大方決まった。
「じゃあ、そろそろ事務局に行こうか?」
「え?何しに行くんですか?」
「いや、ホントの部屋割りを聞きに行くんだよ」
「え?ホントの部屋割り?え?じゃあ、相部屋は?」
「もちろん冗談だよ。ベットもクローゼットも一つのこの部屋で二人は無理だろ?」
「え??からかったんですね!?」
今頃か?ド天然だな。
「さて、じゃあ、入学式で。お互い良い学院生活にしよう」
「本当に良いんですか?」
あの後、むくれたナタリアを連れ、事務局に行くと、手違いであった事が分かった。
本当のナタリアの部屋は第3寮棟226号室だったらしい。
そこで俺は、自分がそっちに移ると告げた。
なぜなら
「もう一回荷造りし直して、移動するのは面倒だろ?」
「それは助かりますけど」
「いいさ、それに良い物も見せてもらったし」
「やっぱり変態サンです」
真っ赤になって睨むナタリアと笑って別れ、第3寮棟の226号室に向かう。
第3寮棟の226号室に行くと、そこには、今まさに部屋に入ろうとする男がいた。
「あれ?」
「ん?」
「226号室?」
「そうだが?」
「またかよ!」
部屋のダブルブッキング。
3000人を超える入学生の訪れと共に起きる、学院の春の風物詩の事を知ったのは入学式の後日だった。
「何やってんだ事務局は!?」




