〜プロローグからの序章〜
ー死んだ。
とても楽しい夢を見ていた気がするが、果たしてその夢の内容ははっきりしていないというような体験は何度も経験することだ。しかし、これほど鮮烈に残っている夢というのも珍しい。あれは相当な悪夢だったようだ。
なんてね。あれは夢じゃない、紛れもない現実だ。ではなぜ意識が残っているのか?実はこっちの方が僕を動揺させる原因となっている。死んだのは確実だ。どうして分かるのかだって?分かるのだから仕方ないとしか言えない。それに、眼前にまで迫っていたトラックがどうにかできたとも思えないし、きっちりと僕にぶつかってくれたのも覚えている。
まあ、考えたって分からないことだ。あの『人の影』と同じく異常な現象がまた僕に降りかかってきたらしい。うんざりするな…。
それよりもここはどこだ?僕が目覚めたところのまわりには広大な大地が広がっていた。遠くの方には町があるようだ。一応道は拓かれている。景色はまるで生前までいた場所と違う。
「とりあえず、町に向かうか。」
歩き出して気付いたのは、遠くの方に見えた町は思っているよりもさらに遠くにあるということと、自分の服装がまるっきりゲームにでてくるような平民のものになっていたことだけだった。
この世界で目覚めたのがちょうど昼ぐらいで、自分の死について沈思黙考していたのもほんの数分ぐらいだ。なのに、
「なんで辿り着けないんだ。」
あんなに輝いていた空は今はもう紅に染まっている。景色は町に近づいている気配を漂わせながらも、歩き始めてから6〜7時間は経過している。人を見かけることもなかった。歩く以外の方法はない、溜め息を吐きながら、僕は仕方なくまた歩き出した。
空は淡々と紫、そして藍色へ移ろっていき、もう夜と言ってもおかしくない暗さになってしまった。結局僕は町に辿り着けず、途中で見つけた、向こうに見える町並みには似つかわしくない和風の古屋敷で夜を過ごすことにした。
中に入ってすぐのところに腰掛け、明日の為にも睡眠をとろうとすると、暗闇から何かが動く音が聞こえてくる。それがなにを示しているのか考えなくても分かるというものだ。ここは息を潜めてやりすごそう。音の主は初めはなにかを探すように動き回っていたが、やがて僕に気付くこともなく去っていったようだった。ホッとしたのも束の間で自分がどれだけ不可解な状況に巻き込まれているのかを再認識すると、簡単に眠れるはずもなかった。
結局いくらか意識が落ちた時もあったが、寝ることは叶わなかった。しかし意外と体調は良好なようだ。それもこの世界によるものなのだろうか。まあ、考えたってしょうがないことは昨日で実証済みだ。用はこれからどうするか、もちろん町に向かうぐらいしか選択肢はないのだが…。そのまえに僕は昨日の夜のことを踏まえてなにか役に立ちそうなものを探すことにした。
どうやら古屋敷は荒れ果ててはいるもののかなりの面積を擁しているようだ。荒れ果てた屋敷には散らばるものはほとんどなく本当にただ屋敷が古くなって床底が抜けたり、障子が破れているだけという様相を成していた。簡単に言えばおかしな荒れ方だったのだ。それにこの屋敷は以前どこかで見たような気もする。物探しをはじめて30分ぐらいが経過しただろうか、謎は案の定解けず、僕が持っている物はライト、ナイフ、この世界の物であろう通貨。これぐらいだ。これぐらいといっても、なかなか都合良く集められたのではないだろうか。屋敷の中の物を持っていくことに多少の罪悪感を感じながら、僕は町へ向かうため外に出た。
昨日は暗くて分からなかったがこの屋敷以外にも和風の屋敷や家が点在していた。しかし、ここでも当然のごとく人を見つけることは出来なかった。
町に辿り着くことができない現状を打破できるようなチャンスは意外なところから突然のタイミングでやってきた。もう想像がついてる人もいるかもしれないがその通り、
その人は空から降りてきた、いや降ってきた。
僕は目を疑うより意外とベタな登場だなとしか思わなかった。その人物は僕の方を向きながら言った、
「あなたが今回の新入りさん?随分とかわいらしい方ですね。」
この時の僕の衝撃といったら例えようのないものだった。(どうしてここに?)だってその声は口調こそ違うものの明らかに、
「茉莉?」
そう、茉莉の声だった。
これからもがんばって書いていくつもりです。感想などをいってもらえるとありがたいです。お願いします。