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マラソン、踏切、黄色い棒

作者: 早瀬恭一

はっ、 はっ、 はっ、



疲れないコツは、心を無にすることだ。

呼吸のリズムと足元から伝わるアスファルトの感触を頼りに、体の平衡状態を確認する。



真っ直ぐに伸びた白線に沿ってゴールを目指す。



スタートした頃にいた、やけに手を大きく振る奴やフラフラ揺れる奴はもういない。ごちゃごちゃした集団を抜ければ、自分のペースを分かってる本物のライバルたちが顔を見せる。



15kmを過ぎたあたりから、横っ腹を押さえて走る連中が目につくようになった。その後のチェックポイントで何人か脱落したらしい。たぶん、あいつらだ。

23km地点の坂道が最初の山場だった。ここでトップ集団に残れるかが決まる。

心臓の痛みを自覚してはならない。弱気になればこの峠は突如悪魔に変わる。



あと50~60km。

距離を意識しすぎると時間の流れが遅くなる。ひたすらに走り続けるのみだ。



だけど峠の途中にある踏切に捕まってしまった。何人かのランナーが自分と同じように立ち往生していた。


「早く開いてくれ」

「後ろの連中に追いつかれちまう」



皆の考えていることが手に取るように分かる。だけど一向に電車は通過しない。

幸い後ろのランナーはまだ見えない。結構な差がついていたらしい。


リズムを保つために、小刻みに足ふみしながら、大きく酸素を取り込んだ。



少しだけ目を閉じて、今までの道のりを振り返る。


持てる全ての力を振り絞って走り続けた時間。自分にとっての最善を尽くしてきた時間。



・・・だけど、何かがひっかかる。



『考えるな!』


そんな思考を中断させようとしたのか、目の前の黄色い棒が開いた。



そしてまた走り出す。

参加者がリタイアしてばかりいたら、競技大会は成り立たない。これはスポーツであって、今日の食い扶持を獲るために走り回っているわけじゃないんだ。ルールとマナーが存在する。



きっとその中で、多くのランナーはマラソンならではのドラマチックな展開を楽しみにしているんだ。その証拠に、隣の奴なんて自分のオーバーテイクのシーンがTVに映るようにタイミングを見計らってるぜ?



汗だくの自分を誇るランナー。

スピードを重視するランナー。

TVに向けて手を振るランナー。



・・・。よくよく考えてみればどれも俺の趣味じゃないな。好きな歌でも歌いながら走ってみようか?



踏切を渡り終える。電車が通ってない気もするが、鉄道会社に文句を言う必要はないと思った。黄色い棒はとりあえず殴っておいた。



手がしびれた。久しぶりに痛いと感じた。


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