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男子校を恋愛で  作者: It
9/23

第9話〜遠い遠い夢の中で〜

毎回読者への警告のような、何だか微妙な感じですが、今回はお知らせです。

本日から1日1話で更新しようかと思います。決してネタが尽きたわけでなくwそれでは、今回も暇つぶしになりますよう…。

昔よく聞いた怒声でこの夢の世界へと引き寄せられる。どうやら、ランニング中のようだ。

「遅いぞぉ!藤本、田中ぁ!ピッチ上げろぉ!」

「「は、はい!」」

俺たちがバスケ部に入部して1ヶ月がたった。俺は、不思議とまだ続けていた。自分でも正直こんなに持つとは思っても見なかった。

「よぉーし、じゃあ、次は…腕立て腹筋背筋スクワット20回を5セット。いくぞ、まず腕立て伏せから!いぃ〜ち!」

「はぁっはぁっ…。準備、運動ってどころじゃ、ない、よな、コレ…。ボディッ。ビ、ビルダーでも…つく…っはぁっ…作る気か?吉田、先生は」

「セ、セーちゃん…しゃ、喋ってたら…よ、余計…疲れ、るよ」

「た、確か、に…」

お互い息を荒げながら途切れ途切れの単語を口にする。

「よぉし、それじゃあ10分休憩だ。休憩後は、新規入部組は壁に寄って、基礎練習。その他は試合形式だ」

顧問・吉田の一声で皆一斉に座り込む。

ガコン、パシュッ、ガコガコッ、ダン・ダン・ダン…

ボールが次々とゴールに吸い込まれていく。休憩時間にもかかわらずレギュラー組がシュート練習をはじめる。

「おい、セーダイ」

休んでいると後ろから声が聞こえる。

「あ、先輩。何すか?」

背後を振り向き、答える。そこにはここ一ヶ月で見慣れた先輩・上坂が立っていた。

「先輩は止めろって言ったろ、あと、敬語も」

「あ、そうでしたね。それで、用件は?」

「そうそう、お前さ、やるからにはレギュラーとりたいだろ?」

「はぁ、まぁ、それはそうですが…」

俺はなんとも歯切れの悪い返事をする。もともと入部したのだって藤本が強引に入れたから(藤本の近くにいたいという本心もあったが)であって、そんなバスケに対する情熱があまりない人間がレギュラーとるって言うのもなんかおかしいから。

しかし、先輩はそんな歯切れの悪さなんて気にしない。

「それじゃあ、すぐ上手くなるいい方法教えてやる」

先輩はビシッと指を一本立てると、それを俺の鼻に押し当てる。

「シュート練習だ。今、疲れ果てて皆寝転んでるときがチャンスだ。シュートはやればやった分だけ差が広がるぞ」

「え?でも、シュートでゴール使っていいのってレギュラーだけじゃないんですか?」

すっとんきょうな声を上げ、ゴール付近を指差す。

「誰がそんなこと決めた。ただ、シュート打ってるのがたまたまレギュラーしかいないだけじゃないか」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ、そうだよ。だから、ほら、シュート教えてやっからこっち来いよ」

先輩は嬉しそうに俺の腕を引っ張り、ゴール下まで近づける。

「上坂。また、新人育成か?お前、抜かれても知らんぞ」

「うっせぇなぁ。俺は大丈夫だ。それよりお前のほうがやばいんじゃないのか?最近試合でシュート入れたの見たことないぞ」

周りからハハハッと笑いが起きる。レギュラー組は皆がライバルでありながら、和気藹々と楽しんでいるようだ。

先輩に指示されたとおり、シュート練習を始める。このときはバスケの試合に出たい、とかより早くこの集団の一員になりたい、という気持ちが強かった。

練習が終わっての放課後、俺は藤本と帰るのが日課になっていた。今日も、彼女が着替えて更衣室から出てくるのを待っていた。

「よう、セーダイ。また彼女待ちか?優ちゃんにフラれんなよ?じゃな」

ハハハッと笑いながら、彼らは去っていく。俺はそれを見送る。

「ごめぇん、待たせちゃったね」

「そう思うならもっと早く着替えて来いよ」

そうは思っていないが、自然と彼女を突っぱねた形になっていた。

「うぅ〜。ひどいよ、セーちゃんは」

「だぁ〜、お前はそうやってすぐ涙目になる。冗談じゃねぇか、冗談」

今も昔も変わらぬこの反応。そういえば、すぐ涙目になるところは今でも健在なのだろうか。

「セーちゃん」

「ん?」

藤本が元気なさげにコチラに声をかける。意味深なテンションの低い声。

「あのね、私ね…最近、私はバスケ部辞めたほうがいいのかな?って思っちゃうの」

「は?何で?」

好きな人の近くにいるために、折角バスケ部に入ったのにそれを辞めるだなんて。理解できなかった。

「私ね、好きな人がバスケ部にいるからっていう、軽い気持ちで入ったんだ」

「へぇ…」

知っていたけど、敢えてはじめて聞くような素振りをする。

「でもね、入ってみると皆真剣で…。私みたいなバスケットより男の子を追っている人はいたら駄目なような気がして…さ」

彼女はいつになく落ち込んでいた。藤本とは結構な間付き合っているが、こんな藤本を見るのは初めてだ。

「きっかけなんて…。そんなもんじゃないのか?」

「え?」

彼女は俺の一言に驚き、こっちを向く。

「いや、俺だってそうだよ。好きな子がバスケ部に入ろうとしてたから、俺も入ったんだよ。つながりが欲しくてさ…」

「へぇ…。セーちゃんにそんな人いたんだ…。意外」

彼女が驚きのまなざしで俺を見つめる。何だ?俺が恋したら悪いってのか?

「それで、誰?」

「は?」

彼女の質問の意味は分かっていたけど、質問の意図を確かめる。

「だから、セーちゃんの好きな人って誰?」

「いや、まず、お前から言うのが常識だろ」

とりあえず、その場しのぎの逃げをする。彼女が言わなければ、そこでこの話題は終わりだ。出来れば、誰とか言わないで欲しい。

「え、えぇ?あ、あのね…5年生の上坂先輩…」

言いやがった、こいつ。俺の願いに反して言いやがった。どうしよう、ドウシヨウ…。

「い、言ったよ?次はセーちゃんの番ね?」

藤本はこんな暗がりでも分かるほど赤面し、その表情を見て決心する。

「・・・お前、だよ」

俺はそっぽを向いて、照れながら、不器用に告白した。

「お前が…藤本優が、好き、なん…だよ」

俺は自分でも声がどんどん小さくなっていくのが分かった。

「・・・。本気?」

彼女は聞き返す。

「冗談言ってるほど、今の俺に余裕はない」

「…。そう、なんだ…」

彼女は顔を伏せる。顔を耳まで真っ赤にして。今まで過ごしてきた幼馴染からそんな台詞が聞けるとは思っても見なかったのだろう。

長い沈黙、気がつけば二人は藤本の家の前にまで来ていた。

「それじゃね、セーちゃん」

「あぁ、じゃあな」

彼女は家のドアノブを握る。

「あ、そうそう…」

「何?セーちゃん」

ドアノブを握ったままの状態で彼女は静止する。

「第三者の俺が言えた事じゃないけどさ…。バスケ、絶対辞めんなよ…」

この闇に消えそうな声、でも、俺は心からそう思った。彼女に辞めて欲しくない、と。

「…。考えて…おくよ」

彼女はそういうと、ドアノブを回し、家の奥へと消えていった。

空間がゆがむ…。そして、暗転。目覚めの儀式。

「聖大〜!起きろぉ〜!」

いつも俺を起こしてくれる低い声とは違って、甲高い声。この声は聞き覚えがある。最近になって聞きだした声。

パチリ

目を開けると…

「おっはよう♪」

小柳がいた。同じ布団に入っていて、顔は目と鼻の先。何だ、この状況は。

「何々?出会ったその日にはすでにベットインかお前ら?早いなぁ、最近の子は」

松永が茶々を入れ、久保と川口がそれにあわせて大笑いする。

ガチャ

外側からドアノブがひねられ、ドアが開く。

「おはよー!セーちゃん!朝食食べに行こ…」

声はそこで止まった。この状況を見たせいで。声の主は藤本。

「……つ…」

藤本は身を震わせながら何かを口にする。

「セーちゃんなんか不潔だー!」

彼女は寝転がっている俺にトーキックを何発も何発もお見舞いする。

…今日も一日、張り切って生きていこうか。

如何でしたか?次回『第10話〜教訓・軽率な発言は慎んだほうが良いでしょう〜』も、どうか、帰りの電車・バスで眠くなかったときなんかに、どうぞ。

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