第4話〜宿敵魔女と、初恋幼馴染とダブルで再見〜
読者の皆様、毎度毎度のことながら有難うございます。第4話も、ゆっくりまったり楽しんでいただければ幸いです。
カチャカチャチャ…チンチンチン。
箸やスプーン、フォークなどと皿が接触して鳴らす音は5分前あたりから聞こえる。
俺たちはこの宴会場について、用意された料理をあいつは70点ってとこだな、いや、63点ってとこだろ。うそぉ?お前厳しすぎ〜。とかまことに勝手で失礼ではあるが前橋高校の女生徒を自分たちの視点で勝手に採点などの談笑をしながら食べている。ちなみに、俺らの班の隣の席は空白。
おそらく、前橋高校の誰かがが座るのだろう。に、しても、ひどくドン臭い奴らだ。アナウンスがあって、もう10分近くたっているというのに…。
「あーやばっ!みんなもう食べてるじゃん、早く食べないと!」
入り口で声がする。周りの談笑を押しのける大声で女性独特のトーン。つーか、一般の女性よりさらにもう一段階甲高い声。普段、男性の声しか聞いていない俺らの中に高い声が好きな奴がいるなら、それだけで発情してしまうだろう。実際、俺は一瞬だが、くらりときたし。声は非常に可愛らしい、が、顔はここからじゃあ判らない。
とか、思っていると彼女たちのほうからこっちに来た。
「ありゃあ何点っすか?久保先生。ちなみに俺の視点だと右から62、71、67、92、76とみたが。一人点数高いよな、絶対」
「俺やったらなぁ、右から66、63、62、97、80やな。左から2番目の娘、バス子ちゃん並に可愛いぞ。おい」
またまた、失礼な採点をこいつらは…。お前らは自分の顔でも採点してやがれ。
「おい、セーダイ。あの班の娘紹介して。特に左2人」
こそこそっと、川口が耳元で俺にささやく。
「・・・。まぁ、知ってたら。な」
まぁ、誰か判っても知らないっていうけど。
「あの、隣。いいですか?」
入り口で聞こえた甲高い声が耳元で聞こえる。うぎゃー、女性への免疫がゼロに等しい俺には酷だ!マジで発情しちまう。顔なんて直視できねぇ!
「あ、あぁ。別にいいっすよ。どぞどぞ」
「すみません、ホントに」
「いや、いいんじゃないすか?ここが貴方達の班の座る場所なんでしょ?」
ご丁寧に頭を何度も下げる彼女にこっちも釣られて敬語になってしまう。貴方、なんて普段言わねぇよ、絶対さ。
「まぁ、そうですね。…ん?」
彼女が苦笑して、座ろうとした瞬間、俺と目が合って彼女が疑問符を頭に浮かべる。
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと…ん〜?」
彼女の顔が首をかしげながら接近、心臓はバックバックなって、音漏れしてるんじゃないかと思うくらいやばい。だってさ、今始めて彼女直視したけど、めちゃくちゃ可愛いよ。ショートで、たれ目がちで大きな瞳。小さくて、それでいて今にでもむしゃぶりつきたくなるようなその唇。
そう思って眺めていると、途端。彼女はくるりと班員のほうへ反転する。ショート気味の髪が顔にパサパサっとかかる。一瞬だけ来る女性的な髪の匂い。
「あぁ!やっぱり!ねぇねぇ、おっちゃん。この人ってさ、セーちゃんだよね!」
「おっちゃん言うなっていってるだろ。何かおっさんみたいだろうが。つーか、いや、どうだろうか。言われてみればそうでもないけどさ…」
おっちゃんと呼ばれた女性は、首をかしげる。俺をセーちゃんなんて呼ぶ人間、そうはいないはずだが…。
「おい、知り合いか?この女の子たち」
「微妙だな。まぁ、名前きけば思い出すかも…」
こっちもこっちで、結構ビビってます。まぁ、こいつらが口そろえて90オーバーさせた可愛い子と俺が知り合いということになれば、間接的に自分たちも彼女と仲良しになれるかも、と踏んでいるのだろうが。
「ねぇ、あんたさ、田中聖大君でしょ」
「あぁ、そうだけど?」
この声、微妙に声変わりしてるけど聞き覚えがある。ちょっと低めで、偉そうな声。えーと、誰だっけ、確か…。
「てめぇ!魔女か!?」
俺は大声を上げる。彼女は間違いなく岡部 恭子。この体中の細胞が拒絶するこの感じは間違いない。つーか、おっちゃんなんてあだ名はこいつ以外にいないだろうと思う。
「良く判ったなぁ、田中ぁ。小坊ぶりか?」
バシンバシン
俺の頬を2回ビンタする。いや、久しぶりの再会でビンタするか?普通。だから俺の体中が拒絶するんだ。こいつと目があって攻撃されなかったことなど一度もない。俺が岡部を魔女と呼ぶ所以はそこにある。
「ちょっ、止めなよ。おっちゃん、セーちゃんと久しぶりの再会なんだから…」
「バッカだなぁ、藤っ子は。久しぶりだからビンタすんの。楽しいよ、やってみたら?」
えーと、岡部が何やかんやと恐ろしいことを言っているのはシカトするとして…。
藤っ子?何か出てきそうだな…、データ照合中…。ショート気味な女子の知り合い…。記憶にある中で8件。その中でたれ目の知り合い…。記憶にある中で3件。
さらに、あだ名が藤っ子…。記憶にある中で1件。照合終了。検索結果、本名『藤本 優』幼稚園のころからの知り合いで、俗に言う俺の幼馴染。夢に出た少女。小学校卒業時点で叶わぬものと半分諦めていた俺の初恋の人。
「あ!藤っ子ってお前…。もしかして、ゆっちゃん?」
指を差して、岡部としゃべっているショート気味の女の子に問いかける。
「ご名答。もしかしないでも藤本 優っすよ。大きくなりすぎて誰か判らなかった?」
「いや、むしろ小さくなったような…。つーか、お前元々大きいだろうが」
失礼な
その言葉とともに俺の脛にやくざキックが入る。
「そういうときはお世辞でも可愛くなったね、とか言うべきだと思いますっ!」
…相手がそんなに可愛くなってなかったら、それ系の言葉をお世辞で言ってやったけど、言ったらお世辞に聞こえないんだよ。お前の場合は。まったく、相変わらず人の心を読めん奴だ。
「と、メシ食わんのか?自分ら」
「あぁっ!てめぇ、人のハンバーグをっ!」
旧友達との再会を楽しんでいたら、俺の皿から面白いようにメインディッシュが消えていた。残っているのはご飯と…キャベツが約5人前ほど。
俺は牛か?お前ら。そう問いかけたくなったが、今は機嫌がいいので許してやろう。明日の晩飯は覚悟しろよ、クソッタレどもめ。
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午後8時半過ぎ、407号室。つまり、俺たちの班の部屋にて…。
「だあーっ!また俺が負けか!」
「あっはっは、久保君弱すぎ〜。はい、でこピン一発ずつね〜」
…。何でこんなことになってるんだ?俺達の部屋に部外者が5名ほど…。
確かにウノは大勢でやったほうが楽しいとか言うけど、コレは多すぎないか?
「どしたの〜?暗いよ、セーちゃん」
「ん、気のせいだ。気にするな…」
「おらおら、元気が足りんぞ!元気が!」
岡部が片足を机にドンと乗せて、こぶしを作り大声を上げる。
「お前は、脳が足りん」
「なんだってぇ?」
ボソッと言ったはずなのに…。地獄耳かこいつ。
「誰が地獄耳だってぇ?田中」
前言撤回。地獄耳ではなく、読心術の使い手だった。やっぱり魔女なんじゃないのか?こいつ。
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「んじゃね〜。また明日〜」
30分後、彼女達はやっとでこの部屋を後にする。
「なぁなぁ、優ちゃんって子さ、可愛くね?」
彼女らが去った後、川口が皆に同意を求める。
「あぁ、確かにかわえぇな。でも、俺の趣味じゃないわ。俺は…そやな、今日見た中じゃバス子ちゃんが一番かわえぇと思う」
女好きの久保が珍しく趣味じゃないという。こいつに趣味なんてあったのか。顔が良ければ全て良しかと思っていた。
「確かに。一番はバス子ちゃんだけどな。でも、ああいうのもありかな〜って」
川口が同意する。
「俺は岡部さんのほうがイイと思うけどな〜」
それは止めておけ。手に負えねぇよ。と、言う意味で俺は無言でポンッと手を松永の肩に乗せ首を振る。
「んで、自分、どうなんや?」
皆の視線が一気に俺に集まる。いや、止めろ。そんな目で俺を見るな。
「…。ゆっちゃ…藤本がイイと思う」
「セーダイ、なんや!今の『ゆっちゃ』って!」
しまった、ついどもってしまった。久保の顔が何かすごく楽しそうだ。
「い、いや、何でもねぇよ。あぁ、何でも」
「嘘付け、最初藤本さんのことを『ゆっちゃん』って言ったろうが」
松永がニヤニヤして横槍を入れる。
「ゆっちゃんかぁ〜。もう、アレやな。幼馴染設定でしかもお互いあだ名呼びか。完っ全に藤本さんに萌え〜やな」
誰か、この地獄から助けて…。
そんな俺の気持ちとは裏腹に11時の消灯時間を過ぎてもこの会話は続いた。
如何でしたか?一応、ここからが本題(?)になってくるわけですが…。
次回『第五話〜【人を蹴るときは】追憶・大切なモノとの出会いは唐突に【場所を確かめてから】〜』も貴方様の時間の都合の許す限り宜しくお願い致します…。