第23話〜何で君が締めるんだ〜
今回でどうにか完結です。
それでは、どうか最後までお付き合いください。
「ホハハハハハ!!」
最後まで立っていたのは久保、つまりは勝者が久保。最後で倒れたのは酒井、つまりは敗者が酒井。
ワッと歓声が上がる、歓声の出所は2年H組の生徒集団あたり。同時に教師集団からは「そんな馬鹿な」の驚嘆の声。
「さぁて…」
久保が地に伏してる酒井に向けて、腰をかがめて話しかける。口元に薄ら笑いを浮かべて。
「校則変更の件、了承してもらおうか」
「…フン、お前の言う事を聞いてやるのは癪だが約束を破るのはもっと癪だからな…。まぁ、やってやるさ」
酒井がチッと舌打ちをして了承する。久保はどっこいしょ、などとオヤジ臭い声を上げながら体を起こしその場にどかっと腰を下ろす。
「しかし、あんたはただの生徒指導部長だろ?出来んのか?」
もっともらしい疑問を投げかける久保。
「あんな名前だけの校長やその他くらい大丈夫だろう」
「うは、言うねぇ」
「それで、お前ら。部活、どうするんだ?やめたのは…」
「再入部するしかないだろ。ま、何も規定がないことを願うが…」
「おいおい、大丈夫か?キャプテンだろうが」
二人から笑みが軽くこぼれる。
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「俺は、藤本優、お前の事が好きなんだ。愛してる」
言えた、きっと。いや、絶対。後半の台詞を言った記憶はないが、気持ちをそのまま伝えれたのなら間違いはないはず。
バスから出ていた顔はいつの間にか姿を消し、そのあとにバスのドアから彼女の全体像が出る。
とんとんとんと軽く階段を降り、さくさくと雪を踏みしめながらこっちに近づいてくる。
「さっきの良く聞こえなかったから、もう一回言って?」
「・・・」
嫌な女だなぁ、絶対聞こえてるんだよ。これ。
「だから…好kくぁws…」
噛んだ。決め言葉で噛んだ。
「プッ…くく…アッハッハッハッハッ!!」
馬鹿笑いをされた、決め言葉で噛む俺もどうかと思うが、笑う藤本もどうかと思う…。
「ちょっと…待ってよぉ…キャハ…噛むぅ?フツー?セーちゃんって結構駄目人間だよねぇ…」
まぁ、元気なのはいいことなんだが…これはちょっと予定外なんだよなぁ…。
「…悪かったな、駄目人間で」
ちょっと拗ねてみる。俺みたいな男が拗ねたところで可愛くともなんともないが。
「まったく、ホントダメダメっすよ」
「あァ…そうだな」
「ホント、救いがないっすよ」
「あァ…そうだな」
「こんなダメ人間がいくら格好つけたところで一緒ですねぇ…」
「あァ…そうだな」
何か、ボロクソ言われてるぞ。俺。噛んだくらいで。いや、噛むってのはそんだけ酷い事なのかなぁ?
しかし、へこんでくるなぁ…。あんまりじゃねぇか。
そんな彼女は呆れた顔でため息。そして、一呼吸間隔を置く。
「…まぁ、そんなダメ人間に付き合える女の子は私しかいないかもね〜♪」
「・・・ほ?」
思わず間抜けな声が漏れる。
「同情票、ってことでそんなダメな貴方にチャンスをあげます」
「チャンスぅ…?」
ぴんと来ないのは俺が悪いのか彼女が悪いのか。
「私に感激するような愛の言葉をください♪」
さっき格好つけても一緒だと言ったのはどこのどいつだか…。
軽くため息をついて、その後気合を入れる。
彼女の制服の裾を掴み、くいっとこちらに引き寄せる。
ギュッ
んで、抱きしめてみた。ホント、動機なんてないんだが。何となく、反射で。
「ちょっ!要件を満たして…」
彼女がじたばたする、が、声のトーンからすると別に嫌ではないようだ。
「別に俺はゆっちゃんの言った事を了承した覚えはないけどな」
ちょっといたずらっぽく言う。
「沈黙はYESととるのが社会のルールです!ですが…」
彼女は続ける。
「まぁ、感激したのは、事実です。うん。つーかね、大体ねぇ!」
彼女の他人行儀が崩れるときがきたようだ、それはともかくとして彼女は続ける。
「迎えに来るの遅すぎなんすよ!何考えてんですかセーちゃんは!バカじゃないんですか?」
「い、いや…あのねぇ…」
いきなり噴火されても困る。
「ホント!ずっと待ってたんだよ?ホントさぁ…」
何かいきなり切れられても困る。つーか、どーでもいいが勝手じゃないか?こいつの言い分。
「でも…」
彼女は何かを言おうとして止める。そして、また気を取り直して言い始める。
「でも、まぁ、こうやって来てくれたし、抱きしめてくれてるし、暖かいし…。許すけどね」
外は寒い。雪もちらついてきている。
その背景設定のおかげか、俺たちの体からリアルに湯気が立ってきた。やかんか、俺らは。
「まぁまぁ、そういうわけで!」
横から割り込む性格の悪い声。そして、超!超!超!!大声で叫ぶように岡部は言う。
「誓いのキスを!!」
「「「誓いのキスを!!!!」」」
それに便乗するように周りから叫ばれる。口笛を吹く者、馬鹿笑いする者、泣く者エトセトラエトセトラ...
表情は多々あれど、皆、祝福心の底では俺たちを祝福してくれているのが分かる。ありがとう、皆。死にたくないが、死んでもいい。
キィィィイィィーン!!!!
耳鳴り、じゃなくて実際の金きり音。マイクのアレ。
『はいはい、それではぁ〜♪』
おっとりと間延びした声、声の主はきっと…いや、確実に高見さんだ。
ビッ
と右手を俺たちの方向に指して、一言。
『右手に見えますのが、熱々カップルでございまぁ〜す♪♪』
如何でしたか?今回で一応、最終回とさせて頂きます。もしかしたら、短編でその後を書くかもしれませんが。
ここまで付き合って下さった皆様には本当に足を向けて寝れません。本当にありがとうございました。