第22話〜乾坤一擲〜
あらすじ。確実におかしな方向へと進んでる気がする。
んでは、もうすぐ終わりです。あと少しだけお付き合いください。
♪ラウスラデーラギポンデリルカ ニョキニョキ(ニョキニョキ)♪
前のほうで着うたが聞こえる。高見さんが携帯を取り出し「失礼しました」と苦笑し、そのあとに別の笑みをにやっと浮かべる。
D組が出発した。
行きはここでエンジンがかかった。
が、かからない。エンジントラブルでも起こったのだろうか?
「鍵が…」
運転手さんの独り言の呟きが、マイクで超巨大化され俺たちの耳に入る。
どうやら、鍵がないらしい。
「STEP1、成功です♪」
高見さんの声が運転手さんとは別のマイクを通して聞こえる。何を言っているんだ、この人は。俺も含め、皆が戸惑う。
川口と松永、それに久保の3人を除いたら、の話だが。
「どういうことですか?」
ウチの担任が聞く。
「こーゆーことです♪」
チャラッと、鍵を見せる。それは間違いなく、バスの鍵だった。
「ちょっと、返してください!」
運転手さんが大声+マイクで高見さんに言う。
「やーで〜すよ〜♪」
ぴょいっと、彼女は外に出る。
外から、別のおっさんの声。。
「ちょっとガイドさん、何のつもりですか?」
高見さんの眼前に木刀を持ったヤツがいた。体育教師、酒井。
「鍵を、さっさと返してもらえませんかね?」
「何度も言わせないでください!やーです!!」
いけない、あいつは…女性であろうと容赦なしに手を出す!あいつに刃向かったらそれこそ…
酒井が木刀を高見さんに向けて振り下ろそうとした、そのとき
高見さんの前に出来た、一つの壁。
壁は…久保だった。いつの間にか、俺の隣から消えている。
木刀を右腕で受け止める。普通なら右腕が壊れる動作だが、あっさり木刀を振り払い、酒井の前に立つ。
久保は唖然とする酒井の鼻先に人差し指を指し
「昨日のようにはいかねぇぜ、クソジジイ」
えらく格好よく決める。
「行け、セーダイ」
いきなり、大声で久保に言われる。意味は、分かる。だが、いまさら行って何になるって言うんだ、もう、終わったんだよ。
「さ、田中君。ラストチャンスです!今から、今から彼女のところへ行ってください!」
「で、でも…」
「早く!藤本さんのところにいって思いを!少しぐらい足掻きなさい!!好きなんでしょうが!!」
ハッとする。
バスの窓を開け、雪面へ飛び降りる。
「…。あは…」
口元から何故か笑みがこぼれる。ちょっと…息を吸って…。
「本当に…本当にありがとうございます!!『ありがとう』じゃ足りないくらい、感謝してますので!!」
酒井と向き合ったまま、す…と手だけ上げて答える久保。帰りに何か奢って下さいねと笑顔で答える高見さん。
最後の最後まで、すみません。高見さん。ここんとこ、お前に助けられっぱなしだな、久保。
前橋高校2年6組を乗せたバスのほうを直視する。行ってやる、やってやるぞ!
俺は高速でバスに向かって走る。
と、そこで目の前にぞろぞろと、まだ出発していない教師が出てくる。上之保体育教師オールスターズ12名のうち、7名が残っていた。
「ここは俺らが食い止める、さっさと行けよ」
川口がにやっと笑ってみせる。プラスいつの間にかバスから降りている2年H組の42名(久保・俺・川口を除く)。
「お前ら、俺たちに手を出したら停学どころか退学だぞ?」
「そしたら、PTAにここの教育体制を内部告発してやるよ」
「まぁ、たかだか45人。そんな脅しを使う必要もないでしょう」
「そうそう、拳で語ろうぜ、センセ♪」
多くの雑音の中、数人が会話を交わす。
どうなるか、ってところだ。数的には俺たちが有利だが…。
「おっと、俺らはサシでやらせてもらうぜ」
「自分からそんなことを言ってあとで助けを呼びたくなっても知らんぞ」
久保と酒井はすでに戦闘体制に入っている。久保が気がつけば標準語になっている、極度の興奮状態のようだ。
「そうだ、久保…。剣道三倍段って言葉、知ってるよな?」
「知ってますよ、こういう意味でしょ?その棒切れがなけりゃああんたはただのおっさんだって意味」
「ほぉ…、なかなkッ!」
台詞の途中で、酒井の声が途切れる。原因は久保の顔面への拳。
「久保、キサマ…。不意打ちとは…」
「不意打ち?ストリートファイトで何言ってるんですか?先手必勝は常識でしょう?嫌だなぁ、まるで僕が悪役みたいじゃない…かッ!」
腹を押さえる酒井相手に久保は手を休めない。しっかりと頭をホールドし、膝を執拗に叩き込む。
それを見て、皆一斉にワッとテンションがあがる。教員生徒問わず
「あいつら…ただ積年の恨み晴らしたいだけだろ…絶対」
俺はひとりごちながら目前へと迫ったバスのほうへ目をやると
「振られたくせに未練がましいぞ!キサマ!!藤本さんは俺たちのものだ!」
目の前にいる男子、その数は実に十数人。その全員が鉢巻を巻き、その鉢巻には『藤本LOVE』の文字。頭が痛くなった。
「ちょっと待てお前ら。めちゃくちゃ痛いぞ。退いてくれ…ホント…って、ぬぁっ!?」
「覚悟ーッ!!」
掛け声とともに何かを振り下ろしてくる。何かとは、避けたあとに分ったが、角材。
「うひぃ〜、ばっ!危ないわ、アホォッ!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと大怪我するだけだから」
「大怪我をちょっとで済ますなぁっ!」
ガズッ
別の方向からの攻撃。瞬間的に反応してくれたおかげで直撃は避けたが、頭部にダメージ。
これまた角材と確認。
「アッ…タマキタァーッ!!」
俺の中の種が割れた、気がした。
右で構えている男に一撃。一撃必倒が望ましいが、体勢が崩れていたせいかそういうわけにも行かず相手は起き上がる。
「あーもう!」
ドッガッ
ボクサーのように、ワン、ツー。綺麗に右が入ったおかげでどうにか撃墜成功。
どういうわけか、俺が彼を相手にしている最中に周りからの攻撃を受けなかった。
複数固まっている彼らのほうを見ると、彼らはハッとした様にこっちにいきなり向かってくる。
「アホらし!ド素人との喧嘩はつまらん!!」
脱兎
戦場から逃走を試みる。
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「うぐぅ…相打ちってとこすか?」
「喋る余裕があるなら続けるか?」
「いーや、勘弁です」
「俺だって勘弁だ」
「数で負けてるとはいえ、生徒に負けるとはなぁ…。なまったな、俺も」
「いや、多分この世の教師の中ではトップクラスかと…」
「しかし、この勝負。相打ちということだが…喧嘩したからには決着を付けたいな」
「そうですねぇ…でも、皆もうバテバ…お?」
「元気なのが、一組いるな」
「アレに託しませんか?この勝負。どっちが勝ったかで俺たちのどっちが勝ったか決めるってのは」
「悪くないな…。だが、ウチの酒井さんが負けたのって聞いたことないぞ。そっちに分が悪いと思うが…」
「久保だって負けたことありませんよ。何でもありのガチならね」
そんな、会話が生徒と教師の間で飛び交う。
「うぉーい、あんたら生徒と教師の代表みたいだからー!頑張れよー」
松永が大声で久保と酒井に呼びかける。
「何だってぇ!?」
酒井が露骨に驚き、手を休める。
「隙ありゃぁー!!」
ゴキッ
久保がどこから持ち出したか分からない警棒で思いっきり酒井の横顔を殴りつける。
「うひゃーはぁー!」
壊れたような声を上げる久保。地面にダイブする酒井。ある種、というか凄く奇怪な光景だ。
「アレ不味くないか?」
川口が松永に問う。
「どっちかっていうと、久保がな。まったく、主人公チームなんだからもうちょっと綺麗に戦ってほしいよねぇ…」
「主人公チームって何だよ」
そんな会話を続けながら、彼らを見守る川口たち。
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ほぼ同時刻。前橋高校2年6組専用バス目前。
「んはぁっはっ…はっ…」
半分パニック状態の前橋高校生徒・教師の渦に飛び込む俺。
後ろには、先ほどの親衛隊と思しき生徒たち。
「・・・」
止まる、俺。周りはしんとしている。いや、正確には違う。だが、俺の五感は何も感じず、ただ、静かだ。
藤本を見る。彼女も、こっちを見る。顔は見える距離のはずだけど見えないことにしておく。緊張がそうさせる。
いったんうつむく。視界には真っ白が広がる。
「何だかんだで、まだ言ってなかったよな」
こいつは独り言。誰にも聞かれていなくてもかまわない。
次は、独り言じゃない。ここにいる皆に聞いてもらわないとかなわない。顔をもう一度上げる。視界には藤本だけが見える。今度は見える。彼女の表情が。
すぅっ
と深呼吸をして声を上げる。
「前橋高校2年6組出席番号42番藤本優!俺は…
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舞台は戻り、上之保学園2年H組専用バス目前。
「なぁ、どうするよ。俺ら賭けの対象になっちまった」
久保が地面に伏している酒井に話しかける。
「ふん、お前みたいな若造には負けはせんから構わんわ」
「お、強気強気。と、そこでだ。俺たちも俺たちを賭けの対象にしないか?」
「賭けだと?俺とお前が?何の?」
酒井が久保を馬鹿にしたようなトーンで返す。
「そうだな、俺が勝ったら…。校則変えろ。他校生との異性交遊ありにしろ。センセが勝ったらどうするか…決めろ」
「ふむ…。それなら俺は…お前のクラス全員の退学を要求しようか」
酒井が意地悪な笑みを浮かべる。
「面白ぇ…。でも、俺が勝ったら絶対やれよ。校則変kおがっ!」
酒井が久保と会話中に竹刀をフルスイング。見事に久保の頬を打ち抜く。
「不意打ちも喧嘩なんだろ?あぁん?」
トントン、と肩に竹刀を乗せてにやける酒井。
「やったなこのハゲェ!」
久保が警棒を振りかざす。
酒井が竹刀を振り下ろす。
如何でしたか?ホント、どうにか完結できそうです。
次回『第23話〜何で君が締めるんだ〜』もどうか、あなた様の時間の都合の許す限り…。