第14話〜付き合ってる人たちを邪魔するのって結構面白い〜
あらすじ。覗きは無事成功した。
と、そういうわけで、第14話どうぞ。
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ピンク色の霧。
そこを抜ける。何の苦労もなく。
ふわり
と、した空間。これが夢なのは承知している。ただ、いつもの夢とはどこかが違う。まぁ、どうでもいい。夢だ。夢…。
次の瞬間、甘い声。例えるならピンク色。
「…ゃだよぅ、セェちゃぁん…」
この甘い声には聞き覚えがある。誰か、その問題は簡単すぎる。藤本だ。そして、確信に近い推測を更に核心に近づける裏づけとなる視界の回復。彼女は俺の幼馴染で、俺の初恋の人で、俺の…俺の…その、うん。その…出来たての…恋人。
その彼女が何をしているのか、はっきりと見えてきたおかげで分かる。アレだ、アレの直前なんだよ。うん、その、放送禁止用語。相手は…俺か?でも、俺はここにいる。あぁ、そうか。今回は傍観タイプの夢か。なんて冷静に分析してる場合じゃないっての。
に、しても、付き合い始めて、キスして、裸を見た(覗いた)それだけ(それだけってもんでもないのかも知れないが)でこうなるとは、俺は相当バカかもしれない。
パチン
ふと、目が覚めた。
熱源反応のある右方向に90度首を傾ける。そこには…久保がいた。
「ん〜、やっと起きた?すっごく暇やったから横でちょっかい出してたんや。お前が良い夢見れるようになっ」
そういう久保の右手には『誰でも出来る!夢操作法』なるものがあった。・・・。俺がさっきあんな夢見たのはこいつのせいじゃないだろうな。いや、多分こいつのせいだな。
まぁ、寛大な俺はそれを置いとくとして、時計に目をやる。
3時23分。
何考えてるんだこいつは。
「おい、今3時回ってんぞ。何考えてるんだっつの!」
「あ、その時計ちょっと進んどるぞ、3分くらい」
久保が訂正を加えるが3分変わったところで関係ない。
「ティネッ!ティネッ!」
がすっがすっ
寝転んでる久保の腹を数回蹴飛ばす。
「あ、あぁんっ!もっと、もっとぉ〜」
久保の凄く艶っぽい声。俺は非常に萎えたので攻撃をやめる。
「ごめん、久保。今、純粋にお前のこと気色悪いと思ったわ。純粋に引いたわ」
とりあえず謝る。
「うん、こっちこそすまん。ありゃやりすぎやったと思う」
久保も謝る。何か妙な間が…。
「っと、そうそう、何で起こしたか。や。実は寝付けんで暇やったから起こしたわけやない。ちゃんとな、あるんや。ワケが」
「あ、あぁ、そうなのか。んで、何があった?」
久保がいきなり真面目な顔になる。俺はそれにたじろぐ。
「いや、な。あの、夢見たんや。凄く嫌な。何が嫌やったかいまいち分からんのやけど、とにかく嫌な夢やった」
久保が凄く真剣に語る。
「それで怖くなって俺を起こしたとか言うなよ?」
「ふざけんなや、忠告や。忠告」
俺のボケもあっさりシカト。こりゃ、マジだ。
「忠告?」
そのキーワードが気になったからとりあえず聞いてみることにする。
「あぁ、断片的にしか覚えとらんのやけどな、今のこの状況に夢を当てはめるとどうもお前のことみたいやったから」
「幸せな恋人たち。怒り、叫ぶ黒髪の長身の青年。泣き崩れ、格好もボロボロの少女」
久保は語る。夢の内容を。
「ここで、俺の夢は終わり。顔とか何とかは覚えとらん。でもな、俺ってよく正夢みるんや。今日みたいに断片的に内容覚えてるときとかは特に正夢の可能性が高い」
「へぇ…。んで、お前は長身の男を俺、ボロボロの少女をゆっちゃんって言いたいのか?」
「ん、まぁ、そういうことやな。でも…あ、いや。俺、何か変な事言いよるわ。気にせんといて。やっぱ」
久保が何かを思ったように、くるっと俺のほうとは逆を向き、布団を頭からかぶさり顔をうずめる。
「・・・。そうされると気になるだろ」
「すまん、すまんから忘れてくれ。やっぱ、おかしいわ。この夢。もっかい見直す…。お休み…」
「おい!久保!久保っ!」
ゆさゆさと体をゆするが反応はまったくなし。人を起こしておきながら自分は速攻で寝るとは…。まったく…迷惑な奴だ。
「さてと、俺も寝るか…」
別に、何がどうという訳でもないし、起きている理由はない。そういうわけで俺は寝る宣言をひとりごちる。
本格的に寝付こうとしたそのとき
カチャリ…カチャン
ゆっくりとドアが開き、ゆっくりと閉まる。音を立てないように、静かに静かに…。
「…。なーにやってんだ。お前ら」
暗闇に浮かぶ人影に声をかける。
「お前らじゃあ俺たちが誰なのか読者に分からないぞ」
暗闇もとい、松永は答える。隣にいるのは川口。
「読者って何だよ」
「あ、いや。こっちの話だ。気にするな。っと、そうそう、久保は寝たのか?」
「あ?あぁ、今さっき寝たよ。で、何してたんだ?」
「松永が夜這い夜這いしつこいからな…。俺まで行かされた…。ちっ」
川口が凄く不機嫌そうな感じで松永の代わりに答える。こいつ、不機嫌な時っていつもと凄く雰囲気変わるよな。まぁ、シナリオにはあまり関係ないけどさ。
「まぁ、やることやったし。俺も寝るんだけど…。セーダイと川口はどうするんだ?」
「俺は…目覚めちまったしな…。もうちょっと起きとくわ」
ぽりぽり頭をかき、俺はそう応答する。
「俺は、寝る。すまんな、セーダイ。今はちょっと…付き合えん」
「お、おぉ…。お休み」
いちいち睨むなよ、こっちを。ヒゲ面、細目で頬はこけているお前がそういうことをすると本当に怖いんだからさ。
「んじゃ、お休み〜」
もふっ
と松永・川口の両者は布団にもぐる。
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あれから30分、俺は窓を開け、ずっと外を見ていた。久保の言った言葉が頭を離れなかったから。凄く不安で…不安で…。
「…っくしっ!んあ〜…ちょっと冷えたかな…ぐぅ…」
ずずっと鼻をすすり、窓を閉め、寝ることはないにしても布団に潜ろうかとしたら、俺の布団の隣がもっさり膨らむ。
久保が…起きた。
「・・・。あぁ、セーダイ。お前まだ起きてたんか…。あほとちゃうんか?」
ニヤッとした笑みを久保が浮かべる。
「けっ、うっせ」
こっちも、笑い返す。
このあと数時間、取り留めのない話をしながら、夜を明かす。単純な話徹夜。
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「さてと、ゆっちゃんでも起こしに行って来るわ」
俺は未だに起きない松永・川口を久保に頼んで藤本の部屋に向かう。
カンカンカン
階段を上る。俺の部屋は3階。彼女の部屋は6階だ。
コンコン
彼女の部屋の前に来て、ドアをノックする。
ガチャリ
ドアが開く。
「あー?誰ー?あー、お前ー?」
ドアから出たのは、岡部だった。寝起きだからか、髪がボサボサだ。完全に。元の綺麗な金髪が勿体無いというもの。
ガチャリ
ドアが閉まる。
「ちょっ…待っ…!おいっ!」
予想外の行動に俺の口から出てきた言葉はあまりにも月並み。
「ねぇ、おっちゃん。誰だったの?ノックした人」
「あー。その、アレだ。ジョセフ」
ドア越しにその声が聞こえる。誰だよ、ジョセフって。
「ぐふふとか言ってたけど、気にするな。二重人格だからさ、あいつ」
「?」
…。あのジョセフか…。って、おいっ!俺だっつの。
ドンドンドンッ!
ドアをノック、というより激しく叩く。
「俺だっつの!おいっ!ゆっちゃんって!」
「ニャーッ!」
俺の怒声と同時に岡部が狂った声を出す。見事に俺の声はかき消されただろう。
「ど、どどどどうしたの?おっちゃん」
「いや、一瞬、猫又の霊が…」
・・・。ふぅ
「もう、いいわ」
今、藤本に会うことを俺は今、諦めた。
「あー、ごめんごめんっ!冗談だって。ほら、入れよ。田中」
ガチャリ
今度は俺を中に入れてくれた。
「…。やっぱ、魔女だな。お前」
中に入って、一呼吸おいて、俺は岡部に向かい言い放つ。
「お褒めに預かり光栄です♪」
「褒めてません。貶してます、罵ってます」
「お褒めに預かり光栄です♪」
「そんな君が大好きだ」
「虫唾が走るぜ不能が」
・・・。コンマ単位で何て切り返しだ、こいつ。喋りでこいつには敵わないな…。
「セーちゃん、不能なの?」
横で、藤本が心配そうにこっちを見る。
「ち、違うっつーの!」
俺はもちろん不能じゃない。
「だ、大丈夫だよ!今の医療技術は凄いから!」
あー、何か勘違いしてるぞ…。この娘。
「それはそうと…。朝飯、間に合わないぞ。このままだと…。ほら、早く行くぞ。まったく、お前ら朝からなんて会話してるんだよ…」
こんな状況に陥れた張本人が偉そうにものを言うな!
それはそうと、俺たちは急いで食堂へ向かう。4日目の始まり。
如何でしたか?
まぁ…アレなんですが。そういうわけで、次回『第15話〜お願い誰か俺を助けてよ〜』も、どうか、宜しくお願いします。