第11話〜美しきかな、人生〜
巻き返し(?)のため、高速うpです。
そういうわけで、今回も(こそ?)皆様方の暇つぶしになりますように…。
じろり
じろり
じろり
他方向から、四方八方から、あらゆる角度から睨まれる。そりゃそうだ、食事の時間を軽くオーバーしてる。メチャクチャ腹減ってんだろうね、こいつら。どうもすいません。
教員たちも早く飯を食いたいのか、俺たちに何も言わずいつもの儀式を始める。「合掌」「いただきます」と。
ざわざわカチャカチャチンチンチン…
皿とフォークの衝突音、喋り声、色んな音の奏でる曲の中での楽しいお食事。楽しいディナー。まぁ、ソレは俺たちのところでも例外なく繰り広げられている。俺をネタにして。
「ときに、ぷれいぼぅいなセーダイ君に質問なのだが…」
久保がニヤニヤして俺に話題を振ってくる。こういうときのこいつは撒くのが実に面倒だ。
「あんだよ」
少し不機嫌そうに対応。こいつらさっきから俺と藤本の事を大声で話しすぎてるから、実際少し腹が立っている。恥ずかしいの方が大きいけれど。
「お前がこれだけ可愛い娘たちにもてるのにお前より顔立ちの良い俺が可愛い娘たちに全然もてないのは何故かね?」
「知るか、性格悪いからだろ」
適当にあしらってみる。
「久保、お前はまだもてる方だぞ!試合でお前がボール持ったときの声援の質が俺たちとは違うもん」
「俺らはなぁ…。本当にもてねぇんだよぅ…。なぁ?川口ぃ?」
「「うぉおっ!お前は友だっ!」」
松永と川口がひとつの絆で結ばれた熱い友情劇を見せる。つーか、『暑い』のほうが正しいな。表現は。
「・・・ほも?」
冗談とはいえ、抱き合ってる松永と川口を見て、岡部がつぶやく。うわぁ、ひでぇ。
「んなわけないでショうがッ!?岡部さん!」
松永が顔をまっかっかにして必死の反論。声が裏返ってるって。声が。
「だって、男子校だし。アリかなぁって…」
「なシですよ!まっタくっ!」
松永はさっきから声が裏返ってばかり。あぁ、そういえばこいつ岡部に一目ぼれしてるんだっけ?(4話参照)
「松永。興奮しすぎ、少し落ち着け。魔女も、冗談でもそういうこと言うなよ。こいつには」
とりあえず、松永をなだめる。
「えぇー、詰まんねぇツマンネェつまんねぇぇぇえ!」
ガチャガチャガチャガチャッ!!
岡部が駄々をこねるように、フォークで皿を叩きまくる。
「おっちゃん、うるさい」
「…はい」
藤本が一瞥し、岡部はそれに素直にうなずく。普通じゃあ考えられない光景に少し混乱する。
「…岡部さんや、お前にしては珍しく素直じゃないかい。どうしたのさ」
真相を小声で岡部に聞いてみる。
「藤っ子な、アレなんだよ。腹減ってると凄く凶暴なの。だから、今もその余波があると考えていい。よって、逆らわないほうが吉。私も最近気づいた」
「ふぅむ、なるほど。食い意地が張ってるんだな」
ギロッ
睨まれた。うん、こりゃ確かに怖い。
「私たちはシカトだねー、美穂ちゃん。どう思う?私たちだってヒロインなんだよ?」
「ひろいんってにゃにぃ?ヘロインの仲間?麻薬はよくにゃいよ〜。お姉ちゃん」
こっちはこっちで何か打ち解けている。同じ電波キャラ同士、周波数が合ってるのかな。つーか、小柳のろれつが回ってないのだが…。
「んにゃ〜、聖大も酒飲め。酒ぇ〜」
あ、酒飲んでたのね。
「いや、俺未成年だし…。先生いるし。つーか、お前も未成年か」
「んだにゃらちくしょぉ〜。ろれにょしゃけがにょめにぇってぇにょきゃいぃ?」
「お前、翻訳必要。頭から訳せ」
酔っ払いは冷静にあしらおう。乗せてしまったら危ない酔っ払いだ、こいつは多分。
「えーとねー。『んだなら畜生、俺の酒が飲めねぇってぇのかい?』って言ってるんですよ〜、きっとー」
酔っ払い翻訳機、高見結衣。酔っ払いと正常人をつなぐ夢の架け橋。
「そんな定番みたいなこと言ってたんですか、奴は」
と、そんなことを言っていると、背後から声。
「ろい、きょら、聖大ぉ…。あたしゃをほおっといれ、おかにょおんにゃとちゃべってんじゃねぇろ!…くぅ…」
何か、小柳が俺に絡もうとして、途中で精根尽き果てたみたいだ。
「今のうちに、医務室へ運んで起きましょうか」
「ん、そうですね。また何かワケの分からないこと言われそうだし」
そういって、小柳をおんぶすると
「にゃー!セーちゃん!何を、何を〜!?」
藤本が悲鳴を上げる。
「何もやってない!ただ、こいつを運ぶだけだ」
「駄目駄目駄目ー!セーちゃんは私以外の女に触れたら駄目ー!」
こいつ、酒入ってんのかな。かなりテンション高いが。
「んなの無理に決まってるだろ!つーか、何だよそのトンデモ設定は!」
「だってー!私のファーストキスだったんだよぉ!?だから、触れたら駄目ぇ!」
彼女が顔を真っ赤にして、そういう。俺も真っ赤になっているな、となんとなくわかる。んで、言葉の深い意味を考える。
「…。遠まわしに告白?」
ちょっとおどけて聞いてみた。正解だとこの上ないのだが。しかし、この場面で答えられるのはまずいな。周りに久保たちはおろか、他の生徒や先生までが騒いでるこっち見てるから。
「いまさら告白なんてないでしょぉ!もう、私とセーちゃんは好き合ってる設定なのん!」
『なのん』て…。って、いいやがったよ。もうちょっと周り考えろ、馬鹿!
上之保学園生の反応。
「ヒュゥー!!セーダイ、返事はどうなんだよ!?」
前橋高校、男子生徒の反応。
「嘘ぉぉ!!俺たちの藤本がぁあぁああ!!」
これは、親衛隊みたいなものか?つーか、まずいな。実に。この状況で俺がとる手段は…。
「ちょっと、医務室に逃げ込みますんで、かくまって下さい!あと、小柳頼みます!ほら、ゆっちゃん行くぞ!」
一応高見さんに断っておく。んで、藤本の手を引っ張る。
「え!?あ、うん!行こ!」
宴会場の出口まであと少し!と、いう時に…目の前に影。
「ちょっと待て、セーダイ。しっかり話を聞かせてもらおうか」
上之保オールスターズこと、上之保学園教師軍団の誇る最強の武力集団。総員12名勢ぞろいときたもんだ。そういや、うちの学校は付き合ったら駄目なんだよな…。
「じゃあ、こっ…」
じゃあ、こっちだ!と、もうひとつの出口に目をやると、そこには前橋高校藤本親衛隊の影があった。その数、実に40人超。こっちの突破は不可能だろう。
「くっ!」
じりっと、オールスターズに距離を詰められる。腹ぁくくるしかねぇと半ば諦めていると
「とぅっ!」
ドスッ
2メートルの巨漢(とはいっても、スリムだが)がオールスターズの一人、酒井(剣道4段)に横からヒップアタックをぶちかます。その正体は久保。
「な、何やって…」
「チョアァアッ!」
「セイッ!」
ノーモーションの延髄が左右同時に2発。その様はまさに猪狩完至(わからなかったら『グラップラー刃牙』の30巻当たりを見よう!)。これまたオールスターズの一人に攻撃を加える松永・川口の姿があった。
3人に触発され、
「人の恋路に茶々いれてんじゃねぇ!」
上之保学園生徒が内乱を起こす。
「おめぇら邪魔だからさっさと消えろ!」
「あーもう、どこででもストロベリってろ!こんなとこでやられたら萎えちまう」
「ばっはは〜い♪結果教えろよ?」
三人が俺たちの脱出経路である宴会場出口の周りをしっかりと固める。
「どーいう展開だよ!これぇ!・・・。でも、まぁ…。久保、川口、松永…ありがとな!行くぞ、ゆっちゃん!」
「うん!セーちゃん!」
俺たちは駆け出す。
廊下を抜け、医務室を通り過ぎ、来た場所は俺の班の部屋だった。
「結局ここに来ちまったな」
「ま、どこでもいいじゃん♪で、答えは…?」
「そうだな…。もし、誰かに聞き耳立てられてたら先公たちに言い逃れできん。よって…」
くいっ、と、彼女のあごを右手で優しく上に持ち上げる。
チュッ
半ば強引にだが、軽く、彼女と唇を重ね、すぐ離す。
「こうやって、行為で示すとしようか」
ぱっと両手を広げて、おどけてみせる。
どんな顔をしているのかと、彼女の顔をのぞくと
「もー!いきなり口もふかないでしないでよ。マナー違反だよ、ケチャップついちゃったよ…」
台詞は動じていない風だった。電気をつけていないのでうっすらとしか彼女を確認できないが、彼女が耳まで赤くなっていることはわかった。もちろん、ケチャップのせいではない。
ただ、ただ破滅的に暗い新月の夜に、ただ、ただ破滅的に明るい二人。今にも闇に溶けてしまいそうに細く、弱弱しく、それでいて、揺るぎなき、芯の通った極薄極小の光。
俺は、ソレを、彼女を純粋に守りたいと思った。永遠に消えてしまわないように。
久保たちがこの部屋に入ってくるまで1時間、その間俺たちは数え切れぬほどキスをした。
如何でしたか?
これでどうにか約半分終了です。
次回『第十二話〜大浴場にて大欲情っ!!?』も、どうか貴方様の時間の都合が許す限り宜しくお願いします。