デスゲーム会場は、S〇Xしないと出られない部屋の居抜きであることが多い
『お目覚めですか、皆様』
天井から声が響く。
どこにでもいるような大学三年生、田中 ショウが目を覚ますと、そこは真っ白な部屋だった。目の前にはモニターがあった。
どうしてここに?思い出せない。最後の記憶は喫茶店でサンドイッチを食べていた時だ。あの時強烈な眠気に襲われて──おそらく、睡眠薬でも盛られていたのだろう。
「ここは……」
あたりを見回すと、
『皆様には、デスゲームに参加していただきます。』
「デスゲームだって?」
周囲を見回すと、ほかの参加者だろうか。
数人の人が、同じようにモニターを観ていた。皆一様に混乱しているようだ。
見知った顔もいた。高尾 ハルヤ。同じゼミの男子だ。
『参加者は8名となります。ではゲーム内容の説明に入りましょう』
『ゲーム名は「7匹の仔山羊裁判。」仔山羊七名、狼一名に分かれて行います。』
『狼の正体は、参加者本人にのみ通知されます』
『ゲーム開始時、8人全員に石、つまり投票権を一つずつ与えます』
『まず、40分間の話し合いを行います』
『話し合いの内容に制限はありません』
『話し合い終了後、参加者は一人ずつ中央の端末を操作します』
『端末に表示される参加者の中から一名を選択してください』
『選択した相手に、あなたの石が託されます』
『選択内容は、次のターン開始時まで他の参加者には表示されません』
『石の移動後、自身の所持する石の数は確認できます』
『ただし、他の参加者が何個の石を所持しているかは、分かりません』
『その後、狼は仔山羊の中から一名を選択します』
『選択された仔山羊は、狼に食べられます。食べられた仔山羊は死亡します』
『また、食べられた仔山羊が所持していた石は、すべて消滅します。生き残った羊と、狼が持っていた石は再分配されます。』
『ただし。狼が、3つ以上の石を所持する仔山羊を捕食した場合、その羊は死なず、狼は死亡します。その時点で、仔山羊陣営の勝利です』
『以上を一ターンとし、ゲームを継続します。仔山羊の生存者が2名以下になった場合、狼を殺すすべがなくなり、狼の勝利となります』
『それでは、ゲームを開始します。が、その前に。皆さんの自己紹介の時間を設けさせていただければと思います。視聴者の皆様も、演者の人となりを知りたいでしょうから。では田中さんから』
「あ、えっと、田中ショウです。大学生です。よろしくお願いします」
これから騙して殺し合うかもしれない相手に、よろしくお願いしますというのも変だろうか。
「佐々木ユズです」
「山崎ユウスケです」
「高尾ハルヤです」
「佐藤コウヘイです」
「鈴木ミノルです」
「山下タツヒロです」
「川村マサユキです」
全員、俺と同じく大学生だと名乗っていた。
それ以外の内容はあまり聞いていなかった。デスゲームに巻き込まれ、まともな精神状態ではないのだな、と少し冷静になれたような気がした。
『では、話し合いを初めてください。制限時間は40分となります。』
40分。このゲームの攻略法を考える?誰かと強力する?何から始めればいいのだろうか。
視界が歪む。呼吸が荒くなる。と、突然、ぽん、と背中を叩かれる。
「ショウ、こんなとこで会うなんてな」
と、まるで学食であったようなノリでハルヤはショウに声をかける。
「ハルヤか、ありがとう、なんかちょっと呼吸が楽になった。」
「そりゃよかった。話し合いの時間、40分だってよ。卓についてやれ、とも言われてないし、始まる気配もないけどな。」
ショウはあたりを見回す。残りの6人も、各々誰かと話していたり、一人でぶつぶつ呟いていたり。建設的な議論が始まる気配はない。
「誰かが取り仕切らないと、始まるもんも始まらないさ。でもおかげでこうやって話せてるわけだし、結果オーライじゃないか?」
ハルヤはぴんと人差し指を立てる。彼が何か楽しげに話す時の癖だ。
「デスゲームに巻き込まれている時点でオーライではない。」
「まあ、巻き込まれたのは仕方ないってことでさ。生き残るための話をしようぜ」
「このゲームの攻略法、もしかして見つけたのか?」
ショウから見て、ハルヤはけっこう頭が回る方だ。いつも何か面白いことを見つけては、新しいことをしている、そんな印象があった。
「いいや、ゲームの方は何にも思いついてない。でもいいんだ。俺たちが攻略すべきは、ゲームじゃなくてこの部屋のシステムだ」
ハルヤは自信あり気に、ニヤリと笑った。
「システム?」
「ああ。俺、けっこう色々なバイトしててさ。例えばデスゲーム会場の設営とか。もちろんこことは違う会場だけどな」
「なるほど、つまりどういうことだ?」
「デスゲーム会場って、居抜きの物件を改装して作ることが多いんだよ。で、数年前にS〇Xしないと出られない部屋ってのが流行ってさ。今流行りが廃れてどんどんデスゲーム会場に改装されてんの」
「流行ってたのか……というか実在してたのか、あの部屋」
「毎回30分くらいで終わっちゃうから採算取れなかったらしくてなー」
「採算……あー、なんか配信とかされてるのかあれ。で、それと脱出に何の関係が?」
「実はS〇Xしないと出られない部屋って、けっこうシステムが複雑らしくてさ。S〇Xすると開くシステムを下手に消したり書き換えたりすると不具合が起きやすいから、部屋の鍵が空くのに必要なコードを追加してるだけっぽいんだ。さすがにデスゲーム会場でS〇Xはしないだろうってことで、ってのをバイトで一緒になったエンジニアの人が嘆いてた。コードが汚いって」
「なるほど。つまりここで誰かと誰かがS〇Xをすれば扉が開く可能性があると」
「そういうこと」
ハルヤはニヤリと笑う。
「で、誰と誰が」
「俺と、お前」
ショウの疑問に、ハルヤは平然と言い放つ。
「へ?」
「だから俺とお前がS〇Xをするってこと」
「男同士で?」
「女に頼んだらセクハラになっちゃうからな」
「だからって──」
「大丈夫、俺が入れる側だから
」
「何を以て大丈夫としてるんだ、俺は嫌だぞ!」
「俺だって初めては可愛い女のことがいいよ。でもな、ここで生き残らないとその初めても来ない。だから、せめて気心のしれたお前ならって」
伏し目がちに言うハルヤの頰は、赤い。
──あれ、こいつ。なんか……可愛くないか?
ショウの胸に、今までなかった感情が去来する。
「ダメか?」
ハルヤが上目遣いに聞く。
「い、いや、だめじゃないけど──どうするんだ、具体的に」
ショウは自分の耳が熱くなるのを感じながらも、誤魔化すように聞いた。
「どうするって?」
「いや、その──さすがに、ゲームの進行を妨げることになるだろ、最悪殺されるかも」
「珍の一つも出さずに死ぬなら、珍を出して死んだほうがいい、少なくとも俺はそうありたい」
「絶対にかっこよくないからな、その台詞」
「まあ、一個、手として考えていることはある。」
「どういう手だ?」
ハルヤはショウに耳打ちする。
それから2分ほど経った後。
「すみません!ものすごくおなかが痛いので!トイレに行きたいのですが!」
「俺も同じく、トイレに行きたいのですが!」
用を足したいと口々に懇願する二人の圧に負け、運営の黒服が二人を室内にあるトイレに案内した。
五分後。
「ダメだったな」
あっけらかんとした顔のハルヤが言う。
「ダメだったなじゃねえよ。あー、痛い」
ショウは恨めしげに、臀部をさすった。
ダメであった。
「カメラがあるところでしないと意味ないっぽいな。」
「じゃあ俺の純潔、奪われ損じゃん」
「前提は間違っていないはずなんだ。どこかでさりげなくS〇Xをする方法は──」
「とりあえず、時間がない。俺たちが妙な動きをしすぎているせいで、めちゃくちゃ他のプレイヤーからの心象が悪くなってるし、このままだとどっちか追放されるぞ」
「人狼ゲームならな。けどこれは7匹の仔山羊ゲーム。他の羊からの信頼が無くなるのは、実はプラスだったりする。」
「というと?」
「俺たちは二人でしか話してない。つまり石を3つ持っている可能性は低いってことだ。何なら他の奴らに石を勝手に預けてる可能性すらある。食うメリットは少ないはず」
「そうか?むしろ多くて石が二個なんだから食うのに安全な気もするけど……」
「ほかの奴らもそう考えてるだろうな。俺たちは俺たちで石を回し合うはずだ、って。だから俺たちに石を託す奴が一人二人いてもおかしくない。それは狼だって考えるはず。下手に穿った手を打つよりは、安牌を選ぶさ。例えば一人でいるような奴」
「そんなもんなのかな……」
「つまり、俺たちがカメラの前で、さりげなくS〇Xをするのを妨げられる奴は居ないってことだ」
「なるほど……」
「って、あれ?なんかショウ、ズボンの向き違わないか?」
「あ、やべ、さっきした時焦って履き直したから!」
ズボンが前後ろ逆になってしまっている。ファスナーは後ろに、ポケットは前に。いやポケットはもともと前にもあるか。
「それだっ!」
ハルヤが手を打った。
15分後。
「いやー、久々の娑婆の空気だぜ!うんめぇなぁー!」
ハルヤが伸びをする。
「まさか、あんなにうまくいくとは」
脱出できた経緯はこうだった。
投票の直前、端末の前にショウが立つ。その後前後ろ逆になったズボンのファスナーを下ろし、ハルヤがさりげなく挿入する。
その瞬間電子音が鳴り響き「S〇Xを検知シマシタ」と無機質な声が響き、ドアが明け放たれた。
「今だっ、逃げろ!」
ハルヤが叫び、参加者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
あまりにも予想外な出来事に、誰も何も反応できなかった。
「さて、せっかくだしさっきのS〇Xの続きでもしようか」
「やらねーよ。帰るぞ」
ハルヤの頭を、ショウは軽く小突いた。
臀部の痛みがまだ微かに、ズキズキと痛んでいた。
その痛みがショウには少し、心地よかった。




