Ep.7ーハクー
お読みいただきありがとうございます。
「ではリュー様、準備ができたのでこちらへ」
もう思い出したくない過去だったのに、かなり長々と話してしまった。
「ハクさんもご一緒にどうぞ」
試験場は普段模擬戦などに使われる訓練場。
「試験内容は簡単です。彼の半径五十センチ以内に入ってください」
「わかったわ。使っていい武器は?」
「魔法と剣のみです。それと拘束魔法は使用禁止になります」
「了解」
職種によって試験内容が変わり、対人戦になる剣士や魔法使いは、比較的難易度の高いことで知られている。半径五十センチは、魔法職にとっては致命的な間合いである。
剣の使用は、サブが剣士であることを考えられてのことだろう。
「ねえ、あの人に見覚えある?」
「名前は知らないけど、去年まで現役Aランクパーティーにいた魔法使い。攻略方法は・・・別にいらない?」
「ええ、それだけで大丈夫よ」
にしても、Aランク試験にしては随分と強い相手を持ってくるな。
「試験時間に制限はありませんが、もし身の危険を感じるようであれば、すぐに棄権をお願いします。剣を手に持った瞬間から始めとなります」
「ええ」
ザッとリューが一歩訓練場に踏み込み、剣呑な空気を纏う。
「五、いえ十秒で終わらすわ」
そう呟いた彼女は、足で地面においてあった木剣を蹴り上げた。
「始め!」
結果的に言うと、本当に十秒で終わった。体感は十秒もなかった。
始めの言葉と同時に相手が魔法を唱えた。
「業炎!」
さすがAランクだった。リューの立っている一帯が炎に包まれ、中が見えないほど燃え盛っていた。それでも職員が介入しなかったのは、この訓練場自体に、内部の生命体へ危険が及んでいると判断した時に自動で防御魔法を発動するシステムがあるからだ。
三秒ほどして、これではダメだろうと職員が手を挙げようとしたときに、声がしたのだ。
「これで終わりかしら?」
何事もなかったかのように、リューは炎の中から歩み出てきた。まるで炎が彼女を避けて道を作っているようだった。
「炎陣を外側から幾重にも重ねて、内部を炎で満たす。面白い魔法ね。こんな感じかしら?業炎」
「なっ!?」
リューがそう口に出した途端、対戦相手が反応する暇もないまま、赤々とした炎に包まれていた。
防御魔法の展開が間に合わず、対戦相手が死ぬのではないと思われたその時、ジリリリリリリ!っとけたたましいサイレンがなり、天井から落ちてきた大量の水が、滝のようにゴウッと重い音を立てて火を消した。安全装置が作動したのだった。
「安全装置の作動により、試験官は試合放棄とみなし、リュー様の勝利となります」
「ね、言ったでしょ。十秒で終わらせるって」
「ほんとに、相手が可哀想なぐらいだったよ」
さすがかつての正一級魔法使い。即座に構造を理解し再現したのだ。やろうとすればあれ以上の威力も出せたのだろう。
時代は超えても、実力は衰えていないな。