Ep.5ーハクー
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着替えて、手袋をはめる。この擦り減った手袋もそろそろ替え時だろうか。短剣をベルトに引っかけ、弓と矢を背中に背負う。
「行くよ」
誰かが隣を歩いている感覚が久しぶりすぎる。
昨夜の一幕がなかったように晴れ渡る青空だが、リューの存在が、それが確かに存在した時間だということを裏付けている。
あんな話、知らないほうが幸せだったかもしれない。
「なにか身分証はないの?」
「あるわけないじゃない、あいつらに全部取られちゃったわ」
「・・・じゃなにか登録した方が良い。でなきゃ、なにかあったときに警備隊が真面目に取り合ってくれない」
「昔は治癒士ギルドに登録してたのだけど、教会に潰されてなくなっちゃったのよねえ」
「そんなのもあったね」
どこか一つでもギルドに登録していれば、なにかあったときに、ギルドに告げ口すると言える。それで大体は真面目に聞いてくれるようになるのだ。ギルドと対立して冒険者の引き上げでもされたらそれこそ国の一大事になるだろうから、当然と言えば当然ではあるけど。
「そうね、じゃあ登録するわ。推薦人はもちろんやってくれるわよね?」
「いいよ」
ギルドに登録するときBランク以上の推薦人を見つければ、特別試験で飛び級できる制度がある。リューならばAランクまで飛んでも問題ないだろう。
「これも、もうただのガラクタね」
全て取られたさっき言ったばっかりなのに、どこから取り出したのか、文字の刻まれた青く透明な板を、彼女は光に翳した。すると、今やもう見かけない、懐かしい紋章が浮かび上がる。
「それなら私も持ってるよ」
「幻夢の色彩」と呼ばれた、角度によって見える絵が変わる技術が使われたこの特徴的なカードは、かつて今よりも魔法が盛んだった時代に、魔塔所属の魔法使いの証として発行されたものだ。中でも青く透明なものは、最高ランクである正一級にしか与えられない特別なものだ。
「私は中央塔の所属だったわ」
「元ヴィノ所属」
「最北ね。道理であなたの存在を知らなかったわけだわ。知っていれば、もっと早く会いに行けたのに・・・」
塔はすでに遺跡となり、その栄光も歴史の一部と化している。時の流れとともに、人々の記憶からも薄れる。今これを見せても、誰も当時の私たちが最高峰の魔法使いであったことを理解できないだろう。
リューを除いては。
悠久を生きる私たちにとって、地位も手柄も全て瞬く間のことで、気づけば忘れ去られてしまう。それでも常に高みを目指すのは、少しでも爪痕を残して、少しでも覚えていてもらいたいからなのかもしれない。
「ここだよ」
気づけば、ギルドに到着していた。