Ep.4ーリューー
お読みいただきありがとうございます。
チチチッと鳥のなく声が聞こえ、朝日が昇る。
「んっ・・・」
ボーっとしたまま体を起こそうとして、ソファーで寝るこの家の家主の存在を思い出した。
こんなに穏やかに寝れたのは久しぶりだ。汚い廃墟に閉じ込められて、オークションで売られるのを待っていた昨日までが、まるで夢のように思える。
「なんだか・・・ボロボロね、私」
昨日は暗がりである程度ごまかせたが、よく見ると服は破けているし、髪もボサボサである。乞食のような格好でよく人のベッドを借りれたなと、自分でも思う。
家主、ハクはまだ静かな寝息を立てて寝ている。
夜には月明かりに照らされていた髪が、今度は煌々とした陽の光に照らされている。夜に見たときとは色味が少し変わっていて、柔らかな色だ。
でも私はやっぱり夜のほうが好きね・・・。
「ちょっと風呂場を借りるわね」
さすがにこのままではいられない。
しばらくしてシャワーを終えたときには、ハクはもういなくなっていた。
「もう起きたのかしら」
部屋を見渡すと、私が寝ていたベッドの上に丁寧に畳まれた服が置いてある。
服ないだろうから。
小さく書かれたそのメモが、どれほど私を安心させたか、彼女は知らないだろう。
「ありがとう・・・」
二階から降りると、一枚のテーブルに二人分の食事が並べられていて、ちょうどハクが厨房から出てきたところだった。
「あ、起きたんだ」
「服、ありがとう。助かったわ」
「別にいいよ。風邪でも引かれたら面倒だし」
ふふっ、ほんとこの子は素直じゃないわね。
「「いただきます」」
こんなに落ち着いてご飯を食べられるのは、いつぶりだろうか。
「あなた、普段は何してるの?」
「冒険者だよ」
冒険者。
資格も身分も必要のないこの仕事は、この大陸において様々な面で大きな影響力を持っている。基本的に魔獣討伐を生業としている彼らは、報酬をつけて依頼を出すことで動き、名のある冒険者の収入は、そこらへんの小貴族を超えることもある。
「ランクは?」
「もちろんS」
「さすがね」
やはり、昨日の夜にも見たあの動きは素人のものではなかったのだ。
冒険者のランクはF、E、D、C、B、A、Sと下から順に上がっていくが、「Aまでは積み重ね、Sは才能」という言葉があるほど、Sランクというのは冒険者の高みにある。冒険者ではない私にすらわかるのだ。実際に渦中に入っているのなら、より実感しただろう。
実力主義の冒険者社会で一人の少女が生き抜くというのは、簡単なことじゃなかったはずだ。
「たくさん努力してきたのね」
「そうでもないよ。・・・死なないように頑張ってただけ」
そう言った彼女は、どこか遠くを見ているようで、でも何も見ていないような。すでに涙の乾ききった、虚ろな目をしていた。
「死なないように・・・ねえ・・・」
その理由が私にはわからなかった。