Ep.2ーリューー
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「うん、殺した」
どこまでも重い言葉を、目の前にいるこの少女は淡々と言い放った。
銀糸のように流れ、月明かりに照らされた雪のごとき輝きを放つその色を見たとき、きれいだと思った。すごくきれいだと、素直にそう思えた。
「この近くに人を捨てられる場所ってあるかしら?」
「少し行った先に裏通りがある。酒でもかけときゃばれないよ」
「そうしましょうか」
彼女がカモフラージュ用の酒を取りに行っている間に、私は遺体の武器を全部剥ぎ取る。
「ちょうど衛兵が巡回してる時間だから、もう少し待ってから行ったほういい」
「わかったわ、ありがとう」
「それにまずその怪我を手当しないと」
そう言って、彼女は迷いない手つきで包帯を取り出して、消毒液を傷口にかけ出す。
「ああ、忘れてたわ。・・・随分と用意がいいのね、止血剤まで入ってるなんて」
「まあね。この怪我、放っておいてたら死んでたよ」
「大丈夫よ」
「はい。急所は逸れてるから、とりあえずはこれで大丈夫」
「ありがとう」
余った包帯を巻き直して、彼女は箱にしまった。
「何も聞かないの?」
こんな夜中に突然現れ、挙げ句追手まで引き連れてきた不審この上ない人に対して、何一つ疑問がないというのはあり得ない。
「何を?お互い様だよ」
「そう。・・・じゃあ聞いてもいい?」
そう聞くと彼女はしばし沈黙した。
「・・・答えられる範囲でなら」
「あら、さっきの力は答えられる範囲内かしら?」
「見た通りだよ。私は触れるだけで人を殺せる」
雨が降ってできた霧のような曖昧な灰色の瞳に、なんの感情も浮かべず、彼女はそう言った。
「触れるだけで?」
「そう、魔術や魔法とは違う力。死の力って呼んでる」
ああ、彼女も・・・。
「じゃあ私と一緒ね」
「一緒?」
ピクリとも変わらなかった表情が少し動く。
「私はね、死ねないのよ。そして人を復活させることができる。さっきの彼らも私ではなく、私のこの力を追っていたのよ」
「え・・・」
ほらね、だから言ったでしょ?
「あなたと私は同じなのよ」
見開かれた目が揺れ、信じられないものを見る視線の中に、若干の疑いと不安、そして喜びが入り混じっていた。
「あなたのが死を司るのなら、私は生を司っているのでしょうね」
彼女が人に死を与える存在なら、私は生を与える存在なのだろう。ようやく出会えた。私の対となる存在。
「ずっと、ずっと。あなたのことを探していたのよ」
「ずっと?」
「ええ、私の存在意義の証明にはあなたが必要なの」
そう言って、彼女と目線を合わせる。真っ暗な夜の部屋で、ランタンの灯りだけが静かに揺れている。
「ねえ、あなたの名前は?」
「・・・・・・ハク」
小さく、けれどもしっかりとした声で彼女は答えた。