Ep.10ーリューー
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「まだ昼だっていうのに、ずいぶんと鬱蒼としてるわね・・・」
「そういうところだから」
山に入ったばかりのときはまだ日が差し込んでいたのに、だんだんと木が増えて、夕暮れ時と同じくらい暗くなってきた。
これはさっきハクから聞いたことだけど、冒険者が森や山といった広域で狩りをするときは、自身のエリアを決める。原則はそのエリア内にいる魔獣や、入ってきた魔獣にしか手を出せない暗黙の了解らしい。
今はそのエリアを探すべく歩き回っている。
もともとはなかったルールだが、二百年ほど前にトラブルがあってから、全冒険者間の取り決めになったのだとか。高ランク冒険者が難易度の低い獲物を狩り過ぎることで、低ランク冒険者の仕事を奪わないようにする効果もあるのだろう。
「まあ。そのトラブルがあった時期は華江の方にいたから、詳しく知らないんだけどね」
華江国、今はもう無き国の名。たった五十年前に元中央都市「彩」で起きた政変によって瓦解し滅んだ、かつての東の大国だ。今はいくつかの小国に分裂しているが、常に争いが絶えない地域になっている。
「『この世の栄華を極めし都市』だったかしら?何度か行ったことがあるけど。・・・儚いわね」
「今は知らないけど、私がいたときの彩は本当に賑わってた」
「その彩も、いずれは忘れ去られるのかしら」
「さあ?」
ハクが肩をすくめたように、彩が歴史に残るかは私たちが決めれることではない。
でも・・・、
数百年後に、まだ彩という名を覚えている人がいて、当時の彩は多くの人で溢れた活気に満ちた都市だったんだと。そう言える人がいたら嬉しいわね。
「ここら辺にするか」
うまい具合に開けた一帯に、本日の狩場を見つけたようだ。上の木があまり多くないおかげで、狩り自体は手慣れたものだけど、冒険者のやり方はよく知らないから、ここは大人しくハクの指示に従う。
「ここから各方角百五十歩歩いたところにある木に、それぞれリボンをくくりつけてきて欲しい」
「わかったわ」
「三本分お願い」
「百五十歩ね。・・・━━この木が良さそうね」
こうして計六本のリボンで狩場をぐるっと囲んだ。
「じゃああとは待つだけだよ」
そう言ってハクは木の根元に腰掛けた。
「探しに行かないの? 」
騎士団として魔獣討伐をするときは、まず痕跡探しから始まるのだけど、必要ないのかしら?
「行かないよ。討伐対象のある騎士団とは別だから」
「確かにそうね」
騎士団が討伐に出るときは、大体何かしら目的の魔獣がいる。わかりやすくいうと、近くにできてしまったワイバーンの巣とか、トレントの集合体とかができた時にお呼ばれする。だから、まず標的の痕跡を追うことから始めるのだ。
特に依頼などでない限り、種類にあまりこだわりがない冒険者は、探すのではなく誘き寄せるらしい。
「火を起こすんだよ」
両側が盛り上がったレンズを光に当てると、光が収束され、一点へ集められる。その点を薪に合わせてしばらく経つと、ぼっと囁き声のような音を立てて火が付いた。あとは勝手に燃え広がっていく。
火付けガラスと呼ばれるこの道具は、光のあるところであれば、その光を収束させて火を付けることができる、シンプルだが便利な道具。昔から使われている技術で、お高めではあるが特に消耗することもなく使い続けられるから、騎士団にもたくさん置いてあったし、魔塔でもよく使われていた。
「まだまだ真っ昼間だけど? 」
「頭の悪い種類はこれである程度集まるよ」
「じゃあ頭のいい種類には? 」
「この上で肉を焼く」
そういうと、持参してきたであろう一切れの生肉を、串刺しにして火で焼き始めた。