Ep.9ーハクー
お読みいただきありがとうございます。
しばらくしてリューが戻ってきた。ミアさんと随分話していたようだけど、いったい何を話していたのだろう。
「終わった?」
「ええ」
「じゃあ早速だけどパーティー申請したいから、カード借りてもいい?」
「はい」
パーティーを組むときに細かい規則はないけど、原則としては二人以上で、かつ報酬を適切に配分できるようにすることが求められる。
「パーティーの名前は?」
「どうする?」
正直、私は何でもいい。
「そうね・・・、不滅なんてどうかしら?」
「・・・いいね、じゃあアサーナトスで」
「わかったわ。二人ともメインは魔法職?」
「うん」
「だったら前衛とか紹介しようか?」
規定はないとはいえ、後衛職だけで組むパーティーはやっぱり珍しいらしい。
「それは大丈夫かな」
わざわざ戦士系の人を探さなくても、私が前後衛を兼ねれる。とはいえ、リューとしてはいた方がいいのかもしれない。
「あら、私これでも元々王立騎士団で剣を振っていたのよ」
「それは頼もしいね」
やっぱりいらないか。
「いらないね、了解。じゃあこれでアサーナトスとして登録できたから、カード返すわね。じゃあ頑張ってね!」
「ありがとう」
さて、まだ日が昇ったばかりだ。郊外の山ぐらいなら日帰りで行けるだけの時間はある。
「これから魔獣狩りに行くけど、一緒に行く?」
「ええ、行くわ。実際に剣を振るのも久々だし、感覚を取り戻していきたいの」
「そうだね、人間相手と魔獣相手では勝手が違うから」
人間相手の戦いには心理戦が伴う。魔獣相手にはそれがない分、ミリ秒単位での判断速度が求められる。
「装備は?」
「ああ、買わないといけないわね。それ用に五千イラもらったわ」
「だったら良い工房を知ってるよ」
「本当?じゃあ案内頼むわね」
「嬢ちゃん、本当にそれにするのかい?」
「ええ、いい感じの重さよ。もうちょっと重心が手前側だといいんだけど」
「ふむ。それなら少し重くなるが、これなんかどうだ?」
「いいわね、どこか試し斬りができるところは・・・ー」
「・・・ーで、三千イラだ」
「三千?七千イラぐらいありそうだけど」
「そっちの銀髪の嬢ちゃんがいつもいい素材を卸してくれてるからな、おまけだ!」
「ありがとう」
まずは剣。リューが購入したのは大剣。彼女の身長と同じくらいの長さがある、両手剣だ。リュー曰く、これが専門らしい。
人は見かけによらないとはこのことだ。
「ギルドでの手合わせは長剣を使ってたし、騎士とか言うからてっきり細身の剣が得意なのかと思っていたんだけど」
「ああ、さっきは適当に取ったのよ。最初から剣を使う気はなかったもの」
「なるほどね」
次の店は防具店。
「防具を探しているんだけど・・・ー」
「革鎧でしたらこちらですね。ただ値が張ります」
「うーん、もうちょっとシンプルなのがいいかもしれないわね・・・ー」
「シンプルなものでしたら・・・―」
「・・・ーでは、六点で四千二百イラです」
四千二百?
「ちょっと待って、四千二百?普段あれだけ贔屓して素材を卸しているのに?」
「ですが・・・」
「ですがなに?」
「・・・わかりました。親方に確認してきますので、少々お待ちください」
ちょっとだけ魔力で威圧しちゃったのはご愛嬌。
「では二千イラです」
まあそれぐらいなら許容範囲か。
「ハクあなたすごいわね・・・」
「言ったでしょ、値段気にせず好きなの選んでって」
Aランクともなるとハイリスクなクエストも多い。装備代をケチったせいで死ぬなんて、そんな馬鹿なことがあるか思うかもしれないが、実際あり得るのだ。
「装備の性能は生存率に直結するからね」
「心配してくれてありがとう」
「心配なんてしてないよ」
さっき見ただけでも、リューの手腕は、相手の心配をするべきレベルに達している。だから心配することなんてない。けど、
「リューを冒険者に引き込んだのは私だから、リューの命に対する責任が私にはあるんだよ。例え不死身だとしても、ね」
もう二度と、あんな思いはしたくないから。