幕問 クジラの夢
気が付け見知らぬ所にいた。歩き続けて気が付けばどこかの住宅地にいた。
どこかの自治区に迷い込んだのか、彼女はそう考えた。しかし、その考えは間違いだった。
それは知りたくなかった現実でもあった。
そこは彼女が住んでいた所とはまた別の場所だった。彼女は何も考えずただ歩き続けていた。
寝ずに、食べずに彼女も一体自分がどれだけ歩いたのか気づいていない。
気が付けば橋の上に立っていた。
(ここは、どこなんだろ)あたりを見渡してもあるのは家だけだった。濡れた前髪と曇った目で周りを見渡す。
雨が降っていて服はビショビショ濡れていた。いつもは持ち歩いている銃もない。
そして、いつもの持っている大切な【物】がない事に気が付く。
辺りを見てもそれらしきものはない。
ただ一人橋の上で下の川を眺めている。住宅地によくある、小さな川だが雨のせいか、水量が増えていて流れが速かった。その川を見て彼女は何かを思った。
(これで楽になれるのか……)
大切な物を失って思考力が削いでいた。あの頃、自分が死ねば何でも解決すると思っていた。
自分なら何でも出来ると思っていた。そんな事を考えていると、一人の男の子に声をかけられた。
●
その日、彼女との初めての出会いだった。
その日は、天気予報の通り夕方に雨が降っていた。傘をさして友達と楽しく話した帰り道。
友達と別れた後、傘を打ち付ける雨音と濡れた足元の寒気で心細かった。
ふと架かっている橋を見ると、橋の真ん中で俯いた女の子が傘をささずに1人で立っていた。
雨の日の川は危ないと小さいころから、祖母に言われていた。それもあり、慌てて少女に声をかけた。
声を掛けた時、彼女は感情のない赤色の目で睨んでいた。ただ、その瞳は睨んでいたのではない、
感情がかけていた。今になってこそ、そのことに気が付く。
●
「ねぇ、大丈夫?」
橋の上に立っていた時、一人の男の子が私に声をかけた。
「……」その時の私はもう楽になることしか考えていなかった。それもあり、男の子の声に返答することが出来なかった。どう、答えればいいのか。大丈夫かと聞かれたら大丈夫ではない。この気持ちを……
だけど、それが私の夢を造ってくれた。その子が話しかけてくれたお陰で、
その【夢】は決して忘れる事が無かった。
私に愛情を分けてくれた。