8章 プール掃除
今の時刻は8時、教室に行くと誰もいなかった。伊織は流石に教室で寝るのは良くないと空き教室で一夜を過ごした。教室は既に片付いていて昨日の景色が嘘のようである。昨日の出来事が夢ではないのかと疑ってしまう。
「先生、おはよう」
突然後ろから声を掛けられ伊織は驚く。後ろを振り返って見るとその声の主は皐月だった。昨日の表情は全く別で皆に見せている何時もの表情である。伊織は皐月の手元を見る。何か大きな機械の様な物を持っているようだ。
「皐月それは?」
「あぁこれは実ちゃんの武器だよ。メンテナンスが終わったから私が取りに行ってたの。
他の皆は掃除中だよ。私もこれを運んだら行くつもりだよ」そう言えば昨日、実がそんなこと言っていたようなと思い出す。よく見ると皐月はプルプルと震えていて伊織は少し呆れ笑いをして皐月と逆の方向を持つ。
「流石に女子にのこんな物待たせられないよ、どこに運べばいい?」
「いいの先生?」皐月は少し驚いた表情で聞く。今、皐月が伊織をどの様に見えているのかわからない。そして数歩歩くと伊織は皐月以上にしんどそうな顔をしている。それの表情を見て皐月は笑いながら言う。
「科学技術室までお願い」
そう言われて2人で約200mを15分で運んだ。運び終わった後は皐月と特に伊織息切れをしていた。
「はぁ~。ありがとう先生」
科学技術室まで荷物を運び終わった後、伊織と皐月は外に出ている。皆が掃除しているプールに向かう途中自動販売機でジュースを買う。みかんジュースとサイダーを。どうやら皐月はシュワシュワするものが苦手らしくみかんジュース一択だった。木陰に座っている皐月に近づきみかんジュースを頬っぺたに付ける。「ひゃあぁ」と声が出てついつい笑ってしまう。そんな伊織を見て皐月は頬を膨らませる。
学校の中庭の大きな木の下に座り2人でジュースを飲む。日が登って活動には丁度いい気温をしている。鳥の囀り聞き伊織は遠くを眺める。そんな中、皐月は口を開けた
「実は私、今も先生の事、信用できないんだ」唐突にそんなことを言われて飲んでいたサイダーを吹き出す。伊織は少し苦い表情をして下向いた。こうも、真っ直ぐ気持ちを伝えられて伊織は少し傷つく。それに気づき皐月は
「いや、だけどね、その6割位は信用してるから・・・・・・。先生が私達を見捨てるかと思って」
皐月は後ろの木に寄りかかりそう言った。どうしたものか、昨日の実、未来の過去、そして皐月の考え事どれも伊織にとっては少し荷が重い。そもそも大学院生で教師をやっているのだから経験が浅いのも仕方がない。年もそれほど離れていないしベテランであればこの程度の問題も解決出来るだろ。それは今まで培ってきた経験を利用して解決しているからだ。今の伊織が出来ることは生徒、子どもを生徒1人1人を安心させること、そばに寄り添う事くらいである。
「大丈夫、私は君達を見捨てない。最後まで一緒に頑張るよ」
今はただ元気づける事しかできない。そうでもしないと伊織の心ももたない。だけど少しずつでも彼女達と仲良く出来るように伊織は頑張ろうと決意する。
「そう?だったら今から」
皐月が何か言いかけた時前から人やって来た。
「先輩!先生何しているんですか?」それは目を瞑り額に青筋を張らせた苗だった。
鬼の様に角を生やしていて、昨日の殺気とはまた違うものだった。
「先生はともかく、皐月先輩どういうことですか?こんな所で遊んでいて?」苗からゴゴゴという、効果音が出てきてもおかしくなかった。
これは相当怒っている。後ろからメラメラと赤い炎が立っている。これには伊織と皐月は「ひゃあ」と言うしかなかった。
「いやぁ、これは苗ちゃん、話し合いを」
いう暇もなく皐月と伊織は佳子に引っ張られた。
「佳子先輩2人を早く連れていきましょう」
そう言い2人の休息はこれで幕を閉じた。
「うん」
プール
「凄い、大分綺麗になったね」
佳子に連れていかれる際に腰を何度かぶつけ伊織は今プールサイドベンチに寝ている。
プールは昨日より驚くほど綺麗になっていた。地面の砂埃はすべて消えていた。今ちょうど水を抜き終わったらしい。確かに今は水はなくゴミのだけがプール内にある。
そこで伊織は立ち上がり、少し愛華の【力】を使う。
『契約の箱、十戒が刻まれし聖櫃よ』
伊織はそう呟く。
『了解しました。アーティファクト槃周梨特』
愛華が唱えると伊織は一つのモップと石鹸を出現させた。勿論皆には気づかれていない。気付かれるとまた別の問題になってしまう。
「先生それは?」
佳子に聞かれて、少し焦ったが
「ピカピカに掃除できる道具だよ」と言い何とか誤魔化せた。
「それじゃあキーナ高等学校プール掃除スタート」
未来の号令と共に水が抜けた底を一気にモップ掛けをする。動きやすいように体操服を来ているからである。
伊織はプールの側面を擦り、掃除する。伊織は皆がモップ掛けレースをしている様子を見て微笑ましくなる。途中佳子と結実がぶつかり言い争いになったりした。さらには実に衝突されて気を失いかけたりもした。伊織が寝ている間、大きなカエルを見つけた佳子が苗に近づけたことで苗の怒りが爆発、苗のお説教が始まった。だから掃除が完全に終わったのは12時を過ぎてからだった。
「いやぁ~よかった。これでようやくプールに入れる」
皐月は綺麗になった地面に座り足を伸ばして言った。それを見て実は思い出す。
「そう言えば皐月先輩、私の武器はどこに置いといてくれましたか?」
実は皐月の隣に座り聞く。
「あぁ科学技術室まで運んだよ、そうだ先生今から私達の武器、見せてあげるね」
皐月は名案と思いがってんを打つ。それに反応し苗も続けて、
「そうですね、これから戦闘があった時、先生が指示させる際にどうしても個人の能力を知らないといけませんもんね」そう苗は言いう。
「では早速科学技術室に行きましょう」と実は言った。ちなみに掃除道具の片づけは伊織一人で、体育倉庫でやっている。道具を片付けている間、1人になったタイミングで愛華に言う
『愛華、昨日ごめん』
昨日、未来が急に現れて会話中の愛華との接続を切った。それが気になり伊織は愛華に聞く。
『別に怒ってません。あの状況であの判断が一番正しい。それよりも【力】この【契約の箱】はまだしも、【あれ】は使わないでくださいよ』
『わかってるよ』
伊織はそう言い、掃除道具を片付けた伊織は体育倉庫を出て背伸びをする。久々に体を動かしたと伊織は青空を眺めて満足そうな顔をする。
「じゃあ行こうか」
そう言いプールを後にする。