対決 後編
体育祭の全プログラムが終了し、生徒もまばらにしかいなくなった頃、競技場の用具などを置いている部屋に、buddyの6人と新聞部の山田を含む男4人、そしてなぜか隼斗のクラスメイトが野次馬で集まっていた。
「おい山田。お前たちが負けたら、金輪際二度とこの2人に関わるな。わかったかっ」
「藤堂くん、ずいぶん自信満々だけど、そんなこと言っていいんですか?」
「ふんっ、誰が来ようが俺たちが絶対に勝つ‼」
部屋の中央には、明日香の胸の高さほどの台が置いてある。
その台を挟む形で両者は睨み合っていた。正確には睨んでいたのは隼斗だけで、他の5人は完全に巻き込まれていた。
「それじゃあ、俺たちの先鋒は.....竣亮だ!」
「えー.....隼斗くん、やっぱり僕もやるの?」
「当たり前だろっ。大丈夫、竣亮だってそれなりに鍛えてるんだからさ」
そう言われて竣亮は、渋々前に出てくる。
「竣亮、がんばって!」
「無理しないでね竣亮っ」
明日香と深尋の声援を受けた竣亮は、少し照れ臭そうにしていた。
「ふっふっふっ.......それでは国分くんの相手は、僕がしましょう!」
相手側は早速、新聞部の山田が出てきた。竣亮相手なら勝てると思ったのだろう。
これから両者は、腕相撲対決をすることになっていた。
そして竣亮と山田がガッチリと手を握る。
審判役は、その辺にいたクラスメイトにお願いした。
「Ready...........go!」
パタンッ。
「え......?」
「勝者、国分!」
山田はあっけないほど弱かった。彼は男性にしてはヒョロヒョロで、ペン以上の重たいものが持てそうにない程の細腕だ。
山田からしたら、竣亮は自分と互角だと思っていた。しかし結果は竣亮の圧勝。瞬殺だった。
それもそうだろう。buddyは高校生になってから、本格的な筋力トレーニングを開始していたので、一見細く見えても、まぁまぁ筋肉も筋力もある。
それを隠して、次の対戦へと移る。
「次鋒は.....この葉山僚だ!」
僚は他校生にもかかわらず巻き込まれてしまい、最初はどうしようかと思っていたが、新聞部のしつこさには隼斗と同様に嫌悪感を抱いたので、この勝負に乗ることにした。
僚はかぶっていた黒のキャップを取ると、それをポンっと明日香の頭にかぶせる。
「悪い、明日香。それ持ってて」
「う.....うん.....」
僚がキャップを取ると、野次馬で残っていた女子が色めき立つ。中にはスマホを向けて撮影しているのもいた。
しかしそんなことはお構いなしに、僚は相手の男を見ていた。
(市木以上にチャラそうな奴だな。初対面だけど.......なんかムカつく)
僚の相手はジャージをだらだらと着ているような男で、市木とはまた違ったチャラさを感じさせるような男だった。
「この人めっちゃイケメンじゃん!藤堂の幼馴染ってみんなレベルたけーな」
「.......どうも」
僚は自分のことをジロジロと見てくるこの男に虫唾が走る。
それでも台の上でお互い手を握り合って構える。
「Ready...........go!」
合図と同時にグッと力を入れ、左側に倒そうとするが、さすがに先ほどの山田のようにはいかない。それでも僚はなんとなく「イケる」と思っていた。
そしてさらに力を入れると、ぱたんっと相手の手の甲が台の上についていた。
「勝者、.........イケメンくん!」
僚の名前を忘れてしまった審判はとっさにそう言ったが、勝ちは勝ちだ。
「やったあ!僚!」
「僚!スゴイ!」
竣亮の時は、あまりにもあっけなさ過ぎて言葉が出なかった明日香と深尋も、僚が勝った時には素直に喜んでいた。
そしてそれを見て羨ましがる野次馬のクラスメイトたち。
その場はちょっとしたカオスと化していた。
「山田ぁ、もう諦めてもいいんだぞ?」
「ふんっ藤堂くん。まだ勝負はついていないさ」
なぜか山田は自信たっぷりだ。
「それじゃあこっちの副将は、誠だ!」
隼斗に名前を呼ばれた誠は、とてもめんどくさそうに前に出てきた。
「誠!がんばれー!」
「絶対勝ってね、誠!」
明日香と深尋は、何のために勝負をしているのかイマイチわかっていなかったが、とりあえず自分の仲間を応援することにしていた。
「そっちがその気なら、こっちはこの人に出てもらう!」
山田がバーンっと手を上げて出てきたのは、バレー部の元エースの男だった。
「おおい!山田!そいつは新聞部じゃねえだろっ!」
「やだな藤堂くん。考えてもごらんよ。僕たち文化部のヒョロヒョロがさ、君たちのようなガタイのいい男に勝てると思う?これくらいのハンデいいだろ?」
ハンデを貰う立場の山田がずいぶんとエラそうだ。
しかし、意外にも誠はこれを素直に受け入れた。
「いいのか?誠」
「ああ。それに、ハンデもらって負ける方がダメージが大きいだろ」
誠は相手にも聞こえるようにそう言うと、静かに準備をする。
こう見えて誠もちょっと怒っていたらしい。その雰囲気は、付き合いの長い5人にしかわからないものだった。
相手はバレー部の元エースなだけあって、181cmの誠よりも5cm背が高く、体格的にはほぼ互角だった。
両者がガッチリと手を組む。
「Ready...........go!」
誠がグッと力を入れるよりも先に相手が力を入れてきた。そのため誠は少し押されてしまう。
「誠ー!がんばれー!」
「誠!行け!」
仲間の声援を受け、誠は右側に傾きかけていた自分の腕を、なんとか正面にまで戻した。しかし、体格差があまりない相手のため、なかなか強い。
ちょっとでも力を抜くと、一気に倒されてしまう。
その時「誠くん!がんばって!」という声が聞こえた。
その声は誠が大好きな美里の声だった。
実行委員の仕事が終わった美里は、隼斗たちが腕相撲で勝負をしているというのを聞いて、ここまでやってきた。
美里の応援を貰った誠はパワー全開だ。
「フンッ」
一気に気合を入れ、少しずつ腕を左側に傾けていくと、最後は相手のスタミナ切れで勝負あり。
「勝者、崎元!」
「わあああ!誠!やったあ!」
「誠!カッコイイー!」
「誠くん......!」
明日香と深尋のそばには、いつの間にか美里も混じっていて、女子3人から熱い声援を受けた誠に、周りの男子から羨望の眼差しが向けられていた。
「さて、次が最後だけど、どうする?」
「むむむっ......!やるに決まっているだろう!」
「おおっ山田!お前も男だったんだな!」
「くぅ~っ!バカにしてっ。大将戦は我々の勝ちだ!これで勝ったなら取材を受けてもらうぞ!」
もはや、ハンデではなく傍若無人な要求をする山田。見苦しいぞ山田。
しかし隼斗はこれまで全戦全勝で気分が良かったため、それをあっさり受け入れる。それでいいのか⁉隼斗!
「こっちの大将は、もちろんこの俺だ!」
隼斗はバーンっと胸を張って前に出る。それを見た山田は不敵な笑みを見せる。
「ふふふ、藤堂くん。これまでの勝負はほんのお遊びだよ。これが本当の勝負だ!」
山田がそう言って出てきたのは、柔道部の元部長だった。
「んなっ......!」
「こらー!山田ー!卑怯だぞー!」
呆気にとられる隼斗のそばで、深尋が山田に文句を言っている。それも呼び捨てで。
「お嬢さん、勝負に卑怯はつきものですよ」
「こんなことをして勝って嬉しいの⁉」
「藤堂くんがあなた方への取材をお許しいただけるのなら、勝負せずに済みますよ?どうですか?」
さっきまで及び腰だった山田とは打って変わって、急に立ち居振る舞いが堂々としている。よほどこの勝負に自信があるらしい。
すると明日香が隼斗に耳打ちをする。その明日香の言葉を聞いた隼斗の顔が、みるみると明るくなっていく。
「本当だな?明日香。約束だぞ」
「うん、絶対。約束」
藤堂姉弟で話がまとまると、隼斗は急にやる気を出して勝負をすることにした。
台の上でガッチリと手を握る両者。隼斗はその手を握った感触だけで、すでに負けそうだった。それくらい相手の圧を感じた。
「Ready...........go!」
合図とともに隼斗の腕が右側に倒される。すんでのところでそれをこらえた隼斗は、自身の体勢を立て直し、なんとか五分五分へ持ち込もうとするが、さすが元柔道部。筋力が半端ない。
腕の力だけでは勝てないと思った隼斗は、足を思いっきり踏ん張る。すると、少しずつではあるが、徐々に両者の腕が正面へと戻されてきた。
「いけー!隼斗!山田をやっつけろー!」
「隼斗!がんばって!」
深尋の中で山田はすでに敵になっていた。
その勝負を当事者たちだけではなく、周りにいるクラスメイトたちも全員声を出して応援していた。
隼斗は6人の中でも、とりわけ男子4人の中でも、人一倍筋力トレーニングをしていた。その結果、握力や背筋の数値はメンバーの中でも飛び抜けて高かった。
その隼斗が全身の力を使って相手の腕を倒しにかかる。徐々に、徐々に、真綿で首を絞めるようにゆっくりと、確実に倒れていく。
隼斗も疲れているが、相手の疲れも相当なものだ。お互いの体力を奪い合いながら、隼斗は最後の力を振り絞る。そして.......
「勝者、藤堂!」
最後は相手が力尽き、勝負あり。隼斗の見事な逆転勝利となった。
「やった―隼斗!山田ざまぁみろー!」
「隼斗エライ!がんばった!」
明日香と深尋が喜んでいるそばで、男子4人もホッと一息つく。
実は隼斗以外の3人も、新聞部の取材を受けてほしくなかったので、勝負に勝てて安心していた。
こうして、明日香と深尋に取材をするという願いを絶たれた新聞部は、再び美少女探しに奔走することになった。
腕相撲対決が終わり、みんなが帰り支度をしていると、男子4人は野次馬のクラスメイトたちのところへ行き、何人かの生徒に話しかけている。
明日香も深尋もその行動が気にはなったが、美里がいたため、どうしてこうなったのかを説明していた。そのため、あの4人が何をしているのかわからなかった。
実は4人はクラスメイトの数人のスマホをチェックしていた。
「おい、お前があの2人を撮っていたの知っているんだぞ。今すぐ消せ」
「隼斗、ここの3人もだぞ。おら、さっさと出せ」
「あ、あと、この人もだよ隼斗くん。ほら、ちゃんと1枚残らず削除してね」
「あと君もね。俺にスマホ向けてたでしょ?盗撮はダメだよ」
僚、隼斗、竣亮、誠の4人は、この勝負が始まった時から、誰がスマホをこちらに向けているのかチェックしており、全員まとめて縛り上げていた。
そして全員のスマホからbuddyを撮った画像が削除された。
ちなみに、明日香が隼斗に耳打ちをした内容は、冬休みの英語の課題を全て手伝ってあげるというものだった。
明日香は英語の特進コースに行くくらい英語が得意だが、隼斗はその逆で、英語はてんでダメだった。
双子でも唯一それだけは全く似なかった。
明日香の提案は、英語が出来ない隼斗にしてみれば、喉から手が出るほど欲しいものだったのだ。
そのためには全身筋肉痛になってでも力を出し切って、勝利を掴む。それが藤堂隼斗という男だった。
そして隼斗を中心に、これからも番犬男子4人の暗躍は続く.......かもしれない。
~完~
※あとがき※
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回のエピソードは、番犬たちがどのように明日香と深尋を守っていたのか、ということを書いてみました。
本編では隼斗が中心となって番犬ぶりを発揮していたのですが、なかなか踏み込んだお話が書けなかったので、構想にあったものを形にしてみました。
ただ、深尋に関してはデリケートな話だったために、木南に丸投げした形になってしまいましたが、深尋の暴走を防ぎ、未来の恋人へ託したと思って頂けたらと思います( ̄▽ ̄)"
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。
AYANO




