対決 前編
さらに月日が流れ、6人は高校3年生になっていた。
「ちょっと隼斗っ、あんた明後日体育祭なの⁉」
隼斗は家に帰るなり母親から小言を貰う。
それでも隼斗は、母親が何でこんなに騒いでいるのか理解していなかった。
「あー、そうそう。そうだった」
「そうだったじゃないでしょ!今日竣亮くんのお母さんから聞いていなかったら、お母さん何も知らなかったのよ⁉」
「だって別に体育祭くらい.......」
「じゃあ聞くけど、あんた弁当はどうする気だったのよ⁉え⁉」
「まあ、朝言えばなんとかなるかなって.......」
その一言に母、キレる。
「こんの.....どアホゥが~~~っ!!!!!」
そこからたっぷり1時間お説教を食らった隼斗。でかい図体が豆粒のように縮んでいた。
そして母親に土下座をし「お弁当を作ってください、お母様」と懇願してやっと許しを貰った。
明日香はその様子を見て、心底呆れていた。
「ねぇ、隼斗。なんで今年の体育祭は運動競技場でやるの?」
「え、それ誰から聞いた?」
「美里からだよ」
隼斗は誠の彼女の美里が、明日香と深尋と仲が良いことを失念していた。
誠と竣亮には口止めはしていたのに、そこまで考えが及んでいなかった。
「いや、まあ、俺らの学校さ、いま校舎の立て直し工事中でグラウンドが半分使えないんだよ。だから今年の体育祭は競技場でやることになった。ただそれだけだ」
「ふーん.......本当にそれだけ?」
「なんだよ。他に何があるんだよ」
「.......べつにー」
明日香が何か言いたそうにしていたが、なにも言われなかったので隼斗はとりあえずバレていないと思った。
しかし体育祭当日。隼斗はその考えが間違いだったと後悔することになる。
秋晴れの澄み切った青空が広がる土曜日。
明日香、深尋、そしてなぜか僚の3人は、隼斗たちの高校の体育祭に遊びに来ていた。
明日香は美里から今日が体育祭であること、そして今年に限り運動競技場で開催されることから、外部からの見学が可能であることを聞いていた。
そしてもちろんそれは、隼斗も知っていることだ。しかし隼斗は、明日香にそれを伝えなかった。なぜなら、明日香が来ることによって自分の周りの友達に注目させたくなかったからだ。
隼斗は明日香が女子高への進学を選んだことで、すごく安心していた。
僚の友人である市木が目障りではあるが、同じ学校ではないため頻繁に会うことはなく、もし会うとしたら自分も一緒に必ずついていった。
なので今回の体育祭のことも、誠と竣亮に口止めをして乗り切ろうと思ったのに、明日香は僚と深尋と3人で隠れてやってきたのだ。
隼斗がそれに気づいたのは、午前中のプログラムが終わり、お昼時間に入る直前だった。
競技場にあるスタンド席から、
「おーーーい!隼斗ーーー!」
と声が聞こえ、友人と一緒に競技場内を歩いていた隼斗が声のする方を見ると、こちらに向かって大きく手を振る深尋と、少し遠慮がちに手を振る明日香、そして黒のキャップをかぶっている僚がいた。
「なんっ......で、あいつら......!」
「うわっ、藤堂、あの女の子たち知り合い?」
一緒に歩いていた友人が、明日香と深尋を見てすぐ反応する。
しかし隼斗はそれどころではなく、とにかくなぜいるのか聞こうと思い、3人の元へ向かった。
「おいっ!なんでいるんだよっ!」
「なんだよ隼斗、来て早々怒るなよ」
「これが怒らずにいられるかっ」
隼斗は並んで座る3人の目の前に、仁王立ちで立っている。
口止めまでして隠したことが水の泡となってしまい、どうするべきか焦っていた。
そして明日香は、美里から今日の詳細を前もって聞いていて、内緒で来ることにしていたのを打ち明けた。
「隼斗に言ったら、絶対ダメだって言われるのはわかってたから......」
「そんなの当たり前だろっ」
「なんでよ別にいーじゃんっ、隼斗のケチケチのケチんぼっ!」
「なんだとコラ」
隼斗はげんこつで、深尋の両側のこめかみをグリグリと捏ねる。「いたいっ、いたいっ、やめてよー」と言いながら小競り合いをする2人を、明日香と僚が諫める、おなじみの光景がそこにはあった。隼斗はもちろん手加減はしている。
「あはっ、みんな来てたんだねー」
「よう、お前らだいぶ目立っているぞ」
4人の元に竣亮と誠までやってきた。しかも2人ともお弁当を持っていたので、どうやらここで食べるらしい。
誠の彼女の美里は体育祭実行委員のため、お昼を一緒に食べれないことを明日香は前もって聞いていた。
「なんだよお前ら、ここで食べんのか?」
「そうだよ。もう時間も無くなるし、隼斗くんも早く食べなよ」
「くっそー!弁当取ってくるっ」
そう言って隼斗が走って行く姿を見送った後、僚がポツリと呟く。
「あいつ、文句ばっか言って結局一緒に食べるのか」
「隼斗はああ見えて寂しがり屋だからー。ケチんぼだけどっ」
「私たちもお昼にしようか」
明日香はおにぎりとおかずを作ってきたらしく、それを広げ始めた。
隼斗がクラスの荷物置き場に行くと、スタンドの様子を見ていたクラスメイトから質問攻めに合う。
「なぁなぁ、あのかわいい子たち、誰⁉どういう関係⁉」
「お前がひた隠しにしている双子の片割れか⁉」
「藤堂くん!黒いキャップの男の子、めっちゃイケメンじゃない⁉友達だったら紹介して!」
などと言いたい放題だが、隼斗は「教えるわけねえだろ」と一言言って、またスタンドへと戻って行った。
隼斗が戻ると竣亮と誠は、僚、明日香、深尋の前の席に座って弁当を食べていた。隼斗も誠の隣に座り食べることにする。
そして見学組の3人は、明日香が作ってきたおにぎりとおかずを食べていた。
「おっ、明日香、から揚げ美味いな」
「へへっありがと。昨日から漬け込んでおいたんだ」
「明日香、おにぎりどんだけ作ったの⁉」
「んーーー20個くらい?お母さんが、これくらいは食べるでしょって」
明日香が握ったおにぎりは1個ずつラップに包まれて、大きめのタッパーにきれいに並んでいた。ちなみに中身は全て「梅味」だ。
「竣亮も、誠も、よかったら持っていってね。たくさんあるし」
「サンキュ」
「ありがとう明日香」
竣亮は2個、誠は3個貰っていくようだ。これから競技が続くし、終わった頃に腹の足しにするらしい。
「明日香、俺にもくれよ」
まだ弁当すら食べ終わっていないというのに、隼斗は明日香からおにぎりを貰おうとしている。
「はいはい、何個食べるの?」
明日香にそう聞かれた隼斗は、口をモグモグさせながら指を3本立てる。
明日香がおにぎりを3個取り、隼斗に渡そうと手を伸ばした時、そばに人が立っていることに気が付いた。
そこには隼斗たちと同じ色のジャージを着た男子生徒が4人立っていた。
そのうちの1人が6人に向かって話しかけてきた。
「お昼ごはん中に失礼します。僕は新聞部部長の山田と言います。藤堂くん、ぜひそちらの美しい女性お2人に取材をしたいのですが.......」
「断る」
「なぜ」
「イヤだから」
「どうしてですか!我が校の校内新聞の人気企画『美少女発掘』に相応しいお2人じゃないですか!」
「この2人は別の高校だ。なんで他校の女子をうちの学校の新聞に載せるんだよ」
珍しく隼斗が正論で返した。それを見た5人は(成長したな隼斗.....)と感動していた。
すると、山田は神妙な顔つきで隼斗に耳打ちする。
「藤堂くん、正直、もうネタ切れなんです。女子生徒の数は変わらないのに、毎月美少女を探さねばならない......この苦しみ、わかってくれませんか?」
「ちっとも、これっぽっちもわからんし、わかりたくもねぇ」
「そこをなんとか!クラスメイトじゃないですか!」
涙目で訴える山田を見て、明日香と深尋は少し可哀想に思えてきた。
「取材って、どんなことを聞くんですか?」
突然明日香が興味本位で山田に聞くと、山田は神々しいものでも見るかのような目で明日香に説明を始めた。
「まずはお名前、年齢、生年月日、そして好きな異性のタイプや趣味、得意な科目など貴方のすべてを聞かせてください!」
「おいコラ。取材はしないって言ってるだろ」
「今は藤堂くんと話していませんっ。彼女と話をしているんですっ」
あまりにしつこい山田に、隼斗はだんだん腹が立ってきた。
(しつこいのは市木だけで十分だっ)
その思いの勢いで隼斗はとある提案をした。




