恋愛知識ゼロモンスター 深尋
それから月日は流れ、6人は高校2年生になっていた。
日曜日のレッスンが終わった6人は、帰りに駅前のファーストフード店に寄って帰ることが定番となっており、この日もいつもと同じ店に来ていた。
レッスン終わりということもあって、男子4人は当然のごとくセットメニューを注文する。女子2人は飲み物とLサイズのフライドポテトを2人でつまんでいた。
みんなでおしゃべりをしていると、明日香のスマホが鳴る。
「あれ?秋菜から電話だ。ごめんちょっと出てくるね」
みんなに一言そう言うと、明日香はスマホを持って外に行ってしまった。
そのあと残された5人で話していると突然深尋が「そうだ!」と何かを思い出し、残った男子4人に尋ねてきた。
「ねぇねぇ、高校の友達で最近カレシが出来て付き合い始めた子がいるんだけど、その子たちと話してたらさ、どこまでいった?とか、どこまですすんだ?とか話していたんだけど、付き合い始めたらみんなどっか行くの?誠も美里ちゃんと行ったことあるの?友達に聞いても教えてくれなくてさー。みんなはどこに行くか知ってる?」
と、パッチリお目目で男子4人に聞いてきた。
それを聞かされた4人は、すぐに何のことかわかった。だって全員、健全な男子高校生だから。竣亮の手からポロっとポテトが落ちる。
深尋は小学生の時に元木に恋心を抱いてからずっと、同級生の男子には見向きもせず、ただ一途に元木のことだけを想っていた。
その弊害が今まさに、ここにきて出てきた。
「えーっと、深尋、お前まさか......」
隼斗が恐る恐る聞こうとするが、途中でやめる。聞くのが怖かったからだ。
まさか子を成すにはどうするのかくらいは、さすがの深尋でもわかるだろうとは思うが、いかんせん相手は深尋だ。どこまで理解しているのか、付き合いの長い4人にもはっきりとわからなかった。
そりゃあ、こっちの男同士ではそんな話もする。そういう系のものを、貸したり借りたりもする。お年頃だもの。
だからといって、明日香や深尋の前ではそんな様子を一切見せない、4人はとても優れた紳士な番犬たちなのだ。
だから男子4人は非常に困った。ピンチもピンチ、大ピンチ。
(どうする?)
(どうしよう?)
(正直に言うべきか?)
(いや、深尋だぞ。何を言うかわからん)
そうやってお互い目だけで会話をする。
困惑する男子4人をよそに、深尋はなおも聞いてくる。
「ねぇねぇ、みんな付き合ったらどこに行くのー?楽しいのー?」
「落ち着け深尋、頼むからそんなこと聞くのは俺たちだけにしとけ。他の誰にもそんなこと言うなよ。特に男には絶対言うな」
隼斗はとりあえず、深尋の止まらぬ好奇心をどうにかしようと思った。
しかし、このままほっとけば深尋は他の男に同じように聞くかもしれない。そしてその話を聞いた男が、自分が教えるとかなんとか言って.....と考えると、放置するのは非常にマズいと男子4人は結論付けた。
「えーっ、明日香にも言っちゃダメなのー?」
「......っ、明日香には.....まあ、いいと思うけど.....」
隼斗は明日香の名前を聞いて、明日香も同じくらいの知識だったらどうしようかと思ったが、今はとりあえずこの目の前にいる恋愛知識ゼロのモンスターをどうにかしなければならなかった。
なにが楽しくて同級生の幼馴染の女の子に、男友達である自分たちが男女のイロハを教えないといけないのか。
男子4人にとって深尋は、同級生ではあるが妹のような存在でもあった。
明日香がしっかりしている分、天真爛漫な深尋は「憎たらしいけど可愛いヤツ」そんな存在だった。
そんな深尋だっていつかは恋人ができるだろう。元木さんは無理でも、そのうち諦めてその時付き合った男に教えてもらえばいいのに.....
そんなことを考えたからだろうか、4人はその場をごまかして、将来出来るであろう深尋の恋人に全てを丸投げしようとコソコソと相談していた。
そしてやっぱり、こういうときに頼りになるのは我らがリーダーの僚だ。
僚はあくまでも真剣に真面目に、深尋に言って聞かせる。
「深尋、いいかよーく聞け。その場所(?)はな、好きになった人としか行けない特別な場所だ。しかも、恋人じゃなければダメだ」
「そーなのー?」
「そうだ」
僚はあくまでも恋人同士が行くところだと言い切った。中にはそうでない人がいることも事実だが、深尋にそんなことを教える必要はなかった。
「どうやったらそこに行けるの?」
「それは......」
超潔癖男の僚は女友達はいるが交際経験はない。男としての知識は持っていても、女の子に告白すらしたことのない僚がその先の説明を上手くできるはずがなかった。そうして困って口をモゴモゴしていると、救世主が現れた。
「深尋、そこに行く前に男の方から必ず、何らかのアクションがあるはずだ」
いつも深尋の無茶振りにはダンマリを決め込む誠が珍しく口を出してきた。
「アクション?」
「そう。例えば手を繋いできたり、腰に手を回してきたり。そういうアクションがあると、この人は自分とそこに行きたいんだなって思えばいい」
真面目な顔で深尋に言い切る誠。僚、隼斗、竣亮はそれを見守っていた。
でもやっぱり空気の読めない深尋は、頭に思い浮かんだことをすぐ聞いてみた。
「誠はもう美里ちゃんとそこに行ったの?」
「.................................................ノーコメント」
誠の言葉を聞いて、僚、隼斗、竣亮は少々気まずくなる。深尋は論外だ。
「なんでよっ、教えてくれてもいいじゃん!」
「教えない」
「ケチ!」
「ケチで結構」
「まあ、まあ、2人とも落ち着いて......」
深尋と誠が言い合っているのを竣亮が窘めている。これも、ものすごく珍しい光景だった。
「ごめん、ごめん、明日提出する課題のことで........って、どうしたの?」
友人との電話を終えて戻ってきた明日香は、5人の変な空気を感じ取った。
すると、深尋が明日香を潤んだ目で見つめながら告げる。
「明日香、明日香は私を置いて行かないでね。もし行くときは一緒に行こうねっ!」
「........行くって、どこに?」
「なんかね、恋人としか行けないところがあるらしいの。でも、私は明日香も一緒がいいからっ」
「んーーーーよくわかんないけど、わかった。一緒に行こうね」
そう言って笑い合う2人。それを訂正することも出来ず、ただじっと冷や汗を垂らしながら見ている男たち。
この時嘘をついてごまかさず、本当のことを言えばよかったのかと考えたが、当時高校2年生の自分たちにはこれが精いっぱいだった。
それから深尋は「(恋人と)どこまでいった?」の本当の意味を大学に入学してやっと理解した。男子4人から聞いた話と違う!と思ったが、自分が変なことを聞いたために、ああ言うしかなかったんだろうと思い止まり、抗議するのはやめておいた。そんなことが出来るくらい、深尋も少しは成長していた。
そして男子4人のごまかし作戦により、深尋の初カレシの木南に全てを丸投げしたことを男だけで飲みに行った時に素直に話したら、木南からつめたーーい目を向けられた。
もしあの時、深尋にきちんと話していれば、木南との仲も少しはススんでいたかもしれないのに......という恨めしいお言葉を頂いて。
まあでも、4人が思っている以上に木南は深尋を大切にしていたので、結果オーライだなとその場も笑ってごまかした。




