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狙われた明日香

これは6人が中学2年の時の話。


隼斗と誠はバスケ部に所属していた。明日香は英会話クラブに所属し、それぞれ2年目を迎えていた。


部活が終わり着替えを済ませた隼斗は、誠と一緒に英語準備室へと向かう。

明日香を迎えに行くためだ。


「なぁ、誠。今度バッシュ買いに行くの付き合ってくんね?」

「は?お前、この間買ったばかりだろ?もう駄目になったんか?」

「ダメになったんじゃなくて、狭くなったんだよ。少し大きめを買ったんだけどな」

そう言ってまだ使えるシューズを目の前に掲げる。


成長期を迎えた隼斗は、明日香がタケノコだと言う様にすくすくと成長し、先に身長が伸びていた誠に追いつく勢いだった。

よく寝て、よく食べ、よく動く隼斗は、母親からも「燃費が悪い」と言われるほどだった。


しかし、平日は学校のあと部活に精を出し、日曜日はGEMSTONEでみっちりダンスレッスンとボイトレをしている成長期の男の子たちにしてみれば、それは必然的なことだった。


それから英語準備室の扉をノックもせずにガラガラっと開ける。

「明日香ー。終わったかー?」

隼斗と誠が部屋に入ると、そこには明日香と1学年上の副部長だという先輩(男)がなぜか向かい合わせで立っていた。


「あ.....隼斗」

そう言う明日香の顔がほんのり赤い。

それを見た隼斗の双子レーダーが瞬時にピピピッと反応した。


先輩は隼斗の姿を確認すると、掛けている眼鏡をくいっと人差し指で押し上げ、隼斗にも聞こえるくらいの声で、

「それじゃ藤堂さん、また明日」

と言って部屋を出て行った。

隼斗はその先輩の姿をじっと目で追っていた。


「あの先輩と何話してた?」

「別に.....何も。部活のことだよ」

「嘘つけ。目が泳いでるぞ」

「泳いでないしっ、それになんでいちいち隼斗に言わなきゃいけないわけ⁉」

「明日香は俺が見張ってないとすぐ騙されるからな」

「何よそれっ、わたしがいつ騙されたのよ⁉」

「はい、はい、そこまで。続きは家でやれよ。帰るぞ」

双子のケンカがヒートアップする前に誠が止めに入る。

中学生になってから、隼斗の明日香に対する番犬ぶりはひどくなる一方だった。


それもそのはず。明日香を見る男の目線が、イヤらしいことこの上ないからだ。

中学生になった明日香は、おしゃれや美容に気を使うようになり、もともときれいな顔立ちだったのがさらに磨きがかっていた。

そして、だんだん女性らしい体つきになってくると、周りの男共がハイエナのような目つきで狙っているのを、隼斗が黙っているはずがなかった。


あの先輩はブラックリスト入りだな。

隼斗は帰りながらブツブツと独り言ちていた。


それから数日後の昼休み。

誠を含むバスケ部のメンバーと体育館で身体を動かして教室に戻る途中、階段の踊り場に明日香がいるのが見えた。

「うわ、藤堂明日香だ。かわいいー」

「おいコラ。手ぇ出すなよ?」

「......崎元、このシスコンどうにかしてくんねぇ?」

「無理だな」

「下心丸出しで明日香に近づく奴は誰であろうと許さん」

そう言いながら、隼斗は明日香の元に行くため階段を昇る。


「明日香、そんなとこで何して.......」

明日香のそばに立ち、明日香と向かい合っている人物を見て、隼斗は警戒アラームをMAXにする。

英会話クラブの副部長がそこにいたからだ。


副部長のその先輩は隼斗の顔を見ると、眼鏡を人差し指でくいっとあげる。

「......また会いましたね、先輩」

「こっちは全く会いたくないんだけどね」

「奇遇ですね。俺もですよ」

「ちょっと、隼斗.....」

明日香は隼斗の袖を引っ張って窘めるが、隼斗はそれを無視する。

異様な空気感にさすがの誠もそばに寄ってきた。


「先輩、明日香のこと狙っているんですか?」

隼斗はズバリ単刀直入に聞いてみた。

それに対し先輩は冷静に答える。


「君は藤堂さんの弟であって、別に付き合っている男ではないだろ?そんなこと君に教える必要はないと思うんだけど」

「そうですか......」

隼斗はそう言って少し考える。そして明日香を誠に預け、先輩の腕を掴み明日香から離すように階段を昇って行く。

「なっ、なにを.....!」

「大事な話があるんです先輩。悪い誠、明日香頼むな」

「ああ......」

「隼斗⁉どこに......」

「心配するな明日香、ちょっと先輩と話してくるだけだから」

そう言って隼斗は先輩を連れて行ってしまった。


その日の放課後、クラブに副部長の先輩の姿はなかった。

まあ3年生で引退も近いので、来なくても別におかしくはなかった。現に部長である同じ3年生の先輩(女)は、すでにクラブに顔を出していなかったから。


「隼斗っ!先輩に何を言ったの⁉」

帰りながら明日香は隼斗を責めていた。

たとえ自分を心配しているとはいえ、先輩に失礼な態度をとったのではないか、それで怒って来なかったのではないかと思ったからだ。


「別に大したことは言ってねーよ」

「じゃあ、なんで今日クラブに来なかったのよ⁉」

「そんなの知らねー。第一、3年生なんだからもう引退だろ?受験勉強に専念しないとなー」

「それは.....そうかもしれないけど.....」

「たぶんもうあの先輩、明日香の前に顔を出せないと思うし」

「え.......何か言った?」

「別に、なにも」


隼斗が機嫌よくニコニコしているのを、誠は黙って見ていた。

だって、誠は知っていたから。隼斗が明日香の見ていないところでいろいろやっていたのを。


先輩はあの日、明日香に交際を申し込もうとしていた。しかし、その直前に隼斗が入ってきたので言えずにいた。

明日香の顔が赤かったのは、先輩に手を握られて足止めをされたから。


でも、隼斗は知っていた。あの先輩が見かけによらずやんちゃで、あまり評判が良くないことを。

眼鏡はそれを隠すための道具のひとつで、明日香に告白しようとしたのも仲間内での賭け事のためであった。


美人の藤堂明日香を誰が落とせるか。明日香は極めて下品な賭けの対象にされていた。


それを隼斗はバスケ部の先輩から聞かされた。

「お前の姉ちゃんが狙われてるぞ」と。

隼斗のシスコンぶりは男子バスケ部内では常識だったので、わざわざ隼斗に教えてくれたようだ。


そして階段から先輩を連れ出した後、隼斗は知っていることをすべて先輩に伝えた。もし、明日香を傷つけたら進路指導の先生にも全部バラすと脅して。


高校受験を控えた先輩は、今までのようにやんちゃをすると自身の内申に響くことは理解していたようで、それ以降クラブに行くこともなければ、明日香に話しかけることも無くなった。


最も、英会話クラブもほぼほぼ幽霊部員だった先輩が、急に参加し始めたのは賭け事のためであったのだが、そんなことがあったなんて明日香は全く知らないし、今後も知ることはないだろう。


「隼斗、お前のシスコンパワーは尊敬に値するものがあるな」

「そうか?普通だろ、これくらい。そもそも俺はシスコンじゃねーし」

「いや、絶対普通じゃない。そしてお前はいい加減認めろ」

「なに?なに?なんの話?」

隼斗と誠が話している間に、明日香が割って入ってきた。

「なんでもねーよ」

そう言って隼斗は明日香の頭をぐしゃっと掴み、わしゃわしゃっとかき混ぜる。

「ちょっとっ!やめてよっ」

髪の毛をぐちゃぐちゃにされた明日香は、手櫛で髪を整えながら隼斗を睨みつけている。


それを見て誠が隼斗に呟く。

「俺はつくづく、こっち側でよかったって思うよ」

「おっ、さすが仲間だな。俺が男で信用しているのは、誠と僚と竣亮だけだからな」

しかし隼斗はこの時まだわかっていなかった。

数年後に強敵が現れることを......。


それはもう少し未来のお話。

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