お家の為に冷酷騎士に媚びてみせたわ!嫌だけど!
数ある素敵な作品の中から、お読み頂き有難う御座います。
手芸の腕は有るけど没落寸前な令嬢が、入婿求めて我慢を重ねてお見合いするお話です。
タイトルに悩みますね。
眼の前には王都でも高名な庭師が作ったという、見事な庭園!
澄み切った青空と、今が盛りの薔薇が相俟って、素晴らしい絶景なのよ。ああ、古の青い目の公爵夫人をイメージして作られた噴水の吹き上げる飛沫も美しいこと! 何だかよく分からない花壇の花に集う蝶もキラキラしているわ!
真ん中凹んだ変な花ね。集ってる蝶々はド真っ赤で派手だけど。
まあ取り敢えず素敵なお昼よ。素敵な場所よ。
ただねえ。
横にいるのがねえ。
ええ、コイツでなけりゃなあ。
「まあ見てくださいな、何て素敵なお庭……!!」
「…………そう……か」
ああ、怒鳴りたいわ。
こんなに、こんなに……! 慎ましい生活の中、鍛え上げた腹筋に力を入れて! 小鳥の囀りにも負けない可愛らしい声を捻り出しているというのに!!
「……」
返事が遅い! 下向いて喋るな! ただでさえも聞きにくい声が篭って空気に溶けていく! 聞こえん! もう、どっか行け!
そんな想いを心に押し込め、必殺メガキューティーキラースマイルを繰り出す私って、本当に世界も驚きの健気さよね! 世界的規模で表彰もののイイ子な私には、何かとってもいい事が起こりそうだわ! 寧ろ起こって頂戴!! 起こるべきよ!
具体的には、我が家の庭(狭い)から伝説のポクガー将軍の埋蔵金塊とかが良いわね!
因みに、ポクガー将軍は代々続いたセレブ名家だけど、隣国に攻め入られて逃げる際に財産を其処らに埋めたらしいわ! 二百年経った今も、未だに古代浪漫と物欲に魅せられて、手ずから発掘する人が絶えないの! 受け継ぐ人居ないらしいから独り占めよ!
まあ、それもその筈よね。何てったって平民の家レベルの大きさの宝箱の中には、金塊や金貨がボンボン入ってるんですって! そりゃその辺掘るわよね! 掘れる財力羨ましすぎ……いえ。こほん。
夢を追いかけられる力って、素敵よね。そして、歴史にも詳しい浪漫溢れる私って、素敵! お金と暇が出来たら、私も硬いスコップ持参で埋蔵宝箱を探しに行きたいわ!
「……」
「あらあ? 喉でも乾かれました? お茶でも頂きます?」
黙るな! 何かしら、言え!! 果てしなく健気な私を褒め称えなくてもいいから、リアクションをキッチリしろ! 報連相! 思いを! 何か! 口に出して! 言え!
「要ら……ない……。……。……で……」
聞っこえねえわあ!! お前の声は泡となって消えたのか!? 喋らないなら、存在ごと其処の噴水の水の泡と消え失せろ! なーんて叫ばない私って、本当に行き届いていてミラクル素敵!
「そうですか。あちらに素敵な喫茶店が有りま……」
「……恥ずかしい」
5億回程思ったけど、こんな時だけ聞こえるように言うな! 何なのコイツは! 最後まで言わせろ&フォローが面倒臭すぎる……!!
「す……素敵な場所に気後れされましたのね。うふふ、可愛らしい所もお有りになって!」
私の方が数億倍可愛らしい笑顔を装備してるがな! 心にもない言葉も繰り出せるステキ令嬢! そんな私は、没落カウントダウン真っ盛り! ナヴァカリ伯爵家長女のチャロッテ・ナン・ナヴァカリ! 今滞在中の王都で一、二を争う可哀想可憐な乙女!
只今! 身内の不手際で没落まっしぐらの我が家の御為、この上なくタイプじゃない野郎に媚び売り中よ!
……この国一番の! 滅茶苦茶健気で! 可憐で可哀想な悲劇のヒロイン! それが私!
でもね、今日だけでもこのザマよ。幾ら私がポジティブでも虚しくなるわ。
この見合い相手のせいで。
今の所、知り合いレベルの、見合い相手のせいで! 気分は真っ青よ!
此奴は婚約者ですらないのよ。単なる! 見合い相手なの。
んもうね! 快活で笑顔が爽やかで返事はちゃんと打てば響くような方でー! ……とか、殿方に対して理想はあるけど! 眼の前の此奴は無愛想で打てば凹んだまま、欠片も引っ掛かりやしない! 何から何までこう……イラつくの! 良くてちょいイラッとさせてくる此奴は、死ぬ程タイプじゃないのよ! 帰りたい!
ああ憎いウザいわあ。金蔓にしかならんボンクライケメンいえ、奴のカラーリングは正しく雪と泥! 白っぽい金髪に、泥濘んだジトッとした濃い茶色の目! 凍えそうな寒々しい湿気た色合い!
まあ、……瞳が澄んだ青とか煌めく赤とかならねえ。
ヒューヒュー! そこの君ィ! イケメン連れて目立っちまうね、そこのイケメン&美女! お似合ーい! 結婚秒読みィ! って世間を騒がすのにワンチャン有ったかもよね。
それに此奴が派手なら、連れ歩き甲斐が有ったかしら。
んー。でもまあ、私は此奴にお家を最高に再興させる以外、興味が持てないから! 髪の色目の色如きどうでもいいのよね。泥だろうが血の色だろうがドブ色だろうがどうでもいいのよ。
私の瞳は美しさと華やかさが際立つけど温かみのあるピンク色だけど、うん、茶色に間違われるし! 思ったより目の色って役立たないなんて、悲しんでないのよ!
「湿気……」
「……」
ほらね、私がウッカリ何かを呟こうとも! ノーリアクション!
……湿気た泥色の目をジロっと動かしてくるだけ!
いや、惚れてんならね。ジットリと私を見てくれていいわよ。嫌だけど我慢するわ。
それにね。ジメジメ見るなら褒めろってのよ。私の美貌を引き立てる没落しかけなのに流行りを取り入れた渾身のこの……リメイクドレスを! 褒め称えるべきよ! 私のセンスと手芸の腕を!! さあ! 心ゆくまで感嘆しろ!
「その裾……マダム・チャレーナのパクリ?」
ヒィィこの野郎……! 往来で何てこと抜かしやがる!!
誰がパクリだ!! 参考にしただけ! 訴えるぞ!
「パッ……クリじゃないですのよ! 流行を追いかけてますの!」
「……」
いや、其処は勘違いしてゴメンね! お詫びにおっ高いドレスを送るよマイハニー! な流れでは? そしたらやったね許すわ! ってなるシーンよね? 許さないけど物は欲しいわ。心は癒えるもの。
でもまあ、実際のリアクションは、心の底から分からんみたいな顔で首を傾げてるしね。何にも判っとらんで苛つくわー。
「……次は」
「次!? あいっ……次にお会いできる日を心待ちにしておりますわね!」
「……、……」
会 い た く ね え! 心から!
またお会いするの、地獄でも嫌だけどそう言わざるを得ない心優しき銭無し令嬢! それが私!
はあーーーーー! 今日も今日とて脈はない、か。
相っ変わらず、息の根を止めてリアルな脈も止めてやりたい気分の時間だったわ。何度でも思うけど、心の底から地獄でもまたお会いしたくない。
そんな暗い気分の中、高らかに鳴り響いた天のメロディ!(王宮広場の時報の鐘)
勤め人の休憩時間が終わった合図ね。つまり此奴の帰る時間。心から待ち遠しかった! どんな名演奏より心を打ったわ! 有難う鐘を設計した人に鋳造した人!
「では、また……」
「ええ、楽しみにしておりますわね」
貴様がセルフ息の根を止める日を心待ちにしてるわ、的にならねーかしら。
あー会いたくない……。もうずっとその辺の通行人として、赤の他人でいたい。今からでも領地に金貨たんまり入り宝箱見つからないかしら。
……早文は来ないわね。もう矢文でもいいわ。刺さって欲しい頼むから。
因みに、ノロノロノコノコ去って行きやがった根暗雪泥野郎は、こんな失礼なのに王宮勤めのエリート騎士なの。
休憩時間に私とお見合いをね、重ねているのよ。……お見合いを重ねるって何なのよ、本当に。ふざけんな、よ。
早くに断ってくれりゃサッサと次に行けるのに。
本当に寄親筋ったら、面倒な殿方を紹介してくださったもんだわ。あの暗くてグダったノリだから婚活レースに乗り遅れたって? 知らんわ! 若くて可愛い素敵な私に不良債権引受人やらせんなってのよ!
「隙……多い……」
「……えっ……?」
隙がどうしたってぇ?
態と頼り無さげに脇も甘く隙だらけに見せてんだよ! 殿方の守ってあげたいハートを擽ってんの!
腹立つなあ、あの去り際のボヤキはよぉ! まだ居たのなら早く帰れよ。でも、振り向くべきかなあ。お金の道へ繋がる人道的に……。
「って、え……?」
はあ~!? こんなに可憐に振り向いたのに、もういやがらねえじゃないの! せめて道に小銭いえ、金釦でも落ちてないかなー。無慈悲ね。無いわ。
最早、別れたら即古めかしく舌でも出すか、くたばれ指でも指し示してみたいもんだわ。
でも私は売出し中の乙女。価値を下げることは死を招くの。往来ではお淑やかに可憐に! がモットーよ。つい奥歯をギリギリ噛み締めちゃったけど! いけないいけない。素敵な歯並びはレディの命よ。
はあー、でもなあ。意味不明な野郎に付き合うと、ヤケ食いが捗るわ。
今日は海際寄って、秋刀魚サンドでも食べて帰るかなあ。それとも海鮭サンドかなあ。
財布も気分も大赤字だわ。
あーあ、次の見合いの誘いが来ちまったわあ。早く終わらないかなー、と思ってたら……。何と、横槍が来たの。
「カネピッピ?」
「……カネ……え?」
「ヤダー久し振りぃ! 覚えてるよねえー。アママダだよぉ〜」
誰だよぉ〜。
こんのクソ生意気なツラの、お洒落オンリー膝丈エプロンスカートはよお? とお返事したいわね。
因みに、今回でえーと何回目? ……もういいや。断りたいお見合いモドキ数回目中よ。まさかの間男ならぬ間女が乱入たあ、いい度胸ね。
やはり好みでないけどツラが良い、いえお顔が良さげだと、こういうイベント頻発するのかしら。関わりたくなーい。
「アマ……マダ、いや、アママダ……嬢」
まあ! 私をエスコートしてる分際で、余所の女をファーストネームで呼んどるわ。こりゃあ、失礼千万・破局秒読みの気配がプンプンしてきたわねえ。
何だ? 間女ってばマウント系幼馴染か? ネットリ系元カノか? ストーカー系親族か?
「カネピッピは何してんのぉ〜? お散歩?」
「その、見合いだ」
カレピッピではなくカネピッピって、お金をピッピと貢いでくれる金蔓って事かしら? まあ、碌でもないご関係! 私に逞しい権力と麗しい腕力があれば、顔面パンチを繰り出したい事案だわ。考えるだけで血の気が巡りスッキリしそう! しかし顔はいいけど、金貨のような黄金色の髪も眩しい……意外と背が高い女子ね。こんなのをホイホイ寄せ付けて、身長欲しい私への嫌味かしら?
腹立つなあ。
まあ、脳内で双方をボコボコにしたところで話を纏めると、成程、コイツは元カノのようね。
今、この好感度最低男が見合いって断定したから、不貞額幾らになるかなぁ。ドレス代10枚位にはなるかしら? 一先ず、コイツの瞳のような淡い緑のドレス欲しいけど、淡い色似合わないのよ、私ってば。
「え? 可愛い。
あ~、そこの無駄派手なコ? ……しゅ、趣味変わった〜?」
「無駄派手ではない。ちゃんとした派手なんだ」
はい、致命的破局ポイント3億点追加! エスコートポイント5兆点減点により死滅! 不貞決定!
蹴り飛ばしたい心を宥めて、覚えとかなきゃね!
腸が煮え繰り返るわあ。貴様、私を派手だと馬鹿にしとったな。許さん!
見合い用に清楚可憐目に装いしとったのよ!
「でもでも〜カネなさそ〜。ぜえったい、カネ目当てかもよ〜怖〜」
「オメーに言われたかねえんだよ、エセハンパ清楚モドキ」
「え?」
「一体この方は何方ですか?」
「きっ、君には……かかか関係ない?」
はいアウト〜。
最早許してないけど、心の中で軽快に罵っちゃうわ。ちょっと心の声が剥き出しになっちゃった!
「あの、私もう帰りますわね」
「え?」
えじゃねえわ。
そして、何故横のカネ目当て呼ばわりさんが挙動不審なの。あ、さっきもか。
いっけなーい私ったら! 変な乱入女に常識的な挙動を求めちゃった! 知らねえ知らねえ! 不審者は敵!
「私が派手で不快でしたら、もうお呼び立てはご遠慮ください。時間を無駄にして悲しいです」
時間とお金は有限なのよ。滅茶苦茶儚いものよ。
「あ、その、ええと……い、言い過ぎた? えーと、あのね」
「その、アママダも悪気は、その無くて」
「意に沿わない見目で申し訳御座いません。もうお目見えすることはありませんが……お疲れ様でした、お元気で」
「ちょ、待って、待ってえええ!」
待てと言われて待つ理由あるか!?
自慢じゃないか私の足は速いのよ。春風のように軽やかに走り去る気力も有る!
「待ってくれ!」
「ちょ、誤解ですから! お前、だから言って……追いかけろ!」
が、くそっ! 足が鈍った! やはり余所行きドレスのスカートで走るのは限度がある! このパニエ、滅茶苦茶足が縺れるな! 今度から一重にしよう! スカートが膨らませても機動力は減るし、イイ男は得られないのは分かったわ!
「きゃー! 触らないで! 必殺!」
嫌だったのだもの。だから、好感度最低男お先真っ暗キック! を繰り出したわ。
まあ、何処が当たったとは言えない。だって相手も私を掴みやがったもの。
触れてはならぬ神聖な領域。万死に値する、乙女の二の腕を!
という訳で。
痴漢にはキックを繰り出せたいえ、悲しみに駆られてよろけて何かを踏みつけてしまった私の媚び生活は終わりを告げたの。
悲しいわね。
でも未だ釣書が来るの。あの戯け野郎から大量に詫び状と、何故か釣書が。
お金で解決して欲しいわ。
この釣書売れるかなー。
と思ってたらさあ……。
「あの、仕込みだったんです……」
金目当て呼ばわりさんがやって来たってのよ。ドレスの改造で忙しい昼日中!
しかも何でか男装で。髪型少々違うけど、男装の麗人用の装いなのかしら。よく分からんジャンルね。
しかし、何の話なの? 仕込みってお夕飯の話?
「……お約束もなしに、大変申し訳なく」
「はあ。粗茶ですが」
「ご、ご丁寧に……」
伯爵家と言えど、貧乏なもんで使用人が少ないから簡単に出来ることは色々セルフでやらなきゃ。だから簡易なおもてなしもやるわよ。
当家はイレギュラーな訪問に繕える人材は余ってないのよね。まあ、簡易とは言え中々、お茶出すのも面倒なのよ……。
でも、男装かあ。楽そうで良いわね。あのシャツ、私の夏の室内着へと参考にしようかしら。
「はあ……アママダさんでしたか?」
「はい、テッド・アママダールです」
……?
何だか昨日聞いてた名前違うわね? この方の男装の麗人ネーム?
「……その、私はですね。男なんです」
「へええええ?」
男装の麗人ならぬ、女装の美青年!
……濃い元カノ持っとるのね、あの根暗雪泥野郎。
あ、彼同士だから元カレになるのかしら? うーむ、女装青年の恋人のジャンル分けは私には厳しいみたい。それにしても線の細い美青年だこと。あの雪泥野郎とどういう知り合いで関係……あっ、そういう関係なんだっけ。出会いはきっと出会い頭にお姫様抱っこでも喰らわせたのね。
「……殿方同士のご関係に偏見とか有りませんけど、あのドロ……」
「ドロ?」
「カネピ……カネムーン伯爵令息の恋人として、此方に何をしにいらしたの?」
いけないいけない。アイツの家名を脳内から消し去ってたわ。不義に頭が煮えすぎたのね。
しかし、名前の方は忘れたわね。特に呼ぶ用事も無かったし!
「違います! あああ! やっぱりこんな事すべきではなかった! 神よ!」
煩い方ねえ……。
神が居わしたなら、ウチの庭に古代からの有り余る資産をお授け下さる筈よ。金運アップをどんなに祈っても、よく花の枯れる庭でしか無いわ。虚しいものね。
「それで、あの方とは特に婚約を結んでもないですし、結ぶ予定も消え失せたので」
因みにちゃんと家長であるお父様には伝達して、向こうに不義を訴えて貰っといたわよ。
弁明に来るとか言ってたけど、お断りしたわ。あの野郎、黙り込むのがデフォだものね。ウチに来ただけで無言を貫かれてそれが詫びだとか言われたら、嫌すぎるのよ。
「そ、そこなんですが……」
「恋人がいらした方を抱え込むような愚策は、いえ、割り込むような事はしたくありませんし」
「恋人ではありませんっ! 私の性自認は男ですし、伴侶には御婦人を望みます!」
「はあ」
でもエプロンドレス似合う系女装がご趣味なのか。そんなカミングアウトされても困るわね。同好の士と過ごして欲しいわ。
「元は……その。私達は男ばかり5人居る幼馴染でして」
「まあ、その方の中にカネムーン伯爵令息のご本命の良い方が?
それでお見合い相手である私が嫉妬に駆られると誤解されて偽装工作を受けられたので……?」
へえ、何て複雑怪奇で濃い話なのかしら。私に文才でもあれば、王都新聞にでも投稿して一躍ベストセラー書籍に出来るかもしれないけど……。その手の才能、悲しいことにサッパリなのよね。
それに、変にチョッカイ出すと刃傷沙汰に巻き込まれて儚くなるのは御免だし。殿方同士の争いって首突っ込みたくないわ。
……とまあ、結論はお金に繋がらなさそう。超どうでもいい案件ね。
「違いますっ! ですから……幼馴染であるひとりが、ドダロムと貴女との仲を進展させようと……企みまして、それで、その……カードゲームに負けた私が、その……」
「引っ掻き回し役に抜擢されたと……」
アホな殿方のその場のノリで決まったアホな計画に私は巻き込まれたと……。こういう人をバカにするノリって、誰かの怒髪天を必ず衝くって何故分からないのかしら。
「聡明な方ですね、チャロッテ嬢……」
「それで、その話をご披露されて何の御用なのですか?」
しょーもなーいお話ー、と半目でシラッとした顔をしてたのが、向こうには悲しんでると思われたみたい。まあ、私は何時でもチャーミング笑顔装備だから、表情消すと急に悲しげに見えるらしいわ。
「悲しい思いをさせて、本当に申し訳ない。しかし、ドダロムと会ってやってくれないか……?」
「私の悲しみを曲げろ、と。そうお願いされますのね」
「うっ……。やはり、そう、だよな。本当に申し訳ない事をしました……」
意識して目をウルウルさせて顔を伏せてみたけど……滅茶苦茶悄気てるわ。何だか可哀想になってきたわね。
哀れを誘うのは、あの雪泥野郎とは違うタイプのイケメンだからかしら。
でもまあ、私は顔には絆されないけど。そんなもんに拘ってたらお家再興は遠のくのみよ。信じるのはお金と誠実よ。
「そもそも、御本人であらせられるカネムーン伯爵令息及び、他の企画者の幼馴染の方々は何をされているのかしら」
分かりやすくビクって肩が動かれたわね……。
この方、本来は嘘が吐けないタイプみたい。演技は上手いみたいだけど……。
あの金ピッピいえ、カネムーン伯爵令息の野郎と幼馴染はこの方を先ず様子見に放り込んだのよね。
反省してたらせめて郎党組んで来るわね。
「私、不誠実な方は好みませんの……」
まあ、感じ悪い奴と人を嵌めるような奴も嫌いだけどね!
「それに、カネムーン伯爵令息に幼馴染の方々は私の事をお嫌いなのですよね? 貴方様に場を引っ掻き回せと仰るようですもの」
「そ、それは違います!」
うーむ、この方中々押せば何とかなるかしら?
あの雪泥野郎のように、会話能力が皆無な訳では無い。ちょっとノリに押され気味な所は否めないけど……。
幼馴染とやらの縁をぶった切れば、単体なら……好ましく思えるかしらね? 淡い緑の瞳も、中々美しいし……。この方に着せるならどんな礼服が良いかしら。クリーム色なんかも似合いそう。黄金色の髪に薄い緑の瞳の儚げ美青年。あんな雪泥野郎よりも中々ゴージャスじゃないの!
「まあ、そうかしら。困った事はよく任されてきたように見えますわ。幼馴染の方々は、貴方様を労られていて?」
「……それは……」
「台本は幼馴染の方が?」
「ドダロムが……あっ」
だろうな……。演技派だけど、素面で演技不可能みたいな方と見受けたしね。
まあ良いわ。
伯爵令息の幼馴染なんだから親が爵位持ちでしょう。国の重鎮アママダール侯爵家にあの雪泥野郎と似通った歳の独り身の三男がいたって聞いたわ。
しかし、この方が女装した時に出て来なかったねえ。まあ、女装の偽名に家名使われるとか、咄嗟に思いつかないわよね。私ってば模範的な令嬢だし。細かいことには目を瞑るわよ。服装なんて自分の好みで楽しむものよ。
「私を悲しませた責任を取ってくださいますわよね? アママダール侯爵令息セオドア様」
「えっ、あの……何故本名を……」
そりゃあ、没落寸前とはいえ、跡取り娘ですもの。貴族年鑑の丸覚えくらい朝飯前……いえ、大変よ。
しかし、丁度カーテンの隙間からの日差しに光り輝いて…、金貨のような黄金の御髪ね……。
嫌いな奴も根性で耐えていたら私、下手な埋蔵宝箱よりも良いものを掘り当てたかもしれないわ!
「乙女に恥を」
「わ、わー! 本当に申し訳有りません! 二度とやりません!」
「私、あんな卑劣な事を幼馴染の方々と企むドロ……カネムーン伯爵令息が本当に無理ですわ」
コレは滅茶苦茶本音よ。
「そ、そうですよね! 本当に無理ですよね! はい!」
「……アママダール侯爵令息がお守り頂けませんの?」
上目遣い……したら、……あ、効いたみたい。お顔が真っ赤だわ。私の可憐さがヒットしたのね!
あの雪泥野郎には全く効かないから自信喪失しかけてたのよ。私ってば可愛いものね!
「命を賭して……貴女をお守りします」
え、チョロ〜い!
……やっといてなんだけど、大丈夫かしらこの方。
頼りないなー、と思ったけど。
それが、やる気になったアママダール侯爵令息は滅茶苦茶頑張ったみたい。
王命……でもないけど、うっすら国内バランスの為的な……その割には婚約決まってなかった私と雪泥野郎との……何かしら? 縁? とかをぶった切る事に成功したの。
ご本人は下っ端文官らしいんだけど、侯爵家パワーの凄まじさなんでしょうね。七光り素晴らしく羨ましいわ。権威が有るなら早く切りたかったわよ。
その間、報告としてよ当家にお出でになって……まあ、それから私と良い感じの雰囲気になってセオドア様との婚約が結ばれたって訳なのよ。
侯爵家からも、いい歳して幼馴染でツルんでムサくて無意味だ、と煙たがられた三男の入婿が決まった事に大喜びだったらしいわ。散々だけどまあいいわ。諸手を挙げて良い感じなんて早々ないわ。上出来ね。
「ドダロムは、メチャトー地区にで5年赴任になったそうだよ。幼馴染は」
「まあ……誰だったかしら、その方。記憶の泥濘に埋もれたわ」
「チャロッテは切り替えが早いね」
まあ、セオドア様は家は凄いけど特に持参金もお持ちではないらしいし、お仕事的にもそんなにエリートでもないけど。
私が仕立てたシャツを喜んで着てくれる彼って、私への愛に満ちているわよね!
お読み頂き有難う御座いました!