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episode 7(最終話)「連理の契りを君と知る」


 椿月はあの頃の夢を見た。




 毎夜、こっそりと会うあの人。


 雪に囲まれた、月のない真夜中。寒椿が凍える庭。


 胸の隆起もまだなく、枝のような四肢をした子供の頃の私。


 膝を抱えて震えていた私を、勇気づけてくれたのは――






 朝からしとしとと降り続く雨音が、彼女を眠りから呼び覚ます。


 薄く開かれたまどろんだまなこで、椿月はぼんやり思う。


 夢に見るなんて珍しい。ずっと忘れようと努めてきたから、もうあの人の顔も声もうまく思い出せないのに。


 絶えず降り注ぐ細い雨の音に誘われ、椿月はまた瞳を閉じた。











 朝から降り続く冷たい雨の中、特注の傘を手に一人歩く、洒落たスーツ姿の男がいた。


 往来を行く人々の中でひときわ存在感を放つ、見目麗しい彼の名は、神矢辰巳。


 この都市にある劇場で活躍する、人気俳優である。


 最近では他都市での主演公演も成功させ、巷での評価はうなぎ上りであるとか。


 陰鬱とした雨空などまったく介さず、長い脚で颯爽と街中を歩いていた彼だったが、ふとあることを思い出し、思わず顔をほころばせた。


 そのあることとは、彼の友人と、舞台仲間である女性が、ついに互いの気持ちを通わせたという事実だった。


 他都市での公演を終え、久しぶりに地元の劇場に帰ってきた彼を迎えてくれた二人。


 開口一番、いかに自分があちらの劇場で活躍したかを話してやろうと思っていたのだが、神矢はその鋭い感性で、二人の雰囲気の違いにすぐに気がついた。


 別に、二人はべったりくっついていたわけでも、ニコニコと寄り添っていた訳でもない。


 いつも通りの立ち位置、いつも通りのふるまいなのに、なんとなく、二人の間の空気が違う。


 何を訊かずとも、言われずとも、神矢は察した。


 二人を交互に見、ははーんと笑って、一言、


「おめでと」


 とだけ言った。


 二人は顔を見合わせ、おもてを耳まで真っ赤にして、


「な、何が?」


 と、一生懸命とぼけたふりをしていたが。


 そんな、年齢の割に初々しい反応も含めて思い出し、神矢はふふっと笑ってしまうのだ。


 ずっと二人の間でそれぞれの気持ちを聞かされていた身としては、奥手な彼らがようやく結ばれてくれたことを嬉しく思う。


 特に椿月のことは、彼女が劇場に来たばかりの暗い姿を知っている分、幸せになってほしいと思う。


 そんなことを考えながら視線を遠くにやっていると、通りの向こうからやってきた一台の高級車が、前の方でおもむろに停車したのが見えた。


 運転席に座っていた白手袋をはめた男が、二本の傘を携え、すぐに飛び出してくる。


 神矢には分かるが、遠目ながらあのうち一本の傘はかなりの品物だとうかがわれる。


 白手袋の運転手が後部座席の扉を恭しく開き、ドアの上に丁重に大きな傘を差し掛ける。もう一本の高そうな傘は、後部座席の主へと差し出されていた。


 これは果たしてどれだけの人物が降りてくるのかと、神矢が興味深く視線を奪われていると。


「えっ」


 差し出された傘を手に取り、車外に姿を見せたその男。


 仕立てのよい着物に、高級布地の長羽織を合わせたその出で立ち。


 そしてその顔は、神矢も見覚えのあるものだった。


 今まさに考えていた人物の顔。


 神矢は思わず駆け寄った。


「センセー?! 一体何やってんだ?」


 侍する白手袋の従者は、神矢に不審そうな目を向ける。


「お知り合いの方でしょうか……?」


 判断を仰がれた主が神矢に向き直る。


 その相貌は間違いなく、自分の知った人のものであるはずなのに。


「何か?」


 男は初対面の反応を示す。


 近い距離でじっと見つめ合ってみて気づく。


 同じ表情の乏しい顔でも、無関心から来るそれではなく、感情を読ませまいとするそれ。


 その目に宿る、研ぎ澄まされた刃のような、底の知れない冷たさ。その心の奥に、何を飼っているか分からないような。


 神矢はようやく人違いを理解し、さっと自分の態度を切り替える。


「……失礼いたしました。知人に似ていたものですから」


 俳優としての全力を出し、爽やかにそう伝え、ともすればひっ捕らえられかねない剣呑なその場から、素早く逃げた。


 背格好も顔も、誠一郎にそっくりだったのに。


 口を開いてみると、物腰や雰囲気がまったく違う。


 だが、よく考えてみると、あの男性は眼鏡をかけていなかった。近眼の誠一郎ではありえないことだ。


 しかし、それ以外は本当によく似ていたのだ。


 おさまりの悪い気持ちを抱えたまま、神矢はざあざあと雨脚を強くする街並みに姿を紛れ込ませて行った。











 雨が包む夕刻の劇場の一室に、一組の男女の姿があった。


 質素な袴姿の質朴しつぼくな眼鏡の青年と、化粧を施し、髪を整え、良家の子女を思わせる華やかな装いをした娘。


 青年の名は、深沢誠一郎。もはや駆け出しと称するには違和感のある仕事量を得ている、小説家である。


 そして、飾り気のない彼とはおよそ不釣り合いな、洗練された美しさを持つ娘は、この劇場で活躍する女優・椿月。


 この二人、前々から心の中で想いを寄せ合っていたのだが、ついに先日、相思相愛の関係と相成った。


 今日もまた、舞台の出番を待つ彼女の控室に、いつものように誠一郎が会いに来ていたのだった。


 以前は素の姿とは大きく印象の異なる役柄で舞台に立っていた椿月だったが、最近はほとんどこの姿のままで役を演じている。


 もともと演技力に定評があった椿月。彼女が等身大の女性として演じる姿もとても評判がよく、以前のような脇役ではなく、主役格で配役されることも多くなっていた。


 今日も、素の顔立ちを生かした自然な化粧を施され、リボンを飾り付けたつややかな長い黒髪を背中に流し、舞台衣装である牡丹色のワンピースに身を包んでいる。


 互いに忙しくなり、会う日がなかなか作れなくなっても、こうして短い時間だけでも、逢瀬を重ねていた。


 二人で過ごす時間はというと、口の上手くない誠一郎が彼女の話を静かに聞いていることが多い。


 頼りないだとか、男らしさに欠けると思う人もいるかもしれない。しかし、二人はそれを心地の良い過ごし方だと感じていたし、そうして一緒にいる時間をかけがえのないものと感じていた。


 そんな時、誠一郎が唐突にこう口にした。


「あの、もし良かったらなんですが……。僕の家族と会っていただけませんか」


 突然の申し出に、椿月はその目をぱちくりとさせて彼の顔を見つめる。


「家族と言っても、父が早くに死去したので兄が家督を継いでいて、今は一つ年嵩の兄が家長なのですが。ここから離れた都市に実家がありまして、兄が所用でこちらに出てくるそうなので、うちにも寄ると。良ければ椿月さんのことを紹介したいのですが……」


 普段、自分たちの過去の話はあまりしない二人。


 妙に仰々しい言葉を使って説明された家の事情や、誠一郎に兄弟がいたことも初耳だったが、何よりも。


「しょ、紹介っていうのは、その……」


 椿月は照れのような、困惑のような、喜びのような、なんともつかない表情でまごまごしてしまう。


「あ、いえ。その、そんなに深い意味では……」


 そういう反応をされるとは思っていなかった誠一郎も、つられてまごついてしまう。


 もちろん、誠一郎としては、深い意味もなくはないのだが。


「でも、その、一応……。宜しいですか?」


 濁す言葉に色々な意味を込めながら、改めて誠一郎が問うと。


「うん、分かったわ」


 椿月は決意するようにコクリとうなずいた。


 表情の出にくい誠一郎の顔にほんのりと、ほっとしたような感情がにじむのが分かった。淡々としているように見えて、彼なりに意を決して告げていたのだろう。


 それは椿月が彼のことをこれまでずっとよく見てきたからこそ、分かることなのだけれど。


 でも、なぜだろう。椿月は胸に不思議な気持ちを感じていた。


 家族に会わせたいという彼の思いは、嬉しい。


 嬉しいのだけれど、なんだか少し胸騒ぎがする。


 ドキドキとは別の種類の、形容しがたいモヤモヤした予感。


 嫌なことなんて、不安なことなんて、何もあるわけないのに。


 きっと、彼のご家族に会うことに緊張しているせいだ、と自分に言い聞かせる。


 ふいに黙り込んだ椿月に、誠一郎はおもむろに右手を伸ばした。


 無骨な指先が、桜色の愛らしい耳朶じだに触れる。


 椿月は驚いて頬を染めるも、肩をすくめるまま、そのくすぐったい仕草を受け入れる。


 触れてくれることは嬉しいのだけれど、緊張してしまって。


 街中で逢瀬を重ねるときも、まさか往来で抱き付くというわけにもいかないが、会えば一回は互いの手に触れる。それだけで、以前の二人の関係からすれば大きな進歩だった。


 言葉はなくとも、愛おしそうにまっすぐ見つめてくる眼差し。


 見つめ返すと胸の高鳴りが激しくなって。先ほど感じた胸のわだかまりなんて、消し飛んでしまう。


 ずっと見つめ合っていたいとさえ思うのに。


 廊下がにわかに騒がしくなりだす。


 それを察知すると、誠一郎はすっと手を引っ込めた。


 賑やかになった扉の外から、舞台の準備の時間が迫っていることを感じとると、防寒のための厚手の羽織を手に取り、立ち上がった。


「頑張ってください」


 できるだけ優しく聞こえるように、そう椿月に告げると、誠一郎は部屋を去って行った。


 彼の手が離れてしまった名残惜しさと、彼のいなくなった部屋の寂しさを思い、彼の姿が見えなくなってからも、椿月はしばらくそのドキドキの余韻に浸っていた。











 一人帰路に就いた誠一郎。


 劇場の面する大通りは人通りも多い。眼前をいくつもの雨傘が上下している。


 兄からの便りが届いて以来ずっと言いたかったことを、今日はようやく椿月に伝えることができた。


 離れた都市に住む忙しい兄がわざわざこちらに来るというのだから、家族に会ってもらうのにその時ほどの機会はないだろう。


 まじめな誠一郎のこと、男女のその先にある結婚というものを考えていないわけがない。


 自分で良いのか。それが一番悩ましいことであった。


 美しく、可愛らしく、優しく、明るく、自分など到底釣り合いの取れない人気女優の彼女。


 だけれども、だからと言って誰かに譲る気など毛頭ないのも事実。


 実を言うと、同じくらい心に引っ掛かっているのは、椿月のかつての想い人のことだった。


 彼女がその悲しみで地元を逃げ出してしまうくらいショックだったという、その人との関係。


 当時まだ少女だった彼女の淡い想いとはいえ、その男に冷たく突き放されたからといって、すべてを捨ててそこを去ってしまうような思い出が、気にならないといったら嘘になる。


 皮肉なことではあるが、彼女がその悲しい出来事に胸を突き刺され、逃げ出し、ここにたどりついたからこそ、自分たちは出会えたのだけれど。


 おそらく今やすでに、ただの彼女の過去の一頁だということは分かっている。しかし、心のどこかに女々しく気にしてしまう自分がいた。


 だって、こうして恋人同士になった今だって、どうしてこんな冴えない自分を彼女が求めてくれるのか、まったく分からないのだから。


 さっきまで彼女に触れていた指先を見つめる。


 お互い、これまで自らの過去の話はあまりしてこなかった。


 だから、彼女にその過去について深く尋ねることはためらわれる。


 それに、自分も己の昔のことは積極的には話さないのだから、お互い様ではあったのだ。


 雨粒が傘を打つ衝撃を、手に強く感じる。


 雨の勢いが増しているのだろう。


 ついに兄がやってくる。


 その時には彼女に、これまでの自分のことを、自分の出自のことを、残さず話すのだ。


 空に敷き詰められた、鈍い色をした雲たちが見下ろしている。


 いまだ終わりの見えない冬の冷たい雨が、一帯を重く包み込んでいた。











 誠一郎の兄が訪れる日となった。


 ここしばらく降り続いていた雨は、ようやく止んでいた。しかし頭上は相変わらず、いつ降り出してもおかしくない怪しい色合いの曇り空だった。


 誠一郎は椿月のことを迎えに行った。


 「あなたの家は知っているし、もう何度も行ったことがあるからいいのに」と言う椿月に、頑なに「迎えに行きます」と言い張った誠一郎。


 普段はさほど意思の主張などしない方なのに、ごくたまに妙に強情になるところがあり、椿月はその度に彼のふるまいを不思議に思う。


 舞台に立たない時はほとんど化粧などしないのだが、今日は少しおしろいをはたき、薄く紅を引いた。


 できるかぎり彼のご家族に失礼のないようにと、いつもはあまり着ない、良い布地で仕立てられた着物と袴を身にまとった。


 きちんとふるまえるかしら、と緊張しながら誠一郎の横を歩く椿月は、いつもより口数が少ない。


 加えて、なぜか誠一郎も、いつもよりもさらに寡黙さを増していた。


 沈黙の時間が長くなると、椿月は隣の彼を見上げて問いかけた。


「ねえ、誠一郎さん。変じゃないかしら?」


 そう着物の袖を引いて尋ねてくる彼女に視線を落とし、誠一郎は目を細めて言う。


「まったく。よくお似合いです」


 本当にとても素敵なのだ。実際に、すれ違う人々の視線を確実に奪っていた。


 ただ、それを自らさらりと口から出すには、まだまだ彼の経験は不足していたし、他に気を取られていることもあったのは事実。


 自分以上に気もそぞろな誠一郎のことを椿月は不思議に思いつつ、口数の少ないまま二人は彼の家を目指した。


 家族に会うことを誘われた日から、椿月は胸にずっと落ち着かない気持ちを感じていた。


 緊張のせいだと思いたいのだけれど、何か種類が違うような気がしてならない。


 大丈夫、きちんとご挨拶をすれば、大丈夫。これまで自分に何度も言い聞かせた言葉を、今もまた歩きながら、不安を押し殺すように何度も繰り返していた。


 そうして、いつもの誠一郎宅が見えてきた。


 家の門の前にはなぜか、見たことのない老夫婦が立っていた。


 誠一郎いわく兄がやってくると言っていたし、ご家族ではないのだろう。


 椿月が疑問に思っていると、誠一郎が彼女にそっと告げた。


「この借家の大家夫妻です。一緒に兄を迎えたいと」


 借家の大家夫妻が、店子の家族がやってくるのを出迎えたいという。椿月には事情がよく理解ができなかった。


 でもまずは、以前急に誠一郎宅に一泊することになり、世話になったお礼を伝えなくては。


 門の前でにこやかに二人を迎えてくれた夫婦を、誠一郎は先に椿月に紹介した。


「椿月さん、ご紹介します。お世話になっているこの家の大家夫妻です」


 夫妻の妻の方が、目尻を下げてほほえむ。


「これはこれは、とても可愛らしいお嬢さんで」


 椿月は夫妻に頭を下げた。


「こんにちは。先日はありがとうございました」


 椿月が顔を上げると、驚くことに夫妻はもっと頭を下げていた。


「とんでもございません。あんなもてなししかできず、申し訳ございませんでした」


 びっくりしたまま固まって、目をまばたかせるしかない椿月。


「あ……え、はい……。どうも……」


 なぜ大家夫妻が、借家人の客人にこんなにかしこまって頭を下げているのだろう。


 うまく呑み込めない状況に、いつもの笑顔すら作れないでいた。


 身内の方でなくてもしっかりご挨拶しようと思っていたのに。予想外の応対にそれどころではない。


 椿月の混乱を察して、誠一郎が言いにくそうに彼女に耳打ちした。


「実は……大家夫妻は、うちの縁者のようなものなんです」


 縁者だったとしても、不自然だ。どう見ても誠一郎の方が年若いのに。


 前に彼は、椿月を大家夫妻のもとに連れて行くことを頑なに拒んだが、それは確かにそうだろう。どう考えても、通常の大家と店子の関係ではない。


 椿月は思考が追い付かず、首をかしげることすらできなかった。


 そして夫妻の妻の放った次の言葉に、椿月は耳を疑う。


「誠一郎坊ちゃまには、せめてうちにお泊りいただければと申し上げたんですが……」


「だから、その呼び方は止してくれと……。もう深沢の本家からは出た人間なのに」


「我々にとって、恩人のご令孫であることには変わりませんよ」


「本日は当主様がお越しになられるそうで」


「ああ。兄は所用でこちらに出てきているそうなんだが、数年ぶりに僕の顔を見に来るとかで、ここに寄ることにしたらしい」


 大家夫妻に話す彼のその口調は、まるで使用人に話す時のそれで。普通の人には到底できない喋り方のはずなのに、彼はそれがとても自然にできていて。


 黙ったままの椿月に彼女の戸惑いを感じとって、誠一郎が不器用ながら説明を足す。


「あの、僕は家を出たのでもうあまり関係ないのですが……。実は、実家はある都市で商売をしていまして……」


 その話し方は、いつも話しかけてくれる彼のそれそのものなのに、なんだか急にとても遠くなったように感じられる。


 そして同時に、椿月は、混乱の中に背筋に少しだけ嫌な予感を覚えていた。それが何なのか、自分でもよく分からないのだけれど。


 顔が引きつって、ぎこちない表情になっているのを感じる。


「坊ちゃま。そんな言い方では正確に伝わりませんよ。深沢家はたいへん立派な大商家なのですよ。それはもう、旧華族の方にも劣らないような大きなお屋敷で」


「わたしどもも、過去は捨て子だったのですが、慈悲深い大旦那様に拾っていただき、そこで幼少の頃より仕事と生活の面倒を見ていただいたんです」


「いや、でも僕は、ほとんどそこには住んでいなかったから……」


「この誠一郎様の家も、わたしどもが大家などさせていただいていますが、元は深沢家が全国に持つ土地の一つです。わたしたちが世帯を持って独立するときに、仕事としてこの地域のいくつかの家屋の管理を任せてくださったのです」


「誠一郎坊ちゃまがこちらに出てこられると聞き、深沢家のご子息を長屋住まいなどさせられないと思い、こうしてお住まいいただいているんです」


「僕は長屋でもなんでも、まったく構わなかったんだが……」


 椿月の中の嫌な胸騒ぎが、まるで警鐘を鳴らすかのように大きくなりつつある。


 そんな時。遠くからエンジン音が聞こえて、車がやってくる。


 車種に詳しくない人間でも、それが一般的な物とは品質を画することが一目で分かる。


 門の前で停められた車。後ろにもう一台続いていた。


 すぐさま後続車から壮年の男が降りてきて、前の高級車のドアを恭しく開ける。


 車内より出てきたのは、高級そうな羽織姿の男。


「久しぶりだな、誠一郎」


「お久しぶりです、兄上」


 出迎えた誠一郎と、眼鏡がないだけで、鏡で映したようにそっくりの顔。


 思わず二人の顔を見比べ、椿月は目を見開く。


 それはあまりに似ている兄弟への驚きだけではなく。


 椿月の感じていた、正体不明の嫌な予感が、現実のものとして形作られつつある。瞳が徐々に絶望に染まっていく。


 深く頭を下げる大家夫妻。


「当主様。ご無沙汰しております」


「久しいな。いつもご苦労」


「もったいないお言葉です」


 車のドアを開けた壮年の使用人が、主に細かく気を配る。


「旦那様。ぬかるみでおみ足が汚れます。こちらの道を」


 そして、誠一郎にも頭を下げる。


「誠一郎様。お久しゅうございます。お変わりございませんか」


「ああ、変わりない」


 誠一郎の返答に、懐かしそうに目を細める。まるで彼の昔の姿を思い出しているかのように。


 きっと使用人の中でもかなり歴の長い、使用人頭のような存在なのだろう。


 挨拶をすることも頭を下げることもできず、ただ呆然と事態を瞳に映していた椿月。その使用人頭の顔を見て、わなわなと目を見張った。


 息が止まる。


 一気に青ざめる顔。


 誠一郎の顔を見上げる。


 椿月はすべてを理解してしまった。


「ご……、ごめんなさい……!」


 椿月の脚は、叫ぶような言葉と共に、泥をはね上げながらがむしゃらに駆けだした。


 突然の行動に、周囲の人間は目を丸くするしかない。


 同じく呆気に取られていた誠一郎。兄がいる手前、そして何よりもあまりに突然なことに驚きすぎて、すぐに彼女を追いかけることができなかった。


「つ、椿月さん……?」


 そんな中、使用人頭が冷静につぶやいていた。


「はや。今のご婦人の顔、どこかで……」











「ふむ。少し狭くないか?」


 広さだけが取り柄の家に素直な感想を述べながら、兄が家の中を見回っていく。


 がたのきているぼろい家屋には不似合いな、高貴な姿。


「なんだ、誠一郎。お前、水仕事なんてやっているのか? 家事はすべて大家の者たちに任せればいいと言ったのに。せっかく向こうが是非そうしたいと言ってきたのだから」


 居間、寝室、書斎、台所。弟がどんなところに住んでいるのか、くまなく確認してめぐる。


「私が餞別に贈ってやった外国の本もあるじゃないか。役に立っているか?」


 弟と比べて饒舌な兄が、たびたび色々と尋ねるのだが。


 誠一郎は先程のことで気もそぞろで、ろくに言葉も返せない。


 何かに気を取られると思考がそればかりになってしまう、昔から変わらない弟の様子に、兄はやれやれとため息をこぼす。


「ところで誠一郎。お前からの手紙では、会わせたい人がいるとあったが、先刻のご婦人か? 何やら急にいなくなってしまったようだが、どうしたんだ?」


「それが……。僕にもよく分からなくて」


 不安が自分の心臓を早鐘のように鳴らす。


 自分はここでこのままこうしていて、本当にいいのか?











 袴のひだを派手にひるがえしながら、椿月は駆けていた。


 上がる息。


 流れて弾ける涙の粒。


 分かってしまった。


 私がなぜ、あなたに惹かれたのか。


 気づいてしまった。


 自分の過ちに。


 分かってしまったからには、もうあなたのそばにはいられない。


 ごめんなさい。


 私はなんということをしてしまったの。


 自分という存在を、丸ごと消してしまいたい。















 雪に包まれた遠い過去。


 小さなつぼみが花開く、そのずっと前のこと。




 その大きなお屋敷は、広さに比例するように人の数が多い。家人、従業員、使用人。


 広大な敷地には、手入れの行き届いた庭園、いくつもの蔵、使用人の宿舎などの建物もあった。


 屋敷の主は、家業の商売を大きく拡大し、成功させた旦那様。そして、その跡継ぎとなられるご子息様。


 先代より篤志家として知られる当主様は、近隣の河川整備や、公共施設建設に積極的に大金を出すなど、代々地元で慕われる存在だとか。


 そんなお屋敷で下働きをする、分不相応な夢を持った、使用人未満の少女がいた。


 少女は幼い頃に近くで捨てられていたところを、この屋敷に拾われた。


 小さな子どもでは到底一人分の労働力には達しないけれど、住むところと食べるものを与えてくれる屋敷のために、使用人の見習いとして一生懸命働いていた。


 せっせと働き続け、ようやく体も人並みに大きくなってきた頃。ひょんな機会で、家の方の付き人として観劇にお供をさせてもらった。


 その日を期に、世界が変わった。


 私もああなりたい。ああいう風なことがしたい。


 日常から非日常に連れ出されるきらびやかな劇場。


 生き生きとして美しい役者たち。


 華やかな舞台。


 自分が自分でなくなる空間。


 みじめな少女も、舞台の上では、おてんばな女学生にだって、賢い女教師にだって、高貴なお姫様にだって、何にだってなれる。


 大きな夢は、小さな胸にたちまち広がった。


 でも、だからと言ってその夢への道のりなど知るわけもなく。


 どこに行ったらその夢を叶える汽車に乗れるのか、どころか、どこでその乗車切符が売っているのか、そもそも切符を売っているのかすら、分からなかった。


 けれど、あの夢の空間に近づくために何かしたいという気持ちは抑えられなくて。


 皆が寝静まったあと、使用人宿舎の女子部屋を抜け出して、毎夜一人で練習のできる場所を探していた。




 白い息が見える夜。


 その日は人目と寒さを避けようと、敷地の外れの方にある物置小屋の中に入ってみた。


 少女はいつものように、あの輝かしい舞台を思い出しながら、役になりきって喋ったり動いたりして練習する。


 これで練習になっているのかなんて分からないけれど、やりたくてしょうがない衝動は止められなかった。


 薄汚れた狭い物置小屋だって、目を閉じれば、あの日の舞台が目の前に広がっているように想像できる。自分が立派な舞台に立っているように感じられる。


 練習を終えて目を開けると、少女を現実が迎える。


 眼前には竹ぼうきのたくさん刺さったかご。蜘蛛の巣の張った物置棚。


 目の前の現実を直視すると、身の程知らずな自分の愚かさ、滑稽さと向き合わされるようで、いつも心がへこまないようにするのに必死だった。


 もう宿舎に戻ろうと思い、物置小屋の戸に手をかけるが、開かない。


 建付けが悪くなっているのかと思い、何度か強く戸を引くが、手応えは変わらない。


 練習に夢中になっているうちに、誰かが外から鍵をかけてしまったようだ。


「だ、出して……!」


 ここにいることを誰にも知られないまま閉じ込められた恐怖から、少女は無我夢中で戸を叩いて声を上げた。


 しかしここは敷地の外れ。人のいる宿舎や屋敷からは遠く、音は届かない。


 しばらく戸を叩き続けて叫んでいたが、こんな夜中では誰も気づかないことを悟り、少女はその手を止めた。


「誰か……出して……」


 ぐすん、と鼻をすする。


 どうせ誰にも届かない。気力の弱る中で絞り出せたのは、か細い声だけだった。


 私はなんてみじめなんだろう。


 何度も縫い直された、ペラペラの布地のくすんだ着物をまとって。


 涙目で、独りぼっちで膝を抱えて。


 こんな暗くて狭い場所でこそこそ役者の真似事をするしかない自分には、あんな華やかな舞台につながる道なんて。


 親にさえ捨てられた私に、何があるというんだろう。


 月も見放す夜。


 小窓から差し込む夜空の明かりも鈍い。


 寒い。


 寂しい。


 こんなことをしていても、むなしい。


 この場所以外、世界がなくなってしまったのかと思うような真夜中。


 少女が一人、膝を抱えて鼻をすすっていると、ふいに何かの音を聞き取った。


 砂利を鳴らして歩く音。


 待ち焦がれた人の気配だった。


 少女はあわてて叫ぶ。


「あ、あの! 聞こえますか……?!」


 砂利の音が止まる。


「誰かいるのか?」


 若い男の声だった。


「あっ。私、使用人見習いの者です……! ここから出られなくなってしまって……」


 砂利を鳴らす足音が、小屋の入り口に回り込み、鍵がかかっていることを確認したようだ。


「少し待て」


 そう言って、足音が離れていく。


 少女は不安をいだきつつ、その声を信じて待った。


 しばらくして足音が戻ってくると、声の主はこう告げた。


「すまない。父上の部屋から合鍵を持ってこないと、この小屋は開けられそうにない。今はとても持ち出せそうにない」


「そうですか……」


 落胆しつつも、少女は声の主の正体に気づいて驚いた。


 旦那様のことを父上と呼ぶこの人物は、跡継ぎのご子息である成貴ナリタカ様だった。


 物置小屋の薄い木の壁を隔てて、とんでもない方と直接言葉を交わしてしまった。


 普段は話しかけることもできないお方を相手に、何を言ったらいいのか困っていると、向こうから尋ねられた。


「君はこんな夜中に、どうしてこんなところに」


 責めるような言い方ではなく、ただ興味本位で尋ねているのだということが分かる。


 下々の者にもこんな風に話しかけてくれるなんて、屋敷で見る成貴様はとても冷淡に見えるけれど、こんな一面もあったのか、と少女は意外に思った。


 だから、できるかぎり素直に答える。


「あ……。あの、私、演技の練習を、したくて……」


「演技?」


 声が不思議そうに単語を繰り返す。


「あ、はい……。台本とかがあるわけじゃないんですけど、今日はこういう役と決めて、演技をするんです。身振りとか、セリフとか……。恥ずかしいので人の目のないところで、夜中にこっそりと」


 自分でも、改めて口に出してみると変な行動だなと思い、恥ずかしくなる。


「そういう趣味か?」


 問われた疑問に、勇気を振り絞って答える。


「あの……役者になりたい、と思っていて……」


 返事がすぐになかったので、あわてて取り繕うような言葉を足した。


「……おかしいですよね、私なんかが。すみません」


 少女の言葉に、小屋の外の声は静かにこう言った。


「いや。君の夢が叶うといいと思う」


 思わぬ応援の言葉に、思わず少女は目をまたたかせた。


「私、こんな立場なんですけど……」


「演劇の世界というのは、立場が関係あるのか?」


「いや……そういうわけでは、たぶん、ないと思いたいんですけど……。でも、おかしいと思いませんか? こんな私みたいな者が、不相応な、大それた夢を」


 自分自身が溶けてしまいそうなくらいの暗闇と、心細さも手伝って多弁になっているのを感じる。


 自分の輪郭がなくなってしまいそうな闇の中で、壁の向こうから聞こえる彼の声だけが、自分を形どり続ける支えだった。


 声は、また静かにこう勇気づける。


「いいや、まったく。自分の分まで、君の夢を叶えてほしいと思う」


 色々な意味がにじんだ言葉だった。


 自分より歳が上だと思うけれど、世代が違うと言うには年齢が近い成貴様。


 これまで、年の近い人と個人的に話せる機会などほとんどなかった。


 図々しいと自覚しながらも、子どもゆえの心の身軽さもあり、気づけばこう申し出ていた。


「あのっ。宜しければまた、お会いできませんか……? 私は毎晩ここで練習をしています」


 突然の誘いに、声の主はしばらく考えるような間を作る。


「……す、すみません。分をわきまえないことを……」


 沈黙に耐えられなくなった少女が、言葉を継ごうとすると。


「いや、分かった。来られるときはなるべくここに来よう」


 声はそう約束した。


 そして、一つ頼みを付け加えた。


「ただ、ここに自分が来ていることは、誰にも言わないでくれないか」


「……はい、分かりました」


 大商家の跡継ぎという立場ともなると、夜間の行動も自由とはいかないのだなと、少女は彼の身分を少しだけ気の毒に思った。


 しばらく取り留めのない話をしていると、物置小屋の小窓にうすぼんやりと朝日の光が入ってきた。


「あっ、陽が差してきました」


 少女が歓喜の声を上げると、戸の外の声の主が、座り姿勢から立ち上がったのであろう砂利の音がした。


「もう日が出たから怖くないだろう。あまり勝手にうろつけないんだ。そろそろ失礼する」


 そう言って遠ざかっていく足音。


 少女は今になって気がついた。


 小屋の中がこれだけ寒いのだから、外なんてもっと寒いだろうに。


 たった独りで真夜中の物置小屋に閉じ込められた自分のために、彼は立ち去らずに一晩話し相手になってくれていたのだ。


 これまで知る由もなかった成貴様の一面。それは、少女が初めて触れる種類の優しさだった。






 あの夜から数晩の後。


 少女はいつものように、真夜中に物置小屋の中で演技の練習をしていた。


「今夜も練習しているのか?」


 近づいてくる砂利を鳴らす足音に耳を澄ましていると、少女が待っていた人物の声が聞こえてきた。


「はいっ。来てくださったんですね!」


 喜んで戸を開けようとすると、それを制する声が。


「……戸はそのままで。姿を見られたくない」


「はい……」


 残念に思いながらも、少女はその言葉に従った。


 やはり、このお屋敷の跡継ぎとなるお方。もし誰かに、使用人などと夜中に二人でいるところを見られたらまずいのだろう。


 声の主が壁に背を預けて砂利に腰を下ろしたのが、音で分かった。


 物置小屋の薄い木の板を挟み、二人は話す。


「練習は順調か?」


「あ、えっと……はい」


 何をもって順調と言っていいのか分からなかったけれど、成貴様を待ちながら一人で練習をしている間は、こんなに寒いのに胸がずっとワクワクしていた。だから、順調と言っていいと思えた。


「演技は楽しいか?」


「楽しいです。全然違う自分になれるみたいで……」


 役に入れば、みすぼらしい格好も忘れて、お嬢様にだってなれる。


 それに、こうして壁を隔てて成貴様と話している時は、自分が自分でないような気になる。


 まるで自分が声だけになって抜け出して、成貴様と対等な立場で話せているかのような。


「そうか……」


 そう言って黙り込んだ成貴様に、今度は少女が尋ねる。


「夢、ありますか?」


「夢か……。抱くべくもないな」


 少し考えるような間があったあと、それを手放すように、戸の外の声は言った。


「あ……。すみません……」


 大商家の跡取り息子という立場は、末端の使用人には想像もつかないような、背負っている重たいものがたくさんあるのだろう。簡単に下ろして、別の荷物に持ち替えたりはできないような。


 謝る少女に、声は続ける。


「でもその分、君の夢が叶ってほしいと思う」


 本当にそう思ってくれているのだろう。そう信じられる声色。


 自分の無謀な夢を、たった一人でも応援してくれる人がいる。


 初めての経験に、こんなに寒いのに全然気にならなくて、心がポカポカ温まるのを感じていた。


「ありがとうございます……。私、頑張ります」






 そうして二人の深夜の密会は、回数を増やしていった。


 ある夜のこと。


「今日、近くの劇場の前に行ってみました。お仕事を手伝わせてくださいと」


「うん。どうだった?」


「まったく相手にもされませんでした……」


 沈む少女の声に同情するように、戸の外の声は低くうなった。


「そうか……。世間のことはよく分からないが、厳しいのだな」


「でも私、今度また行ってみます……! もしかしたら、何度も頼んだら、どうにかなるかもしれませんし……」


「そうだな。応援している」








 またある夜のこと。


 クスクスと笑う少女に、戸の外の声は言った。


「君はまだ声にあどけなさがあるな」


 何の気なしに放たれた言葉なのだろうけれど、少女は妙に気にしてしまって。


「子どもっぽいですか……?」


「まだ何の色も持たない君と語らうのは、とても気持ちが楽だ」


 それは褒めてもらえているのか、少女にはよく分からなかった。


 成貴様は自分よりも年上だし、成貴様からしたら自分はやはり子どもっぽいのだろうな、と思う。


 もっと声や喋り方が大人っぽかったらな、と少しだけしょんぼり思った。








「あの……私、話しすぎですか?」


 唐突な問いに、戸の外の声は静かに否定する。


「いいや。君の話を聴くことは楽しい」


「そんなに楽しいことは言えてないと思うんですけど……」


 そう言う少女に、戸の外の声は穏やかに言った。


「いや……。分からないかもしれないが、何者でもない〝この自分”に話しかけてくれるというだけで、ずいぶんと心が救われるという人もいるんだ」


 成貴様はときどき難しいことを言う。


 でも、そう言ってくれるならと、少女は沢山のことを話した。


 夢や演技に関係ないことも、取り留めなく。


 それを戸の外の声は、いつも何でも受け止めてくれていた。


 雪に包まれた夜のひと時は、いつしか、少女に生きる気力と夢を追う力、そして胸に宿る小さな温かさを与えてくれるかけがえのない時間となっていた。








 彼は、ごくたまに弱気なことを言うこともあった。


「君は以前、『夢はあるか』と訊いてきたな。強いて夢を語るのなら、そばにいてくれる人がほしいのかもいれない」


 屋敷では、いつもたくさんの人たちに囲まれて見えるのに。不思議だなと少女は思った。


 なんと言葉を返したらいいのか、その時の少女にはまだよく分からなかった。








 ある寒さの厳しい夜。その日は雪が降っていた。


 ふと戸の外の声がこう言った。


「……庭の椿が咲いている。道理で寒いはずだ」


 物置小屋のそばの屋敷の庭園。


 雪を湛える真っ赤な花を、少女もたしかに覚えていた。


「そこに咲いているお花の名前は、ツバキと言うのですね」


「ああ。たしか前に、庭師がそう言っていた」


 少女にとって、椿の花が特別な意味を持った瞬間だった。


 この人に会える場所に咲く花。幸せの時間の象徴。


「こんなに寒くて、周りの植物がみんな眠りについているのに、あんなにきれいで鮮やかな花を咲かせるんですね」


「寒椿は、寒さが厳しくとも、日陰であっても、美しく豪華な花を咲かせるそうだ」


 自分もそんな風になれたらいいなと、少女は彼の教えてくれた知識を大切に胸に刻んだ。








 そんな日々が続いた後のこと。


 屋敷じゅうがにわかにバタバタした時期のあと、成貴様はぱたりと夜の密会に来なくなった。


 今夜こそ、と思って少女は物置小屋の中でその声を待つけれど、壁に話しかける彼女の声に言葉が返ってくることは、もう二度となかった。








 またしばらくの時が経ち。


 少女はもう、少女と呼ぶには無理のある年齢になっていた。あどけない少女の面影からは、美しさの片鱗が顔を出しつつあった。


 雪の降り注ぐ冷たい夜に、彼女は一人でそこにいた。


「成貴様……」


 憂いを秘めたその声が、切なげにその名前を呼ぶ。


「今夜もいらっしゃらないんですね……」


 誰にともなく語りかける。


 こうして真っ暗な物置小屋に一人でいると、その壁を隔てていまもあなたがいるような気がするから。自分の言葉を聞いてくれている気がするから。


「私、雑用からなんですけど、劇場でお仕事をさせていただけることになりました。あちらで住み込みで働いて、面倒を見ていただけることになりました」


 そう報告する声は、ちっとも嬉しそうではなくて。


「一度、お礼の言葉を直接お伝えしたかったのですが、どうやらそれは難しいようですね……」


 彼女の口から、本音がこぼれだす。


「お屋敷で、他人のような顔をしたあなたを見ました」


 二人の声を何度も受け止めてきた、ささくれだったシミだらけの木の壁に、そっと手を添える。


「この距離では仕方がありません。私たちは闇夜に隠れればお話できるけれど、日の照らすもとでは口も利けない関係なのですから」


 声が震える。


「それでも、あなたのかけてくださる言葉が私をどれだけ慰めてくださっているか。励ましてくれていたか。あなたの存在が私にとってどれだけ大きなものか。一言お伝えしたかった……」


 止めどなく涙があふれる。


 話せなくなって分かった。


 私は、成貴様のことを愛していたんだ。


 朴訥ぼくとつに語られるあの静かな声を。


 私を受け止めてくれるその心を。


「成貴様……」


 ボロボロと涙がこぼれる。


 お声が聴きたいです。


 おそばに行きたいです。


 どうして来なくなってしまわれたのですか。


 私は何かよくないことを言ってしまいましたか。


 あなたに嫌われてしまったのですか。


 胸が苦しい。


 こんな私では、あなたに「好きです」とお伝えすることもできない。










 数年の時が経ち。


 女優として役をもらえるようになってから、彼女は自分の身内のような存在であった使用人仲間に会いに行った。


 世話になった人たちに会いたいという気持ちはもちろんあったけれど、そういう名目で屋敷を訪れつつ、できたら成貴様を一目見られたら、とも密かに望んでいた。


 その時には、地元の劇場では期待の若手新人女優として、少しは名の知られる存在となっていた。


 まだ年若いながら花開き出した可憐さは、元捨て子の使用人という事実などまるで嘘のような輝きを放っていた。


 その美貌を生かし、素の自分からは到底かけ離れた、艶めかしい悪女の役まで演じられるようになった。


 そうしてさまざまな経験を重ね、少しは心に自信をつけた自分なら、きっと成貴様に会えると思ったのだ。


 そして、彼女が屋敷の使用人宿舎を訪れたとき。


 まさに成貴様が、庭に面する屋敷の廊下を通りかかった。


 成貴様の姿を数年ぶりに目の当たりにして、嬉しさがこみ上げる。


 亡くなられた旦那様の跡を継ぎ、若き当主として、凛々しく成長されたそのお姿。


 たまらなくなって、彼女は駆け出した。


「あ、あのっ……成貴様! 元使用人風情が直接お声がけをして、申し訳ございません。でも、どうか一言お伝えしたくて……。私、女優になれました……! あなたがずっと励ましてくださったから……」


 あの時の貧相な格好をした私ではありません。


 こんな優雅に振舞える、美しく笑えるようになりました。


 大人ように喋れるようになりました。


 なのに。


 こちらに向けられる目は、まるで知らない人を見るもので。いぶかしむような冷たい視線に全身を突き刺される。


 傍に付き従っていた使用人頭が、何か耳打ちしたことで、元使用人だということを思い出したのだろう。


 それで少し記憶を取り戻したのか、「ああ、そんな使用人がいたな」と一言つぶやいたが、首をかしげる。


「君はそんな風に媚びて笑う女だったか?」


 あの時応援してくれた言葉など忘れてしまったかのような言葉。


 あの夜のやりとりよりも時が経ってより低くなった声は、まるであの思い出を捨て去ってしまったかのように冷たかった。


 彼女は必死に、二人しか覚えていないはずの会話を思い出させるようなことを言うけれど。


「あの、私で宜しければ、これからはあなたのおそばに……!」


 夢を強いて語るなら、と弱気な彼がこぼした言葉への、数年越しの答えだったはずなのに。


 迷惑そうな他人の顔をされ、足早に行ってしまった。周囲も、頭のおかしい人間を見る視線を彼女に残して去っていく。


 彼女にはその現実が信じられなくて。茫然自失で立ち尽くしていた。


 私の告白が断られたって、良かった。身分が違うんだもの。


 でも、私のことを、私と交わした言葉の数々を簡単に忘れてしまったというのは、あんまりだ。


 あの頃のみじめな私を応援して、優しく受け止めてくれていたはずの声が、今度は、成功したはずの私を冷たく突き刺す。


 あの寒い夜のみすぼらしい私の方が、よっぽどあなたの近くにいたというの?


「どうしたらあなたの好きな私を演じ続けていられたの……?」


 あの雪夜に流した涙よりも冷たい涙が、あふれてとまらなかった。




 私にとって大事な思い出だったそれは、


 かけがえのない心の支えだったそれは、


 いつか自分の分まで夢を叶えてほしいと言われたことは、


 あなたにとっては、夜が明ければ朝露のように消えてしまうような言葉だったのですか。


 私が今まで支えにしてきたもの、そんなものは存在しないと知ってしまった。


 私の心が壊れてしまいそう……。


 私を拒絶する冷たいその瞳。


 もう、ここにはいられない。


 自分をすべて捨ててしまいたい……。











 誠一郎は兄を見送ったあと、すぐに椿月を探しに出た。


 走り去った時のただならぬ彼女の様子に、言いようのない不安と焦りが胸を浸食しはじめていた。


 まずは劇場に向かった。


 隅々まで見て回ったが、どこにもいない。人に訊いても、誰も見ていないと言う。


 続いて、椿月の住まいである、館長の家を訪れる。


 玄関先で応対してくれた女中は、椿月は一度戻ったあと再びすぐに外出し、その後戻っておらず、館長は今日は仕事で遠出をしていると告げた。


 誠一郎のあまりの様子に、女中が椿月の部屋を見てくれることになった。


 首を長くして待っていると、部屋の様子を見てきた女中が、何かを手に早足で玄関に戻ってきた。


「お嬢様のお部屋にこれが……!」


 誠一郎があわてて受け取ったそれは、書き置きの手紙だった。




〝今までお世話になりました。

お父さん、私をあなたの娘にしてくれてありがとう。

ここでの毎日、私は本当に幸せでした。

挨拶もなく姿を消す、最後のわがままを許してください。”




 目を見張る誠一郎に、女中は告げる。


「それと、お嬢様の物が、お部屋から一部なくなっているんです……!」


 これは、一体どういうことなのか。


 動悸がして息が苦しくなる。


「それと、これも置き手紙のそばに置いてあって……」


 おずおずと差し出されたのは、見覚えのある巾着。


 中には誠一郎が椿月に贈ったかんざしと、小さな紙切れが。


 紙切れにはこう書いてあった。




〝贈り物をお返しします。私が持っている資格はありません。

 私ではない、誰か他の大切な人に贈ってあげてください。

 誠一郎さん、さようなら。

 今までのこと、本当にごめんなさい。”




 さあっと血の気が引くのが分かった。


 なぜ。


 一体、なぜ。


 髪が結えない劇場でも肌身離さず持ち歩けるようにと、巾着に入れて椿月が大事にしていたかんざし。


 きっと彼女は、最後の最後までこれを持っていくか悩んだのであろう。


 それを物語るように、紙切れには館長への手紙よりもためらいのある、インクのにじんだ文字が並んでいる。


 誠一郎はかんざしを握りしめる。


 あんなに喜んでくれていた、大事にしていたものを手放して。


 似合うかしら、と館長に何度も飾って見せていたという椿月。


 二人で街を歩いた記憶。


 隣を歩く彼女の髪に光るトンボ玉。


 自分の贈ったものを、自分の愛する女性が身に着けてくれている嬉しさ。


 初めて知った心のむずがゆさ。


 すべてが遠くなってしまうというのか……。




 誠一郎は置手紙もかんざしも袂につっこんで、街に飛び出した。


 いてもたってもいられず、足は自然と走る。


 まずは駅。隅から隅まで探す。


 しかし、どこにも見当たらない。


 つかみかかるような勢いで周囲の人に尋ねても、誰も知らないと言う。


 一体どこを探したら。


 こんなに不安に駆られて、焦燥感にさいなまれる理由は分かっている。


 椿月は以前、傷つき、すべてを捨てて地元の街を出てきたという。


 もし今回もそうであるなら、きっと椿月はここからずっと遠くの、誰も自分のことを知らない地に向かい、ここには二度と戻ってこない。


 どうして彼女が突然姿を消してしまったのかは分からない。


 でも。


 二度と彼女に会えないかもしれない。


 考えただけで胸が張り裂けそうだった。


 自分の生きている意味を失うような。


 彼女が通っていた店、二人で行った喫茶店、公園、雑貨屋、知る限りのあらゆる場所を訪ねて回った。


 祈るような気持ちで、足が棒になってもなお、疲労困憊の体を引きずるように街中を探した。


 でも、どこにも彼女はいないし、彼女を見たという人もいない。


 日が暮れる。


 彼女が汽車に乗っていたとしたら、もう追いつけない。


 今の彼女は、以前と違い財力がある。どこへいく旅費だって支払えてしまう。近場で降りることはないだろう。


 一生かけて全国の街を回ったら、彼女を見つけられるのだろうか。


 抱えきれない胸の痛みに、誠一郎は道端でみっともなくしゃがみこんだ。


 声が聴きたい。


 今は容易に思い出せる鈴を転がすような声も、いつか年月が奪い去ってしまうのだろうか。


 縁側で並んで見た夏の塀も、


 腕を組まれて歩いた街の景色も、


 また二人で来ようと約束して眺めたイチョウ並木も、


 昨日のことのように鮮やかに心に記憶されているのに。


 初めて彼女の手を握った感覚も、


 穏やかな風に包まれながら彼女の細い肩を抱きしめた記憶も、


 静かな雪夜に彼女の柔らかな唇に口づけたことも、


 こんなにも体が覚えているというのに。


 ありありと感覚が思い出せるというのに。


 もう見つけられないかもしれないという事実が実感として迫ってきて、涙がこぼれた。


 どうしてなんですか、椿月さん。


 雑踏はしゃがみこんだ誠一郎を避けて流れを作る。


 なにかしら、やあねえ、邪魔だよ、変な人、とささやく声が降ってくる。


 もうどうでもいい、なんとでも言え、と思った。


 椿月さん、椿月さん……。


 あなたがいないと、僕は……。


 走馬灯のように、これまでの二人のさまざまな記憶が脳裏を駆ける。


 その時、ハッと気づいた。


 まだ、あそこを探していない。


 もし、わずかでも彼女が僕の存在に未練をいだいてくれているのなら。


 僕が探しにくることを待っているのなら。


 今までのすべてを切り捨てないでいてくれるのなら。


 いくあてのない彼女が身を隠すのは、あそこしかない。











 日が落ち、月も雲に隠された夜。


 薄暗い、人の寄り付かない旧劇場。


 いくつもの照明で照らされ、夜も人々で賑わう現劇場との対照で、いっそう静まり返って感じられる。


 こうして訪れるのはどれくらいぶりだろうか。


 劇場敷地内にあるが、今はすっかり廃れ、ほとんど物置としてのみ使われているこの場所。


 古びた正面扉を押し開ければ、人気のまったくない埃っぽい廊下が出迎える。


 ここには、彼女がかつて、人目を避けて身支度に使っていた部屋がある。


 出会った時は全く分からなかった。


 あの色っぽい悪女の姿。赤や漆黒の艶めかしいドレス。きらびやかな装飾品。短く切りそろえられた印象的な舞台用カツラ。素顔を隠した派手な舞台化粧。


 それが、あなたと初めて出会った時。


 こんなに大切な存在になるとは、その時は思ってもいなかった。


 凍って固まっていた僕の心を溶かした、あなたの存在。あなたの言葉。あなたの声。あなたの笑顔。


 これまでのこと思い返しながら、誠一郎は足を一歩一歩進める。


 彼女はここで、切望していた自分の舞台を、「あなたのためにやるから、必ず見に来て」と言ってくれた。


 彼女はそよ風の中、器用なふるまいのできない自分に、「私はそんなところに男の人の価値を置いていないから」と笑ってくれた。


 彼女は自分の胸に額を寄せて、「あなたと会えない間、すごく寂しかった」と告白してくれた。


 彼女は自分の目を見て、「あなたが何者だからとか、何かをくれるからって、一緒にいるわけじゃない」とほほえんでくれた。


 彼女は穏やかに、「こういう道をたどってきたからこそ、あなたと会えたんだもの」と恥ずかしそうに伝えてくれた。


 彼女は雪の降り注ぐ夜に、自分の想いをすべて受け止めてくれた。


 そして、たどり着いたこの部屋。


 長らく彼女の本当の姿を隠し、舞台女優・椿月に変身させていた部屋。


 物音はなく、明かりもなく、誰もいないように思える。


 闇の中、誠一郎はそっとノックをして声をかけた。


「椿月さん……。僕です」


 絞り出した声は、自分で思っていた以上に疲れていた。


 声ににじむ憔悴を押し隠しながら、ドアに向かって言葉を続けた。


「大事なことを今までお話しできず、驚かせてしまって、本当に申し訳ありませんでした……」


 返事はないけれど、きっとそこに彼女がいると確信して話し続ける。


「隠すつもりはなかったのですが、椿月さんの苦労の多かった過去の話を聞いて、自分の生まれのことを言い出しにくくなってしまい、こんなに後になってお話しすることになってしまって……」


 誠一郎は古びた戸に真剣に語りかける。


「もし何か、椿月さんを傷つけてしまうようなことをしたのなら、謝ります……。すみません……。謝って許してもらえることなのか分かりませんが……」


 少しの間を置いて、扉の向こうから震える声が返ってきた。


「……謝らないで。あなたはまったく悪くないの……。悪いのは、私……」


 え、と誠一郎は目を見開く。


「私はあなたを代わりにしていたのよ……。いつまでも忘れられない初恋の人の面影を重ねて、そんなこと気づきもせず、まるであなたを愛しているかのように……」


「初恋の、人……?」


 ドア越しに語られる予想もしなかった告白に、誠一郎は戸に張り付くようにして、か細い彼女の声を聞き逃さぬように待った。


「私が奉公していたお屋敷は、あなたの家よ……。話を聞いて、皆さんの顔を見て、思い出したの。そこで私は、あなたのお兄様……成貴様に恋をした……」


 思考がついていかない誠一郎。


 たしかに椿月は前に、幼少期に親に捨てられ、物心ついた頃には奉公先に拾われていたと言っていた。まさかそれが自分の生家だったなんて。


 信じられないけれど、今まで伝えたことのない自分の兄の名を正確に言ったのだから、嘘ではないのだろう。


「私はなぜか、劇場で一目会った時からずっと、理由も分からずあなたに惹かれていた……。今なら分かるの。それはね、あなたが、あなたのお兄様に顔も声もそっくりだったから」


 椿月は鼻をすすりながら告げる。


「私、あなたのお兄様のことが好きだったの……。本当に、心の底から。そっくりなあなたを、想いの届かなかった成貴様の代わりにしていたんだわ……」


 二人はこれまで、過去の話を意識的に避けていた。


 椿月は過去のつらい出来事を努めて忘れようとしていたし、誠一郎も積極的に自分の過去を話そうとはしなかった。


 だから、椿月の奉公先が深沢家の屋敷だったということも、二人の地元が同じ場所ということも、まるで分かっていなかった。


 誠一郎が気にしていた椿月のかつての想い人。


 その人に冷たくあしらわれたことで、すべてを捨てて地元を去ってしまったくらい好きだった人。


 それがまさか、自分の兄だったとは。


 いくつもの複雑な感情がないまぜになる。


 でも。


 誠一郎が彼女に言いたいことは、一つだけだ。 


 誠一郎は、全ての告白を受け止めた上で、静かにこう口にした。


「……話してくださって、ありがとうございます」


 彼女の心に触れるように、扉に掌を重ねる。


「でも、僕はそんなことは気にしません。きっかけはなんであれ、出会った日からずっと、あなたはたくさんのことを〝この僕”に与えてくれました。入り口が何であっても、椿月さんがこれまで〝僕”にかけてくれた言葉は、本当のものですから」


 旧劇場の古びた木の戸を隔てて、誠一郎は彼女に真摯に語り掛ける。


「それに……、僕たち兄弟は見た目や声がよく似ていても、中身はまるで違うんですよ。それでもあなたが僕と共にいてくれた日々は、あなたは間違いなく僕を見てくれていたという何よりの証左です」


「でも……」


 無意識とはいえ、自分のしてしまったことに気づいてしまった椿月は、彼の言葉をまっすぐに受け入れられない。


 過去と後悔に絡めとられて動けない彼女に、誠一郎ははっきりと言った。


「本当です。だからこそ僕は、出会った時からずっと、今も、あなたを誰よりも深く愛しています。たとえ兄にでも、渡しません」


 こんなに直球に言ってくるのは、初めてのことで。


 扉を間に挟んだ二人の空気が震える。


「椿月さん。僕が生きる限り、あなたを生涯大切にします。だから、僕の妻になってもらえませんか」


 誠一郎ははっきりと言い切った。


 彼女を失いたくない。誰にも渡したくない。


 そうなると、彼の中で当然のように導き出された言葉が、これだった。


 沈黙が降りる。


 椿月の返事を、誠一郎はじっと待った。


 しばらくして、ドアがゆっくりと内側から開かれる。


 髪も乱れ、泣きはらした目をした椿月が姿を見せた。


「……私でいいの? 私、あなたのお兄様のことが好きだったのよ……。あなたのことを、きっと代わりにしていたのよ……?」


 ようやく見ることのできた、彼女の顔。


 誠一郎は椿月の頬に手を伸ばし、その指先が愛おしそうに涙の乾いた頬を撫でる。


 そして、薄くほほえみをたたえて、答えた。


「僕が、あなたでないとだめなんです」


 そう言って誠一郎は椿月をきつく胸に抱きしめる。


 もう二度と離さない。


 失う怖さを知ったから。


 他に何も、恐れることも、恥ずかしがることもない。


 苦しいほどに、壊してしまいそうなくらい強く抱きしめる。


 カシャンと眼鏡が床に投げ出される音がして、椿月の華奢な下あごに手が伸びたかと思うと、唇をむさぼるように激しく口づけられた。


「はぁっ……。誠一郎さん、待って……」


 何とか息を継ぐ椿月があえぐも、その降り注ぐ愛が緩められることはなく。


 絶対に離したくないと、自分のものだと刻み付けるかのように。普段の彼らしくない、独占欲に飢えた荒々しい愛情が収まるまで、しばらくの時間を要した。











 二人はその薄暗く狭い小さな部屋に、壁を背に、並んで腰を下ろしていた。


 窓からは、雲の切れ間から覗く月明り。天井からは、吊られた裸電球がそっと光を落としている。


 寄り添う二人の手は、自然と重ねられていた。


 椿月は静かに口を開いた。


「あのね……。どうして私が成貴様をお慕いしていたかっていうと、女優になる夢をずっと応援してくれていたからなの」


 椿月が問わず語りにポツリポツリと話しだした、彼女の心に秘められた記憶を、誠一郎は黙って聞いていた。


「私は夜中に使用人宿舎を抜け出して、敷地の外れの物置小屋の中で演技の練習をしていて。ある夜、そこに閉じ込められてしまった時に、助けてくださったのが成貴様だったの」


 自分の過去を浄化していくかのように、椿月は大切な思い出を愛おしそうにゆっくり口にする。


「それから毎晩、壁越しにだけど、お会いするようになって。立場の違いがあるから、昼間の屋敷内では目も合わせてくださらないくらい素っ気ないけど。夜は私の無謀な夢のことを、すごく励ましてくださって。自分の分まで夢を叶えてほしい、って言ってた」


 何か美しいものを眺める時のように目を細めて、椿月は語る。


「お話しさせていただいていたのは、すごく寒い時期でね。その時、物置小屋の外の庭園に咲いていた花が――」


「雪景色に映える、真っ赤な椿……」


 言葉の先を奪った誠一郎。


 椿月は思わず彼の顔を見た。


「……え?」


「椿月さん……。それは、兄ではなく、僕です」


 ああ、僕はなんて記憶力が悪いんだろう。どうして忘れてしまっていたんだろう。


 それは、誠一郎の口から初めて語られる、彼の過去。






 成貴と誠一郎の父である当時の深沢本家当主は、二人の息子がまだ成人する前だというのに、回復の見込みの乏しい病を患ってしまった。


 大商家である深沢家一族は、絶対権力者である当主の病をきっかけに、その後継者争いを激化させていた。


 順当に行けば、長男である成貴が、父の意を継いで家長となる。


 しかしそうなると、分家の出る幕はない。


 誠一郎は年子の男児ということで、権力争いのために数々の分家の親族に目をつけられていた。


 当主亡きあと誠一郎を次期当主に据え、分家が後見人となって意のままに操ろう。そういう魂胆だった。


 兄が家を継ぐ前にその身に何かあれば、代わりに家長になるのは次男の誠一郎であったから、教育は人並み以上に、跡継ぎである兄とほぼ同様に受けていた。


 しかし、誠一郎としても、兄が無事に家を継いだら次男の自分は家を出るものだと思っていたし、兄は自分と違って商才があり、非常に優秀であることは分かっていた。


 だから、もし万が一親族たちに兄の対抗馬として担ぎ上げられようとしたとしても、固辞すると決めていた。


 だが、兄と仲が良く、競争心に乏しい誠一郎を焚き付けるために、権力に目がくらんだ親類たちは、誠一郎が兄を慕う気持ちまでも折って抱き込もうとしていた。


 兄はお前のことを愚図だと言っていた、お前がいなければ良かったと、こんな悪口を言っていた、お前の大事なものを壊した、侮辱した、だの、あることないこと誠一郎に吹き込み続けた。


 だから誠一郎は、何も聞かないように、関心を持たないようにして、心を殺した。


 毒霧の中にいると、自分の吐く息まで毒になる。


 純朴だった少年は、口数が減り、表情がどんどん乏しくなっていった。


 このまま誠一郎が権力争いの道具になり、家が二つに割れることになってはいけないと、誠一郎は父の命令で屋敷の離れで隠して育てられることになった。


 歴史を振り返れば、過去には二つの神輿を担いだ権力争いで家が丸ごとつぶれたり、兄弟同士で殺し合ったような例もある。


 二人の父はそれを懸念して、家のためにこそそうしたのだろう。


 表向きには、誠一郎はよそに出したとか、能力的に跡継ぎに不向きだということにされた。


 兄にも父にもなかなか会えず、世間から隔離され、屋敷の離れで隠されて暮らしていた誠一郎には自由がなかった。


 心を慰めてくれるのは、大好きな本を読む時間と、人目を忍んで夜中に敷地内を出歩く時間だった。


 そんなある時に、敷地の外れの物置小屋の中から、助けを求める少女の声がした。


 鍵を開けてやりたいけれど、いない存在とされている自分の立場ではどうすることもできなかった。こんな寒い夜に、暗い小屋に一人ぼっちの彼女のために、せめて共にいるくらいはと思い一晩を語り明かすと、少女にまた会うことを誘われた。


 自分の立場上迷ったが、夜に少し話すくらいなら問題ないだろうと思った。それに、こうやって同年代の人間と個人的に親しく話せる機会などめったにないのだ。


 自分がここに来ていることは誰にも言わないようにと約束させ、小屋の壁越しに話すことで自分の姿を少女に見られないようにもした。


 自分がこんな立場だからこそ、夢を見られない自分の分まで夢を叶えてほしいと本当に思っていたから、少女の夢を応援していた。


 深沢家の次男でも、跡継ぎの対抗馬でも何でもなく、ただの自分に喋りかけてくれる彼女の存在がありがたかった。自分が誰であるとか関係なしに、無邪気に話してくれることが、嬉しかった。無垢な言葉が、愛おしかった。


 そんなある時、父が突然の危篤状態となった。


 父の当主としての最後の指示に基づき、名目上は兄が家を継ぎ、誠一郎はすぐに他地方の名門校の寄宿舎に送られた。


 あっという間の出来事で、正体も分からないあの少女に別れを告げられなかったことは、誠一郎としても心残りだった。しかし、ただちに行けという父の命令に逆らうことはできない。


 もともと社交的な性格ではなく、関心も内向的で、何かに興味を持つと他のことはすっかり頭から抜け落ちてしまうし、人のことを覚えているのが得意ではない誠一郎。


 それに加えて、寄宿舎まで追いかけてくる親類たちののひどい権力争いに巻き込まれて、尚の事強く心を殺していた。


 いつしかあの憩いの時間も、少女の夢も、心を殺すままに時間が過ぎ、忘れてしまっていた。


 その後、父が亡くなって名実共に兄が当主となると、誠一郎は正式に家を出た。


 絶対権力者の父がいなくなり兄が家を継ぐときに、もう自分のいられる場所はこの家にないこと、自分がここにいては後を継いだ兄が立場上困ること、親族たちに向けた体裁などを考えて、家を出ることにしたのだ。


 自分一人くらい、どうとでもなる。


 居場所がなくなったというのに、不思議と心は軽くなっているのを感じていた。


 姿を隠す必要もない。行動が制限されることもない。見えない鎖で未来を縛られることもない。


 親類はともかく、兄弟仲は相変わらず悪くなく、送り出す際には兄が沢山の洋書を贈ってくれた。


 借家の手配も、兄は弟を心配し、誠一郎が出る地方の物件を管理する大家夫妻に連絡を取ってやった。


「深沢家の坊ちゃまを長屋に住まわせるなんて、そんなことさせられませんよ!」


「とはいえ、僕はまだ稼ぐような手立てもないし……。雨風をしのげて、物を置けるだけで十分なんだが」


「古くて宜しければ、良い立地に手前どもの物件がございますが……」


 紹介された家を見に行って、今まで屋敷や宿舎暮らしだった誠一郎は、そのぼろさに少々驚きはしたが、そこに住むことを決めた。


 少々古びてはいるが、ここは自分だけの城だ。


 もう誰に気兼ねすることもなく、夢を追おう。


 誠一郎は寄宿舎時代に、同級生と話すこともほとんどなかったため、よりいっそう読書が好きになり、朝から晩まで時間さえあればずっと本を読んでいた。


 そこで密かな夢をいだいたのだ。小説家になりたい、と。


 物語の中だったら、何にでもなりきれるし、どんな人物だって、関係だって、作り出せる。現実の自分の立場なんて関係ない。


 夢を追う。そう考えた時、誠一郎の脳裏を何かがかすめた気がした。


 たしか、前に誰かもそんなことを言ってたような気が。


 しかし、屋敷の離れで暮らしていた時代を思い出そうとすると、心無い大人たちの言葉が錯綜して苦しくなる。


 それから、ずっと憧れていた作家の師匠に弟子入りをした。


 そして……




 今、この薄暗い旧劇場の一室で、椿月と二人、寄り添っている時間がある。


 誠一郎の顔を、丸くなった瞳で見つめたまま、呆然とする椿月。


「本当に……?」


 椿月は混乱する頭で考える。


 たしかに、成貴様に弟がいるなんて、二人目のご子息がいるなんて、お屋敷で奉公していた頃には聞いたことがなかった。


 はじめは成貴様が現れたことにに衝撃を受けて何も分からなくなっていたけれど、よく考えてみれば。


 夢を見るべくもない自分の分まで夢を追ってほしいと、誰かがそばにいてほしいと言った、寂しそうなあの言葉の真実。


 椿月はあの頃の言葉の真意を悟った。


 誠一郎は椿月の問いかけに、


「はい」


 とまっすぐ目を見て頷く。


 そして、表情づくりの下手な彼が、目だけで優しくほほえんでみせる。


「子どもの頃からの夢が叶って、本当によかったですね。椿月さん……」


 それはきっと、あの時の私が求めていたもので。


 暗闇で私を勇気づけてくれたあの優しい声で、私の夢が叶ったことを祝ってほしかった。褒めてほしかった。喜んでほしかった。


「誠一郎さん……!!」


 すべてを知った椿月が、彼の首に強く抱き付いて、子どものようにわんわん泣き出す。あの頃伝えられなかった思いを、今伝えるように。


 あなたに会えてよかった。


 あなたがいてくれてよかった。


 あの時は、そばにいてくれて本当にありがとう。


 ずっとあなたのことが好きだった。


 好きだと伝えたかった。


 椿月の心の中でずっと泣いていた、叶わぬ想いに震えていたあの日の少女が、ようやくその相手に思いを伝えられた。


 二人を隔てる壁も、立場も、もう何もない。


「椿月さん……」


 自分を必要としてくれる、きつく抱きしめ返してくれる力強い腕に深い幸福を感じながら、椿月は涙を流していた。


 少女の頃の自分の涙と、今の自分の涙。いろいろな感情が混ざり合ったそれは、自分の心の錆を清らかに洗い流していった。


 かつて壁越しに出会い、語り合い惹かれ合った二人は、ようやく再会できた。


 涙をこぼしながら抱きしめ合い、二人の思いは今、やっと一つになった。








 雨雲が払われた、静かな空の下。


 月の光に見守られて、椿月を家まで送る帰途。


 誠一郎は彼女の手を握りながら、言った。


「あの……お願いですから、もう何も言わずにいなくならないでくださいね」


 その目には、まるで見捨てられそうな犬のような懇願が見える。


「椿月さんにもう二度と会えないかもしれないと思ったとき、悲しくて、心臓が壊れてしまうかと思いました。もう、あんな思いには耐えられません……」


 彼女の手を握る手に、無意識に力がこもる。


「椿月さんにもし、何か消えてしまいたいくらいつらいことがあったら、必ず僕に言ってください」


 意外な願いに、足を止めた椿月がきょとんと彼の顔を見上げると。


「その時は僕も、すべてを捨てて、椿月さんと一緒にここを離れます」


 思いもしなかった言葉に、椿月は驚いて言葉をすぐに返せなかった。


 そして誠一郎は言う。


「何があっても、一緒です」


「はい……」


 頷く椿月の目尻に、また涙の粒が光る。


 どれだけ長く厳しい冬が続こうとも、時間は確かに流れていて、裸になっていた木々もいつのまに芽吹きはじめている。


 きっと近いうちにこの街にも桜の花が咲き乱れ、新しい季節を彩るのだろう。


 二人の歩む未来を祝福するように。













 暖かい日差しの中、縁側でのんびりと煙管を吸う誠一郎のもとに、椿月がやってくる。


「煙たくないですか?」


「ううん」


 そう言って床に膝をつくと、上半身を乗り出し、椿月が誠一郎の唇を奪う。


 突然のことに驚きつつ、誠一郎は支えるように彼女の腕に手を添えた。


 しばらくして唇が離れて、戸惑いに頬をほのかに紅潮させる誠一郎。


「まだこんなに明るいのに……」


 椿月はうふふと笑いかける。


「だって私たち、もう夫婦だもの」


 あれからしばらくの時が経ち、祝言を挙げた二人は、椿月が誠一郎の借家に移り住む形で共に生活を始めた。


 ここは深沢家の土地であるし、本家からの祝いの代わりに新居を建て直してやると兄に言われたのだが、二人で相談し、当面それはいいと断った。


 たしかに古びてはいるが、二人の思い出のある家だから。


 二人はいつかのように、縁側に並んで真っ白な築地の壁と青空を眺める。


 一緒にいることに理由がいらなくて、必ず相手が自分のもとに帰ってくる。


 なんて幸せなんだろう。


 陽光の温もりが包む中、どちらからともなく、視線を交わした二人がほほえみ合う。




 いつか読んだ外国の詩に、天にあっても地にあっても、生まれ変わっても共にいようと誓う愛の歌があった。


 今はそれがよく分かる。


 どこにいても、生まれ変わっても、あなたと共にいたい。


 物語の中でしか聞いたことがないような連理の契りというものを、あなたとだから知ることができた。




「連理の契りを君と知る」<完>







「とりあえず、この作品はここで完結にします」


「分かりました。でも、もし続きを書きたくなったらいつでもおっしゃってくださいね。このシリーズは先生の一番のヒット作、うちでも未曾有の売り上げを誇る作品なんですから!」


 威勢の良い若手の編集者が、拳を作って前のめりになって言う。


 作家は面映ゆそうに、少しだけほほえみをたたえた。


「ただいまー! おとうさまー!」


 その時、書斎に小さな男の子が駆けこんできた。


 自分の父以外に知らない大人の男性がいたことで、ビックリして動きを止める。


「お父様のお仕事中に勝手に入ってはだめよ」


 男の子を追いかけて、今度は和服姿の女性がゆったりとした足取りで入ってきた。


「おかえり。まずは着替えておいで」


 作家は落ち着いた声で、幼い息子にに着替えを促す。


 はあい、と再び駆けて男の子は部屋を出ていく。軽快な足音が遠ざかっていった。


「奥様、お邪魔しています」


 編集者は満面の笑みで女性に挨拶をする。


 作家の何より大切な、花のように麗しい、美しく可憐な妻。


 元人気女優の美人妻を見たくて、この作家の家に原稿を取りに行く役目はいつも争奪戦になっていることは、社内だけの秘密だった。普段は原稿取りになど行かないような人まで行きたがるのだから大変だ。


「お構いもできずすみません。いつも主人がお世話になっております。お茶、すぐにお出ししますね」


 そう言ってゆっくりと動き出した妻を「いやいや!」と制して立ち上がり、編集者は言う。


「原稿もいただきましたんで、私はこれで! またおうかがいします! お体、お大事になさってください!」


 そうニコニコ話し、ぺこりと頭を下げると、足取りも軽く玄関から出て行った。


 元気な若い編集者に、妻は思わずクスリと笑う。


 残された二人だけの空間。


 和洋折衷のモダンな邸宅に、春の甘くて優しい風が吹き抜ける。


 ベランダ沿いに作られた書斎兼応接室は、サンルームのように一面がガラス戸になっており、柔らかい陽射しがよく入る。


 いつも原稿まみれの書斎机の上は珍しく片付いており、外国より送られた知人の俳優からの手紙が、返信用の便箋と共に置いてあった。


 妻は夫にほほえみかける。


「あの話、やっと終わったのね」


「ここまで長く書かせてもらえるとは思いませんでした」


 夫は目を細め、薄く、でも温かいほほえみを返す。


「ふふ、お疲れ様」


 ふいに涼しい風が吹き込んで、穏やかな沈黙が訪れる。


 二人のこれまでをなぞるような時間。


 そして妻はこう尋ねた。


「ねえ、あなたの小説、私も読んでいい?」


 夫は目をつむって一呼吸置いた後、答えた。


「いいですよ。やっとあなたに読んでほしい話が書き上がりましたから」


 それは、もうずっと前の約束。


 律儀に守り続けていた妻は、優しくほほえんだ。


「そう……。あれから何年かかったかしらね……」


「……すみません」


 夫は表情に苦笑をにじませる。


「いいの。約束したもの」


 大人の女性の優雅なほほえみの中に、夫はいつまでも、無邪気な娘の頃の彼女の笑顔の面影を見る。


「あなたと出会ってから今までのことに、こうしていつでも本で出会えるって、素敵よ。……本音を言うと、ちょっぴり恥ずかしいけどね」


 そう言ってうぶに顔を赤らめる妻の頬に、夫は手を伸ばす。


 触れた指先に誘われて、二人は静かに唇を重ねる。


 長く、穏やかで、心の満たされる口づけ。


 それから夫は、おもむろに妻の腹に掌を当てた。


「……体調はいかがですか」


「調子いいわ。大丈夫。最近よく動くのよ」


 ふくらみを帯びた腹部からは、二人が作り出した新しい命の存在を感じられる。


 妻は楽しそうにお腹をさする。


「次も男の子かしら、それとも女の子かしら」


「女の子だったら、君に似てくれないと困るな……」


 真剣にそうつぶやく夫に、妻は思わず笑ってしまう。


「ふふふっ。無事に生まれてくれたら、なんだっていいわ」


「そうですね」


 むつみ合う視線が交わる。


 今日も、明日も、明後日も、一緒にいられる幸せをかみしめながら、二人で生きて行こう。






短編連作「連理の契りを君と知る」<終わり>











最後までお読みいただきありがとうございました!


本シリーズのあとがきを、全体公開のfanboxに掲載しております。

もしご興味がありましたらこちらからどうぞ⇒

https://izumixizumi.fanbox.cc/posts/3684148


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