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離宮

 アルバート王子の馬車で私たちの住まいとなる離宮へ向かうことになった。

 あまり広いとはいえない馬車の中で、膝が当たらないように真正面ではなく少し横にずらした位置に座る。


「アルバート様、ご公務がお忙しいのではないですか?少し顔色が良くない気がしますが」

「一昨日帰国したばかりで、王への報告や議会への出席であまり休んでもいられなくてな」

「では、離宮の確認も日を改めたほうが良かったのではないですか?」

「ちょうど今日は時間に余裕があるのでな。今のうちにお前に見せておこうと思った。ソフィーならきっと気に入るだろう」


 アルバート様は二人になると、私の事を子供の頃からの愛称であるソフィーと呼ぶ。

 子供の頃から何度も一緒に遊んだり冒険したアルバート様は、私の性格や好みをよく知っている。

 現王とお妃さまの教育方針で、王子は貴族の子供たちと遊んだり、一緒に勉学をすることがよくあった。将来臣下となるであろう貴族の子供たちと交流を持つことは、性格や考え方を知っておく上で重要であるとの理由からだ。それとともに、自由に恋愛することは許されないということも、幼いころから理解しているのだ。だから私との婚約についても特段の恋愛感情があるわけでもないと思っている。国のため、王を支えるため、そういうことなのだろう。


「もうすぐ着くぞ。あの丘の上にある建物が離宮だ」


 王宮から馬車で小一時間も離れているその離宮は、真っ白の外壁に異国の青いタイルで模様が施され、屋根は丸みを帯びたなだらかな形をしている。外側の門は重厚な門で美しい蔦を模した装飾がされている。流石は皇族が住まうとあって離宮といえど、豪華なつくりをしているのだ。


「なんて爽やかで美しい建物なのかしら。異国のような雰囲気がとても気に入りました」

「ふっ、まだ中にも入っていないのにもう気に入ったのか」


 アルバート王子はそう言いながら馬車を降り、私に手を差し出してエスコートしてくれる。

 馬車をおりて玄関までの前庭を見ると、左右対称に植物が植えられており中央には噴水があった。

 なんとも贅沢である。


「ようこそおいで下さいました。アルバート殿下、アルトノエル公爵令嬢」


 執事とメイドが一列に並び私たちを迎えてくれる。


「お茶のご用意ができておりますのでまずはご休憩されてはいかがでしょうか」

「そうだな。喉が渇いたのでちょうどいい。ソフィアは冷たいものがいいのだろう?」

「そうですね・・・できれば冷たいものがいいですが、急にご用意いただくのも申し訳ないので温かいお茶でも構いません」


 するとすかさず執事が


「冷えた柑橘水をご用意してございます」


 と言ってくれたので、それをお願いした。


 冷えた柑橘水は暑さで火照った身体を冷やしてくれる。とても美味しくすぐに飲み終わってしまった。すかさずメイドが新しいグラスにもう一杯入れて持ってきてくれた。流石そつのない動きだ。我が家のメイド達も優秀だと思っていたが、ここのメイド達は洗練された身のこなし、気の付き方が上級教育を受けている者のそれだと感じる。

 その後、執事に案内され、各部屋を見て回った。2階部分にはアルバート王子の執務室、3階には私室があり、私の私室も3階部分にある。

 夫婦の寝室となる部屋はアルバート王子と私の私室それぞれの部屋の間に設けられていた。

 私の私室となる部屋は天井が高く、南向きの大きな窓がとバルコニーがある。バルコニーからは中庭が見え、遠くに海も見える。


「アルバート様・・・」

「この離宮はどうだ。気に入ったか」

「はい!とっても美しくて気に入りました。ありがとうございます。ここでの生活が今からとても楽しみです」


 そう答えるとアルバート様は満足げに微笑んで


「お楽しみはこのくらいにして、私は王宮へ戻らなければならないので屋敷まで送らせよう」


 そういってアルバート様は王宮へ馬で戻り、私は一人馬車で屋敷まで帰ることになった。


 きっとお忙しい中、時間を作ってくださったのね。ここに住める日が楽しみだわ。

 そう思いながら今日の出来事を両親へ報告し、お母さまに至ってはうっとりして、まるで自分がそこに住むかのように喜んでいた。

 お父様だけは寂しそうな目をして微妙な表情をしていたが、やはり娘が嫁ぐのが寂しいのだろう。

 この家族として生まれて本当に良かったと思う。


 過去の人生の記憶では、寂しく空虚な思いをした人生だった。その分、身分差もなく男女が平等にものを言えて、仕事も持っていた。自分の衣食住は大人になればすべて自分でやっていた。

 逆に今の人生は身分差があり、貴族の子女は職業などにつくことはない。父親や夫の身分や立場で一生が決まると言ってもいい。寂しくはなく生活に何の不自由もない。ただ、何かが人生に足りないという感じが常に胸の奥にある。パズルのピースが1つだけ足りない、そんな感じの。









 

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