9 魔物退治③
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「俺は悪くないっ!!」
私達のいる高台へエーレン、ユリアン、そしてアルバンさんが戻ってきた。下では兵士さん達が氷漬けになった魔堕螺を次々と運び出していく。これから人や農地に被害の出ない場所まで運んで退治するんだろうね。大変だなぁ、私はもう何もできなくて申し訳ないな……。でも怪我人が多いよりはいいよね。
「魔物は倒したんだ。文句ないだろっ!」
アルバンさんが喚いているのをみんなが白けたように見てる。でもアルバンさんは貴族だから誰も何も言えなかった。ただエーレンとユリアンだけは遠慮しなかった。
「目だけじゃなくて頭も悪かったんだねぇ、君」
「言いたいことはそれだけか?助けに来たんじゃないのか?足を引っ張るのが君の趣味か?」
「…………」
勇者と王族に責められて何も言えずに悔しそうに押し黙るアルバンさん。
「来年の穀物の収穫量が……」
「ここが全てじゃないけれど、ここは主要な農地だから……まずいよな」
口々に言い合う兵士さん達の言葉を聞いて私は少し考え込んだ。穀物の収穫量が減ったら、お菓子食べられなくなっちゃうかも。私はお城に来て初めて食べたけど、あのお菓子が食べられなくなっちゃうのは嫌だな。それどころじゃないか……。ご飯も食べられなくなっちゃうかも……。困る。うーん、毒、農地。刈り取りが終わってるところとそうじゃないところ……雑草……雑草?あれ?なんかできそうな気がしない?薬づくりの応用で。私はポケットに入れていた光石の袋を取り出した。
「どうしたの?フィリー?」
「うん……。アンジェ、私できそうな気がするんだ」
「え?何を?」
「解毒……。ちょっと実験してみるね!」
「え?ちょっとフィリー?」
「実験、じっけーんっ」
私は変な節をつけながら、農地を見渡せる高台の際まで歩いた。光石を取り出して掲げた。雑草の中には私が薬作りに使う薬草もある。私は師匠に教わったことを思い出してた。
『植物には、我々にもだが、力があるんだ。薬は植物達の力を借りて作るものだよ』
そうだ、だったらできるかもしれない。すりつぶさなくても。光石に私の魔力と言われてるものを込める。私の力を光石を通して植物達に伝える。染み渡った力が反応して、植物達が、大地が光を放つ。そこに解毒薬を生成する。みんなの力を借りて。
「あ、できたかも……」
そんな感覚がした。いつの間にか閉じていた目を開くと、魔堕螺の毒で酷い色になっていた農地が元に戻っていた。
「たぶんこれで大丈夫だよね?」
私は恐る恐る崖下を覗き込んだ。うん。大丈夫そう。確認しようと思って下に降りるつもりで振り返ると、みんなが何故かこっちを見てた。
「えと、ちょっと解毒してみたので、ちゃんとできてるか近くで確認してきますね」
私はえへへと笑って歩いて行こうとした。失敗してたら恥ずかしいもんね。確認は大事!でもそれは出来なかった。エーレンに抱き止められたから。
「?エーレン?」
これはお芝居のやつなのかな?そう思って見上げると、エーレンが酷く深刻な顔で私を見てた。
「フィリー、君はやっぱり……」
「エーレン?」
覆いかぶさるように抱きしめられた。何かから隠そうとするみたいに。
「おおおおおおおおおおっ!!」
瞬間、物凄い歓声が上がる。
「え?え?」
なに?みんなどうしたの?エーレンに抱きしめられたままの私にアンジェとユリアンが駆け寄って来る。
「いやぁ、凄いもん見たよぉ」
「凄いわっ!フィリー!!」
アンジェはユリアンの腕をギュッと抱き締めながらニコニコしてる。そういえば二人が二人でいるのを見るのは久しぶりだね。
「凄いって……ただ解毒しただけだよ?」
私は不思議に思った。何で大騒ぎしてるの?
私は何気なく手の中の光石を見た。
「あ」
光が消えてた。エーレンの腕の力が強まった。
ユリアンとアンジェの帰りの馬車での会話
「久しぶりだねぇアンジェ。ずっと忙しそうだったから寂しかったよ?」
「……そ、そうね。ごめんなさい。皆さんに治療を頼まれて忙しくて……でもユリアンだって離宮へ行っちゃってて……」
「よく一人で治療を続けられたねぇ。大丈夫だった?」
「え?わたしが調子悪いの知ってたの?」
「うーん、アンジェは気が付いてなかったんだねぇ」
「どういう意味?」
「アンジェはさあ、魔力と体力がポンコツなんだよねぇ」
「ちょっと!何よそれ!」
「でも、いろんなことが出来る才能があるんだよぉ。でもフィリーはその反対。魔力が半端ないんだよね。君達は二人そろってると最強の白魔法使いなんだよねぇ」
「え?」
「フィリーの魔力がアンジェの力を底上げしてたんだよ?気が付かなかった?」
「あ、だから最近力が出なかったの?わたし……」
「フィリーは本当に優しいから。無意識なんだろうけど。不思議な子だよねぇ。……残念だったねぇ。貴族の皆さんに気に入られなくて」
「…………。だって、だって、悔しかったんだもの!フィリーがエーレンに、王子様に気に入られてて!」
「うーん、正直だねぇ。僕じゃ不満だったの?」
「そうじゃないわっ!一番好きなのはユリアンよっ!でも、でも……」
「で?どうだった?」
「みなさん、優しいけど、全然相手にされなかったわ……」
「だよねぇ。僕達はただの平民だもんねぇ」
「ごめんなさい。わたしの事もう嫌いになっちゃった?」
「うーん、まあこうなることは予想してたからねぇ。ちょっと呆れてるだけだよ。今回は許してあげるねぇ。ただし、二度目は無いよ?」
そう言ってユリアンは目を開いてアンジェを見つめた。
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