8 魔物退治②
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今は秋の終わりで、畑には刈り取りの終わってない作物が残っていた。そこを目掛けて魔物はやって来たようだった。ユリアンが討伐を頼まれた時の魔物の数は一体だけ。ユリアンは魔法剣士で、剣の腕もたつし攻撃魔法も使える。剣に魔法をまとわせて戦うこともできる。氷魔法で凍らせて動きを止めて被害の出ない場所へ運んで倒せばあっという間に片が付くはずだった。
「魔堕螺は動きの速い魔物ではないはずよね?」
アンジェが不安そうに言う。
「うん。でもこれって情報と色が違うよね?」
本来なら毒々しい緑色なのに更に毒々しい紫色が混ざった色。そう、変異種だ。
「これは……速すぎるな」
エーレンも険しい顔をしてる。
「こんなにたくさんいるなんて……。ユリアン、大丈夫かしら」
私達は戦いの場から遠く離れた高台から見守っていた。
畑の上空にはざっと数えただけで二十体くらいの魔堕螺が飛んでいる。ユリアンが氷魔法で攻撃してるけど動きが速すぎて中々当たらない。ユリアン、イライラしてるみたい。それでも足元の農地には魔堕螺が何体か凍り付いて落ちていた。
ユリアンの他にも魔法が使える兵士さん達が動き回って魔物を倒そうとしてる。でも全然上手くいってないみたい。あ、アルバンさんも来てる。そうか、あの人も剣士だけど一応魔法使えたんだったね。
「厄介だな……フィリーここから動かないでね」
「う、うん、エーレン。でもどうするの?」
「大丈夫だよ。アンジェリア念のためにここで防御を。今ならできるだろう?」
そう言ってエーレンは魔法を発動した。
「あれ?これって転移魔法?」
「え?氷魔法じゃなくて?」
私が呟くとアンジェが驚いた。
エーレンの姿が消えて、一番近くの魔堕螺のすぐそばに現れた。
「エーレンっ!あんなに魔物の近くにっ!」
私は思わず声を上げた。両手を胸の前で組んで。
宙に浮かんだエーレンは手を振り上げて魔法を発動させた。
「あ、今度は氷魔法っ!」
魔堕螺が一瞬で凍り付いて地面に落ちた。
「凄いっ!エーレンっ!」
「おおおおおっ!」
一緒に見守っていた兵士さん達からも歓声が沸いた。
エーレンは地面に落ちる前に再び転移魔法を使って地面に降り立っていた。
「凄いな。こんなことが出来る人間がいるのか……」
近くで見てい兵士さんが驚いていた。ローベン隊長さんだった。近くにはクライン副隊長さんもいて、よく見たら見知った兵士さん達もいた。
ユリアンはそれを見ておおっ!って顔をした、と思う。
「え?ユリアンって転移魔法使えたっけ?アンジェ」
何とユリアンはエーレンを見て転移魔法を使って同じように魔堕螺を倒し始めたのだ。
「ううん。今見て覚えたんだと思うわ。ユリアンって昔からそういうとこあるもの」
アンジェが頬を赤らめて惚れ惚れとしたように言った。
「ユリアンって、ほんと天才よね。かっこいいわ……」
そういえばアンジェは魔物に襲われてるところをユリアンに助けてもらって、好きになったって言ってたっけ。うん。戦ってるユリアンは確かにかっこいいと思うなぁ。金色の目が生き生きと輝いてる。でも、エーレンも凄いよね。魔物の動きを計算して先回りして、魔物を倒してる。転移魔法って凄く魔力を使うから疲れるんだって馬車の中で言ってたんだよね。エーレンの魔力も底なし体力魔力のユリアンに負けてない!!
「い、一度見ただけで真似できるものなのか?あれを?」
ローベン隊長は驚愕してる。
「さすが魔王を倒した方々ですね……。化け物ですか……」
クライン副隊長も顔を引きつらせている。
魔堕螺達はそう言いあってる間にも二人にどんどん氷漬けにされて落とされていった。
「くっそぉっ!!」
アルバンさんが悔しそうに何か叫んでる。アルバンさんは何かって言うとユリアンに張り合っていたから、自分が全然役に立たない状況に腹を立ててるみたい。それどころか、見下すようなことを言っていたエーレンとも力の差を見せつけられてイライラしてるように見える。
「あ!!駄目だっ!!それはっ!!」
突然、ローベン隊長さんが声を張り上げた。あ、アルバンさん何考えてるの?それは炎魔法だよ!アルバンさんの一番得意な魔法は炎の魔法だ。でも、今はそれを使っちゃダメだよ!そんな攻撃したら……。
爆炎が一体の魔堕螺を包み、その体を爆散させた。近くにいたもう一体が誘爆する。炎では消えない毒の体が粉々になって飛び散って、その下の農地一帯を広く汚染していく。毒々しい緑や紫色に光る大地……。アルバンさんも巻き込まれそうになったけど
「ちっ」
舌打ちしたエーレンの転移魔法で安全な場所まで移動していた。近くにいてやはり巻き込まれそうになっていた一人の兵士さんもユリアンに同じように救い出されてた。良かった。みんな無事だ。魔物も全て倒された。飛んでる魔物ももういない。それも良かった。
でも……。
「これって、この場所は……」
アンジェが沈痛そうな顔をしてる。
「もう、汚染されてしまった……。向こう十年は農地としては使えない……」
ローベン隊長さんは愕然としている。
「なんてことをしてくれたんだ……」
クライン副隊長さんは額を片手で押さえた。
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