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22 ささやかな

来ていただいてありがとうございます!


真っ白な世界


キラキラ光る氷の粒



二人で転移した先は私の故郷のレシーネ山だった。私の家。私とお師匠様の家。

「エーレン、これって?」

「フィリーは帰りたがってたから。春になったら麓の町に屋敷が建つ。そうしたらみんなを呼び寄せてそこで暮らそう。もしフィリーがそうしたいなら、ずっとここに二人で住んでもいい」

「エーレン」

春までエーレンと二人でここに……。

「嬉しい!」

お城の暮らしは贅沢でとても素敵だったけど、やっぱりここが落ち着くみたい。


「でも、エーレンは?こんな山の中じゃ嫌じゃない?」

エーレンが無理をしてるんじゃないかって心配になった。

「俺は元々、城を出るつもりだったんだ。だからフィリーと一緒ならどこでもいい。魔王を倒す旅のことを考えれば全く問題ないよ」








「あ、これ、この前作ってくれた根菜のスープだね」

「うん。今回は大きめに野菜を切って、煮込んで柔らかくするね。私はこっちの方が好きなんだ」

「楽しみだ」

一緒にご飯を作ったり、食べたり、お茶を飲んだり雪を眺めたり、時々は町へ買い出しに行ったり、ふたりで選んでお菓子を買ったり……ささやかな楽しい幸せな時間が続く。




「そうだ!お師匠様のノート!新しい薬が作れるようになったんだっけ」

吹雪いてて外出ができない日、私はお師匠様の覚書のノートを開いて暖炉の前に座ってた。

「今日はこれに挑戦してみようかな」

ぐいってうしろから体を引かれた。

「?」

「フィリー、何見てるの?」

エーレンが私を後ろから抱きしめてノートを覗き込んできた。私はエーレンに寄りかかって顔を見上げた。


「お師匠様の薬のレシピノートなの。私が上達すると新しい薬の作り方が出てくるんだよ」

「へえ、不思議だね。フィリーのお師匠って何者なんだろう」

「今日はこれに挑戦してみようかなって思ってて……」

「…………」

「エーレン?離してもらってもいい?」

「…………やだ」

「え?!」

「フィリーはあったかくてやわらかいから、離したくない」

「…………」


ちょっとだけ困ったのはエーレンがこんな風に結構な頻度でスキンシップをしてくることだった。離してくれないので薬作りが中々出来なかった。嫌とかじゃないんだけど、ふ、夫婦ってこんな感じなのかな?そしてその後は決まってそういう気持ちになってくるらしくて、しばらくの間はエーレンの熱を感じ続けることになる。









午後の穏やかな日差しの中で、お師匠様に教えてもらった「雪玉」って名前の木の実のお菓子をつくってエーレンとお茶を飲んでた。

「フィリーのお師匠っていろんなことが出来るんだね。どんな人だったの?」

エーレンはお菓子をつまみ上げて調べるように見つめた。

「ちょっと気難しい人だったけど、冷たい人じゃなかった。厳しい人だったけど、優しい人だったと思う。私は好き。でも何故か麓の町では山の魔女って呼ばれてた」

「山の魔女か……。会ったことは無いけど何だかしっくりくる気がする」

エーレンは何かを思い出したのか苦い顔をしてる。きっと初めてこの山に入った時のことを思い出しているんだろうなって思った。


ユリアンやエーレンが言ってた山へ入るための試練はきっと、残していく私を守るための仕掛けだったんだろうなって思ってる。転移魔法で入ることは出来ないけど一度突破して認められると、次からは道が開けて山道を登らなくて良くなるみたい。


でもユリアンはわざと試練の道の方を通れるようにしてもらってた。

「あいつはクレイジーだな」

ってお師匠様に言われてたっけ。どんな仕掛けだったんだろう?火竜って前にエーレンが言ってたよね?お師匠様は日ごとに試練が入れ替わるとか言ってたんだけど。本当にお師匠様って不思議な人。






私は両親の顔を覚えてない。お師匠様は物心ついたころには一緒にいて

「私の事はお師匠様と呼びなさい」

って言われた。いつも一人で生きていくための術を教えてくれていた。薬をつくること、山の恵みを得ること、山での危なくない暮らし方。


「お師匠様、今頃どこにいるんだろう?」

窓辺で星空を見上げてたらエーレンが隣に立った。

「寂しい?」

「ううん、寂しいっていうかちょっと心配なんだ。研究熱心で食事も忘れちゃうことがあったから」

「それは……。もう何年も会ってないんだろう?確かに音沙汰無いのは心配だね」

エーレンは私の肩を抱いてブランケットを巻きつけた。

「あったかい……うん。究極の回復薬の材料、見つかったかな?見つけたら帰ってくるかな?」

「……やっぱり寂しい?」

「今はエーレンがいてくれるから平気。エーレンのこと紹介したいな。きっと驚くと思う」

「早く帰ってくるといいね。俺も会ってみたい」

「うん」

その時、空を星が流れた。私は流れ星に願いをかけた。お師匠様に教わったように。いつかみんなでお茶を飲んでおしゃべりできるといいな。






十二歳になってお師匠様が旅に出てしまってからはずっとここで一人だった。だから誰かが一緒にいてくれるのは本当に嬉しかった。愛する人との、家族との時間。朝も昼も夜もずっと一緒。ずっと欲しかったけど欲しいって気が付いてなかったもの。


私達はたくさん、たくさん話をした。色々なことを。エーレンの子どもの頃のこと、お母さんのことも話してもらった。王子として生まれて父である国王様や自分に魔力があることを呪ったことも。


「それでも、私はエーレンが生まれてきてくれて良かった。こうして出会えたから。おかげで私は今、寂しくなくなって幸せになれたよ」

「俺もだよ。フィリーを連れ出してくれたユリアンやアンジェリアにも感謝しないとな。もちろん育ててくれたお師匠にも」


私達はそう言って笑いあって口づける。


ささやかな、幸せな幸せな時間が続いていく。




















やがて


暖かな日射し

山や森に緑の色が戻り、鳥達が元気にさえずるようになる頃。


「やっとお二人の顔が見れましたよ!」


山の麓の町にお屋敷が建つと、離宮にいたパウエルさんやメイドさん達がお引越ししてきてくれた。私達二人きりの暮らしは一気に賑やかになった。


この辺りには目ぼしい産業は無かったんだけど、私のつくる薬を売って領地の収益に回したり、エーレンが魔物討伐に行って褒章を得たり、光石の売買で領地経営をしていくことになった。実はこの国ではまだあまり知られてないけど、他国では光石は「精霊石」と呼ばれていたり、「空からやって来た石」と呼ばれていたりしているらしい。主に魔力の増幅に使われるんだって。使用者を選ぶらしいけれど、とても高値で取引されるって聞いた。


ユリアンとアンジェの結婚式にも出席した。二人ともとっても幸せそうで私も泣いちゃった。私の結婚式の時のユリアンの気持ちがちょっと分かった。



魔王がいなくなっても、魔物がいなくなったわけじゃないから、色々な貴族の方から土地の解毒の依頼がきたり、魔物討伐の依頼が来たり薬の発注がきたりした。ライオネル王弟殿下経由で。それから、いまだにライオネル王弟殿下からは私宛にお手紙や贈り物が届いたりもする。そのたびにエーレンとパウエルさんが怒って送り返してた。


「しつこいな、まだあきらめてないのか」

「うちの奥様に余計なことをしないでいただきたい!」

って。奥様なんて言われるとまだちょっと照れちゃう。





その後ユリアンの予言通りに魔王が復活したりと大騒動もあった。これは凄く大変だったんだけど、ユリアンが嬉々として倒しに向かった。もちろんエーレンもアンジェも私も同行した。復活した魔王は前よりも強くなっていて、苦しい戦いを強いられた。でも新しく頼もしい仲間も加わったので私達は勝つことができた。なんとその新しい仲間の中に、ライオネル王弟殿下もいたの!


「どうだい?フィリーネ。私もなかなかのものだろう?」

って話しかけて来て、エーレンに怒られてた。

「はいはい、さっさと城へ戻って下さいね。フィリーは()の妻ですから!」


「それにしてもフィリー、今回は白魔法以外の魔法を使ってたけどいつの間にそんなことできるようになったの?」

「うんうん。何だか魔力量もさらに大きくなってるよぉ?光石のおかげ?」

アンジェとユリアンが不思議そうに尋ねてくる。私も今回は何故か戦闘でも役に立ったので不思議だった。

「うーん、それが私にもよく分からなくて……お腹の辺りから魔力が湧いてくるような……?」

「っ!フィリーっ!すぐに屋敷へ帰ろう!!安静にしてなくては!」

エーレンが慌てたように転移魔法を発動させる。

「あっ!」

「そういうことかぁ……」

アンジェとユリアンは何か分かったみたい?


「え?でも疲れているでしょう?少し休んで……」

私とエーレンは光に包まれて屋敷へ戻った。私は寝室に押し込められて絶対安静を言い渡された。




再び魔王を倒したその後、私とエーレンに家族が増えてもっと幸せになった。












そして二十数年後


最恐勇者ユリアンと聖なる白魔法使いアンジェリア、そして黒の魔法使いエーレンフリートと光石の魔法使いフィリーネの子ども達が仲間達とともに魔王を完全に滅ぼすことに成功する。彼らの物語は伝説となるのだが、それはまた別の話になる。










ここまでお読みくださってありがとうございました!

この物語はここでお終いとなります。最後までお読みいただいてありがとうございます。

少しでもお楽しみいただけましたらとても幸せです!

本当にありがとうございました!

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