18 月明かり
来ていただいてありがとうございます!
「……えっと、だから、エーレンはそんなに気にしないで!大丈夫だよ、きっと!」
私は急いで言った。
「ライアじゃなかった、ライオネル殿下は良い人そうだし……」
なんだか急に恥ずかしくなってきちゃって、気が付くとちょっとずつ後退りしてた。すっごく顔が熱い。何度かキスはされたけど、じ、自分からなんて……!!
「私っ、私も頑張るからっ!」
寒いくらいのはずなのに顔が熱くて汗かいてきちゃった。に、逃げちゃおうかな。
そう思った時、腕を引かれて抱き上げられた。エーレンは私を膝にのせて庭園のベンチに座った。エーレンの顔が近い……。膝の上に座らされて身動きが取れない。
「エ、エーレン?」
「……また、救ってもらった。もらってばかりだ。俺は弱い。情けないな……」
エーレンが私の胸に顔を埋めた。エーレンの髪の毛が私の肌に当たって少しくすぐったい。
「そ、そんなことないっ。エーレンはずっと私達を、私を守ってくれたよ?」
魔王を倒す旅の間も思ってたけど、エーレンの強さは他の魔法使い達とは別格だと思う。何て言うか次元が違うって言うか……。そりゃあ、魔王討伐を命じられるよねって感じ。すっごく期待されてたんだと思うんだ。
「エーレンは他の誰よりも強くて凄い人だと思う!!」
「もう一度……」
「え?」
「もう一度、キスして?」
「えっ?!」
少し潤んだような青い瞳。見上げられて目が離せない。も、もう一度?さっきのも結構勇気が要ったんだよ……。でも、私がエーレンに抱きしめて貰うと嬉しいみたいに、エーレンも嬉しいって思ってくれてるのかな?
「フィリー?」
あ、エーレン少し不安そう……?私はゆるゆるとエーレンに顔を近づけた。さっきは勢いでしちゃったけど、嫌がられてないみたいで良かった。唇がふれ合う。あったかい。今度はエーレンの吐息を感じる。私はそっと離そうとした。その瞬間に力強く抱きしめられた。
「んっ」
エーレンの大きな手が頭の後ろに回されて、エーレンの口づけが深くなる。逃げられない。これ、あの時と同じ。ううん、もっと……。
どのくらい時間が経ったのか分からないけど、やっと解放された。体の力が抜けて頭がクラクラする……。私はエーレンに倒れかかってしまった。そんな私を抱きしめたままエーレンは耳元でささやく。
「これから俺がすることをどうか許して欲しい」
柔らかな光が私達を包む。
転移魔法の光……?
暗い部屋……。ここはどこ?そして背中に柔らかな感触。あ、ここってもしかしてエーレンの部屋……?エーレンの匂いがする。
「愛してる、フィリー」
月明かりの中でエーレンを見上げた。覆いかぶさるように口づけてくるエーレンの背中に腕を回して身を任せた。
私が知らないことはまだたくさんあるみたい……。
夜明けの会話
「まったく……結婚式まで我慢する気は……」
エーレンフリートは早朝にパウエルに責められた。
「もともと無いさ。そんなことしてたら誰かに持っていかれる」
パウエルはエーレンフリートの瞳に珍しく焦燥が浮かぶのを見て驚いていた。
(彼がここまで感情を露わにするとは……)
「まあ、確かにそういう目で、フィリーネ様を見ていた方々も結構多かったですけどね……」
はあっとため息をつくパウエル。
「ライオネル王弟殿下もだよ。冗談めかしていらしたが、あれは本気だった」
「ええっ?!誰にも本気にならないと有名な方でしょう?まさか……」
パウエルはうーんと考え込んだ。
「フィリーネ様、お綺麗ですからね。しかもあの力。仕方がないですね。貴族のご令嬢方とはまた違って、透明感があると言うか……」
山で育ったせいなのか、育ての親だという師匠という人間がよほど浮世離れしていたのか、フィリーネには汚れたところが無いように思えた。ふわふわとしてて精霊か妖精のようだ。パウエルはフィリーネにそんな印象を持っていた。
「とにかく、さっさと用を済ませて王宮を出る。こんな所にフィリーを置いておきたくない」
(いや、そもそも強引に連れてきたのはあんたでしょうが)
パウエルはそんなことを思ったが、フィリーネの事を語る時のエーレンフリートの満たされたような柔らかな表情に何も言えなかった。
(こんなにも誰かに執着するようになるとは……)
魔王討伐を命じられたエーレンフリートは、もう戻ってこないのではないかとパウエルは覚悟していた。けれど、大切な宝物を携えて帰って来てくれた。側妃であった母を亡くしてから孤独に戦い続けた青年は、やっと安らぎを手に入れたのだ。パウエルは何としてもエーレンフリートの幸せを守ってやりたかった。
「とにかく今日にでも届けを出します。そして結婚式を前倒ししましょう。余計な横やりが入る前に」
「おっはよぉー」
ユリアンが珍しく朝早くから起きてきた。
「ずいぶん早いな」
「珍しいですね」
「寝てないからねぇ」
「大丈夫なんですか?」
「うーん、強い魔物と一晩中戦った事もあるし、結構平気かなぁ」
「一体何をされてたのです?貴族の方々と賭け事ですか?」
「あ、それも面白そうだよねぇ。でもいつも勝っちゃうからつまんないんだよねぇ」
「そういえば、いつも酒場でカードゲームをしていたな。ユリアンが負けるところは見たことが無い」
「それは凄いですね」
「あ、そうそう、今日はアンジェは起きてこれないと思うんだぁ。フィリーには上手く言っといてねえ。薬は必要ないからさ」
「…………」
「…………」
「あんた達、揃いも揃って何やってんですか……」
パウエルは再び深く深くため息をついた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




