16 波乱の舞踏会
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「マルガレーテ様の方がエーレンフリート様に相応しいですわ。下賤な貴女なんかよりずっと!」
「本当に身の程知らずですわね」
「ご自分の分をわきまえないと!」
お花みたいに着飾った綺麗な女の子達が口々に私を責めてきた。賑やかなお城の舞踏会会場からは少し離れた回廊のような場所だけどそれなりに人はいて、でも遠巻きにされてる。多分女の子達が身分の高い人達だから他の人達は口を出せないんだろうね。
「皆さん、そんなに怒鳴ってはお可哀そうですわ。その方はわたくし達のように教育を受けることがなかったのですから、もっと優しく教えて差し上げなくては」
一段と豪華で繊細なレースをふんだんにあしらった薄い薔薇色のドレスの美しい人が後ろから現れた。
「まあ、マルガレーテ様っ」
「お優しいのですねぇ」
「さすがですわ」
感嘆の声が上がる。
お城の大広間、昼間に国王様との謁見と褒章授与の儀が行われた場所は夜には舞踏会の会場になってた。ユリアンやエーレンはみんなに話しかけられて大変そう。私もエーレンが色々な人に挨拶しているのについていった。
お城、王宮って広いよね……。アンジェと一緒にお化粧直しにいったんだけど、はぐれて迷ってしまった。そしたら、見たことあるような着飾ったご令嬢方に取り囲まれてしまった。
「貴女はエーレンフリート殿下の足を引っ張ってる自覚がおありなのでしょうか?」
綺麗な扇で口元を隠したマルガレーテ様が悲しそうに言った。
「エーレンフリート殿下は才能、才覚、美貌、血筋全てが揃った御方。王位も目指せるのです。貴女と共にあることでその全てが無駄になってしまうのですよ?」
それは私も考えていたことだった。エーレンはお城を出ちゃっていいのかなって。私はエーレンとお城に住むんだって思ってたから。だからまさかあんなに田舎の土地へ来てくれるなんて。もちろんお山はとってもいい所なんだけど、そういう事じゃないよね。
「せっかく、理解していただけるように機会を差し上げたのですけれど、お分かりいただけなかったようですわね……。残念ですわ」
心底悲しいといった風に顔を俯かせるマルガレーテ様。それは温室でのことなのかな?わざと私に見せたってこと?確かに二人はお似合いだと思った。私の胸はずきりと痛む。エーレンは本当に私で良かったの……?
「今からでも遅くはありません。お二人のためにも身の処し方をお考えになられては?」
エーレンから離れろってことだよね?優しくて丁寧だけど冷たい悪意。棘のある薔薇の蔓が巻きついてくるみたい……。苦しい……。
「良かった!フィリー、やっと見つけた。私から離れないように言ってあっただろう?」
エーレンが走ってきて私の肩を抱いた。体に入ってた力がすっと抜けた。
「エーレン……」
「まあ、不敬な……。殿下に対して愛称でお呼びするなんて」
マルガレーテ様とご令嬢様達が不快そうな顔をしてる。でもエーレンは全く彼女達の方を見ない。
「エーレン?」
「さあ、戻ろう。もう私から離れないで、愛しいフィリー」
「……!」
愛しいっ?!エーレンどうしちゃったの?こんな公衆の面前でっ。私は頬が熱くなった。エーレンはそのまま広間へ戻ろうとする。歩き出したエーレンと私にマルガレーテ様が追いすがってくる。
「お待ちになってくださいませっ。エーレンフリート様っ」
「何か?」
「どうして……?父からのお話があったはずではありませんの?本日の陛下のお言葉は何かの間違いでは?」
エーレンはその言葉には答えなかった。
「……幼い頃お会いしたことがありますね。ローズフィールド公爵夫人とご一緒の時、王宮でのお茶会で」
エーレンは冷たい無表情だった。出会った頃みたいだった。
「え?」
「母が話しかけても公爵夫人は無視でしたね」
「……そ、それは……あの……」
「そして貴女は私に近づくなとおっしゃいましたよ。お忘れですか?」
「……あ、わたくし……」
エーレンはマルガレーテ様に言葉を挟むことを許さなかった。
「どうぞあの時のように無視なさっててくださると助かります。永遠に」
エーレンは私の方を見つめた。
「私はこの場所に興味はありません。愛する人と共に静かに暮らしていきたいのです」
優しい、優しい笑顔のエーレン。いつの間にかこちらの顔が私にとっては当たり前になってた。
「フィリーネは心根も優しく、才能に溢れています。私などには過ぎた人です。私の命を救ってくれました。彼女がいなければ私は今ここにいなかったでしょう」
「行こう、フィリーネ」
「でも、いいの?エーレン……」
「ああ」
「待ちたまえ。我々に恥をかかせてそのままいられるとは思わない方がいい」
「お父様っ」
いつの間にかご令嬢方はいなくなっていて、その代わりに白髪交じりの壮年の男の人が近づいてきていた。マルガレーテ様がお父様って呼んだってことは、この人がローズフィールド公爵なんだね。
「特にそこの平民の娘。無事に故郷に帰れるといいがね」
蓄えた髭を触りながら嫌な笑いを浮かべるローズフィールド公爵
「…………脅すおつもりか?」
エーレンの体が魔力をうっすらと放出し始める。
「あー、フィリーに何かするつもりなら僕も黙ってないよぉ」
ユリアン?!アンジェもいる。いつの間に来たの?あ、アンジェが手を振ってる。そうか、アンジェが見つけて知らせてくれたんだ!
「ふん、魔王を倒したからといい気になるなよっ!平民風情がっ!もう、魔王はいないのだ。魔物くらいなら我々だけでも何とでもなるさ。お前達など用済みだ」
酷薄な笑みを浮かべる公爵。
「酷い……。ユリアンもエーレンも命がけで戦ったのに……」
呟いた私にエーレンがささやく。
「戦いもしない王侯貴族の意識なんてこんなものだよ。アレは醜悪の極みだけど」
「じゃあ、次、魔王が生まれたらもう倒してあげないよ」
「は?」
ユリアンの言葉にその場の皆が驚いた。
「ユリアン、それどういうこと?」
アンジェが尋ねると、ユリアンは少しタイを緩めながら、腕を組んで考えながら説明した。ちょっと舞踏会用の礼服が窮屈そう。
「うーん、魔王と戦った時に気づいたんだぁ。多分魔王はまた生まれてくると思うんだよねぇ。魔物を全部倒しでもしない限りはねぇ」
「そうなの?!」
アンジェが聞き返した。
「ふ、ふん、そんな訳の分からないことを言って、脅かそうとしても無駄だ。」
ローズフィールド公爵の顔に汗が浮かぶ。
「だといいねぇ」
「い、いい加減なことを言うな。私は前王の弟だ。皆まとめて処罰してやってもいいんだぞ。私と娘への不敬罪でなっ!」
ローズフィールド公爵が唾を飛ばして怒ってる。汚いな……。言えないけど。でも、この状況はどうしたらいいんだろう。このままじゃ良くない気がする。エーレンが酷く怒ってるのを感じる。
ピリピリした空気の中、朗々とした声が響いた。
「いい加減になさってください、叔父上。勇者様も黒の魔法使いである私の甥も聖なる白魔法使い様もそしてそちらにいらっしゃる光石の魔法使い様も。我が国の大切な宝ですよ」
「ライオネル殿下っ!!」
突然、割って入った声にローズフィールド公爵が慌てたように振り向いて頭を下げた。エーレンもそうしたので私たちも同じようにする。
「ああ、楽にしていいよ」
突然の登場人物が声をかけた。
誰なんだろう?そっと顔を見ると、
「あっ」
「え?」
アンジェと私が驚きの声を上げた。あれ?この人って魔物退治の時に怪我して死にかけてたライアンさん?
ここまでお読みいただいてありがとうございます!
現王50代
ライオネル(ライアン)30代前半
現王の弟 王弟
ローズフィールド公爵60代後半
先代の王の弟
現国王とライオネルの叔父




