13 これからの話
来ていただいてありがとうございます!
エーレンが私の家にいる。新鮮で、少し照れちゃうけど嬉しい。
「これ、口に合うか分からないけど……」
昨日買ってきた食材で朝食を作って出した。
「ああ、ありがとう。嬉しいよ。これ、旅の間もつくってくれたことあるよね?」
「え?覚えててくれたんだね。うん。そうだよ。この辺りではよくつくるんだよ」
エーレンが食べてるのは、干し肉と根菜のスープ。ここより南の方では材料が揃わなくて旅の間には一度しかつくってなかったのに。エーレンが覚えててくれて嬉しかった。エーレンは旅の間も色々手伝ってくれたり、不愛想だったけどとても優しかったんだよね。
「これは今日のみたいにさっと煮るだけでもいいし、野菜を大きめに切ってコトコト煮込んでもとっても美味しいんだよ。今度食べさせてあげるね」
「…………」
エーレンの手が止まる。少し顔が赤い?薬つくったほうがいいかな?
「どうしたの?大丈夫?風邪ひいた?それとも美味しくなかった?」
私は心配になった。
「いや、大丈夫。凄く美味しいよ。俺にとっては城の食事よりずっと美味しい」
「そ、それはちょっと言い過ぎだよ」
お城のご飯、美味しかったよ?お菓子とかお菓子とかお菓子とか。
「…………」
朝食の後、また暖炉の前でお茶を飲みながら話をした。外は雪が降っていて凍えるように寒い。
「……これからもずっと一緒にいてくれる?」
「え?うん」
「じゃあ、俺と婚約してくれる?」
「こ、婚約?」
婚約って結婚の約束、だよね?
エーレンは私に説明してくれた。貴族や王族は結婚するにあたって婚約期間を設けるってこと。期間は最低一年以上。
「でもエーレン、マルガレーテ様は?えと、私は第二夫人とかになるの?」
それとももっと大勢いてその下?
「第二夫人?!アルバンかっ!あいつ許さん!フィリー違うんだ!!温室でのことは誤解なんだ。俺が結婚したいのはフィリーだけだ!!他は要らないっ!」
エーレンはローズフィールド公爵に呼び出されてあの場にいたこと、ご令嬢がいることを知らなかったと話してくれた。
「油断してた。俺がうかつだったんだ」
「でも、マルガレーテ様はきっとエーレンのこと……」
「……俺はね、ずっと冷遇されてきたんだよ。身分の低い側妃の子として。以前までは完全無視か、ゴミか虫でも見るみたいだったよ。ここまで手のひら返しが酷いと笑えてくる。そんな連中と関わり合いになんかなりたくない」
「そうなんだ……。エーレンってかっこいいし優しいし強いのに不思議。凄くモテそうなのにね」
「…………」
エーレンは少し目を逸らした。どうしたんだろう?頬が赤い?私はエーレンの顔を両手で包んで覗き込んだ。
「大丈夫?まだ疲れが取れてない?お師匠様、どんな仕掛けをしたのかな?」
「だ、大丈夫だよ。体調は問題ない。っていうか、ここへきて元気すぎて困るくらいだ……」
「そう。それなら良かった。お山の空気のおかげかな?」
「フィリー……」
エーレンが私をじっと見つめてる。綺麗な顔が私に近づいて来た。目が潤んでいて頬が紅潮してる……。
「あっ……」
「エーレン!やっぱり熱があるんじゃない?!大変っ!!薬作らないと!!」
「え?!い、いや……」
「聞いて!私、作れるお薬増えたんだよ!」
「そ、そうじゃなくて……」
「待ってて!!今材料持ってくるね!」
「…………」
ゆうべは毛足の長いラグが敷いてあるとはいえ、暖炉の前で眠ってしまった。風邪をひいてしまったかもしれないと思った。疲れてるみたいだし元気が出る薬草茶も飲んでもらおうと、張り切って準備した。エーレンは何故か苦笑いしながら私を見てた。まず薬草茶を淹れて、それから薬作りに取り掛かろうとするとエーレンは私を止めた。
「フィリーネ、薬は本当に大丈夫だから。話を聞いて?」
真面目な顔で私を見つめるエーレン。私はエーレンに向き直る。エーレンは私の両手を握った。
「俺と婚約してくれる?」
頬が熱くなる。私はエーレンを見上げて頷いた。
「本当にいいの?俺はもうフィリーを離せないし、遠慮もしないよ?」
「私はエーレンのことが好き。ずっと一緒にいたいの。だから、よろしくお願いしますっ」
私は目を瞑って頭を下げた。顔を上げるとエーレンはとても優しい顔で私を見てた。エーレンの腕が私の体を抱き寄せた。
「ありがとう。これからはずっと俺が守るから……」
エーレンの手が私の頬を包んだ。唇が重なる。
「……っ」
エーレンが深く私の中に入って来た。私、これ、知らない……。思わずエーレンの腕をぎゅっと掴んだ。一瞬だけ開けた目に涙が浮かぶ。頭の中がぼんやりしてくる。体の力が抜けそうになった私をエーレンの腕が力強く支えてくれた。
「はーいっ!そこまでぇ!!」
呑気な声が聞こえた。
「ごめんねぇ、邪魔して。でも、もう明日だよぉ。国王陛下との謁見。パウエルさんがやきもきしてるから、いったん帰ろうねぇ」
「「ユリアン?!」」
「あはは。そろそろいいかなぁって思って迎えに来ちゃったよぉ。……ちょっと早かったかなぁ?」
「……はあ、仕方ないな……。色々支度も打ち合わせもあるし、帰るか……」
嫌そうにため息をついたエーレンは私を抱き上げて、氷魔法で暖炉の火を消した。
「フィリー、続きはまた今度ね」
え?続きって何?続きがあるの?耳元で囁かれた私はさっきのことを思い出して恥ずかしくなった。エーレンはそんな私を見て笑ってる。
転移魔法が発動する光を見て私はやろうと思ってたことを思い出した。
「あ、ちょっと待って!お願い!お城に戻る前に洞窟へ行きたいの!」
「洞窟?」
エーレンが不思議そうに聞き返した。
「うん、光石の洞窟」
私達は少しだけ光石の洞窟へ寄ってから、転移魔法で再びクラウドエンド王国のお城へ戻ったのだった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




