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10 貴族のご令嬢とアルバン

来ていただいてありがとうございます!



「フィリー、これから少し大変になるかもしれないけど、俺がついてるから安心して」

魔物退治の後に馬車の中でエーレンに言われた言葉。この時はまだよく意味が分からなかった。


ちなみにユリアンとアンジェは二人だけで話があるからって別の馬車に乗って帰っていった。やっぱり恋人同士だもんね。色々話もあるよね。私は少しだけ寂しくなった。今まではいつも三人一緒だったけどこれからは一緒にいても何かが変わっちゃうのかなぁ……。




アンジェが離宮へ移って来た。私はまた三人揃ったのが嬉しかった。そして何故かエーレンの元にいる私のところへ面会人が訪れるようになった。兵士さんの待機所にいたローベン隊長さんとクライン副隊長さん。そして魔法使い兵団の団長さん、治癒魔法使い連盟の代表の人、そしてアルバンさんとヴァルターさん。アルバンさんは王の親衛隊の人達の代表として。ヴァルターさんは戦闘ギルドの人達の代表として。その他にもお城の人とか貴族の使いの人とか。エーレンの言ってた大変の意味はこれだったみたい。農地に広がった魔物の毒を解毒した話が広まって、私に興味を持つ人達が出てきたんだって。


大体のお話は国王陛下との謁見の後の私の身の振り方について。皆さん私にそれぞれの団体に所属して欲しいってことだった。つまり薬の知識とかをその団体で教えたり、活かして欲しいって。ありがたいことだけど、私はまだまだ未熟者だし、お師匠様の許可がないと教えることはできないって断った。


お師匠様に薬を作るところを他人に見せてはいけないとか言われてはいなかったから、薬を作ってるところを見学してもらったけれど、光石を使った薬作りは誰も出来ないみたいだった。どうしてかは私にも分からない。光石を少しお分けしたら、研究するって言ってた。


面会の人達が帰ってから、みんなでお茶を飲んだ。エーレンも珍しく一緒だった。

「研究かあ……。多分無駄だと思うよぉ。これはフィリーとそのお師匠しかできないやり方だから」

「ユリアンはどうしてそんなことが分かるんだ?」

エーレンは不思議そうに尋ねた。

「前に聞いたからねぇ」

「どなたにですか?」

パウエルさんも不思議顔だ。

「フィリーのお師匠に」

「そういえばユリアンは時々、山の家に来てお師匠様と喋ってたね。山には結界があるのによく来れたよね?」

「ユリアンはフィリーのお師匠様を知ってるのよね。わたした達は山に入るのも禁止されてたのにずるいわ」

アンジェが頬を膨らませる。

「ああ、うーん。禁止っていうか、そもそも入れなかったと思うよぉ。僕も最初は苦労したけど、慣れれば楽しい仕掛けだったよねぇ」

ユリアンは遠い目をしてる。お師匠様の結界は私には作動しないから、どんなものなのかは私も知らなかった。


「まあ、とにかくある種の才能が無いと無理だから技術を盗むのは諦めた方がいいと思うよぉ」


縁談の話も少しあったけど、エーレンやパウエルさんはエーレンの婚約者だからって、全ての話を断ってくれた。私は故郷に帰るつもりだから、王都にはいられないしね。






そんなこんなでちょっと私の周りが賑やかになってきたある日。

「ねえねえ、仲良くしていただいた貴族のご令嬢からお茶会に誘っていただいたのよ。特別にお城の庭園の温室で開かれるお茶会なんですって!フィリーも行ってみない?」

私はあまり気が進まなかったけれど、アンジェがすごく行きたそうにしてるのと、珍しいお菓子があるって言われたのと、

「僕も行くよぉ」

って、ユリアンも一緒についてくるって言ってくれたのとで一緒に行くことにした。パウエルさんもそれならってことで快く送り出してくれた。


温室に近づくと、アンジェが慌てたように言ってきた。

「っ!フィリー戻りましょ!」

「え?どうしたのアンジェ?」

「……エーレンがいるねぇ……」


エーレンがドレス姿の美しい人と抱き合っていた。花が咲き誇る温室の中、それは一枚の綺麗な絵みたいだった。その美しい人と一瞬目が合ったような気がして、固まってしまった私の両腕をユリアンとアンジェが引っ張って連れ出してくれた。

「あの方、公爵令嬢のマルガレーテ様だわ。あの噂は本当だったみたいね。エーレンったらどういうつもりなのっ?!フィリーがいるのにっ!」

「アンジェ、噂って何?」

ユリアンが問いかける。アンジェは怒りながら説明してくれた。


「エーレンフリート殿下は王位継承権を放棄するんですって。そして公爵になるって。マルガレーテ様はローズフィールド公爵家の一人娘だから、そこに婿入りするんじゃないかって。マルガレーテ様がエーレンフリート殿下にご執心なんですって!」

「あの様子だと、エーレンも満更じゃないみたいだね。ちょっと話つけに行っとく?」

あ、ユリアンがちょっと怒ってる。二人が怒ってるから私はちょっと冷静になれた。


「二人とも、落ち着いて!エーレンは悪くないよ」

私はエーレンに頼まれたことを説明した。

「は?恋人のふり?命を狙われるから?」

「うん、そうなの、アンジェ。だから二人とも私のために怒る必要ないんだよ」

「……確かに、何人か賊を追い払ったことあるけどねぇ……」

「え?そうなの?ユリアン」

私は驚いてしまった。全然知らなかった……。

「うん。大体はあのパウエルさんが対処してたよぉ」

「そうなのね。命を狙われてるのは本当なのね……」

アンジェも怒りをおさめたみたい。良かった。


「本当は秘密なんだ。恋人のふりの事は。だからまだ内緒にしててね」

「フィリーはそれでいいの?」

アンジェの悲しそうな問いかけに、私は胸の痛みを隠して笑った。

「エーレンがもう大丈夫なら良かったよ!」

「そう、ならいいけど……。それにしてもフィリー、大変だったのね。わたし知らなくてごめんなさい」

「…………」

ユリアンは無言だった。結局お茶会には不参加になって離宮へ三人で戻ってお茶を飲んで久々に幼馴染水入らず(?)でおしゃべりした。




その後はいつものように薬草を貰いに薬草園に行った。途中にお花みたいに着飾った女の子達が立ってた。何でかこっちを見てる。なんか通りづらい……。

「ほら、あの子よ」

「ええ?なに?大したことないじゃない……」

「ねえ?いつまでエーレンフリート殿下のところにいるつもりなのかしら?」

「マルガレーテ様お可哀そう……」

「平民のくせに。さっさと身を引けばいいのに……」


多分私に聞かせるように言ってるよね?マルガレーテ様って、ああそうかあの綺麗なエーレンの公爵令嬢様だ。私は頭を下げつつ薬草園へ急いだ。帰りにはもう誰もいなかったから、ホッとした。


「なんだか少し疲れちゃった……」

お城の暮らしは豪華で楽なんだけど、やっぱり息が詰まることが多い。最近は人と会うことも多くて、それも身分の高い人ばかりで。今更だけどエーレンは大変なんだね。

「でも、エーレンは元々王子様だから私とは違うよね」




帰り道で今度はアルバンさんが立ってた。アルバンさんは私が断ったことを身の程知らずだと責めた後、こう言ってきた。

「どうせお前は捨てられるんだから俺が貰ってやるよ!行く当てなんて無いんだろ?俺は男爵家の出だけど、伯爵になる予定だからな。第二夫人にしてやるよ。だから俺のために働け」

「?」

「知ってるか?エーレンフリート殿下は今公爵家のご令嬢との縁談が持ち上がってるぜ。臣籍降下して公爵家を継ぐんだって噂になってる」


そんなの知ってるよーだ!

「もしそうだとしても、私はここに残りません。故郷に帰るつもりなので無理です」

私はアルバンさんにきっぱりと断った。


「お前っ!人がせっかく情けをかけてやろうとしてるのに、断るつもりか?」

そう言っておっかない顔をして手首を掴んで来た。壁に押し付けられた。背中が痛い。掴まれた手首も。

「っつ……。痛いですっ。離してくださいっ」

私は必死で離れようとしたけれど力では全然敵わない。

「お前は容姿は大したことないけど、まあ、磨けば見れる方だ。それに薬の知識だけは役に立つ。俺がお前を活かしてやるから、俺のところへ来い。嫌なら来ざるを得ないようにしてやるよ」

アルバンさんは嫌な笑いを浮かべて私に顔を近づけてきた。

「嫌っ、!!」

気持ち悪いっ。そう思った瞬間アルバンが目の前から消えた。


「え?」

呆然としてると

「僕の妹に何してくれてんの?」

「ユリアン?」

声のする方を見ると金色の瞳を見せたユリアンが剣を手に立ってた。闘気で髪がゆらゆらと揺れてる。これは凄く怒ってて、本気の時の顔だ。魔物に対峙する時と同じかそれ以上の戦闘態勢。ユリアンの立っている方と反対を見ると、アルバンがかなり遠くの茂みに吹っ飛んで仰向けに倒れてた。


本気の怒りモードのユリアンには昔から誰も逆らえない。ユリアンはアルバンを吹っ飛ばした後、少しの間考え込んだ。まだ目は開いたままだった。さっきより怒ってるみたいに見える。どうしてだろう?

「フィリーにあんな頼みをしておいて、こんな目に合わせて、自分は今もご令嬢とのんびり談笑か」

ユリアンのその言葉を聞いて、私は俯いてしまった。胸が痛い……。でも分かってて引き受けたのは自分だ。ユリアンにはそう説明して分かってもらった。

「フィリーがそう言うんなら仕方ないねぇ……」

ユリアンはいつもの細目に戻ってため息をついた。



私は助けてもらえたことでちょっと安心してしまった。涙が少しこぼれた。泣きながら笑って気になってたことを尋ねてみた。

「それにしてもユリアン、さっきの妹ってなに?」

「ああ、フィリーのことは昔から妹みたいに思ってたからねぇ。ほら僕は末っ子でお兄ちゃんになってみたかったんだよねぇ」

すっかり元に戻ったユリアンはそう言って笑った。私の頭を撫でながら。

「それにフィリーのお師匠様にも君を頼むって言われてたからねぇ」

「お師匠様が?!」

「うん。自分の作った結界を突破できる僕なら信用できるって言ってたよぉ」

「そうなんだ」

「究極の回復薬を作る!」って旅に出てしまったお師匠様。ちゃんと私の事を心配してくれてたんだ……。そう思うと私は胸が温かくなった。




「……帰りたいな……」

私はふるさとの山を思い出していた。

「そっか、やっぱりそれがフィリーの望みなんだねぇ。じゃあ、帰っちゃおうか」

ユリアンは片目を瞑って人差し指を立てたみたい。やっぱり目が細くって良く分からなかったけど。

「?」






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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