97.対須佐之男命戦 終了
VRMMOクローズドベータ版。ボス戦。
MPを使い果たしたメンバーを守るように赤裸裸と鉄人が立ち塞がる。
「ボスのHPMPも相当に減っている。
スキル持ちが回復したらいけるはず」
低空に浮かぶボスを油断なく見据えながらジオが呟く。
主力メンバーのMPを回復して動けるようになるまで時間稼ぎしている最中である。
一方のボスも不用意にダメージを受けないように攻撃を止め、低空を漂う。それどころか多少経時回復している。
しかしプレイヤーが持ち直す方が早い。主力の誰かの攻撃が当たれば勝負が着くだろう。
その時、ボスがゆっくり口を開け始めた。
「!?」
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【思兼神 八意思兼】
スキル効果でボスの攻撃範囲を見て取る。ジオの少ないMPが一瞬で尽きたが確かに見えた。
「攻撃が来る! この辺一帯だ!」
「そんなんあんの!?」
「多分あれだ! 落とした時に使ってきた黒いのがバーッて広がる奴!」
「跳ばすだけならできるよ! 誰か一人!」
レイである。立ち上がれないまでも騎獣に乗って式神を振り回すなら可能であった。
「紫苑!?」
紫苑が首を振った。
「一撃で削るのは無理だ! 凪枯は?! 落とせるか?」
「ごめん、動けない」
紫苑も凪枯もまだMPが回復していない。
「落としてたら間に合わないよ! 赤裸裸さんに翡翠さん連れてってもらって後で蘇生してもらうのは?!」
小春が声を上げたが、割と現実的である。ただ問題はそこから立て直し出来るか。体当たりで前衛を吹き飛ばせるボスである。
この状況に応じたのはやはり立ち上がれない状態の瞬であった。
「一瞬だけなら使える! 一か八かだ! 赤裸裸さんを跳ばしてくれ! 一番攻撃力高いから!」
鷹も頷く。
困惑した一同だが、すぐに気付いて位置に着いた。
加速する赤裸裸をレイが放り投げる。
同時に瞬と鷹が拍手を打った。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』
二神連携!」
【二神連携 布都御霊剣】
瞬と鷹の姿が消えると同時に、赤裸裸の武器が白く巨大なバーナーの様な光を発した。
「っせい!」
赤裸裸の突きの一閃がボスのHPを削り切る。
ほぼ同時に瞬と鷹のMPが尽きて赤裸裸に近い空中に現れた。
落下しながらボスの動静を見守る。
少しの間があった。
ボスは開きかけていた口をゆっくり閉じ、白い炎に包まれた。
それを確認して三人は地面に着地した。瞬と鷹はほぼ墜落であったが、鷹の騎獣のロクが下に来て受け止めてみせた。
「わぁ……」
ある種荘厳な、空一杯に燃える白い炎である。
ボスが消えると赤い勾玉が現れた。プレイヤーの勝利である。
悪神之音狭蝿如す皆満
「長い……」
鑑定された勾玉名にケイが呟いた。
「突然の絶叫マシーンだよ?!」
「それはほんとすいませんでした」
赤裸裸が小春に謝っている。稲妻でボスの所に跳んだ件である。
現在、シアタールームでボス戦のレコードの確認をしている。
「須佐之男を雨叢雲剣でぶった切っちゃっていいのかは置いといて……」
「すいませんすいません……」
縁が手を合わせて虚空に謝っていた。
「俺も天照で思兼神吹っ飛ばしちゃったから大丈夫だよ……多分」
紫苑が小さくフォローしていた。
「惜しむらくも止めは刺せなかったがゲームなんだからこんなもんじゃね?」
貫名も来ている。叢雲剣と惜しむらくもを掛けているが、スルーである。
影助がレコードを見直しながらぼやく。
「しかし青柴垣と神産巣日で即死攻撃防御したら全員MP四分の一引かれるってどういう計算なんだ……人数均等割りにしてくれよとしか……」
「え? どゆこと?」
小春が聞き返した。鬼型の時に居なかったから知らないのである。
サラと小春に話して伝えると、二人ともやはり驚いていた。
この二人と鬼型戦のおさらいをしておかないと色々すれ違いが起きそうである。
「というわけで、騎獣がやられて本人が倒れる事もあるので気をつけて」
「あー、そんな事もあるんだ」
翡翠に貸していたギンが撃たれてソライロが倒れた時の事を話して聞かせると、サラが頷いていた。
「行かなくて本当によかった……」
小春が項垂れている。瑞穂の祖神でも八十禍は攻撃してくると聞いたのである。流石に大百足が山になってた事までは誰も伝えていない。
「考えてみればその通りなんですけど、青柴垣ってバフじゃなくて設置型スキルなんですね」
サラが敵の居なくなった鬼型ボスエリアを確認している。
「秀吾と要さんは何でこれボスの攻撃分かったの?」
鉄人が尋ねた。
鬼型戦最後の最後でボスの攻撃を先読みした件である。
「私は秀吾さんがスキルを使うのを見て、一番反射ダメージが大きそうなところに使っただけですね」
「僕は……何となく……ですかね……?」
全員が顔を見合わせる。
「……集中してないと分かんないわずかな予備動作とかあんのかな……?」
瞬が映像とにらめっこを始めた。
ケイの特殊体質もだが、他のメンバーも大概である。
「これで思ったんだけど、もしかしてこのゲーム、天詔琴と須佐之男の咆哮が同じって解釈なのかな」
「え?」
「鬼型戦の最終局面で天詔琴が壊れただろ?」
そして竜型戦最初、ボスが口を開いて、ジオも攻撃範囲を認めたものの不発している。スキルキャンセルか何かだと思われていたが。
「竜型素戔嗚が口開けるスキルって悪神之音だけ。多分最後に使おうとしてた範囲スキルもこれだ。
天詔琴を壊すと悪神之音の最初の一回が不発になるのか、時間経過で回復するのかは分かんないけど」
「ああ、なるほど」
「それを検証する余裕はありませんでしたねぇ……」
「じゃあ弓が壊れてれば鳴鏑封印できたのかな」
「生大刀が壊れたらどうなるんだろ?」
「おいいぃぃ! 場合によっては私たちが来る直前にボスの大技で壊滅しててもおかしくなかったってことじゃないか!!」
全滅していた場合、小春、サラ、ソライロが百足と蛇いっぱいの回廊に移動していた可能性がある。
知らぬが仏である。
「鳴鏑はこれどう攻略するのが良かったんだ? 回避が正解だったんじゃないかって気がするけど」
聞かれて脱出組の鉄人が感想を述べる。
「俺達も割とギリギリだったから、脱出選んで全員助かるかは分かんないな。
かなり長時間火炎放射されるから、逃げ切れずに死んだら蘇生できない可能性が高い」
鉄人の意見に赤裸裸達も同意するように頷いた。
瞬が映像を指しながら聞く。
「この攻撃、罠扱いなんだよな?」
「外から見てた感じだとクレイモア地雷の集中砲火みたいな」
鳴鏑の攻撃範囲辺縁に発生する罠である。
「忍者がこの罠破壊したら炎弱まったりしないか? もしくはそこだけ火が無くなったり」
「ええ……?」
「いや、分からんぞ? いけるかもしんない」
「ボスの設置する罠って破壊できるの??」
「今度試してみるか」
意外と仕掛けの多いボス戦であった。