92.対須佐之男命戦 序盤
VRMMOクローズドベータ版。ボス戦。
開幕広間に拍手と声が響く。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【神産巣日神 神産巣日】
【事代主神 青柴垣】
光を帯びた木の枝の様な障壁が張られる。
事代主の完全防御スキル。攻撃を受けるたびにMPが削れるが、そのダメージを手の空いている後衛組全体に分散する、神産巣日のスキルとの合わせ技である。
そしてそれとほぼ同時に声を合わせる二人。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』
二神連携!」
【二神連携 瑞穂の祖神】
広間の床を割って蔦が侵入し、水が湧いて竜巻が起こる。
押し寄せて来ていた八十禍が揺れと蔦と水流気流に巻き込まれ、広間に入るなり水竜巻に巻き込まれていった。
ボスが周囲の草木を切り払い、隙ができる。渦の中に居るだけでじわじわとダメージを蓄積させ、動きも格段に鈍らせる。
瑞穂の祖神のスキルの効果である。
そこに複数方向から騎士、徒士、忍者のジョブが突撃した。
時代劇の殺陣の様に数人と打ち合った後、ボスの手が琴の弦に伸びる。
「地震が来る!」
「柱の陰に入れ! 少しだけマシになる!」
【須佐之男命 天詔琴】
向かっていたメンバーが一斉に距離をとるのとほぼ同時、弦の唸りとともに衝撃波が広がった。ボスの周囲の水を押しのけ壁のようになって進んでくる。少し遅れて地面が波打ち足元を掬った。
「うわっ!」
味方スキルに攻撃力は無いはずだが、水を伝って来る衝撃波に一回、空気を伝って来る衝撃波に一回、地面の揺れに一回と、秀吾の防壁の外に居たメンバーは散々に打ちのめされる。
防御スキル内のアンや縁達術師が術の集中砲火でボスを足止め。
その間に翡翠が回復スキルを使おうとするが。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』
……うぁちゃぁー……やっぱこっからじゃスキル届かない」
「瞬!」
いち早く体勢を立て直していた鷹が声をかける。
「了解! 『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
「二神連携!」
【二神連携 布都御霊剣】
輝く巨大な剣を振り回し、閃光をばら撒く。ダメージを負った前衛が追撃を受けないように牽制である。
翡翠と縁が騎獣のギンとシキを借りてダメージの大きい人の回復に出た。
一方のボスは大きく跳躍して前衛から距離をとった。瑞穂の祖神のスキルで発生した気流でボスの着地地点が大きく動き、移動先を見極めようとして瞬がわずかに出遅れる。
レイはひたすら追いかけて動きを封じる役目を買って出たが、そのレイの方が足を止めた。ボスが柱の中ほどに着地して弓を取り出したからである。ボスが矢を番える。
レイも力技で壁面を登れるが、他のジョブほど垂直面で自由に動けるわけではない。その事が一瞬足を止めさせた。
しかしボスの狙いは追ってくる前衛ではなかった。
【須佐之男命 生弓矢】
まともに食らえば即死攻撃。それが秀吾のスキルに直撃する。
青柴垣は即死スキルを受けた事がある。神産巣日でダメージも分散している。間違いなく耐えられるはずであった。
「なっ!?」
耐えた、が、異常だったのは消費MPである。
確かに黄泉津大神の時、一度の即死スキルで喰らった全員がやられ、半壊したのは記憶に新しい。
即死スキルを防御すると秀吾がMPを半分持って行かれるのも確認済みである。
しかしダメージを分散している全員にMP四分の一のダメージが入るとは思っていなかった。秀吾のMPが並外れている訳でなく、おそらく即死攻撃を受け止めた時の仕様である。
「楓さん! 神産巣日を解除してください! 全員巻き添えになる!」
四回攻撃を食らって後衛全員のMPが切れるのでは明らかに割に合わない。
「……っ! 解除!」
秀吾の指示にやむを得ず楓がスキルを解く。
ボスが二の矢を番えた。
秀吾がMP回復薬を振り撒いた。天詔琴などを防御したのもあってMPダメージが50%を超えている。回復に間に合わないであろう自分が回復するより周囲を回復させた方が生存率が高いという判断である。
ボスが矢を引き絞ったそこに横槍、というより斬撃が入った。
柱を駆け上がる瞬の布都御霊剣である。
ボスが柱を蹴った。
瞬は追い詰めるべく柱に駆け上って跳ぶ。
ボスもただ躱すために跳んだわけでもないようである。そのまま追って来た瞬に矢を放つ。
「いっ!」
瞬もこのタイミングで反撃されると思わなかった。スキル表示が無いので即死攻撃ではないが、まともに食らい、高所だったこともあって鷹共々かなり遠くに飛ばされた。
一方のボスは気流に合わせ、周囲の柱を蹴って巧みに移動し、再び弓を構えた。
【須佐之男命 生弓矢】
「え?」
矢の先はギンに乗った翡翠であった。
ボスの矢が式神を貫いて、ギンが消滅する。
同時に秀吾のスキル内でソライロが倒れた。
「え? 何で!? あ!」
ケイが倒れたソライロとギンを見比べた所でようやく理解が追い付いた。
「狙いそっちか!?」
式神のダメージは式神使いのMPダメージである。ギンが倒されてソライロのMPが尽きたのだった。
連携スキルの瑞穂の祖神が解除される。同時に八十禍の群れが広間の端から溢れ出した。前衛がそちらに対応せざるを得なくなる。
防御スキル内の影助が楓に声をかけた。
「楓さん! 俺と秀吾でMP分担してくれ! 全体に%ダメージなら一人分担すれば済む!」
「そういえばそうですね! 『『掛けまくも畏き 見守り給う神々に―……』」
しかしその間もボスの攻撃は止まっていない。
【須佐之男命 生太刀】
飛び降りてきたボスがスキルの防壁に即死スキルを振り下ろした。秀吾のMPが尽きて防壁が砕けるように消滅する。
ボスがもう一度剣を振りかぶった所で鉄人が割り込んだ。鍔迫り合いになる。
「ごめん遅かった!」
影助が斬離を打ち込むと、ボスはそれを受け止めながらも後方に離れ、距離をとらせることには成功した。
状況は予断を許さない。
スキルで抑え込んでいた八十禍が溢れ、前衛後衛問わず向かってきている。
一方、後衛組陣地の異常に気付いた翡翠と縁は前衛組の回復を終えて、後衛組と合流に向かってきていた。
シキに縁と相乗りした翡翠は足止めアイテム、桃を投擲する。
ボスであろうと問答無用で数メートルは吹き飛ばすノックバック効果。ボスを後衛組から引き剥がした。
駆けつけた翡翠はすぐさま秀吾とソライロにMP回復薬を使う。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
鉄人がスキルを使う。
【伊邪那岐命 瑞穂の祖神】
幸い秀吾が撒いたMP回復効果が残っている。ソライロが復活するまで八十禍の足止めするつもりである。
しかし連携ではないスキルではボスは止められない。
赤裸裸はボスに突撃して足止めを試みていた。
大振りの攻撃を受け止められるのは想定内、足止めである。
しかしその後、ボスに掴んで放り投げられるのは想定外であった。
「ええええ!?」
大柄な当世具足が宙を舞う。そして壁際に山になっている八十禍の群れに突っ込んだ。瑞穂の祖神のスキルで動けなくなっているのである。
入れ替わるようにボスと瞬が切り結んだ。前衛組も追いついて攻撃を加える。
「赤裸裸さん!?」
「ちょっと待て、攻撃されてないか?! 瑞穂の祖神のスキル中って敵は攻撃できるんだっけ?!」
埋まっている赤裸裸のHPがじわじわ減っている。
「敵は攻撃できる! 移動して来ないだけだ。至近距離に居れば攻撃されることはある」
「マジか?!」
豪登が突進で八十禍を吹き飛ばし、救助を試みる。
「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 列! 在! 前!」
ケイが九字印で敵を止めると同時に、赤裸裸が周囲の八十禍を吹き飛ばして出てきた。
「ども、お手数おかけします」
そのまま元気にボスに向かっていった。
「赤裸裸さん防御もメンタルも強ぇ……」
ケイも突っ込んだ手前人の事は言えないが、毒虫の山である。
しかしこの後、キャラの防御はともかくメンタルが強い人が続々と判明することになる。