88.シアタールームで作戦会議
広場に居た人がわずかに跳び退った。
「うおおびっくりしたぁ!」
「ずいぶん珍しい取り合わせ」
町の広場の緑火鳥居から転がり出てきたのはケイ、ジオ、瞬、鷹の四人パーティーであった。騎獣のシキとロクも居るので一斉に飛び出して来ると近くに居た人はびっくりする。
ボスエリアから這う這うの体で脱出してきたところである。
瞬はマヒを食らった左腕の調子を確認している。町に戻ったので状態異常は解除されていた。
「そのメンバーでその慌てぶりって事は、もしかしてボス見つかったか?」
遠くの方からログインして来たばかりらしい鉄人が声をかけてきた。
鷹が苦笑しながらそれに手を振る。その間にケイやジオが立ち上った。
シアタールームでボス戦のレコードの検証である。
ボス戦を再生中のシアタールーム。
「そもそもこの迷路と鬼型ボス、今後も出てくんのかな? 竜からスタートだったりしない? 途中でエリア変わってるし」
「それはもう一度行ってみないと分かんないかな。でも今までのボスは攻略間近まで行っても全滅したり離脱したりしたら最初からだし、回廊から再挑戦だと思って対策練った方がいいんじゃないかな」
思案する調子のケイとジオである。
「今後も回廊が来るなら猿田彦必須。範囲攻撃スキル持ちの人に来てもらった方がいい」
回廊で八十禍に追われているシーンとボス広間の無限湧きを指して、瞬が言った。
四階層までほとんど消耗無しで来たのに、回廊ではスキルを使いっぱなしでガンガンMPが削れているのである。
「出来ればLv2以上の天照月読コンビもですね。
広範囲攻撃スキルは何かと消費や制約が多いから八十禍が動いて来ないならそれに越したことはない。ここがボスエリアとカウントされるなら無限湧きでしょうし」
鷹は夜の食国のスキルで八十禍の完封を提案する。
「この八十禍が出てくるなら状態異常対策必須か……」
鉄人が一通りレコードを再生しながら呟く。確かに居るのは蛇、蜂、百足。毒のせいで瞬が途中で戦力半減したのは、既に鉄人も聞いていた。
ジオが自分の画面を操作しながら呟いた。
「しかし変身後のボスが巨大百足じゃなくてよかった。小春さん絶対来てくれなそうだし」
ケイが首を傾げる。
「素戔嗚って家で飼ってる(?)以外に百足関係あったの?」
「いや全然。このゲーム、ボスが神話あんま関係ない姿してる事も多いからさ。まぁ竜や蛇の弱点が百足って話はちょくちょくあるけど。八岐大蛇と素戔嗚を当てはめる話は俺は見た事ない。
やや遠いけど、アジアの一部の神話に日食月食の説明として月と太陽に悪い弟がいて、そいつが原因で食が起こるって神話がある。
天照月読と同時に生まれて岩戸隠騒動を起こした素戔嗚と被ってなくもない」
「ああ、そういえば」
「そんで中国のどこかの神話に「バカでかい百足が月を咬む」って月食説があったはず」
「おう……」
「やっほー! 次のボス出て来たって?」
直後、シアタールームに小春達がやって来た
折しも大画面はケイが吹っ飛ばされて八十禍の群れに突っ込んだ辺りである。画面内の虫と蛇の密度が高い。
小春が一瞬でシアタールームの戸を閉めた。スパーンと軽快な音が鳴る。
「絶っっっ対行かんぞ!!!」
廊下の端っこまで逃げて威嚇する小春や青い顔のサラ。それぞれ百足と蛇が苦手である。
鬼型ボスの攻撃は予備動作が非常に分かりやすいのだが、竜型ボスは大きいせいもあっておそらくスキル表示が無いと攻撃のタイミングが掴みづらい。小春には来てもらいたいところである。
シアタールームに来ていた縁と赤裸裸に伝言を頼み、ボス戦のレコードも併せて今回のボスは完全に二回戦でエリアも変わる事を説明し、伝えてもらった。
恐る恐る入ってくる小春とサラだが、再び小春が逃げた。
「もう竜型になってるから虫の群れはねーよ!?」
「だって草むら揺れてんじゃん!! 何か居るって!!」
その場に居たケイ達ですら気付かなかった草むらに潜んでいた八十禍に気付いてしまったようである。サラが画面から目をそらしている。
「苦手な人が一番最初に見つけるって言いますからね……」
「あ、でも虫じゃないみたいですよ」
縁がレコードの視野を変えて禍津日神を見つけた様である。
「ネズミさんです。ほら」
それを聞いてそろそろと戻って来る小春であった。それを見てこれ以上話の腰を折られるまいとケイが確認する。
「……青い猫型ロボットみたいなの居ないよな?」
「呼んだ?」
手をグーにして薬師の登場である。
「貫名のおっちゃんじゃねーよ! いつもアイテム助かってるけど!」
徐々に人が増える中、引き続きレコードを確認する。
「ケイは何でここで木の洞に鳥居があるって分かったんだ?」
ジオが鳥居に飛び込んだところを指した。
直前までそれこそ巨木の根の影になって見えなかったはずである。
「……勘?」
「肌エイムか」
「やめろっての」
ケイは若干特異体質である。ゲーム中を動く物体が発するノイズを感知し、自分との位置関係をある程度把握できる。
「ゲーム中を動く物体って相対速度でもいいんですかね? 研究したらおもしろそうですけど」
「赤裸裸さんまで……! ていうか俺実験対象扱いされがちじゃない? 何で?」
「……特異体質とタゲとり要員だからなぁ……」
体質はかなり珍しい上にゲームで有利になるものである。
そしてゲーム内スキルの都合でケイが敵のターゲットをとることが多いため、未知の攻撃を受ける可能性が高いのである。
シアタールームの一画でわいわいしている間も攻略情報は共有されている。
「ボスの居る場所の目印は……池?川?崖? とにかく真っ黒いエリアの水平線に浮かぶ炎の列だ。途中の巨大回廊は、屋根に上って位置を確認しながら進む事もできるかも」
「ああ、なるほど」
「迷子になりそうでちょっと怖い」
「八十禍の対応考えとかないと囲まれてえらい目に遭いますよ」
「あー、そっちもかー……」
鷹のコメントを受けて、突破できそうなメンバーを考える。
「竜型ボスから乱入できるならその方がいいんだが!!」
小春が主張するとサラも隣でこくこく頷いた。
何せ回廊と広間には溢れんばかりの百足と蛇である。二人は大の苦手で、近付かれないための専用アイテムまで持っている。
「えっと、どうにもなりませんか? 比礼もありますし、回廊で毒の対処も必要そうですし……」
赤裸裸が聞いてみるが、二人は渋い顔である。
毒持ちの敵が多い。薬師の二人は入ってほしい所である。
しかし他ならぬ瞬が反対した。
「多分、何度も毒を受けるほど近づかれるなら結局ジリ貧で終わると思う。
近付かれない火力とか特殊スキルを持って抜けないとダメだ」
実際通過したプレイヤーの言う事である。
「あとはそれこそ比礼着けて突破かな。四人一組で蛇八百足とかさ。あと一人は……黄泉軍避けって無いんだっけ?」
「見たことないですねぇ……」
比礼は古代の装飾であるが、このゲームでは特定の禍津日神避けのアイテムである。
「スキルの火力でゴリ押しできそうなのって瞬と鷹以外だと……伊邪那岐伊邪那美の連携スキルぐらいか?」
「一番無傷で通過できそうなのはLv2以上の天照月読のペア」
「該当者は来てる?」
「瞬達が町に戻って来るのとほぼ入れ違いでダンジョン入ってくの見たぞ」
ここに居る鉄人以外はダンジョンに行っている様である。