87.ボスエリアの緑火鳥居
VRMMOクローズドベータ版。
ボスが黒火鳥居を残して消えた、ボス戦は終わっていない様である。
蘇生されたジオがへこんでいた。
「俺、役に立たってないな……」
「いや、助言とか結構助かってるから。地震のやつとか」
「とりあえず、黒火鳥居に進むしかない感じ? 戻れなそう?」
ケイが尋ねると、鷹が軽く来た扉を指した。
「そうですね。来た方を見る限り、真っ黒な場所には何も居ないんですが、その先の回廊には八十禍が溢れかえってます。例によって他の鳥居にたどり着くのは難しいかと」
軽く扉から覗いたケイが、うわマジで溢れかえってる、と言いながら戻って来た。
ボスが居たところに忽然と現れたのは黒火鳥居である。通常であればボスエリアに続く鳥居である。
「こっからが本番だよなぁ……」
瞬がマヒ状態の左腕を見る。
「ボスエリアに脱出用鳥居あるといいけど……」
全員、アイテムも心もとなく、満身創痍である。
「あ……」
瞬が暗い声を上げた。
「スキル解除してから気付いたけど、この手、拍手打てねーわ」
先ほどの攻撃で毒を受け、瞬の左腕がマヒしている。
右手を何とか左手のひらに当てて一通り試してみるが、スキルは使えない。
このゲームではスキル使用に特定動作が必要である。
プレイヤー本人のマヒや欠損ならVR機が対応してアバターを動かしてくれるが、これはゲーム内のバッドステータスである。
状態異常回復アイテムは持って来ていない。
要するに主力の建御雷のスキルは使えないという事である。
黒火鳥居を抜けた先は荒野だった。
空は暗く、丈の高い草が茂り、ところどころに二、三メートルほどの岩山がある。
「緑火鳥居までダッシュ!」
ケイのスキルで鳥居が近くにある事を確認するや否や、全員一直線に脱出を選択。
ボスと戦う余裕がないのである。
雲間から見えるのは巨大な赤い東洋竜、の一部であった。
上空なのでいまいち遠近感が働かないが、容積で八岐大蛇ぐらいの大きさはありそうである。
ボスの竜の頭が雲間からゆっくりと現れた。
攻撃してくる気配も無く、様子を見ている。
ボスがくしゃみでもしたかのように身震いした。
鬣から飛んだのか、鮮やかな赤い毛が火の粉のようにふわふわと舞う。
「……え?」
ジオが呆気にとられた。視界一杯に罠アイコンが点灯し始めたからである。
「ケイ! 操縦代われ! 罠が設置された! ついて来て!」
後ろの二人に伝わったかは分からなかったが、ジオは拍手を打つ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【思兼神 八意思兼】
ジオはジョブスキルの罠探知と使用したスキルを駆使する。攻撃軌道を把握し進路を選ぶ。
罠の周囲数メートル程に攻撃範囲が見えていた。
しかも罠はゆっくり不規則に移動している。
罠の正体が分かったのは数秒後。
ふわりと地面に着いた鬣の毛から急激に大木が伸びあがったのである。
「うわ!?」
「えええ!?」
おそらく伸びる木に巻き込まれるとダメージになるのだろう。
しかも木はその後も徐々に成長を続け、巨木になろうとしている。途中からは急成長ではないため触れてダメージになることはなさそうだが、ほぼ一瞬で緑火鳥居までの道が森の迷路と化した。
ケイが鳥居の方向を伝え、ジオが罠の有無などで進路を判断し、瞬達がそれに続く。
緑火鳥居の位置が近くなってきた。
「多分、正面の木の裏側にある!」
見通しの悪い木の間を抜け、正面の巨木を回り込むように走る。しかし突然ジオのスキルが、自分たちが攻撃の軌道に入ったのを認めた。
「何か来る! 後ろだ!」
走りながらジオが軌道を見極めようとする。
後ろから声がした。瞬達が先に気付いたらしい。
同時に木々がなぎ倒される。ボスの巨体が苦も無く森を進んでくる。さながら暴走列車である。
「こっのおおお! 斬離!」
「大薙!」
追いつかれたその時、瞬と鷹の攻撃が、ボスの動きを一瞬逸らす。
「……! 次の根の影に飛び込め!」
ケイが叫んだ。
回り込んでいる巨木の根の影、他に進路も無くケイの言う事に従うと、真っ暗な洞になっていた。
その洞の中に緑火鳥居が建っていて、飛び込んだ勢いでそのまま通り抜ける。
四人が鳥居の先に消える直前、洞の入り口を掠めて木を粉砕し、赤い暴風かという勢いで通過する竜の影があった。