86.ボスエリアの黒火鳥居
自動生成ダンジョンの中にたまにボスが現れるVRMMO。クローズドベータ版。
偵察も兼ねて侵入したエリアでボスを発見したが、いつもと違って逃げるのが難しい仕様である。
広間の窓から入り込んでくる八十禍を相手に、ケイはシキに乗って球場ほどもある広間を駆け回っていた。頭の上にはふわふわ明るい火の玉が燃える。マップ表示兼八十禍寄せ効果のあるケイのスキルである。
広間の柱は数十メートルの間隔を開けて正方形に配置された巨大な四本が一揃いになっている。
四隅に四本ずつ、四方の壁に四本ずつ、中央に四本、と、追ってくる八十禍を撒くには事欠かない。
そうしてケイはボス戦に乱入してくる八十禍の大群を自分に集中させつつ、上手く距離をとっている。
狙いは瞬とボスの一騎打ちを邪魔しない事。本命の狙いは、隠形で姿を消したジオの一撃必殺である。
以前、鬼型ボスで出てきた思兼神がジオの攻撃を優先的に防いだ。鬼型大禍には忍者の確殺攻撃が効く可能性は高い。
ジオも乱入してくる八十禍に対処する素振りをしながら死角に回る。そこで忍者のジョブスキル、隠形を発動した。
ボスは何かに気付いたように広間を見渡すが、ジオの位置は掴めていない様である。
ジオはボスとの距離を一気に詰めた。とその時、ボスの空いた手が謎の板に伸びるのが見える。その手の動きでこの糸のかかった板が何に似てるか思い出した。
「皆跳べ! 地震が来る!」
「!?」
その言葉を受けて、瞬が咄嗟に後ろに跳ぶ。
ジオも離れようとしたが、大きく地面を蹴った直後だったため一拍遅れた。低く、地鳴りに近い、唸るような弦の音が響き。地面が波打つ。
跳んでも空気を伝播する音の波に叩きのめされ、倒れた拍子に波打つ地面に足を掬われる。
須佐之男命が持っているとすれば生弓生大刀。
そして腰にある糸のかかった板。古代の和琴がモチーフであれば、恐らく天詔琴である。
「っ!」
壁まで飛ばされたジオが呻いた。至近距離で食らったせいか、HPが半分以上削られている。回復しようとするが、揺れで体勢が立て直せず、ダメージによる行動制限で動作も鈍い。
ケイはボスからは少し遠かったものの、吹き飛ばされたはずみに八十禍の群れに突っ込んでしまい、集中攻撃を受けてあっさりやられていた。
鷹は衝撃でスキルが解除されたが、即座に体勢を立て直した。騎士なのでHPにはまだ余裕がある。
瞬は吹き飛ばされたものの、途中の柱に着地していた。最初に動いたのは彼である。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【建御雷神 建御雷】
そのままボスに突っ込む。
「くそっ! 遅いか!!」
ボスは手の空いた瞬間から動き出し、ジオに矢を放っていた。
揺れで動きがままならない所を躱せるはずも無く、あっさりジオも倒された。
瞬はケイとジオを回復している暇はないと判断し、そのまま攻撃を続ける。
ケイの誘導が外れた八十禍を、鷹が一人で薙ぎ払う。
蛇型が一匹、薙ぎ払いを潜り抜けて瞬に噛みついた。即座に切り捨てられるが、噛まれた瞬の左腕がだらりと力を無くした。
「瞬!?」
「毒は左手だけ! 問題ない!」
そのままボスと切り結ぶ。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』」
【経津主神 布都神】
鷹のスキルの熱線が広間を走る。
地面に居る八十禍が消滅し、ボスがダメージを避けようと跳躍しようとするのを瞬が飛び込んで切りつけた。
その一太刀でボスに電撃が走った。状態異常、感電である。
次の瞬間、ボスが腕を大きく振った。見た事の無い動き。瞬が身構える。
しかし身構えた間に、広間内に居た八十禍が扉の隙間や窓から逃げる様に居なくなった。
同時にボスの姿が消え、その場に黒火を灯した鳥居が現れていた。
「……え……?」
瞬が目の前の鳥居を呆然と見つめる。
黒火鳥居と言えばボスエリアに向かう鳥居である。そしてボスエリアはここである。
いち早く気を取り直したのは鷹だった。
「ケイとジオを生き返らせましょう。回復薬残ってます?」