85.ボス発見
自動生成ダンジョンの中にたまにボスが現れるVRMMO。クローズドベータ版。
ケイ達はかなり特殊なエリアに迷い込んでいた。
瞬が辺りを見回しながら言う。
「建物があるエリア自体見た事ないし、ボス居そうだけど出て来ないし」
エリア自体が暗くて分かりづらいが、回廊と庭園が絡まり合って高層建築の様な複雑な様相を呈している。
「ここでボスが来られたら困りますねぇ。
『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす』」
【経津主神 布都神】
鷹のスキルの熱線が、追いすがって来ていた八十禍の群れを一掃した。
目指すはケイのスキルが指す赤火鳥居。
こちらの回廊と平行に一列点々と明かりが灯っている。真っ黒い壁に灯る篝火、といった様子だ。ケイのスキルの赤い火の玉は確かにそちらを指している。
その間にあるのは真っ黒な闇と、何もない宙に浮かんでいるように見える左右対の明かり。
向こう岸の篝火の列とこちらの回廊の間に広がる真っ黒い空間。そこを結ぶように並ぶ火の列である。
ジオのスキルで道があるという事は分かっているが、一本道の様にも虚空の様にも見える。
その左右に火の灯る道を、シキとロクの二騎が直進していた。
瞬と鷹がスキルで迎撃してくれたのもあり、後方から来る八十禍とはだいぶ距離が空いている。
ここぞとばかり回復薬を使う。
鷹と一緒に殿を務める瞬が、周囲の暗闇を見渡して言った。
「これ、黄泉津大神の真っ黒エリアと似てない?」
「……黄泉軍っぽいのも居たし……そうなると多分ボスは……」
言いながら鷹とジオが振り向くと、野放図のように伸びていた回廊が、この空間の直前でぴったりと階層を揃えていた。高層建築の外観のようになっているのが見える。数えてみると一階一階が高い八階建て。
「……八重垣って……縦にって事?」
斬新な解釈だなとジオは一人呟いた。
真っ黒な壁だった前方が、扉が開くようにして中の様子が見えるようになってきた。
明るい巨大な広間に柱が立っているのが見える。
踏み込んだ所で瞬が呟いた。
「あ、悪い。これ全滅するかも」
大きさとしては何かの球場ぐらいはある広間。
そこには人型の影があった。
真っ白の四角い蔵面、こめかみから伸びる角。
鬼型大禍津日神、ボスである。
床に着きそうな黒みがかった赤の長髪。
長身で筋肉質、ややはだけた様に着崩した着物。ふわりと背後に浮く薄墨色の比礼。
腰に直刀、弓入れに大弓。
足元はたっつけ袴の様な動きやすそうな出で立ち。
長髪が鬣を彷彿とさせ、鬼というより竜に見える。
「多分、須佐之男命」
「ああ……」
「ジオ、あのボスが腰に着けてるやつ。閻魔様が持ってる板にトゲ生えたみたいなやつ何だろ?」
「閻魔様の板って……笏のことか。
ボスの持ってるのは……よく分からん。どっかで見た気もするけど」
何に使うのか、糸がかなりしっかりかかっているように見える。
「鷹! 最初から全力!」
「了解」
瞬達の方針が決まると同時にジオも声を出す。
「ケイはとりあえず赤火鳥居探してくれ!」
「分かった!」
ボスが剣を抜くのを合図に四人が散開する。
「『掛けまくも畏き 見守り給う神々に 恐しこみ恐しこみ白まおす!』
二神連携!」
【二神連携 布都御霊剣】
補助に入った鷹が放つ閃光を目くらましに、瞬が急接近して白く輝く刀身で切りかかる。
ボスは白刃を打ち払って軌道を変え、瞬に肉薄した。
派手な打ち合いが始まる。
ケイは赤火鳥居を探して広間内を走っていた。しかしスキルの火の玉を注視するほどに、そこに鳥居はない。広間の真ん中にあるはずである。
「ジオ! 鳥居見つかんないんだけど!」
「こりゃボス倒さないと出て来ない奴かな」
「そんなんある!?」
「こんだけ珍しいギミックならそれぐらいあってもおかしくない」
ダンジョンに建物があるのがそもそも異例である。
と、ケイが背後の気配に振り向くと、大百足の八十禍が居た。
「うひい」
「ケイ! 上!」
ジオの言葉に従い上を見ると、天井近い細い窓辺から蛇、百足、蜂、骸骨といった八十禍が押し合いへし合いしていた。
「え!? もしかしてこれ無限湧き!?」
「来た道も塞がれてるな」
入り口も禍津日神でぎゅうぎゅう詰めである。
「まさかさっき撒いた八十禍もここに大集合してくんの!?」
ケイとジオの会話に気付き、鷹が窓と入り口にスキルの閃光を放った。八十禍は消滅したが、少し間を空け、後からまた集まってくる。きりがない。
ケイが鷹達に叫んだ。
「八十禍は俺がスキルで引き付ける! ボスに集中してくれ!」
そしてジオに声をかける。
「隠形でボスを一撃必殺できる!?」
「……――なるほど。やってみる」