81.対黄泉津大神戦 終了
「貫名さん、蛍火助かりました」
「ほんとかい? どんなボスだよ?」
「レコード見に来ます?」
「ほぅ、たるかったが俺のアイテムの雄姿を見に行くとするか」
多分蛍とかったるかったを掛けているが、スルーである。
VRMMOクローズドベータ版。ボス戦終了。
何ともなしにシアタールームに集まってボス戦のレコードを見つつわいわいお茶会の様な事をするのが恒例になりつつある。
レコードの再生は大雷を耐え切った所まで来た。
「マジで攻撃しないのが正解だったんだなぁ」
「デウスエクスマキナ型となると、それぐらい癖が強いのはありうる話ですけど」
内部データに非常に厳格に反応する、古典的な条件分岐の行動パターンを持ったボスである。
「一応、神様に戦ってもらう事で荒魂の力を発散させる設定ってのは最初に言われてるからね」
ゲーム設定としては『戦争や災害を司る荒魂の力を戦闘で発散させている』というものである。実は倒せとは言われてない。
「大雷の話は散々出たからいいとして、真っ暗エリアでのこうしてほしかったとかある?」
秀吾が苦い顔をした。
「初見とはいえ、防御スキルを活用しきれなかったのが痛かったかなと」
「あー、初手半壊だったもんね」
MP消耗を抑えるために防御スキルを解いたのが仇になったのである。
「んなこたねぇよ! 秀吾の守護は強固だって!」
ここぞとばかり貫名が被せてくるが、スルーである。
「宇迦之御霊神も予備動作あったとはいえ高速移動したけど、秀吾はちゃんと対応してただろ。不意打ちなら俺もよく食らうし」
鉄人もフォローする。
「俺は道敷大神のペース配分間違いましたね」
ソライロである。不可視のボスの位置を肉眼で確認できる数少ないスキルであった。
「でもあれなかったら危な過ぎて足止めできなかったぞ。
一人一殺で行くなら話は別だけど、そうすると確実に蘇生が足りなくなっただろうし、実際足りなかったし」
「途中の落雷でも何だかんだHP回復薬はかなり消耗してたからな」
「アンさんのパッシブスキルに神集併用を挟んで交互に休憩できればよかったかもしれませんね」
「でも道敷大神も神集も消耗大きいからな」
正直、人手は多い方が楽なのがこのゲームのボス戦である。
「それを言ったら大体全部私ですね……」
遠い目をしているのは楓である。
「いや、神産巣日は直前まで誰も思い出さなかったから……」
大雷後の全体回復スキルで役目を終えたかのように見える彼女だが、MPが重要になった後半戦に非常に価値の高いスキルがあった。
HPMPダメージを分配して肩代わりするスキル、神産巣日である。
ボス戦終了後、蘇生するためのMPが足りないとなった時にジオが閃いたものである。
これによって縁、翡翠の回復スキルの消費MPを全員で肩代わりして全員蘇生したのであった。
「神産巣日頼りでMP使ってたら全員同時に動けなくなってた可能性もあるし」
そういう事にした。
「ボスが小さくなってきた辺りで一カ所に集まって外を警戒した方が良かったんじゃないかな?」
「でもどのタイミングでってのはある……」
「……よく初見で通れたよな……」
「どうすればいいんだ状態だったからな……」
知っていれば立てられる対策も初見では手探りである。
「何か運営に文句とかある? 大雷ヒント無さすぎとか」
「真っ暗エリアに移動する時、ボス戦の延長って分かるようにしてほしいんだけど。
具体的に言うと真ん中から黒いのがぶわーってするとかそういう演出。
あれだと急に視界が真っ黒になるだけだから、バグにはまったと思ってログアウトしちゃう人出そう」
「確かに……」
今回の仕様の場合、知識なしで大雷をクリアしそうな人は、ボスに挑む人よりはむしろ『HP勾玉を装備した状態で思いがけずボスエリアに入ってしまい、鳥居を見つけられずに逃げ惑った結果、攻撃を避け切ってしまった人』である。
急に真っ暗になってしばらく何もなかった場合、バグと思う可能性は高い。
「準備無しで真っ暗エリアに入って対応できるとも思えないけど……」
「それはそれであのびっくり感を味わってほしい」
悪いベータプレイヤー達のせいで難度継続である。




