77.対黄泉津大神戦 視点
VRMMOクローズドベータ版。
倒し方が分からないボスへの対策会議中である。
鷹が過去戦闘の記録を見ながら話し始めた。
「私達が参加している時は、大雷が来る前になるべく多く八色雷公を倒すようにしてるんです」
今回のボスは通称デウスエクスマキナ型と呼ばれる行動パターンを持つと推測されている。経過時間や特定の攻撃などの条件に対し反応する。
そのため放っておけば一定時間経過後、大雷とともに残っているすべての八色雷公が一斉に攻撃してくる。
そのダメージ量は場合によって数十万を超える。
鷹と瞬はレベルが高く、連携スキルは高火力。
それを生かしてダメージを軽減するために八色雷公を倒すのを優先してきた。
鷹は確かめる様に飛ばし飛ばし鉄人達のレコードの内容を確認しながら続ける。
「大雷を回避するために過去レコードはかなり漁ったんですが、安全地帯と呼べるような物はありませんでした。
厄介なのは大雷が連続攻撃だからです。しかしそれを一回に抑えられるなら話は違う。一回だけならHP勾玉を割って耐えられます。立て直しは大変ですが」
「レコードを確認するって事は、大雷を抑える条件が分かったのか?」
「デウスエクスマキナ型はゲーム中のデータに厳密に反応するのが特徴です。
ボス戦でのこちらの行動が影響している可能性が高い。毎回知らずに殲滅条件のフラグを踏んでる場合です」
鷹はレコードを見て確信を強めた様である。
「八色雷公を倒してはいけないのでは?」
瞬が「えええ」と声を上げた。
意外な意見である。が、デウスエクスマキナ型だと不用意な行動で詰む事はよくある。
「先ほど鉄人さん達が食らってた大雷も一発です」
「え? そうなの?」
鷹に言われて、鉄人本人が思わず自分のレコードを確認する。プレイヤーはやられると視界が暗くなって何も見えなくなるが、レコードはやられて一分経つ間も記録している。
「でも大雷が一回でも、他の八色雷公が降ってくるよな? この回の俺らは大雷より先に火雷に巻き込まれて死んでるんだが」
高レベル帯なら耐えられるのか? と鉄人が鷹を見た。
「それで先程レコードが無いか聞いたんです。
実は私達も大抵黒雷の嵐に巻き込まれてるんですよ」
鷹の返事に瞬も「そういえば確かに」と頷く。
「あれ? 俺たちも巻き込まれたの黒雷じゃなかったっけ?」
ケイがジオと顔を見合わせた。
「で、黄泉津大神の総攻撃のシーンがあったらいくつか見比べてほしいんです。多分遠景の方が分かりやすいと思います」
皆が同じ映像同じシーンのレコードを共有して思い思いに確認する。
「……ジオ達の方は暗雲で視界が悪いけど……ん?」
「んん?」
二つの映像を見比べて、数人が何かに気付いた。
「……一斉に電撃が走るから気づかなかったけど……もしかして、総攻撃の時は八色雷公の攻撃範囲が決まってる?」
炎の上がっている場所が黄泉津大神の前方少し離れた位置に集中していた。どちらの映像でもである。
「そう、普段の攻撃は位置に関係なく降ってきます。
しかし、この決まった極大攻撃の時だけは黄泉津大神の向いてる位置を基準にして、どこにどの種類の攻撃が来るのか決まってるように見えます」
「じゃあ、映像から見るに……正面に火雷、中央広範囲が黒雷、背面が多分だけど折雷だな」
おびただしい雷撃の先、火雷の位置は確かに炎が上がっている。黒雷と折雷は見分けが付き辛いが、爆発によって煙が多いから折雷と言われればそう見える。
「八色雷公って身体部位に関係してたよね?」
「じゃあもしかして……?」
と、皆でレコードの視点をエリア辺縁部を含むものに変え、早送り巻戻しで様子を確認する。
「うん。丁度うつ伏せになる位置関係。エリア辺縁をおよそ五等分した位置に対応してる。
左手に若雷、右手に土雷。右足に恐らく伏雷だ」
エリアの端は手足、そして頭部にあたるようである。
「鳴雷は分からんけど、少なくとも大雷の位置に居れば大ダメージ一回で済むわけか……」
「それならHP勾玉一個割ればいけるな……」
攻略の糸口の様である。
「ジオ何か見つけた?」
ケイは横に声をかける。ジオはしきりに黒い画面を再生していた。
「……大雷にとどめ刺されてるレコード、最後に数秒ぐらい真っ黒い映像が入ってる」
「全滅したからじゃないの?」
「…………うーん……確かにそうかもな……。
大抵は残された人が撤退するパターンで、エリア内全滅ってなかなか無いし……」