表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/132

75.対黄泉津大神戦 勝てない

「『けまくもかしこき 見守り給う神々に しこみしこみまおす!』」


思兼おもいかねのかみ   八意思兼やごころおもいかね


 MP回復したジオが分析スキルを掛け直す。辺りは暗い本降りの雨の森。

 VRMMOクローズドベータ版。ボス戦。


 エリア中央に陣取る巨大な女神の彫像のような姿。対黄泉津大神よもつのおおかみ戦である。

 方向を変える以外に動くことは無い。攻撃は専ら像を取り巻く八色雷公やくさのいかづちが行う。

 現在は空全体が低い黒雲に覆われていて視認が困難である。

 

 その雨の中で目立つのはふわふわと浮く丸い炎の玉。

 ケイのスキルである。


 ボスの居るはずの位置。肩に近い辺りの暗雲が光った。


「うおおお!」


 ケイは全力で加速する。能力を一時的に上昇させるアイテムを使用し、器物型式神の腕力で体を加速した上でのガン逃げである。


黄泉津大神よもつのおおかみ   火雷ほのいかづち


 ケイのかなり後方で巨大な落雷が起こり、炎が発生した。


 森の中で隠れているジオが頷いた。


「よし、火雷ほのいかづちは場所ターゲット型、と。

 黒雷くろいかづちもそろそろ来ていい頃なんだが……やっぱ時間経過で攻撃の種類に順次追加されて行くだけで、ランダムなんだろうな」


 分析しているジオに息を切らせたケイが文句を言った。


「場所ターゲット型なら教えてくれてもいいだろ!?」

「それを確認してるんだからその調子で頑張ってくれ」


 ジオがMP回復薬を飲んだ。


 ボス戦なのにケイとジオの二人だけである。

 何故なら今回は勝つ気がない。ボスの攻撃の種類や行動パターンの検証が目的である。


 ケイはシキを出していない。ボスの攻撃がシキを掠めてMPダメージが入った場合、行動が鈍るからである。

 薬師も連れてきていないのは、今回確実に全滅する予定だからである。

 経験値ペナルティが痛いが、ペナルティ無効スキル持ちの影助えいすけが見つからなかったのである。多分あちこちのパーティーから引っ張りダコになっている。


 先ほどよりやや低空の雷雲が光った。


黄泉津大神よもつのおおかみ   黒雷くろいかづち


「来た!」


 ケイが加速する。

 ジオの攻撃範囲を見るスキルではケイがボスのスキルのターゲットになっている。プレイヤーをターゲットにする攻撃なのは確定である。

 このままの動きなら逃げ切れる、と思った所でケイがつまづいたように止まる。


「ふぎゃむ!」


 雷鳴とともにケイに黒い雷が直撃した。

 倒れたケイに青白い電撃がパチパチとまとわりついている。

 感電の状態異常である。


「ケイ!?」

「いだだだだ、別に痛くないけどいだだだだ……」


 パチパチしたままギシギシと、ぎこちない動きでケイが起き、へたり込む。HPダメージで立てないのである。

 感電すると行動制限がかかったように動きが鈍くなる。更に、動くと微少ながら追加ダメージが入る。


「ああ、一時強化バフが切れたのか。嫌な所で切れたな」


 ケイがつまづいたように停止したのは強化アイテムの効果が切れたため加速ができなくなったからである。


「回復薬尽きたんだけど……ってジオもか」


 ケイの場合、素早さの強化とHP、MP、状態異常回復薬の4種類を持ち込まなければいけないので、あっという間に消費した。

 一方のジオも八意思兼やごころおもいかねのスキルの為に大量のMP回復薬、被弾した時のためにHPや状態異常回復薬を持ってきたが、すでに尽きていた。


「じゃあ最後の検証だ。恨むなよ達者でな」

「どーせお前も巻き込まれるだろ」


 ケイの言う間に、ジオが忍者の駆け足で遠くに離れて行く。


 ケイからその姿が見えなくなった頃、大量のスキルが表示され、落雷と雷鳴が雨のように降ってきた。



黄泉津大神よもつのおおかみ   鳴雷なるいかづち


黄泉津大神よもつのおおかみ   伏雷ふしいかづち


黄泉津大神よもつのおおかみ   土雷つちいかづち


黄泉津大神よもつのおおかみ   若雷わきいかづち


黄泉津大神よもつのおおかみ   折雷さくみかづち


黄泉津大神よもつのおおかみ   黒雷くろいかづち


黄泉津大神よもつのおおかみ   火雷ほのいかづち


 ほぼ同時に空全体が閃光に、空間が轟音に埋め尽くされた。


黄泉津大神よもつのおおかみ   大雷おおいかづち


 オーバーキルである。



 広場で起き上がったケイは既に立ち上がっていたジオに声をかけた。


「……やっぱジオも死んだな……」

「女神像の向いてる方向はやっぱ関係ないな……複数パーティーで別方向から攻撃しても全滅してたし」


「じゃあ練習用ダンジョンで透明勾玉狩ってくる」

「俺は拠点の掲示板に今回の情報書き込みに行くから」

「うん、分かったことあったら教えて」


 ケイがそう言った後ろから声を掛けられた。


「ケイ、今空いてる? 赤裸裸せきららさん達がボスに挑戦したいらしくて、小春こはる達はソライロが送るから、赤裸裸せきららさんと鉄人てつと送って欲しいらしいんだ。

 ボスエリア手前まででいいんだけど」


 サラである。ケイとサラの連携スキルでボス部屋まで行きたいという呼び出しであった。



 ケイと別れ、ジオはしきりに先程のボス戦のレコードを見直していた。

 自分の考えを整理するのもあって分析結果をメモしていく。


 ・道敷大神ちしきのおおかみ。ボス本体への攻撃に対して反撃として使用される。攻撃者の足元に黒い炎が灯り、骸骨型八十禍やそまがつ黄泉軍よもついくさ?)を呼び出す。


 ・左足。鳴雷なるいかづち。効果不明。方向転換? 骸骨型八十禍やそまがつの誘導説あり

 ・右足。伏雷ふしいかづち八十禍やそまがつを呼び出す。

 ・左手。若雷わきいかづち。プレイヤーの近くの場所をターゲットにした範囲攻撃。ダメージの振れ幅が大きい。稀に感電の追加効果。戦闘開始から1分後に使用。


若雷わきいかづちのダメージの条件が分かんないんだよな……距離じゃなさそうなんだけど……」


 自分が被弾したケースも含め、複数のレコードを確認しながら新しく分かった事を追加していく。


 ・右手。土雷つちいかづち。人をターゲットにした固定ダメージの範囲攻撃。感電の追加効果。戦闘開始から2分後に使用。

 ・鼠径部付近。折雷さくみかづち。プレイヤーの近くの場所をターゲットにした固定ダメージの爆発系範囲攻撃。ダメージ量は爆心地からの距離に反比例。戦闘開始から約3分後に使用。

 ・腹。黒雷くろいかづち。人をターゲットにした単体への大ダメージ攻撃。感電の追加効果。戦闘開始から約4分後に使用。

 ・胸。火雷ほのいかづち。場所をターゲットにした範囲攻撃。落雷したフィールドに炎が燃える。炎に当たってもHPが減少する。いわゆるダメージゾーン。戦闘開始から約5分後に使用。


「弱体化ペナルティがあるから、おいそれと巻き込めないんだよなぁ……」


 ジオがペンを回す。


 ・頭。大雷おおいかづち。エリア全体にかかる連続大ダメージ攻撃。戦闘開始から5分後以降に使用。大雷おおいかづちが攻撃を受けた時など、特定条件で使用する事もある。


 なぜケイ達が緑火鳥居に避難しないでボスの大技を食らったかというと、現在これが最難関になっているからである。

 どんなに粘っても必ずこれを食らって全滅するのである。


「……今回俺らが食らった大雷おおいかづち一回だけなんだな……その前に黒雷くろいかづちに巻き込まれて死んでるけど……プレイヤーの残りHPとかか?」


 周囲の黒雷くろいかづちがケイとジオに集中した形である。追尾型単体大ダメージ攻撃の集中砲火である。大雷おおいかづちが来る前に死んでいた。




「もーちょい!!」


 一方、ケイが送っていったボス戦である。


 参加している小春こはるのスキルで、ボスのHPMPは見えている。

 ボス本体のHPMPは見えないが、八色雷公やくさのいかづちはもうほとんど撃破した。


 ゲームの仕様上100秒後に復活してしまうが、それも復活直後に叩くことでボスの攻撃を完全に抑え込んでいる。


伏雷ふしいかづち復活!」


 その伏雷ふしいかづちも、術師の集中砲火を受け、復活したばかりの右足の暗雲が消える。


黄泉津大神よもつのおおかみ   道敷大神ちしきのおおかみ


事代主神ことしろぬしのかみ   青柴垣あおふしがき


 術師の誰かに反撃が来る。それは秀吾しゅうごのスキルで阻まれた。

 防御スキルの周囲を骸骨型八十禍やそまがつが取り囲むが、特殊な即死攻撃以外の能力は低い。

 プレイヤーはスキルの防壁の内側から一方的に攻撃できるため、確実に敵の数を減らしていく。


「ここまでは八岐大蛇やまたのおろちよりよっぽどやりやすいんだが……」

「このまま倒せるといいんだけど……」


 残るは胸の火雷ほのいかづちと頭の大雷おおいかづちだけである。


【二神連携   布都御霊剣ふつのみたまのつるぎ


 スキルにより、火雷ほのいかづちが消し飛んだ。


黄泉津大神よもつのおおかみ   道敷大神ちしきのおおかみ


「うわ」


 しゅんの周りに赤黒い火が燃え上がる。


黄泉津大神よもつのおおかみ   大雷おおいかづち


 そして轟音とともに視界一杯の電撃が降り注いだ。




八色雷公やくさのいかづち全部倒すんじゃなければどうすりゃいいんだよもー!!」


 町の広場で倒れたまま、しゅんがじたばたしている。

 隣でかなめも少し疲れたように答えた。


「前回は還矢かえしや大雷おおいかづち倒しても止まりませんでしたからね」

「連続大ダメージ攻撃ですから、HP勾玉割ってやり過ごすってわけにもいかないんですよねぇ」


 応じた赤裸裸せきららがのろのろ立ち上がった。

 ようが力無く相槌をうつ。


「倒す順番でもあるんですかね……それか、戦闘の途中で私たちが殲滅攻撃のフラグを踏んでるのか……」


 全滅である。


「あー……皆、念のためペナルティ受けてないか確認してね?」


 影助えいすけである。『自分の居たエリア内の脱落者の経験値ペナルティ無効』という変わった常時発動パッシブスキルで、効果時間がまだはっきり分かっていなかったりする。

 例えば好天のパッシブスキルは本人が倒れるとその瞬間効果が消えるが、まさか影助えいすけ本人にペナルティ無効の恩恵が入らないというのも理不尽であるせいか、少なくとも影助えいすけが脱落するまでは効果が続く。

 では今回のように全員がほぼ同時に壊滅という状況ではどう作用するか、その効果時間はまだ検証不足であった。


 結局、今回も影助えいすけのスキルのお陰で経験値ペナルティは避けられているが、全体的にげんなりした雰囲気が漂っている。


 勝利条件が分からないのである。


 必ず最後はとんでもない威力の大雷おおいかづちと、残った八色雷公やくさのいかづちがエリア全体に降り注いで負けるのである。


「あの巨人型がダミーで本体が別の姿とかありませんか?」


「時間いっぱい使って影助えいすけさんに敵を止めてもらって、アンさんを中心に索敵した事ありますけど、それっぽいのは見つかりませんでした」

「ボスは巨人型って鑑定されてるんだよなぁ……」


 かえでの提案に赤裸裸せきらら小春こはるが首を振る。


「あ! 途中でボスエリアを離脱してみるとか? このボス、エリア跨ぐっていう珍しい特性があるし!」


 目を輝かせて提案する小春こはるにちゃっと軽く手を挙げて秀吾しゅうごが答える。


「それはもう僕らがやってみました。恐らく最初からやり直しになります」

「だめだったかよー……」


 小春こはるがへたり込む。しかし阿漕あこぎなことを次から次へと思いつく小春こはるである。


「でもさ~、もー誰かを囮にして大雷おおいかづち終わったタイミングでボスエリアに滑り込むしか無くね?」

「うーむ、本当にそれぐらいしか思い浮かばないのが困る……」


 連絡を取る手段がないため、実際にそんなタイミングで滑り込めたら奇跡である。


「いやしかし時間経過で使うスキルが変わってくることは分かってるので……本当に試してみますか? 全滅から脱落までは1分ありますから」


大雷おおいかづちが来る直前に誰か緑火鳥居で戻ってもらって、ソライロの道敷大神ちしきのおおかみで突入するとか」




 という事で駆り出されたケイである。

 ケイが頼まれた理由は、鳥居を探すために作戦に必要で、騎獣持ちで機動力が落ちず、たまたまレベルダウンのペナルティを受けてHPMPが減っていたため、ソライロの鳥居を通りやすかったからである。


 そんなわけで大雷おおいかづちの直前に離脱、町でソライロと合流し、道敷大神ちしきのおおかみで皆の激戦の跡地に戻ってきた。


「うわー……」


 地面がえぐれ、火が燃え盛る惨状であった。


「ボス……居なくなってる?」


 ボスエリアはここのはずだが、ボスの姿は見当たらない。


「誰かが倒した……とかじゃないんだよな??」


 骸骨型の八十禍やそまがつがうろうろしているのに気づき、ケイはボスエリアを離脱した。


 その後も、何事もなかったかのようにボスは姿を現した。

 どうやら大雷おおいかづち後に滑り込んでも戦闘継続扱いにしてもらえないようである。


 こういった調子で色々試してみるのだが、全く攻略の糸口が見えない。バグなんじゃないかとかボスと見せかけたデストラップなんじゃないの? という意見まで出ている。


 ボス戦に挑む人は減り、アイテムを補充したりレコードを確認して対策を練ったりしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ