73.ボス戦 合流
「影助ー! 夜の食国やって!!」
森の端に着き、遠目に仲間の姿が見えたケイはジオ達に声を張り上げた。
ジオ達は秀吾の防御スキル内に陣取って骸骨型八十禍を相手取っている所である。
気付いた影助がケイに目を向けた。
「え!? ああ、紫苑居るんだ!」
ケイの言わんとすることに気付いたようだ。
紫苑の常時発動スキルがあれば夜の食国のデメリットを帳消しにできるのである。しかし影助は少し逡巡を見せる。
「やってもいいけどさ! また骸骨大量湧きしたりしないか!?」
「やっぱこっちも同じことになったの!?」
ケイ達も鉄人のスキルで八十禍を止めようとしてスキルを使ったところ、黒い炎が表れて八十禍が湧いてきた。こっちに居たソライロが鉄人と同じスキルを使ったのまでは確認済みであったが、やはり敵が湧いたらしい。
自動生成ダンジョンにたまにボスが現れるVRMMO。クローズドベータ版。ボス戦。
今回のボスはエリアを越えて追いかけてくるようなので、町まで避難するところである。
現在、『夜の食国』のスキルで動きの止まった八十禍をジオ達忍者組が確殺攻撃で処理しながら、緑火鳥居に向かっている。
八十禍は止まっていてもボスのスキルと思われる雷は降ってくるのでぐずぐずするわけにはいかない。
その先頭を移動中、ジオはケイから別行動していた時の事をしっかり聞きだしていた。
「なるほど、やっぱりスキルに対するカウンター技の可能性があるな」
「『夜の食国』には反応しなかったけど」
影助がスキルを使っても、黒い炎の池は出て来なかった。
「『瑞穂の祖神』が攻撃と判定されるのか……『夜の食国』が特殊な判定なのか……あるいは……」
ジオがボスをちらっと見た。
ボスの背後、暗雲の向こうには青空が広がっている。
「晴れてたんだから紫苑が居るかもって考えるべきだったけど、それどころじゃなかったからな……」
「こっちは何があったんだよ?」
「そっちで鉄人のスキル使うのが表示されたからさ、もしかしたら大丈夫なのかなってソライロにスキル使ってもらった。で、骸骨大量湧きしたんで秀吾の青柴垣に守られっぱなし。
隙を見て一体ずつ倒してたんだけど、ちょっとしたゾンビパニックものだった。バリケードの外でガリガリ音がしてるやつ」
骸骨型八十禍の基本攻撃力が低かったのと、即死攻撃を防御スキルに対して使えなかったのが助かった。と、ジオが息を吐いた。
「縁さんに帰ってもらってよかったかな。怖いだろうし」
言っている間に、丁度緑火鳥居が見えた。
「サラさん! ケイさん! ジオさん!」
町に着いたら縁が広場で待っていた。先に帰ったのを気にしていたらしい。
「縁さん! 葡萄マジ助かった!」
「本当ですか!? よかった」
広場に腰を下ろした鉄人が息をつく。
「は~~~、びっくりした」
「……まさか町まで追いかけてきたりしませんよね?」
ソライロのコメントで、全員一斉に緑火鳥居を向いた。
「いやまさかぁ」
と、ケイが言ったところで緑火鳥居に火が灯ると同時に、黒いものが転がり出てきた。
「ぎゃーー!!??」
「ーーー!!??」
ケイが悲鳴を上げ、縁はケイの悲鳴にびっくりして跳び上がった。
黒いものは後ろ回り受け身で一回転し、立ち上がる。
凪枯であった。
「うおおおわ何やってんの?! びっくりしたんだけど!?」
「え、ああそうか。服黒いもんね。
まぁ僕が何やってたかはレコードで確認するという事で」
シアタールームに移動である。
シアタールーム。
ダンジョン内の映像を見ながら一喜一憂する場だが、攻略情報の共有をする場でもある。
「縁さんも来て大丈夫なの? 結構骸骨型八十禍でてくるけど」
「……恐怖症というわけではないので……慣れれば……多分……なんとか……」
早速、凪枯が殿で何をやってたか確認する。
レコードの映像。紫苑が緑火鳥居に入ると同時に暗雲がわき出し、エリアは薄暗くなっていた。
殿の凪枯が緑火鳥居の前で立ち止まった。何をしたかというと、スキルの使用である。
【天津甕星 天狗】
凪枯はボスに向かってスキルを発動したが、何も起こらない。
代わりにMPをごっそり消耗した。MPダメージによる行動制限。立っているのがやっとといった様子である。
「不発?」
ボスはたなびく暗雲に包まれた白い彫像の女神像のような姿。彫像のように動かず、向いているのは緑火鳥居ではなく、凪枯視点ではやや向かって左方向である。
と、轟音を立てて一直線に空を進むものが現れた。
隕石である。
「え?! これスキル!?」
驚くケイに凪枯が嬉々として教える。
「そうそう、到達に時間がかかるから、標的がほとんど動かない場合じゃないとMP食うだけ食って外れるんだよね」
例によって癖の強いスキルである。
しかし、今回の標的は動かない。隕石は通過した場所の黒雲を掃い去って突き進む。
そのまま女神像に直撃したように見えたが、あまりにも手ごたえというか、衝撃が無い。精々が像の胴体周りの暗雲が吹き飛ばされたぐらいである。
女神像には何の反応も無い。
いや、直後凪枯の足元に無数の黒い炎が湧き、骸骨型八十禍が沼から浮かび上がる様に現れ始める。鉄人の時と同じである。
凪枯はそれを確認すると、後ろに倒れるように緑火鳥居を通過した。
最後、明後日の方を向いていた女神像が、雷の閃光と同時にはっきり凪枯の方を向いていた。
「いやー、MP消耗して一歩も動けなかったんだよね」
シアタールームで頭を掻きながら解説しているが、割と捨て身である。
「この反応を見る限り、伊邪那岐伊邪那美は関係ない。攻撃スキルに反応してるだけだ」
ケイは「?」を浮かべて鉄人とソライロを見た。
「そしてこのボスは恐らく、強力なルールベースAI、いわゆるデウスエクスマキナ型。生木AIなら攻撃を受ける前に反応してるはず」
ルールベースAIとデウスエクスマキナ型はほぼ同義語。一定時間経過やダメージ量など、特定条件に従って行動をとるタイプのボスである。
初期VRゲームに出てきた典型的な条件分岐型ボス。みんなのトラウマ的ボスの名前でもある。
トラウマとして名を残しているそのボスは、うっかり操作を誤るとその瞬間詰むタイプの裏ボスであった。
「何か厄介な仕掛けがあるんじゃないかな」
と、凪枯が締めた。
ちょっとしたやりとりであったが、重要な手掛かりだったらしい。
シアタールーム内のあちこちで話し声が上がる。
「まずはボス本体に攻撃を加えると反撃されるわけか」
「てっきり伊邪那岐伊邪那美のスキルだったからかと思ってた」
「私もそっち思ってました」
「瑞穂の祖神、何だかんだ言って範囲広いですからね。意図的に避けようとしないと本体に当たると思う」
「本体ってどこまでだろ? 八色雷公は本体?」
「落雷攻撃、八種類もあった?」
「威力が違うんじゃないでしょうか?」
ケイは周囲を見回した。
「なあなあジオ。何で皆、伊邪那岐伊邪那美気にしてんの? あと雷が八種類ってどっかにヒントあった?」
「今回のボスの正体はほぼ確定だから、分かる人は分かると思う」
「そーなの? 天照……じゃないよな」
「黄泉軍が出て来て、女神で、雷連れてる。
黄泉津大神。黄泉の伊邪那美だよ」